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弱さ


14、弱さ


 翌日俺は華恋と敦志に電話をかけた、「友達を紹介したい」というとサヤカはなぜか少し浮かない顔になったがすぐに電話越しでの返事があったので


気にしなかった。


 電話を切って部屋の片付けをしていると電話から5分としないうちにインターホンがなった。のぞき穴から見ると来たのは敦志だった


俺の家から敦志の家までは走れば5分くらいだけど…


どんだけ暇だったんだよ…


俺以外友達いねーんじゃねーの??


まあ俺も似たようなもんだけど。


 俺は鍵をあけて敦志を入れると、敦志は目を丸くして俺をみる


「だ、誰だよ、このかわいい子」


その言葉を聞いてもサヤカは全く表情を曇らせないが、それが逆に俺には堪えた…


こいつなら平気かも…という淡い期待をしてたのだろう…


サヤカは俺に会うまではずっとこんなに苦しい思いをしてきたのだろうか…


いや…


こんなもんじゃないはずだ…


サヤカは忘れられているのが自分なんだ、そしてサヤカはずっと一人きりだった…


苦しさやかなしみの大きさは俺では想像すらできないほどに大きいだろう…


これからは俺がしっかりしなければ…


 俺は決意を固めて敦志に向き直った


「さて、何をして遊ぼうか」


「まあ、とりあえず華恋が来るまでなにも始めないほうがいいとおもうが…」


そう言う敦志の顔色は優れない、っていうかおびえている、


前に華恋を待っている間に人生ゲームを初めてしまい華恋がきてなぜか敦志だけがボコボコにされてしまったときのことでも思い出しているのだろうか…いやあれマジでこわいからね?


俺見てただけなのに夢にでたもん…


おびえている情けない男二人をみてサヤカは少し笑った。その笑顔は強がりには見えなかった、俺のこれから見せる笑顔はすべて強がりになるだろう、サヤカはやっぱり強い


俺が心配する必要もないのかもな、その笑ったサヤカの顔を見ているとつい俺も頬が緩む、それは敦志も同じなようで頬が緩んでいる、目が会うと三人で笑った。


そのとき!!


「…ッ!!」


小さな女の子の姿が一瞬頭をよぎった!!俺はその姿を頭の中でイメージするが、やはり一瞬だけでとり逃してしまった


「おい…和人…今の…」


敦志も同じ状態になっていた、お互いに顔を見合わせるが声が出ない


少しの沈黙が流れる、俺と敦志は一瞬の記憶に手を伸ばし、サヤカは俺と敦志のことを心配そうにみている…


普通なら気にしなかっただろう、だが、今の少女の姿はとても大切なもののような気がしてならなかった…それは敦志も同じようだ、普段の敦志なら全く気にしないだろう…


これは…俺と敦志と…おそらく華恋のとても大切なようなもののきがしてならなかった…


沈黙を破ったのはインターホンだった、少し貧乏臭い「チン」という音に俺と敦志は現実に引き戻された、インターホンがなった3秒後、ドアが蹴り破られるかと思うほどの勢いで


