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幼い頃

                              15、幼いころ

 目が覚めると俺はまた真っ白な世界にいた…


「和人…とうとうたどり着いたんだね…」


親父の声が聞こえる…目をさまよわせ親父の姿を探す…いない。


「今回は姿を見せることはできない…今回はお前にすべての謎の答えを託しに来た…本当はお前は知るには早すぎる年齢なんだ…


この事実はお前が子供を授かったときにすべて教えられるはずだったんだ…でも…今のお前には時間がない。だから今すぐに伝えなければならない、だから


最後の手段を使ったんだ、謎の話していい量は二人の心の距離に比例するようにしたんだ、わたしが予想したとおり、お前たち二人の心はどんどん近づいていき、


そして重なった…だから…すべてを伝えにきた…お前は聞きたいか…?後悔しないか…?」


俺は黙っていた、今の親父の台詞で俺の中でひとつの仮説が出来上がってしまったからだ…


聞くのが怖い…俺の予想があたってしまうと…あと少しでサヤカがいなくなってしまうから…


 でも。


俺は聞かなければいけない…もし本当に消えてしまうなら俺がどんな手を使ってでも助けないといけない、もしサヤカがいなくならなくてすむのなら、


悪魔に魂でも売る覚悟を決めたから。だから覚悟を決めて聞く


「すべてを…教えてくれ…」


「わかった。今からお前の記憶の足りない部分をすべて複製する、いいな?」


「ああ」


そう言うと俺の頭に黄色いキラキラしたものが集まってきて頭の中に流れ込んでくる。


次々に思い出されていく記憶の中で俺はまたあの少女をいくつも見た…










 10年前の春、俺と華恋と敦志は、親父に連れられてあの石橋に向かった…


石橋の周りはたくさんのきれいな桜でいっぱいだった、俺は小さいころ桜が好きだったのでその川沿いを歩くのが好きだった。


その日もきれいな桜を4人で見ながら歩いていると…


きれいな女の子に出会った…


俺はその娘に見蕩れていた…


好きな桜になんて目もくれず、ただひたすらにその少女に目をむけてたちどまっている…


黒髪のロングでよくアニメなどでみる清楚なキャラを思わせる顔立ちをしている少女だった…


風に舞う少女の長い髪は、春風で舞うピンク色の花びらの中で一際輝いて見えた…


その少女は俺に気がつくとこっちをみて、風に舞う髪を抑えながら笑顔でいった


「きれいな、桜ですね」


俺は呆然としていながらもつい返事を返していた


「はい…とても…きれいです…」


その光景をみて親父が話しかけてくる


「この子はサヤカ、仲良くしてやってくれ」


そういうと華恋が真っ先にかけていって何かを話している、


俺はうれしかった…


親父はいつの間に、どうやってこんな娘と知り合いになったんだろうとか、そんなことどうでもよかった…


ただただ、俺はサヤカというきれいな女の子に見蕩れて、これから一緒に遊べることがうれしくてしょうがなかった…


華恋に続いて敦志もサヤカと話初めている、


「和人も来いよ!!」


敦志の声でわれに返る


「お、おう!!今行くって!!」


そういって三人の輪に入りそのまま親父も含めて5人で遊んだ。


 まずは石橋の近くにある花畑にいって遊んだ、敦志が一人で蜂と格闘している中、華恋とサヤカはお互いに花の髪飾りを作りあっていた、俺はそれをただ見ていた

穏やかな風に身を任せて、そのまま眠ってしまいそうになったそのとき、敦志がものすごい勢いで突っ込んできて俺に激突した。


何かが目の前ではじけたときのように頭がクラクラする…


「なにすんだよ…敦志」


俺は痛がりながらいうと敦志が俺の背後にさっと隠れる、前をみると鬼の形相をした華恋が目の前に立っていた、その華恋を少しおびえるようにサヤカが見ている。


俺は素直に状況を聞こうとしたが、声がでない、でも聞かなきゃ、サヤカが今にも泣きそうなくらいおびえている…


別にお前に怒ってるわけじゃないないのにな…


「ど…ドウシタン…だ…よ…?」


声が裏返ってしまった。でもよく見ると聞くまでもないことだった、サヤカの髪には草がつきまくってボサボサになっていた、多分敦志が勢いあまって華恋に突撃でもしたんだろう…


