Episode 和人
俺はこの華恋を傷つけたやつらを許せなかった、だから、俺はこの事件を解決できるいくつかの方法のなかで―――もっとも残酷なものを選ぶ―――。
華恋と敦志が俺の家に着てからもうすぐ一ヶ月がたとうとしている、俺は『やつら』の家のチャイムをならしていた。
外見は普通の一戸建てで、まあそこそこ、高級感が漂っている3階建てだった。
「はい」
すると、なかから男性の声が聞こえてくる、いかにも偉そうな、低い声だった、俺はあふれでる怒りを抑えながらいう。
「すみません、華恋さんの友人ですが、華恋さんのことについてお話があります」
そういうとあわてた勢いで一人の男性がでてきた。
そいつは、偉い金持ちが着てそうな、和服というか男性用の浴衣みたいなものをきていて、顔はアゴヒゲを蓄えて、野口英世をもっとオッサンっぽくした感じだった。
おれはやさしい笑みを浮かべていう
「ぼくは不破和人といいます、華恋さんとなかよくさせていただいているのですが、最近華恋さんの妙な噂を聞きまして、華恋さんはいらっしゃいませんか??」
俺がそういうと男性は安心したように一息つくという
「ああ、あいさつが遅れてすまんね、わたしは華恋の父の永道だ。君が和人くんかね??残念ながら華恋は今どこかへ出かけてしまっていないよ」
俺はターゲットを見つけた野獣の気持ちを抑えるように自分を殺す、おそらく貼り付けた笑顔はひん曲がっていただろう。
「そうですか、残念です、では、また出直します」
そういい踵をかえすと
「待ってくれ」
と引き止められる。計算どうりだ
「はい、なんでしょう」
俺はできる限りのポーカーフェイスでいうと向こうも友好的な笑みを見せて聞いてくる。
「娘のどんな噂が流れているのかね??君がわざわざ真実か確かめにくるほどだ、よほどの噂なのだろう、かわいい一人娘のことは心配でね、教えてくれないか??」
やっぱり着やがったか、このクソ野郎!!
俺は心のなかでかなり醜く笑い、話を進める。
「はい、実は最近夜中になると、近所の、そこの公園に一人でいるらしいんですよ、華恋さんが、もし本当ならどうしたんだろうろ思いましてね、でも人違いみたいですね、では」
そういって俺は今度こそ踵を返して帰る。俺はこれ以上この場にいてはいけない……。これ以上こいつを見ていると反吐がでる、こいつの貼り付けた見え見えの
家に帰ると華恋が夕飯の仕度をしてくれていた、華恋の料理は普通にひいきなしでうまいといえる。
料理をしている華恋に近づいて一言つげる
「今日の夜中、公園に来てくれ、決着をつける」
そういうと華恋の表情は一瞬こわばったがすぐに覚悟を決めた眼差しになりいう
「わかった」
俺は敦志と目を合わせて頷きあう(敦志は今回の俺の作戦をすべて知っている)。
そしてその日の夜中、俺は起きて風呂に入っていった華恋を確認してから布団から起き上がり華恋の着る服に『あるもの』をしかけてすぐに準備する。
俺と敦志は準備を終えて華恋が風呂から出てくるのを待つ、華恋は出てくると、家を出ようとしている俺と敦志を怪訝に思ったのかいう
「一緒に行かないの??」
俺はそれにたいして心であやまりつついう
「ああ、俺たちは先にいきたいところがあるから、華恋は先にいっててくれ」
「わかった……」
渋々了承してくれたようだったので安心して家をでる、もちろんよるところなんてない、例の公園にいき、茂みに隠れること五分、華恋が現れた、そしてすぐに現れて
華恋に群がっていく『やつら』、そして奴らの華恋への威嚇が始まり、そしてバットを振り上げようとした瞬間―――まずい!!―――
俺は勢いよく飛び出して華恋と『奴ら』の間に入る、頭にバットの一撃がヒットし意識が飛びそうになるが必死につかまえて、華恋に無理やり笑顔でいう
「ごめんな、よくがんばったぞ」
そして、『奴ら』を睨みつけていう
「あんたらのしたことはすべて録画させてもらった、それと華恋の傷を見せればあんたたちが捕まるには充分なはずだぞ」
そういって俺は華恋の首の襟につめておいた『あるもの』をとりだす、そうあるものとは―――
「超小型カメラ、ちなみにデータはこれだ」
そういって自分の持っているチップを取り出してみせる
そう――ここからのことはやらなくていいのかもしれない……でも俺はやらないと気がすまないんだ、ここから先は、俺のただのわがまま……
『奴ら』はもうなにもいえない感じだったが、俺は『奴ら』に希望をあたえよう、これはやさしさではなく、さらなる地獄に突き落とすための複線だ
「ちなみにもうこのデータ以外、こっちに証拠はない、つまりこの証拠がなければ警察にもいけないんだよ……どーする??」
そういった瞬間に相手が全員敵意むき出しになる、殺意といってもいいかもしれない、
そしてバットを持った一人が狂ったように叫びながらいう
「殺す!!」
「いい返事だ」
俺はそれに対して笑顔で返す、もちろん殺意のこもった笑顔を――。
むかって来たバットを俺は最小限の動きでかわすが目線が俺ではなく、俺の後ろ、華恋に向かう、しかしここも俺の予想の範囲内、俺は左手に持っているチップをポケットにしまい
右手に隠しもっていたコインをコイントスの要領ではじいて、すれ違いにぶつける、そして―――
「敦志!!」
俺が叫ぶと木陰から敦志がでてきて、コインにあたって少しひるんだ相手の顔面にするどい蹴りをいれると、蹴られたやつは一瞬首がありえない方向に曲がるがすぐにもとの戻りながら
転がっていく、俺はそれを見て言う
「一人」
そういうと次々と向かってくる
「敦志!!華恋を頼む」
「任せな!!」
短いやり取りをして戦闘が始まる、相手の動きがすべてわかる、こいつら―――華恋より全然弱いじゃねーか!!