蹴られ始めたので俺は慌ててドアに駆け寄った


「わかったわかった今あけるから」


そういってドアを開ける、そしてなかにはいった華恋は一瞬なぜかサヤカに片手を挙げたあとなにかに迷ったように手を伏せてから俺と敦志に何かの疑いの眼差しで交互にみた


「誰よあのかわいい子…」


そういって華恋はニヤニヤしだした、この前と似たような反応…


華恋の記憶はわかっていたはずなのに、やっぱり少しきつかった…


それを振り切るように息をはいてつげた


「こいつはサヤカ、仲良くしてやってくれな」


そう声をかけるとサヤカは華恋に微笑んだ


「よろしくね、華恋」


 そうして華恋と敦志は『また』サヤカと友達になった…


俺はサヤカが毎回見せる笑顔が嫌いだった…


強がっているように見えないその笑みが余計の心をかき乱した。


どうしてあんなに強くあれるのか…


忘れられることが平気なのか…


そんな考えさえでてくるほどサヤカはいつも楽しそうにしていた…


 あれから一週間たった、華恋や敦志は毎日来てくれた、サヤカを覚えているわけではない、単に暇なだけだ。


四人でいると、たまに敦志と見たあの大切な少女の姿が頭をよぎることは何回かあった、


近所の花畑で華恋がサヤカに花飾りをつくって頭にのせたとき…


デパートのゲームコーナーのプリントシール機で写真を撮ろうとしたときにもあった、おかげで満面の笑みを作っているのはサヤカだけで、


俺と敦志と華恋はボーっとしている写真がでてきたときはサヤカがもう一回といってごねて大変だった、なぜか全責任を俺に押し付けられて二回目の代金は俺が


全部払わされた。理不尽だ……。








 毎日を同じように過ごし、全く同じ自己紹介から始まり、全く同じ別れ方をする………。


 俺は日に日に精神力を削られていく中でも、サヤカの前でだけは笑っていられるようにした。


 だが俺はなれることなんてできなかった………


 いつからだろう、サヤカの前でだけは絶やさないと決めていた笑顔が、中身が全くないものになってしまっている……


 カラカラに乾いた笑顔を、みんなに向ける自分に、俺はまだこの時は気がついていない……


 不意に、誰ともしれない声で頭に問いかけられる……


 ――――――なにがおもしろい??


 ――――――どうしてお前は笑っていられる??


 俺はその問いに対しても全く聞こえていないフリをして心の中で蓋を閉じた……


 俺は強い、サヤカのためならなんだって我慢できる、乗り越えてやる、俺は……俺が……!!


 悩んで悩んで……、まともに寝れる日なんて一度もなかった……


 何か俺にできることはないのか………


 俺のしていることは全くの無駄なんじゃないだろうか…


 そんな考えものぼってきていた……


 それでも俺はサヤカのために、そういって自分の心すらも騙していることすらにも気がつかないで……


 日に日に俺は弱っていった……心も体も……


 日に日に俺のサヤカに向ける笑顔すらも全く中身のないものになり、最後のほうは自分で自分を見ていられなかった……


 何もないのにいきなりヘラヘラしだしたり、笑うべき場所でないところで空虚な微笑みをこぼす……


 そしてその弱った心はついにいってはいけない一線を越えてしまった…











 それはある雨の日の夜の出来事…


夏の雨は嫌いだ、暑いうえにジメジメしているから、機嫌が悪くなってしまう……

――それでも、笑顔は絶やさない


その上俺はとうとう来たというべきか、体力がそこをついたらしく、寝込んでしまっていた……


――それでも、笑顔は絶やさない


布団で寝込んでいる俺にサヤカは楽しそうに敦志や華恋のことを話してくる


――それでも、笑顔は絶やさない絶やしてはいけない


やめてくれ…


その笑顔であいつらのことを……


もう相手はおぼえていない話をするのは……


やめてくれ……


心で叫ぶがそれでもやめてくれない


――それでも、笑顔は絶やさない


そんなことも知らずにサヤカは俺の額にのっているタオルを変えにきた


「それで華恋と敦志がね」


楽しそうに話しながらタオルに手を伸ばすサヤカの手を払って上半身だけ体を起こした俺の表情に……笑顔はなかった……


やめろ…


抑えるんだ…


サヤカは何もわるくない…


「…めろよ…」


やめるんだ!!それ以上は言ってはいけない!!