バカなやつ…


俺は一度深呼吸して落ち着いた


「よし…状況はわかった」


そういうと敦志が


「和人…たッ助けて!!」


といってきたので、優しい目で敦志をみて判決を言い渡す


「敦志…」


「和人…」


お互い見つめあう中俺はいった


「ドンマイ…」

そういいわたすと俺は転がるようにして、っていうかもう転がって敦志の前からサヤカの近くに移動した


残されるは怒り狂った華恋と敦志、華恋を前にして敦志はこの世の終わりのような顔をしている。華恋がバキッと指をならすと敦志がビクッとおびえるがおれのよこでも


ビクッなったやつがいた、俺はため息をつくと立ち上がりおびえたサヤカの前にいく


「気にすんなよ、いつものことだ」


そう声をかけてもまだ怯えている、俺は髪をかきむしってからサヤカにむかって言い放つ


「よし!!見てろよ!!」


そういうと俺は敦志と華恋の元まではしり、一気に飛び上がると敦志に飛び蹴りをくらわす


「イッテー!!なにすんだよ!!和人!!」


「死刑だ!!敦志!!」


そういうと俺と敦志は頬に笑みを浮かべながら睨みあう、そして


「くらえ和人!!」


そういって敦志も俺に飛び蹴りをしてくる、俺はそれを華麗によけて顔にラリアットをきめると敦志はクタッと気絶した、


「はっはっはっはっはー!!どうだ!!参ったか!!ウゲ…!!」


勝ち誇っていた俺の後頭部に衝撃が走った


「サヤカが怖がってるだろ!!なにしてんだ!!」


意識が遠のいていく中華恋のそんな台詞が聞こえた


いや…始めたの…あなたです…よ…?


そして俺は気を失った…


俺も敦志も気をうしなっていたのはほんの一分ほどだった、だが起きると一瞬サヤカが誰だかわからなかったが顔をみてすぐに思い出したので、特に気にしなかった


 そして日が暮れて帰らなければいけない時間になったとき、俺はいつも敦志や華恋に言うように言った


「明日も遊べるか?」


そういうとサヤカは一瞬悲しそうな顔で俯いてから…


「うん…また明日!!絶対ね!!」


そういって親父の顔を見た…


そのときの親父の顔は、俺が今まで見たことないほど悲しい顔をしていた…


俺はその意味がよくわからなかったけどたいして気に留めなかった。


そしてそのまま別れのときが来る


「じゃあまたな!!」


そう言うとサヤカは少し悲しそうな顔で笑った、俺はどうしたのか聞こうと思ったが


「和人もう行くよ」


と言われてつれていかれる、俺は見えなくなるまで手をふってた


 帰り道は少し浮かれていた、今考えると俺はもうあのときにサヤカに■をしていたのかもしれない、いやしていたのだろう


帰ったらお母さんに真っ先にサヤカの話をしようと決めたが…


それが叶うことはなかった


家に帰って母親にサヤカのことを話そうと話かける


「お母さん!!」


「どうしたの?」


俺は勢いよく呼んで駆けつけると母親はやさしく聞き返してくれ


「今日ね!!今日ね…今日…ね…」


あれ…?



今日…



どうしたんだろう…



そうだ…



女の子にあったんだ…



○■な人ができたんだ…



言わなきゃ…



お母さんに教えてあげなきゃ…



言葉にしようとすればするほど…



俺の頭の中から女の子が消えていく…



今日…何をしたっけ……



どんなことを話したんだっけ……



どんな女の子なんだっけ…



俺の頭から次々と浮かんでは消えていく…



不思議と俺の目からは涙があふれた…



俺は涙を止めることもしないままただひたすらに記憶をさかのぼる



ダメだ!!消えないでくれ!!



