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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第一章 【誕生~旅立ち編】 
13/39

13 色々と決まりましたよ




 ……僕には自慢できる事がなかった。

 二人の兄は優秀で見た目も良く、街での評価も高かった。


 ……僕には得意なものが無かった。

 それは勉強でも運動でもそうだった。両親は年が離れてるからだと言う。でも、年が同じでも勝てる気がし無い。


 ……だから僕には自信が無かった。

 ただ怒られない様に、そして苦手なものから逃げ、マシな物に依存した。




 学校で度々耳にする男爵家(きょうだい)の呼ばれ方がある。それが兄二人、弟二人。

 下級生が話す、『お兄さんって、どっちの?』返って来る答えは【大きい方、怖い方、跡取り、等】、【いつも一人の方、小さい方、剣ばっかり振ってる方、等】


 上級生が話す、『弟って、どっちの?』返って来る答えは【いつも一人の方、大きい方、剣ばっかり振ってる方、等】、【大人しい方、小さい方、双子の方】そして……【残念な方】


 それを聞いた時はショックだった。悪口じゃなくて純粋に出た言葉だから余計にショックだった。子供は残酷だと誰かが言ってたけど、その通りだと思う。


 僕にはよく遊ぶ友達がいる、大抵一緒に遊んでいる。

 学校の休み時間も下校途中でも休みの日でも、それは家が近かったし同い年でもあったから。


 彼はよく僕を誘ってくれた、それはとても嬉しい。でも、自分に自信の無い僕は【貴族だから構ってもらっている】そんな気持ちがどこかにあった。


 彼は僕より足が速いし力もある、いつも元気な彼が羨ましくて……、だから自分の中に卑屈さを感じてさらに自分が嫌いになっていった。


 僕は丈夫ではない、兄さんを真似して走ってみたけど直ぐに疲れて倒れた。それも数日間寝込むオマケ付きで。


 兄さんと一緒に剣を振ってみた。そしてまた寝込んだ。父さんから遠回しに向いてないと言われてとても悲しくなった。


 兄さんと一緒に出来るのは勉強だけだ。といっても同じのは出来無いので簡単な勉強だ。でも兄さんは僕の年でこれだけ出来るのは凄いと言ってくれたのは嬉い。父さんにも座学の方面に才能があるな、と言われた。


 だから兄さんが剣術稽古をしてる時はウィレス兄さんと授業を受けた。政治経済なんかは難しくて聞いてても解らなかったけど、耳に入れとけば後で身になると言われたので頑張って聞いていた。


 僕が本を読みながら帰宅する途中、大人の誰かが将来が楽しみだと言っていた。将来なんて考えた事も無かったので父さんに聞いてみる。


 「難しいな、先の事は私にも解らないが……。家に残るにしろ何処かに婿入りするにしろ領主を支えて領地を守る事にはなるだろう」


 その言葉は『地味に生きろ』と聞こえた。もちろん父さんはそんな事は思ってもいない。ただ、卑屈な僕がそう聞き取っただけ。


 全てに引け目を感じていた僕が何時の間にか努力や挑戦と言った前向きな事をしなくなっていたから。


 だから僕は本に逃げた。本を読んでいると話しかける人は居ない、一人で静かに過ごすには手軽だったから。


 それはあの従者が来た日も変わらなかった。話しているのが跡取りの話ならどちらの兄さんが行っても僕には関係ないと聞き流していた。


 『早く終わらないかな?』とか『両親や妹と離れないなら誰が行っても良いや』なんて考えながら。


 翌日、学校から帰宅するが、従者が泊まっているので家の中には居たくないと家の裏手に周り、壁にもたれ掛かって本を読んでいた時、コソコソとウィレス兄さんがやって来た。


 一瞬驚いて目を見開いた後で『なんだ、お前もかよ』と窓の下に座って聞き耳を立てたので、何があるのか知らないけど僕も静かに耳を済ませた。


 窓の向こう、父さんの書斎から話し声が聞こえる。


 僕は驚いた、何でも出来ると思っていたエル兄さんにも悩みがあって、しかもそれが致命的だと指摘され、冒険者になる事を諦めろと言われた事。


 だけどその後に父さんがエル兄さんに行って欲しいと頼んだ時は心底安心した。そしてそれが嫌ならと話した時、”産まれて来る知らない子供なら良いや”とも思った。


 皆も離れないなら良いと思っているだろうと隣にいるウィレス兄さんを見ると、険しい顔をしていたので、窓からそっと覗いてエル兄さんを見ると苦々しい顔をして自分が行く事を受け入れていた。