「え…?」


サヤカは少しおびえたような…疑問を抱いたような表情で俺を見ていたが、サヤカはまたすぐに笑顔に戻る 


「起きたらダメでしょ??華恋と敦志と遊べなくなっちゃうよ」


それを聞いたとき、俺のなかでなにかが壊れた。


「やめろよ!!」


そういうとサヤカはひるんで少し後ずさった


「お前のその笑顔がむかつくんだよ!!なんで笑ってるんだよ!!」


これをいったらすべてが壊れる、そうわかっていたのに止められなかった


――お前がそれを言うのかよ


心の声が俺に嘲笑をあげるのがわかる。


「目障りなんだよ!!どうして笑っていられる!!周りが自分のことを忘れていくんだぞ!!寂しくないのか!!苦しくないのか!!え!?!?」


それでも心の暴走が止まらない、俺より辛いはずのサヤカが、俺より強いことを認めたくなくて、いや、自分の弱さを認めたくないなんていうちっぽけな、本当に小さなプライドが


サヤカを同じ土俵に引きずり下ろすために罵声を続ける……


何度も何度も、言ってはいけない禁句まで取り出して考え得る限りサヤカが傷つくだろう言葉を無意識に選びとり、無情にも口からこぼれ落ちる。


すべてを語り終えると、いや、叫び終えると、場には沈黙が流れる……


俺の中には自己嫌悪に吐き気すら覚える自分と、スッキリしてしまう自分がいて、その存在に更に吐き気がする。


俺は荒い息を整えて、多分泣いているだろうサヤカの顔をおそるおそる見ると


「…ッ!!」


サヤカは涙を溜めた目で…でもはっきりとした意思をもった目で俺をみすえていた


「あたしだって…悲しくないわけないじゃん!!忘れられるのだってつらいよ!!でも…でも今は和人がいてくれるから…いてくれるから強くいれたんだよ!!


 他の人じゃこんなに強くはいれなかったよ!!でも和人だから…あたしの好きな人だから…!!


 でも和人がそういうならしょうがないね…今まで…ありがとう…さようなら…」


そういって雨が降っている外に飛び出していった。


俺は自分のしてしまったことに今更気がついた……いや、気がついていないフリをするのを強制的に辞めさせられた。


自分の弱さが憎い。


「なんてことやっちまったんだ俺は!!」


自分への怒りが治まらない


どうして気がついてやれなかったんだ!!


自分可愛さに自分のことしか考えず、自分ばかりがつらい悲劇の主人公のように……


あいつがつらくないわけない。


あのとき決めた決断そのものが根本的に間違っていたんだ……


なにが俺がしっかりしなきゃだ……!!


なにが俺が守るだ……!!


俺の力が足りないのは……俺の小さな手では救えるものなんて少ないと……俺が一番わかっていたはずなのに……!!


不意に目の前に現れた悲劇の女の子を救うことに……これから始まる俺の救出劇を勝手に妄想して……勝手に酔いしれて……


挙句の果てには抱えきれなくなった問題を投げ出すどころか投げつけてしまう始末だ……本当に救えない……


救えない……


もともとこれは俺一人でクリアするべき問題じゃなかった、自分の弱さを受け入れていれば今頃は……今頃はきっとサヤカと励まし合って……笑顔をもってしっかりと進めれた


はずなんだ……!!


それなのに……それなのに俺は……!!


「クソ!!」


俺はそうはき捨ててサヤカをおう


雨のせいで視界が悪く家を出たときにはもうサヤカの姿はなかった。嫌な予感がして俺は全力で走る。行き先もなくただこれまでサヤカと行った場所に、思い出めぐりのように


ただひたすら走った。


公園…


デパート…


カラオケ…


駅…


花畑…


すべて行ったが見つからない


もう手がかりなんてない、俺と会うより前にいった場所ならはっきりいって全くわからない…


手詰まりだ…


そう思ったが俺の脚は勝手にある場所に向いていた











俺は恋愛というものが嫌いだった……



人は理想があるからその理想をドラマや小説といった、作り話として押し付けているんだ……



そんな理想を持っているのに人は全く違う自分を演じている……



人はこんなにも醜いのに……



人は純粋な作品を書けるのに……



あこがれることができるのに……



人はその才能を、純粋さをすべて醜さで塗り固めて生きている……



自分も恋をして、醜さをだしてしまうのが怖かった……



恋に期待や希望はなかった……



でも…今……俺の心にはそれしかない……



俺はこれからどんな恋をするのだろう……



どんなことが待っているんだろう……



絶対に見つけて思いをつげるんだ……



 




 もうどれだけ走っただろう…



 息があがって体の動かしたもめちゃくちゃだ…



 今にも倒れてしまったほうが楽かもしれない…



 でも…



 そんなことしない!!