俺の頭の中ではサヤカがどんどん暗闇に取り込まれていく



暗闇に消えたところから思い出せなくなっていく



不意にの頭にあたたかい手を置かれた、その手の主に目を向ける。



親父がすごく悲しい顔をしていた…前にもみせたことがある悲しい顔、女の子と別れるときにみせた悲しい顔、でも、俺は親父にすがった



「おとうさん…お父さん!!」



そういって親父の足に抱きつく、だだをこねる子供のように、



サヤカが…女の子が…どんどん暗闇に染まっていく…



そして俺のなかで何かが切れた音がした、それはサヤカとのつながりなのかはわからないけど、一瞬サヤカのやさしい顔が頭に出てくる



「サヤカ!!」



俺は目を見開き叫ぶ…



その瞬間俺の視界に闇が訪れる


「和人!!」


「和人!?」


父親と母親の声が聞こえるなか俺の視界は完全に闇が包んだ






 そして真っ暗の中俺の頭に声が聞こえる


―――悔しいか??


「誰…?」


―――悔しければホームズの謎を解け…


「ホー…ムズ…??なんのこと??」


沈黙だけがかえってくる


「ねえ…答えてよ!!」


それっきり声は聞こえなくなった…











 俺は闇の中にいる…


「…かず…と…」


遠くから声が聞こえる、お父さんの声だ…


「…かずと…」


だんだん近くなっていく


 闇に光が射す…眩しい……どうやら眠っていたらしい、場所は俺の部屋のベッドだ


「和人!!」


「う…うぅ…おとう…さん…??」


目を覚ますと心配そうに俺の顔をみる親父の姿があった、悪夢を見ていたようだったがどんな夢だったのか忘れてしまった、まぁ怖い夢なら思い出さなくてもいいだろう


そうおもって起き上がると、親父は何かにハッとなって俺にきく


「サヤカという女の子を知ってるか??」


誰だそれ


「サヤカ??」


口にだすとなぜだかしっくりくる名前だが、その名前に心当たりはなかった


「わからない…」


「そうか…」


そういって親父は悲しそうな顔をする


「でも…会ってみたいかな…」


そういうと親父はうれしそうな顔をする


「ああ!!明日会わしてやる!!」


そういって顔を背けて俺の部屋からでて


「おやすみ」


とだけいって行った。


「俺も一日疲れたから寝るか…」


そうつぶやいて電気を消した。夜は更けていった…


 




翌日は親父に起こされて、華恋と敦志と親父と共に石橋の近くの桜並木に向かった、


きれいなピンク一色の中に輝いてみえるほどの漆黒の髪をなびかせている少女がいた。


その少女は驚くことにこっちに向かってくる。そして親父となにか話すと少し悲しい顔になる、でもすぐに向き直って笑顔でいう


「きれいな、桜ですね」


そう声をかけてきた少女はとてもきれいで、とても……。


「はい…とても…きれいです」


みんながみとれるなか俺は最初に言葉を発していた……


自分の意思で声が出たわけではなかった、そういうのが決まりのような、そんな感覚だった……


「こんにちは、わたしはサヤカです、仲良くしてください」


「あたしは華恋、よろしくね!!」


そういって華恋はサヤカとなにか話しはじめる。


「俺は敦志…って聞いてくれよー」


敦志は自己紹介しているのに華恋とサヤカの会話に阻まれたのでごねている、やがて敦志も含めて三人の会話が始まった。


ずっと見ているだけの俺に敦志はいった


「和人もこいよ!!」


「おう!!今行くって!!」


そういって駆け出した瞬間ものすごい既視感に襲われた…デジャヴなんてもんじゃない…確かな感覚だったが一瞬にして消えていった、


たちどまって呆然としていた俺に敦志の声が聞こえる


「和人??」


その声で我に帰る


「おっおう!!今行くって行って言ってんだろ!!」


そういって三人の輪に入る。話し合いの結果今日はゲームセンターに行くことになった、子供の行くとこじゃねーだーと思うかもしれないが


俺らがいうところのゲームセンターとは基本的に子供の人気アニメのメダルゲームやラズ&べジータやカズキングなどのカードゲームなどがほとんどで


端っこのほうに申し訳程度にあるプリントシール機が大人のゲームに思えるほどの子供のゲームセンターだった、まあ簡単にいうとゲームコーナーに近いかな、


最初はみんなでメダルゲームで遊ぶことにした、サヤカと華恋はメダルを使ってプリキャワのメダルゲームで遊んでいる、やっぱりサヤカは可愛い。


敦志は姿が見えないので探していると、カズキングのお金を入れるところにがんばってメダルを入れようとしている……アホだろあいつ……


俺は敦志を無視して親父を探すと、なにやら少し子供では入りにくいゾーンのテーブル型ゲームに座り込んで何か考えている、競馬でもやってんのかー??


