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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第一章 【誕生~旅立ち編】 
10/39

10 お茶会に行きましたよ (兄の過去編)




 弟の事を意識したのが何時頃からか聞かれたら俺は八才の時だと答えるだろう。けれど、それを語るにはそれより少し前に遡らせてほしい。


 その日『ボク』は近隣の子爵家のお茶会に父様と共に誘われて出掛けた。自領から初めて出る嬉しさと、お茶会に出られる楽しさで浮かれていたけど、礼儀作法を習い始めたばかりだった事だけが少し不安にさせた。


 会場に入ると順番を待って父様の挨拶に続いて子爵家当主に頭を下げる。


 「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。バーデンセン男爵家が長男、ウィレス・バーデンセンと申します。此の度は子爵様にお目通りが適い光栄に存じます」


 本来パーティー等では格下から話し掛けるのは失礼に当たるのだが、こうしたお茶会に招待された場合は領主に挨拶する機会が設けられる時がある。


 挨拶も終わり父様と端に近いテーブルに移動する途中『今の挨拶は良かったぞ』と褒められた。嬉しかったし安心もしたけど、ここでうかれて失敗は出来無い。


 小さいながらも社交界デビューのボクにとっては相手の爵位が解らない以上迂闊に声をかけられない。しばらく立って様子を見ながら話し掛けられるのを待ってみたけど何も無く、退屈な時間だけが過ぎて行く。


 お茶会ってこんなものなのかなぁ、何杯目かの紅茶を飲みながらお菓子を口に運ぶと、……アレが来た。


 「すみません。父様、少々席を離れて良いでしょうか?」


 モジモジとしながらそう告げると、『行ってきなさい』と許可が出たので少しだけ足早に会場から出た。紅茶を飲みすぎたかな?


 用を足し終えて帰る途中、中庭の方から声が聞こえてくる。正直、楽しい歓談とは言えない雰囲気が漂っているので近付くべきではないと思ったけど、好奇心が勝って中庭に向かってしまう。


 ヤバかったら気付かない振りをして無難に遣り過ごせばいいだろう。


 中庭に入ると色取り取りの花達がとても綺麗に咲き誇っていたが、その雰囲気をブチ壊すような状況が展開されていた。


 蹲る少女とそれを囲む様に数人の男子が少女を罵倒していた。許せない! 熱くなったボクは咄嗟に少女と男達の間に立った。その時ボクは喧嘩になるかもしれないと、逸る自分を抑えて冷静に相手を見る。


 リーダーらしい男と取り巻き三人の四人いたが、見た感じとても弱そうだった。何不自由無く甘やかされた体は太ってこそいなかったけど……ヒョロイ。もやしかこいつ等?


 対するボクはというと、両親に似たのか平均より背は高く父様の剣術稽古によりガタイも良かった。年上だろう相手を見下ろして、余裕で勝てそうだな、なんて考えた所で肝心な事に気が付いた。


 ――あ、爵位が上だったらどうしよう? 記憶が無くなるか、告げ口出来なくなるまで叩きのめすしかないか? 悩みながら無言で圧力をかけていると


 「な、なんだよお前! じゃますんな!」


 取り巻きの一人が怒鳴る。そうだよな~、間に入ったけど何が原因だか解らないし、どう庇えば良いのか……。


 あっ! 一つ思い浮かぶ事があった。父様との授業を始めた頃、一緒にいた弟が色々と質問をしていた。一つの事に三つ四つ質問していた弟だったけどその内容は普通では起こり得ない様な可能性の質問ばかりで、何でそんな変な質問ばかりと思ってたけど……、そうかこんな特殊な場合の対応の為なのか。


 昔を思い返しているとリーダーらしき少年が痺れを切らして口を開いた。


 「僕はアレク・サラ・ドイトン。伯爵家の長男だ。何故黙っている!」


 あ~、やっぱり爵位が上かよ。厄介だなぁ……。でも、今更見捨てられないし、見捨てる気も無いしな。頭をフル回転させて授業での会話を思い出しながら対応するしかないか。


 「お初にお目にかかります。ボクはバーデンセン男爵家が長男、ウィレスと申します。ドイトン伯爵家ご長男様に対しましてはこちらから話し掛けるのは失礼と思いまして、許可が下りるまで沈黙していた次第です」


 本当はどう対応するか悩んでただけだけどな。第一お前が伯爵家の人間だなんて今知ったし。礼儀として許可無く上の者に話し掛けられないのも事実だし、何も言えないだろう。ざまぁみろ!