 俺も…サヤカのことが好きだから…



 サヤカがいったあの好きはどんな感情なのかはわからない…



 でも俺はサヤカが好きだ…



 俺は…サヤカに…■をしている…



 子供っぽいサヤカが…



 曲がったことを嫌うサヤカが…



 無邪気に笑うあの笑顔が…



 いくらあげてもきりがない…



 それくらい…俺はサヤカが○■だ…



 だから走る…ひたすらに…



 









 俺の脚が向かったのは。


俺たちが出会った石橋だった…


そこに…サヤカはいた…


雨に打たれてぬれているのに明らかに泣いているのがわかった


俺は橋の端から真ん中にいるサヤカにゆっくり近づいていった


残り3メートルほどのところでようやく俺に気がついた…


すると俺をみて目を丸くする…


「なん…で…」

そういってまた逃げようとしたサヤカの手を掴み…引き寄せ…そして…抱きしめた


サヤカは暴れる、泣き声をあげながら…うめきながら暴れる…


俺は暴れるサヤカをもっと強く抱きしめた…そして耳元でささやく


「俺は何があっても強くある…サヤカに見合う男になるから…もう絶対に離さないから…俺の傍にいてくれ…」


「…ッ!!」


後半の声は泣き声で震えていたと思う


「お前は強がらなくていいんだ、これからは俺がまもるから…」


それを聞いたサヤカは俺の胸で泣き崩れた、今までのたまったものをすべて吐き出すように…


「うっ…うっ…うああああん」


今までつらかっただろう、たくさんの人と出会いたくさんのひとと思い出ができる、そしてすべて忘れられていくんだ…


つらくない訳がない…


自分の思い出がなかったことになっていくのだから…


それでも曲がったり、ひねくれたりせずに前だけを向いている…


曲がらないことは大変だっただろう…


俺は泣いているサヤカを抱きしめて誓う、せっかく一度たどり着いた答えを捨てて、自分がサヤカと一緒に挑まなくてはならないという結論を金具り捨てて……


それでも誓う。今度は自分はとてつもなく小さな存在であると認識した上で……。











 俺は絶対にサヤカを守る



人間の1つの幸は100の不幸の上になりたっている



この世には不幸の分だけ幸せがあるなんてのは嘘だ



自分が幸せである人間が不幸な者に何もできないという偽善を正当化するための言い訳にすぎない



だから俺は、サヤカをその1つの幸に導く



たとえ俺が100の不幸を背負ったとしても…



苦労しない恋愛なんて…存在しないのだから…








 俺はサヤカを更に強く抱き寄せる。


それと同時にジメジメとした夏の雨が一気に止んでいく……


サヤカはまったく抵抗しなかった、


俺は今幸せのなかにいる


こいつといることができるなら千の不幸でも万の不幸でも受けて立とう…


そう決意したとき、頭が割れるような痛さに見舞われた、頭に無理やり膨大な量の情報が流れ込んでくる。


「う…うぅぅ…い、痛い、あ、頭が」


意識が現実から切り離されていく…


視界の端から闇が侵食してきて最後にはすべてを覆っていく…


意識が消えていく中頭の中に声が聞こえた


―――謎は…解けたか…??


倒れこんだ俺をサヤカが支えてくれた、そして


「大丈夫だよ…」


そうサヤカの声が聞こえた、自然と焦りがなくなりサヤカに委ねる、心も…体も…





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