と思い見に行くと、なぜか脱衣マージャンをやっていた…おい…子供のまえなんだからちょっとは自重しろよ…


俺は親父も完全に無視をしてサヤカと華恋が遊んでいるところにいく、楽しそうにキャアキャアやっている、やっぱり子供のあるべき姿ってこれですよね…


ってかなんで俺は遊ばないでみんなの見回りやってんだよ、保護者か俺は、ってことで遊ぼう


 まずはあいかわらずバカみたいにカズキングの前で四苦八苦している敦志を無理やり連れて、ウイニングナインという野球ゲームで対決した、ちなみに俺は


もらったお金はメダルに変えていなかったのでそのお金でウイナイをやっている、敦志はもともとお金は持ってきていたらしくそれを入れる


「やった!!勝った!!」


 そう雄たけびをあげたのは俺だ、ものすごい壮絶な戦いを繰り広げた結果延長12回でようやくかった


かなり長時間やっていたらしく、もう帰らなければいけないらしい。うわっ俺せっかくこんなに可愛い女の子とゲームセンター来たのにほとんど話せなかったよ、しかも


野郎とウイナイやって終わりとかなにしにきたんだよおれ…少し凹んでいたが不意に華恋が


「最後に皆でプリントシール機やらない??」


と提案してきた、ものすごくいい案だと思うがプリントシール機ってやるものじゃなくて撮るものですよね??


細かいところをいちいちいうと今のすばらしい提案がうやむやになってしまいそうだったので俺も乗っておく


「おお!!いいじゃん!!」


「じゃあ俺サヤカちゃんの隣!!」


と敦志がいいだしたので俺もサヤカちゃんの隣を獲得すべく反論する


「ふざけんな!サヤカちゃんの隣は俺のものだ!!」


「お前はあのゴリラ女の隣がお似合いだぜ!!」


といって華恋を指差す敦志、その瞬間空気が凍る、


「あたしの隣がなんだって…??」


華恋のドスがきいた声がひびく、不覚にも俺も完全にびびってしまったが華恋が言っている相手は敦志だ、俺よりもっと怖いだろう…


「華恋…さんの…隣が…いいです…」


そういう敦志の声は震えている、華恋はそれをきいた瞬間笑顔になっていう


「そんなにいうならしかたないなー」


華恋は満足そうにしているが敦志はなごり惜しそうにサヤカのことをみているので俺は目の前で


「じゃあサヤカちゃんのとなりは俺な!!よろしく!!」


「うん、よろしくね!!」


なにをよろしくするのかはわからないがとりあえずこれであいつには十分なはずだ、そうおもって敦志に「どうだバカ!!」


といわんばかりの視線をむけてやった


「はうっ…!!」


敦志はダメージをうけていた、ちょっと可哀相になってきた…本当にバカなやつだな…


「早く行こ!!」


そういって華恋が敦志を引き摺っていく、ああ…かわいそうに…でも残念ながらサヤカの隣は俺のもんだ!!


 みんなでプリントシール機の前までくると真っ先に華恋がお金を入れる、なにやらこの機会には設定がたくさんあるようで華恋がいろいろやっている


「よし!!」


設定がおわったらしい華恋がこっちにきてみんなの列に入ると『3,2,1』とカウントが聞こえてパシャと音がなるが俺は初めての体験だったので無駄に緊張していたところに


隣にいたサヤカが急に手をつないできた時はもう死ぬかと思った…いきなりつなぐのは卑怯だろ…俺はサヤカのほうを少し遠慮しながらチラっとみるとサヤカはなぜか寂しそうな


顔をしていたので俺は全く声をかけられなかった、こんなときに気の利いた台詞でも言えればかっこいいのに!!