華恋はな!!こんな奴らに負けるような奴じゃねーんだよ!!それをあんなに怖がるまで痛めつけるなんて許せねー!!
俺はできるかぎり少量の力で治めた、これからが本番なんだから―――。
少し永めの戦闘を終えて、全員が地面に這いつくばっている、俺はそれを確認していう
「敦志……頼む……」
「わかった……」
そういうと敦志は華恋をつれて起き上がらせる
「和人……気をつけろよ……」
俺はそれにたいしてこたえる
「保障はできん……」
そういうと反論するかと思ったが、敦志はおとなしく華恋をつれて帰ってくれた
「ここからが本番だぜ!!」
そう、ここからが本番だ
「俺はもともとお前たちを警察に任せる気なんてまったくねーんだよ、カメラは俺がこれからお前たちにやる残酷極まりない暴力を警察に言われないようにするためのものだよ」
「なん…だと……どういう意味だ!!」
這いつくばっている一人が言う、多分こいつが父親だったな、俺はそれを見下していう
「お前ら、悪を裁くのは何だと思う……正義だと思うか??、プラスの感情だと思うか??
お前らがそう思うわけねーよな、それなら自ら悪役に買って出る人間なんていやしない……
正義は悪に屈しない、それは事実だと思う、でも現実に悪が正義に屈したことはあるか??
悪は一度でも滅んだか??残念ながら違う……
物語であるような正義と悪の関係なんて絵空事なんだよ。
現に正義を公にさらしている警察はどうだ!!
ハッキリいって滑稽だね!!事件が起こらないと役にたたない!!
人殺しが逃走したのを捕まえて裁くことは周囲の人間は安心するかもしれない……でも!!
そいつが殺した人間は素直に警察を許せると思うか!!
それが世界を救っていると思うか!!
悪を潰すのは正義じゃない……!!
より強い悪が悪を潰すんだよ、だから俺はあえて悪になる……
お前らを殺す覚悟でいるぜ……」
そういって睨みつけてから、俺の考えをぶつける、こいつらを本格的に潰すために……
「お前たちみたいなクソは警察から出所したら自分のことより華恋への復讐を考えそうだからな、お前たちには俺の怖さを身をもって知っていただこうかなーと思ってね」
そういって俺は一人ひとり、みぞおちをふんずけていく、息ができなくなるのは一瞬のため、一周まわってくるころにはもう苦しくないが、体が動かないから逃げられない
っていう恐怖を染み込ませるための地獄のローテーションだ、
「どうだ!!おまえら!!これが華恋がずっと味わってきた苦しみだ!!苦しいだろ!!お前らはこれ以上のことをやってきたんだ!!」
そういうと華恋の父親が叫びだす
「華恋!!殺してやるからな!!絶対だ!!」
それをきいた瞬間、俺のなかで切れてはいけないものが切れた気がした―――。
俺は這いつくばっているクソヤロウの髪を掴んで鉄棒まで引き摺っていき何度も何度も鉄棒に頭を打ちつける、何度も何度も何度も何度も――――。
そのとき急に俺の体が誰かに掴まれた、振り返ると――そこにいたのは敦志だった。敦志は悔しそうに顔を歪めて俺の手を力の限り握っている。
「もういい……もういいんだ!!」
その叫びで俺は我に帰った、手元を見ると、もう息をするので精一杯な男性の顔があった―――瞬間――目から大量の涙が流れてくる
「クソ……ッ!!クソ……ッ!!クソーーーーーー!!!!!」
と叫びながら俺は地面を殴り続けた、その俺の叫びは真夜中の静かな公園中に響き渡っていた………。
後日、そのことはこの地域での問題となったが華恋の父親が無理やり金の力で握り潰したとのことだった
あのあと俺と敦志は別の日に華恋宅を訪れて、華恋の引き取りを任せて欲しいのともう二度と華恋に関わらないとの条件をいうと二つ返事でわかったといわれた、
家に行ったときも俺の一挙一動にビクビクしていたからな、もうこれで華恋には手を出すことはないだろう、残ったのは俺の心にやりきれなさが残ったくらいだからよかった……
そして後日、俺と華恋と敦志は駅前に来てある人を待っていた、華恋には誰を待っているのかは教えていないが、とてもいい人だと言ったため楽しみにしている
そして、駅からその女性は姿を現す―――。
その瞬間――華恋の目からは涙があふれていた
「お義母さん!!」
そうこの方は華恋の行方不明になった義母だ、俺と敦志で探して何とか連絡を取れた、どうして取れたのかは覚えていない、でも誰かが教えてくれたような気がする
今はそんなことどうでもいい、この幸せをみれば―――。
「華恋!!」
お互いに叫びあって走りより抱き合う。
「ありがとう!!敦志!!ありがとう!!和人!!ありがとう!!ありがとう!!―――。」
なんどもなんどもお礼を言われると、少し心が痛む……。
こうして幸せな華恋の新たな暮らしと俺の心残りをのこしてこの物語は終わる
過去編『華恋』 END