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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
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02 スープを作りましたよ




 馬車(ロバだけど)の旅は予想以上に快適で、速度が無い分揺れも少ない。時々馬車に追い抜かれるが『頑張れ』と声を掛けられる時があるので手を振って返す。時には笑われたりもするが喧嘩を売って来ないだけマシだろう。


 最初は笑われる度に申し訳無さそうに謝るマークだったが、俺が気にしてないと何度か笑いながら言うとマークも次第に気にしなくなっていった。


 たまに魔物に遭遇する事もあるが、こっちは襲われると言うよりは襲い掛かると言った方がいいのだろうな。

 なにせロバなので足が遅く逃げられないから”見つけたら殺す(サーチ&デストロイ)”の精神で視界に入ったら馬車から降りて斬りに走った。


 傍から見たら『ヒャッハー!』してるとしか見えないだろうなぁ……。『別に殺しを楽しんでませんよ?』と一応の釈明はしておいた。


 弱い魔物なら斬る前に布を投げて掛け、その上から刺して倒す。『何故そんな事を?』と聞かれたので『返り血浴をびたままの格好で旅なんてしたくないでしょ?戦う度に洗い落とすほど水に余裕が無いし』……それに臭いしね、と付け足した。


 その説明で納得してもらえた。確かにそれもあるんだけど、余裕がある時は色々と考えたりしちゃうんでなるべく見たくないんだよね。


 その後も雑談をしながら旅は続く。ちなみにフルネームを名乗るのは色んな意味で面倒なので旅の間は家名は伏せてエルとだけ名乗る事にした。


 道中マークとお互いのバカ話や失敗談をして親交を深めたりしつつ四日目の朝に一つ目の街に着いた。


 このまま目的地の次の街に向かっても問題なかったが、久しぶりにベッドで寝たいと意見が一致したのでこの街で一泊する事にする。


 そこで俺からの提案で風呂に入れる宿屋を探す事になった。


 平民である彼には風呂の習慣が無いので『何で?』って顔をされたが、割高になる場合は俺がその分を負担すると言ったのでマークも納得してくれた。


 前世が日本人な俺としては四日間入れなかっただけでも嫌だったが、考えてみればソレに慣れないとこの先長旅なんて出来無いんだよな……。お湯を大量にローブに入れるか? なんて考えてしまう、今後の課題にしよう。