 そんなこんなで別れのときがきてしまった、帰り道で俺はずっと黙っていた、というよりも声がでなかった…


このままサヤカと別れてしまうの怖かった……俺が感じているドキドキは■なんだという自覚もあった……


でもそれ以上にこのままサヤカと別れたらもう二度と会えない気がしてならない……胸にモヤモヤとして残っている感情は全くわからない……


こんな感情を抱くような事柄に見舞われた覚えもない……


俺の心にある感情の半分を占めている感情は恋だ、それは断言できる、俺はサヤカのことが○■だ、でも……


でももう半分を占める感情は寂しさではない………悔しさだ。しかもケンカで負けたときなどとんなもの比較にならないほどでかく、苦しい……


はっきりいってこんな感情を持つようなことが起きた覚えはない。


 モヤモヤを抱えたままサヤカとの別れのときがきてしまった、俺はサヤカとどうしても別れたくなかった、失うような気がして、サヤカの笑顔が俺の頭から姿を消して


しまうような感覚だ、だから俺は最後にサヤカにいった


「また明日!!絶対遊ぼうな!!」


そういうとサヤカは一瞬悲しい顔をみせたすぐに


「うん!!また!!」


そういって笑顔になった


 俺はその日は帰って母親にサヤカのことは説明できだが、その直後に母親共々サヤカの記憶を失った…


俺は違和感謎の悔しさに頭を悩ませ、苦悩で気絶したそのまま夢を見た……


昨日の……続きを……


 俺は何も見えない闇の中にいた…いや…真っ暗な世界で自分の体だけは見ることができる、俺の体を不思議な浮遊感が襲っていた、そんななか…声が聞こえた…


―――お前は俺の期待を裏切るのか??記憶に残すのは悔しさだけでは足りなかったか??ならばお前が解き明かさなければならないことも記憶に残してやろう…


俺は声が出せなかった、いや、出せなかった…自分の頭に渦巻いている記憶の正体がわからずにいた…大切な人間だということはわかってもその存在がモヤがかかってしまっている


いまだに状況を把握できていないがこの声のいうことは俺の心の中を的確に言い当てている、俺の中に理由のわからないモヤモヤが存在している、そのモヤモヤの正体は


悔しさだった、俺はひどく混乱した、そうしてこんなに悔しいのかすらわからないのがさらに悔しい、絶対に忘れてはいけないことを忘れてしまったような…


心に大きな穴が空いてしまった感覚…


「ホー…ムズ…」


 目が覚めた俺は最初にそんなことを言っていた、まだ記憶に残っている理由は全くわからないけど俺はホームズの謎を解かなければいけない……


俺は胸糞悪い悔しさが残っている胸を掴み、絶対に解き明かすと誓った


起きたときは周りに誰もいなく、ひとり自分の部屋で寝ていた、俺は体をおこして時計をみると時間は23時43分と表示されている


「もうこんな時間か…」


そうつぶやいて、ベッドに腰をかけて頭を働かす。


俺はこういう頭の使い方に関してはかなりすごい自信がある、推理ってやつかな、親父が趣味でもっている推理の本で解けない問題はなかったし、テレビでみる推理番組なんかは


きちんと視聴者も推理できるようになっていれば、基本的に解けなかったことはないくらい得意だ。


俺は今の状況を整理した、ついでにいっておくと頭に聞こえる声は最後にヒントを教えていった―――ホームズの謎を解け、謎とは存在だ


そういわれた、存在とはまた範囲が広いな、とりあえずホームズの存在は知っている、名探偵のアニメでもよくでてくるからな、そうさ!!真実はいつも一つ!!って言葉


一生に一度はここぞというときに言ってみたいよな!!でもあの探偵坊主いいまくってるからな!!人死にすぎだろ…トリックも少し無理があるようになってきた気がする…


さすがにゲシュタルト崩壊で殺人はできない……


まあそんなことはどうでもいい…


状況整理に集中しよう、まずホームズの知識ははっきりいって皆無だし存在しているのかすら……


「……ッ!!」


そういうことか!!そーいえば前にバラエティ番組でホームズの存在した証拠はあるのに存在がなかったことになっているっていう番組を見たことがある……


誰も存在を確認できないってことは……ダメだここまでしかわからない……


まずは俺の悔しさの正体がわからなきゃわかるわけもないか…


ヒントが少なすぎる、さすがに『例の推理アニメ』でももっとヒント多いはずだぞ…


関係があるかはわからないが最近たまに親父が悲しそうな顔をしているときがあるんだ、何か関係があるかもしれない……


……今度聞いてみるか。


眠い感覚がなくなるにつれて自分の感覚がだんだんはっきりしてきた。


この感覚は多分悔しさよりももどかしさといったほうがいいかもしれない、忘れてはいけない『なにか』が俺の中にはあるんだ、それは消えた訳ではないんだ、


俺の中で……


しいていうなら暗号化してしまったような感じだ、俺の記憶なのにモヤかかってわからないんだ、しかもそれは俺の心の大部分をしめている……


……………ダメだ!


