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その日。二つの物語が一つに帰結する日。たった一つの結審。それは二人にとって大きな意味を持つものであった―――
ここは不思議な場所だ。弘敏は空間を踏みしめながらそう思った。現世では、確かに霊界や天国、地獄などと呼ばれていたがなんてことはない。今までの生活となんら変わりはない。変わっていることといえば、雲が敷き詰められた野原を歩いているような感覚がすることだろうか。人は自由に空を飛ぶことができ、ふわふわ浮かぶのだ。弘敏は空高く飛び上がると空中で一回転した。彼の癖だった。上を見渡せば限りなく青い、雲り一つない晴天。虹もかかっている。十色である。下を見下ろせば一枚板のごとく真っ平らな景色が続き、ゴマを隙間なくちりばめたように建物が並んでいる。建物、というと語弊があるのだが、その形をした何か、ともいうべきある種異形のものが並んでいる。ここに来てから見慣れているはずなのにどうにも恐怖を掻き立てられる、そんな建物だ。弘敏はそれを蟻塚と呼んでいた。この世界に元々あると思われる建物はとても人が作ったものと思えなかった。
弘敏は、この世界の中央に位置していると言われる場所に向かっていた。そこには天空をも貫く槍のような蟻塚があった。空から見ると働き蟻はせわしなく動き、この世界を形作っているのが手に取るようにわかる。
しかし、この世界の誰もがここに来た時から知っているのだ。空を一たび飛ぶと生温かい風が全身をなめるように通り過ぎる。決して心地よくはないその風が唯一、この世界の残酷さを思い出させる。この世界には僕らの肉体はすでに、無いのだ。この世界には夢や希望はもう、無いのだ。