 ……それは初めて見る顔だった。何時も平気な顔をして何でもしていた兄さんがあんな顔をした。”そんな事をさせるくらいなら”と言いたげな顔で。


 その時初めて僕が自分の事しか考えてない事に気付いた。なんて自分勝手な考えだったのだろう。これは”家族”の問題なのに自分には関係無いと……。


 僕はその場で膝を抱えてそこに顔を埋めるように俯いた。ウィレス兄さんの立ち去る気配を感じると、一気に気温が下がった気がした。



 ……一人でいる事がこんなに重く感じたのは初めてだった。

 卑屈な僕が『お前は家族じゃない』と覆い被さる。


 ……その声に怯え、怖がり、僕は更に縮こまる。

 臆病な僕が『ここに居られて良かったな』とそれを見下ろす。


 ……それが悲しくて咽び泣いて涙が零れ落ちる。

 冷めた僕が『泣けば誰かが優しくしてくれる?』と胸の奥を強く握った。


 だから僕は考えるのを止めた。それが逃げだという事も、卑怯な事だとも知りな

がら。誰も僕の事を知らない領地(ばしょ)に行きたいと。




 そして一ヵ月後、エル兄さんは帰ってきた。






  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 大人達が今回の調査報告をして部屋を出て行った後に、エルドニアは自身の事を父親に伝えると、父親は柔らかな顔をして『よかったな』と頭を撫でる。


 親なりに心配はしていたが、忌避が治ったら治ったで違う心配も出てくる。けれど今は喜ぶべきだとその事は顔に出さないように努めていた。


 エルは嬉しそうに一礼をして部屋を出ると、表情が曇りだす。エルもまた父親に余計な心配を掛けたくないと、その顔を隠していたのだ。


 そこで廊下に居た弟のオースティンと鉢合わせる。二人とも一瞬驚いたものの直ぐに普段の顔に戻り、エルは自室に戻っていった。



 エルが自室に戻り荷物の片付けをしていると、ドアを叩く音がして兄のウィレスが部屋に入る。


 言い辛そうに周囲を窺いながらも何か喋らないと、とエルを見て『無事に帰ったな』とぶっきら棒な言葉がついて出た。


 エルもまた気にする様子も無く『結構楽しかったですよ』と軽く返す。それからなにがあったのか、学校では何があったかを互いに話し、場も和みエルの討伐話が出た時――


 「そういや、戦う時は緑になるのか?」


 ウィレスのその一言が場を凍りつかせた。一瞬何を言ってるのか解らずに首を傾げるエルだったが、何を言ったか理解すると急にキョドりだす。


 その反応にウィレスも驚いた。そして自分が地雷を踏んだ事にも。


 「あれを見たのかー。あれか、兄様遠眼鏡持ってたもんな。うわーっ!」


 真っ赤になった顔を両手で隠し、床をゴロゴロと左右に転がるエル。初めて見るエルの反応にウィレスが笑った。大人びたエルが自分の弟で、子供な事を今更ながら気付かされる。


 そしてその考えがウィレスの背中を押した。


 「聞いてくれエル、俺には守りたい物がある。その為に権力も必要になる。だから侯爵家へ行くつもりだ。

 お前には冒険者になって欲しい。そして色々な国の話を聞かせてくれないか?