「これ以上考えても埒が明かない、今日は寝よう」


そう独り言をいって布団につきしばらく考えたが全く進まないので寝てしまった――――。


 






次の日、俺は例の謎を考えたいのに親父に連れ出されていた、俺が誘ったわけでもないのに敦志と華恋も来ている


石橋の近くの並木道を歩きながら親父はいう


「今日は会わせたい子がいるんだ…」


まただ……


また寂しそうな顔をしている、俺は「どうしたの?」と聞こうとしたときだった、俺たちは少し強めの風に煽られた。


 その風は、近くに咲いているたくさんの桜の花びらを巻き上げて、一人のきれいな少女を置いていった……


そんな幻覚に見舞われてしまった……


ボーっとしていると、少女は俺に顔を向けてやさしく微笑みかけていう


「きれいな、桜ですね」


おれは少し唖然となりながらこたえる


「はい…とても…きれいです」


俺はその台詞と風景に言いようのない既視感を覚えるが、一瞬にしてその感覚も消えていく……


あれ……??


どうしたんだろう……


なんだ…何なんだ今の感覚、デジャヴなんてもんじゃない……昔に……確実にあったような……この感覚は前にも味わったことがある……


でも、それは考えれば考えるほど溶けるように消えていく……


気がつくと俺は何を考えていたのかすら忘れて、ボーっと、バカみたいにその少女をみていた……


「かず…と……か…ずと…」


遠くから何か聞こえるが俺の頭には入ってこない、俺の頭にあるのは完全に目の前の少女のことだけだった……


俺と少女しか世界にいない……そんな感覚だった……さらには周りの風景すらもとけるように……


そのとき!!


「聞けっての!!」


雑音と共に俺の後頭部にものすごい衝撃が走る


「いってーな!!なにすんだよ!!」


みると華恋が俺に上段蹴りをしたようだった


「あんたが何回話かけても反応しないからでしょ!?!?」


「すまん」


これ以上反発しても殴られるだけなので従っておく


「わかればいい」


納得したようでよかった……


おれは全然納得してないけどな。


そんなことを考えていると不意に声をかけられる


「わたしはサヤカ、よろしくね」


そういって微笑まれる、その少女の笑顔には若干の曇りがあったがそのときはあまり気にしていなかった……


 そうして向かったのは駅前のカラオケだった、なぜか歌を歌いたくなったという親父の提案で急遽行くことになったのだ。


「着いたー!!」


到着一番に華恋が大声をあげた、どうやら来るのは初めてだったらしい、俺もそうなんだけど……


なんかムカついたので茶化してみる


「お前ははしゃぎすぎだろ」


「うっさい!!いいじゃん初めてなんだから!!」


「ダッセー」


つまらない意地を張った……


「う、うるさい!!」


そういって機嫌を悪くしてしまった……


やっちまったな。


 そんな会話をしているうちに親父が人数分の金をはらってマイクと分厚い本を持ってくる


「ほら、いくよ」


親父が笑顔でいうとみんなが着いていく、それでも華恋は俺に視線を合わせない、


これはやばいな……


部屋に着いてしまった、このまま中に入ると空気が悪くなるかもしれない


「な、なあ華恋」


できるだけ下手にでて謝ろうとすると、華恋は俺に怖い笑顔で振り向く


「先に逝っていいよ」


「漢字が違う!!」


「いいのよ!!アニメでは気づかれないから!!」


「アニメ!?なんのことだ!?」


「フッあなたはまだ知らないのね……」


そういってなぜか悲しそうな顔をする


「だめだ!!やめてくれ!!」


「チッ、しょうがないわね……」


ふう助かったぜ……


あいつはバカか!?バカなのか!?