 宿は割とあっさり見つかった。やはりというか割高になったがそこまで痛手にならない程度だったので由としよう。


 ここで一っ風呂浴びたい所だが、ギルドへ確認に向かったが四日間で数回の戦闘ではランクは上がらなかった。


 まぁ、この間ランクが上がったばかりなのだから早々上がりはしないだろうとは思ってたさ、確認はついでみたいなものだしな。


 ここに寄ったのは今回の討伐代を現金で貰う為だ、故郷を出る時にあれこれと買い過ぎて財布の中が少なくなっていたのを思い出したのだ。


 ギルドと契約している店ならギルドカードで支払いも出来るらしいがそう多くも無いみたいだし、支払いの度にローブから出し入れすると悪目立ちするからな。


 防犯の面から見れば宜しくないが、小遣い程度は腰のポーチに入れておいた方がいいと思う。


 さて、懐の補充をしたので次は胃袋にも補充をさせないとな。と、言う事で街の中央に近い繁華街らしい通りに入ると、そこら中から良い匂いが漂ってくる。


 店先を眺めながら何を買おうか見て歩く、屋台から大衆食堂の様な作りの店までぐるりと一周した所で通りから外れた所にポツンと一軒だけ屋台があった。


 行って見ると子供……とはいっても俺よりは少し年上くらいの姉弟(きょうだい)が鍋でスープの様な煮物を売っている。あまり良い匂いがしないし”ココは無いな”と思う。


 が、何やら期待した目でこちらを凝視する二人。……うん解るよ。解るけどね、お情けで買ってもその場凌ぎにもならないし、何よりきみ達の為にならない。


 明日には出発する身としては深くも係われないしなぁ。でも、見ちゃったんだよなぁ。


 「一杯貰えるかな?」


 「はいっ!」


 満面の笑みを浮かべられた。


 笑顔はいいんだけどね、『不味い』と思わず口から出てしまうくらいに不味かった。吐き出さなかっただけマシだと思って欲しいが二人は目に見えてショボンとしてしまった。


 何だろうなこの不味いシチュー? いや、フリカッセに近い料理は色々と作り方を失敗してる気がする。それだけに惜しい気もする。


 水っポイのもそうだが、ただ具材を煮ただけで出汁も入れていない。いや、煮出してこれを出汁として使うにしても味が足りない。


 中に入っている具材を見る限り肉か? いや、”炒めていないんだ”足りないのは”出汁”と”炒め”だな。


 だが、それらを揃えるほどお金に余裕が有るとも思えない。結局はコレが姉弟(きょうだい)の限界なのだろうな。


 材料のチョイスを見る限りセンスがあると思えるだけに勿体無いとさえ思う。


 そんな事を考えているとマークがやって来た。


 「何食べてるんですか? ボクにも一杯ください~。 ……不味っ! 何ですかこの失敗スープは。売り物として成立してませんよコレ」


 あ~、うん。商人らしいコメントどうもですよ。そうなんだけどね~、そう言われると何故かカチンと来るものがあるんだよな。


 案の定、弟の方はマークを睨んでるし、姉は姉で頭を下げて謝ってる。


 ふと見ると予備だろうかカラの鍋が一つ置いてある。よし、この姉弟(きょうだい)の将来性と料理センスに賭けてみるか。


 ヒョイっと、カラの鍋を引き寄せてローブから自家製のブイヨンを取り出して入れる。作り方はそんなに難しくないから後で教えれば大丈夫だろう。


 ブイヨンは以前の鉱石調査の時に後悔したので作っておいたのだが、ここで使うとは思わなかったな。


 次に中身の入った鍋を火から下ろし、フライパンを取り出す。マークが『何処から出してるんだ』とツッコミを入れるが今は無視させてもらおう。


 置いてあるタマネギを手に取り、『しっかり見て覚えとけよ』そう言って刻んでフライパンで炒める。


 「ここで重要なのは”しんなり”するまで炒めても茶色になるまで炒めたら駄目だ、料理によっては色が付くくらい炒めるがこのスープの場合、スープの色が悪くなるから色が出る前に鍋に移す」


 これを繰り返して適量のタマネギ炒めを鍋に入れると次に”例の狼”で作ったベーコンを厚切りに切って炒め、根菜、野菜の順に入れて軽く炒めて鍋に入れる。


 「野菜でも火の通りの悪いものから炒めていけ、炒め過ぎると苦味が出るからな、そこも注意だ」


 それを数回繰り返し、鍋の半分を満たした所で、勿体無いので”残念なスープ”を具材ごと足していく。


 煮ただけとはいえ具材の出汁は染み出ているんだ、使わない手は無い。


 ベーコンを炒めだした頃から匂いに釣られた見物客が来始めている。


 調味料で味を調えてから姉弟(きょうだい)とマークに味見をさせると、三人の顔が”緩んだ”のを見て心の中でガッツポーズをした。よし、これなら良いだろう。


 一応マークに売るならいくらが良いか相談した。もちろん狼のベーコンなんて入手困難なので今後は代用品で済ませる事も付け加えたうえでだ。


 材料と手間、一鍋で何人前か計算した結果、『少し高めだけど銅貨七枚でどうだろう?』との事だ。


 実際、屋台の軽食なら銅貨三枚から五枚で、銅貨七枚は食堂での少し高めの料理とほぼ同額くらいだ。


 その答えに見物していた人の中には眉を潜めたりした人も居る。けれど、匂いに釣られ、胃袋と気分はこのスープと決めていたのか立ち去る人は少ない。


 なので【一杯銅貨七枚】と値札をつけた瞬間、買いが殺到した。


 対応に追われる姉弟(きょうだい)と俺とマークの四人、鍋も六分目まで減った所で”残念スープ”を継ぎ足していく。


 煮ていれば味はどんどん濃くなっていく、それを考えれば継ぎ足しとしてはあのスープは丁度良いのかもしれない。……後でその事も姉弟(きょうだい)に教えとこう。


 ”売り物”と”継ぎ足し用”のスープも無くなり、お客も引けると俺たち四人は疲れ果ててその場に座り込んだ。



 一息付いた所で我に返った弟は大量の銅貨を見てはしゃいだ。姉の方はというと座り込んだままポロポロと涙を流していた。


 姉曰く、これが最後の賭けだったらしく、売れなければ自分達で食べ、それも無くなったら身売りするか弟と自殺するしかないとまで考えていたそうだ。


 俺とマークは今回ボランティアとして、売り上げは全額姉弟(きょうだい)に渡した。姉の方はお礼がしたいと何度も頼むので『今度来た時に一杯奢ってくれ』とお願いして何とか納得してもらった。


 これだけあれば明日の仕入れも問題無いだろうし、今日の事で客足も心配無いだろう。もう一度調理の手順と注意点を教えて俺達は立ち去った。


 姉弟(きょうだい)は俺達が視界から消えるまで何度も頭を下げてお礼を言っていた。


 「――さて、どうやって肉やフライパンを出したか当然教えてもらえるよね?」


 と、言外に『只で手伝ったんだから』と付け足すように睨まれた。


 ……マーク忘れてなかったか。俺は右手人差し指を立てて口の前に置くと『禁則事項です』と言ってダッシュで逃げた。


 まぁ、逃げる意味なんて無いよ。宿部屋が同じなんだしね、ちょっとした御ふざけさ。案の定マークは遅れて部屋に入るなり『で?』と言ってきた。


 確信をぼかす為にギルドカードを見せて本名を名乗り、貴族である事を告げる。そして代々家に伝わる家宝の一つと嘘をついておいた。


 無限(では無いが)収納自体はこの世界にも有るらしいが貴重なんだとか。まさか神様からの贈り物なんて言えないからなぁ……。


 マークは俺の説明に(いぶか)しめな顔をしたが、それで納得してくれたようで、明日の準備をして床に着くと、翌朝には俺達二人はロバと共に街を出た。




  ――ロバと言ったらパリカールだよなと、割とどうでもいい事を考えながら。






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