 この家はオースティンに任せたい。あいつは体力面で心配はあるが、それは年を取れば解決するだろうし、何よりあの年で俺等の勉強に付いて来れている。優秀さと真面目さではあいつが一番だ、このまま父様の傍で学ぶのがあいつや領民にとっても一番良いと思う」


 ウィレスの言葉にエルも頷き、オースティンなら任せても安心だなと同意した。


 ドアの向こうで驚きと喜びの入り混じった顔をしたオースティンが立つ。卑屈になり周囲から背を向けて本に逃げていた自分を、優秀だと思っていた兄二人に認められていた衝撃に。


 オースティンもまた何かに背中を押されたかのように”このままではいけない”と兄の期待に応えたいと強く思うようになった。


 それからは順調に話が進んでいった。翌日にこの話を父親に告げると準備に数日もらい、二人は仕度を始めた。


 兄二人は街の人々に挨拶をして周り、荷物を纏める。隣街までは同じ馬車で行くつもりなのでお互いの準備が終わったら出発となっている。


 そんな中、荷造りをするエルの下にオースティンがやって来た。片手には学校や街中で遊んでるのを見掛ける将棋の様な戦略ゲーム。『本気で打ってほしい』と真剣な面持ちで一局お願いをする。


 エルには何を考えているのかまでは解らなかったが、その真剣な様子を見て本気で相手をする事にした。


 勝負に時間は掛からなかった、エルの一方的な勝利で幕を閉じた。本気を出し過ぎたかと弟の顔を伺うと、そこには晴れやかな弟の顔があった。


 「この実力差を埋める事を目標にします」


 それを聞いて本気を出して良かったと思い、『目標にするなら埋めるじゃなく越えないとな』と頭を撫でた。


 それから家族で食べるのが最後であろう夕食の時間が来た。従者(ザン)が気を利かせて外に食べに行ったので皆、落ち着いて食事が出来た。ただ、しんみりするのが嫌なのか、悲しくなるのを避けているのか皆の口数は普段より多く賑やかだった。


 食事も終わり各自で食器を片付けると其々の部屋に戻る。


 部屋に戻ったエルは夕方に届いていた荷物を開く。差出人は【灰色のボロ雑巾】


 覚えの無いエルが箱を開けるとそこには手紙と灰色の布が入っていた。差出人と届け物を書き間違えたのかと持ち上げると、(それ)はローブだった。


 そして手紙を見て差出人が誰だか理解した。


 『お久しぶりです、お話をした事はありませんが誰だか解ると思っています。

 (誰かに見られると困るので名乗れない事をお詫びします)


 旅立たれると聞き、お祝いにと送りました。これは以前私が使っていた物ですが(汚くないですよ)受け取ってもらえると嬉しいです。


 着てもらえれば使い方を理解できるようになってます。もちろん貴方用に調整してあるので他人が着てもその能力は使用できなくなってますのでご安心を。


  灰色のボロ雑巾より。 PS.以前のお詫びも含めています』


 エルは顔を綻ばせ笑ってローブを着ると、意識に説明(それ)が流れてくる事を感じた。


 その機能を試そうとした時、普段通りを装ってマリアが入ってくる。片手にはお酒とミルクの入ったグラスを乗せたトレイを持って。


 ただ、いつもと違っていたのはどちらのグラスにも少量の果汁が入っていた事。『今日だけ特別ですよ』とグラスを置いて話が始まった。


 他愛の無い事や思い出話、グチも入りつつ楽しい時間が過ぎると、『再会したら同じ物を飲みましょうね』とマリアは部屋を後にした。


 心地良い眠気を感じベッドに横になると、エルはそのまま眠る。


 翌日、支度を済ませた二人は対照的だった。エルは皮製の防具と長剣を腰に挿し腰にポーチを付けた軽装。ウィレスはいかにもな貴族衣装で着飾り、荷物も私物の殆どを箱に詰め、貴族らしい【引越し】を地でいっていた。




 ――そして、準備の整った二人は馬車に乗って(コルト)を出た。







 ひとまずこれで第一章が終了しました。引き続き来週から第二章が始まる予定です。最後まで書けるかいまだに不安な私ですが、頑張りますのでこれからもよろしくです。



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