まあとりあえず治まってくれたみたいなのでこの話はここまで―――。


 カラオケに入った俺たちは一人ひとつずつ飲み物を頼んで次にだから歌い始めるか話していると勝手に親父が演歌を入れてしまった


入れた曲は俺たちは嫌って程聞いている親父お気に入りの曲だったが、それだけならまだよかった……めちゃくちゃ下手だった……


皆で耳をふさいでなんとか1番が終わって間奏に入った、


ふう……ジャイ○ンみたいな歌声だな……


そしてこれから二番が始まる、そうおもって全員が覚悟したときだった……


スピーカーから聞こえてきたのは、親父の下手な歌なんかではなく、今まで聞いたことがないほど安心するような、そしてきれいな歌声だった……


全員が呆然とする中マイクをもって歌うのはサヤカだ、全員が強張った体から力を抜き誰もが何も言わずに歌に聞き入っている、


スピーカーから響歌は今まで耳にタコができるほど聞いてきたはずの歌なのに、今まで聞いたこともないような……曲そのものが違うものなのではないかと


思うほど、プロの歌う歌より心に響く……歌だった……


 そうしてすべてを歌い終わるとサヤカが顔を赤くしながらこっちをみて少し笑った、誰もが声が出ないなか、親父が黙ってサヤカの元に歩いていって頭に手をおいて言う


「よかったよ」


その声は俺が今まで聞いたどんな声よりも優しいものであった、普通は少し嫉妬してもいいのかも知れない場面だったが、俺はなぜか少し嬉しかった……


親父の感想を境に敦志と華恋がサヤカを褒めまくる、それはもう褒めまくる……


そんななか最後にサヤカ俺の感想がほしくなったのか近寄ってきて少し上目遣いをしてくる、その行為があまりにもしおらしく可愛かったので素直になれなかった


「ま、まあ、下手ではないんじゃないのか??」


「うん!!」


俺のそんな感想にも笑顔で答えてくれた、俺はその笑顔をみて思った、次はもっと素直に褒めてやろう……親父がサヤカにやったように……


そう……もっと素直に……次が…あるのなら……。



 カラオケのフリータイムが終わった後は、華恋は門限があるといって帰ってしまった。


カラオケを出た時間はすでに午後6時をまわっていたので俺たちもゆっくりと歩いて帰ることにした。


暗くなり少し怪しげに桜散らしている桜並木を通る帰り道、敦志やサヤカはカラオケで疲れたのか静かだった……


でも、俺がしゃべらなかったのは決して疲れたからではない、俺がしゃべらなかったのは、今隣を歩いている


サヤカに対し今までに抱いたことのあるようなないような感情が心の大半を占めているからだった。


前にもあったような……なかったような……なんとなくはわかるが確信まで近づく度になにかに大きく否定されるような感じだ、自分の中になにか自分じゃない自分ような気がしたが


俺はどうしても今抱いている感情を表す言葉は他に考えられない……


この心臓の高鳴りも決して疲れたりしているわけではない……


少し気を抜くとすぐに頭が真っ白になってしまいそうなほど幸せの感覚もいつものただ嬉しいだけの出来事とはちがう……


そう……これは……きっと…■なんだ……


そこまで思考がいたった瞬間敦志に話しかけられた


「和人??」


俺は目線だけで「どうした??」となげかけた


「お前……なんでないてんだよ……」


敦志は心配そうに俺をみている、サヤカも、親父もだ。


なにいってんだよちっともないてなんかいねーだろ何も悲しいことなんてないんだから……


そう思いながら自分の頬を触ると自分の目からたくさんの涙が出ていることがわかった


「あれ……??おかしいな……悲しいことなんて……なにも……ないのに……」


しかし涙は止まらない、涙に気がつくとなぜかもわからない悲しみが心の奥深いところから湧き出るように、押し寄せてくる


「うぅぅぅ……」


ついにはなにも言えないほど完璧に泣いてしまう、しかしなぜ悲しいのかもわからない……でも涙は止まってはくれない


「お、おいどうしたんだよ……」


敦志は戸惑ったように俺に声をかけてくる、サヤカと親父はどうしていいかわからず顔を見合わせている。


―――サヤカ


「……ッ!!」


急に心の奥から声が聞こえた


―――……ない


え??理由もわからない悲しみのなか突然声が聞こえた


―――…たくない


しかし、ハッキリはわからない……


なぜだ!!ここまで出掛かっているのに!!クソッ!!