 「……っ! なら伯爵家の者として命令する、今直ぐこの場から立ち去り、ここでの事は他言するな。いいなっ!」


 他言するなとか『自分達が悪いです』と言ってる様なもんじゃん。ますます引く訳にはいかないな。


 「解りました、他言は致しません。ですが……、立ち去るべきなのは伯爵様方かと存じます」


 「僕に立ち去れと命令する気か!」


 「滅相もございません。そもそもボクがここに来たのもここでの声が聞こえたからです。ですから、お茶会に参加されている他の方々の中には様子を見にこちらに来る可能性もあるかと。


 その方が現状を見て何とお思いになるでしょうか? 中には悪意を持ってありもし無い悪評を流す者がいるかもしれません。もちろんボクは他言しませんが、事、他人の醜聞を喜ぶ方もいる事でしょう。


 その時は伯爵様の威光を持って参加者全員の口をお塞ぎになられますか?」


 つまりは『立ち去らないなら有る事無い事言い触らすぞ。広まった噂をお前に止められるのか?』といった感じだ。


 案の定、伯爵達は捨て台詞を吐いて去っていった。役に立たないと思っていた授業での弟の質問が役に立ったな。



 さて、振り返ると少女はまだしゃがんでいた。……と、突き飛ばされたのか? 見ると膝には土が付いている。ボクはハンカチで土を掃って膝を見る。どうやら擦り剥いてはいないようだな。


 『立てますか?』そう言って右手を差し出すと、少し戸惑った後で手を乗せてきた。それにしても何があったのかな? 今聞いても答えは聞けないよな。


 まだ怖いのか少女の足は震えていた。どうしようかと周囲を見渡し……


 「よろしければあちらのベンチで休みませんか?」


 少女の手を引いてベンチへ座らせると、隣に座り改めて少女を見る。


 ウェーブが掛かった橙色の長い髪は腰に届く程で、肌は若干日に焼けているのか薄茶色で貴族と言うより平民に見えなくも無い。実際、ドレスを着ていなければそう思っただろう。


 「……あ、あの。助けてくれて……ありがとうございます」


 隣に座っていなければ聞こえない程小さな声でお礼を言った少女の声は、驚く程に透き通り、とても耳心地がよかった。この声が聞けただけでも助けて良かったと思えてしまう。


 その後、ぽつりぽつりと何があったのか話してくれた。


 彼らは以前から難癖を付けては彼女を虐めていてたが、彼女よりも爵位が上な事から何も出来ずにいたそうで、今回も趣味を聞かれた事から虐めが始まった。


 「私、お花が好きで……お庭で水遣りをしてますと……言ったら……見たいと言われて。……お庭に出たら、お前は平民みたいだと……急に……」


 そこまで言うとグスグスと泣き始めた。嫌な事思い出させちゃったかな。しかし許せないな。くそう、爵位が上じゃなかったらぶん殴ってやったのに!


 どうやらこのお茶会も無理矢理招待状を手に入れたらしい。


 ――って、じゃあこの少女、子爵家のご息女じゃん! やっべっ! 気軽に話し掛けちゃったよ! ……まぁ、いいか。今更だな。


 「やはり、貴族の娘がお花の世話をしてはいけないのでしょうか?」


 「えっ、……そんな事は無いと思いますよ。ボクの母様も土弄りが趣味ですし。(主に野菜作りだけどね)それに、とても綺麗に咲いているじゃないですか。ボクなら自慢したくなりますよ」


 「あ、……はい」


 そう返事をしたら、そのまま俯かれた。しばらくして『あっ!』と何かを思い出した様に立ち上がってこちらを向いた。


 「挨拶が遅れました。私はラピス・ソフィ・フォローム。この子爵家の三女です。先程はお助けいただきありがとうございました」


 両手でスカートの裾を少し上げ、ちょこんと頭を下げた。……かっ、可愛い!思わずギュっとしたくなるのを抑える。早く返事を返さないと不安にさせちゃう。


 「バーデンセン男爵家が長男、ウィレス・バーデンセンです。本日はお招きありがとうございます」


 そこで、このお邸の侍女らしき人がやって来たので一緒に会場へ戻る事にした。


 伯爵達はあの後すぐに帰った様で、見掛ける事は無かった。遭いたくない相手が消えたのは嬉しいけど、……あいつ等逃げたか。


 ラピス嬢とはそこで別れたが、帰り際に少しだけ会話が出来た。楽しくも大変でもあったお茶会はこうして終わり、父様と馬車に乗って帰る途中ボクは疲れたのか眠ってしまった。


 伯爵家の長男を怒らせたんだ、今日の事を伝えたら怒られるかな?




 ――明日、起きたら謝って、胸を張って怒られよう。






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