正体不明の悲しみに俺が苛立ちを覚えると同時になにかとてつもない不安に包まれた時……!!


なにか暖かいものに心を包まれた気がした……いや、実際にはサヤカが俺の手を握ってくれていた


「どうしたのかはわからないけど…大丈夫だよ」


やさしく……そう……話しかけてくれた……


その瞬間!!


俺の心でバラバラになって漂っていた悲しみが一気に集まって形になっていく、それと同時に悲しみの大きさも膨れ上がっていく


―――忘れたくない……


―――サヤカ!!忘れたくない!!


俺は意味もわからないその言葉を口にした


「サヤカ……忘れたく……ない……○■……だ…」


「……ッ!!」


サヤカの息を飲む音が聞こえる、サヤカを見るとサヤカも涙をながしていた、その後ろで親父は驚いた顔をしていた


そしてその瞬間心の中でさっきまでと違う声がきこえる、今度は外側から心に直接話しかけられるような感覚だった


―――残念……時間切れだ……


そう聞こえた瞬間、体が勝手に動いた。


獣のようにゆらりと立ち上がり、あらぬ方向に全力で走りだす、その方向は……車道だった!!


何度も止まろう力を込めようとするが指一本動かない、どんどん車道に近づいていき、ついに車道に飛び出てしまった、瞬間計ったかの用に大型のトラックが突っ込んでくる


そして俺とトラックがぶち当たる寸前!!俺を力強く押し出す力が加わった、俺ははじき出されるように転がってトラックの前からはじかれた瞬間体に自由が戻ったため


うまく受身を取って反対側の歩道まで転がった、すぐにおかしいと思った俺は立ち上がり反対側まで戻るとそこにはボロボロの服を身にまとって白いシャツを血で赤く


染めてしまっている親父が横たわっていた


俺は声も出ないなかそっと親父に歩み寄り膝をついて親父の体をゆする


「おとう…さん??お父さん??ねえ…返事してよ……ねえったら!!」


少し強くゆすった瞬間親父の大きな手が俺の手をつつむ


「大丈夫…大丈夫だから……心配いらないよ」


そういって笑みを作る親父の顔は全然大丈夫には見えなかった


「そ、そうだ救急車!!呼ばないと!!」


そういって離そうとした腕を親父が残り少ない力で掴む


「和人よく聞くんだ……あまり…時間がない……」


「時間がないってどういう……」


そこまでいうと親父に遮られる


「和人!!」


いつになく真剣な顔をしているのでつい黙ってしまった、すすると親父はいう


「忘れるな……いつかお前には試練がくる……その試練をまっとうするためのヒントの場所だ……俺の書斎の机の引き出しの上から二番目の封筒のなかだ……絶対に…わすれるな…」


「なんの話だよ!!」


そういうと親父はフッと微笑んで、いつもとかわらないがよわよわしくなった声でいう


「ごめんな…あんまり父親っぽいことしてやれなくて……ごめんな……お前らのこと残しちゃって……ごめんな……」


そういって微笑みながら涙をながす、そして


「和人…がんばれ…よ……」


そういって親父は力尽きた


「おい……お父さん……おい……こんなところで寝んなよ……風邪引くだろあはははは……は…は…は………お父さん!!


 どうして……!!、クソッ……なんで…俺なんかのために……!!」


そういって親父をみる、望みをかけて脈をとってみるが……当然そんな奇跡ない……世界は俺をあざ笑うかの様に…まるで世界が親父を奪っていくように……


親父からどんどん暖かさが無くなっていく……


そこでようやく敦志とサヤカが駆け寄ってきて、親父の姿をみて絶句している


「違うんだ…こんなところで寝るなんてだらしないな……ねえお父さん……ねえ…ねえ!!」


何度揺すっても返事は来ない……ただ力なく……地面に吸い付いてしまったように……生気を感じなくなってしまった……


「あ……あ…あ…あああああああああああああ!!!」


俺は狂ったように泣き出すと一瞬で意識がブラックアウトした……。








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