友人
俺は泣き止んだサヤカに少し思いだしたことをいう。
「そういえばこの前買い物行くって言ってたけど結局いかなかったな、風呂入らないと臭くなるし、これからの着替えも必要だろ、いつまでも男物の服ってのもちょっとあれだし……
今から買いに行かないか??」
「………」
返事がない…って言うか困った顔をしている
「どうした?」
俺がやさしく聞くと
「お金とかもってないもん…」
困った顔をして少し頬を染めているのを見て思わずドキッとしてしまう。
「いまさらそんなこと気にすんなよ」
緊張のあまり少し早口になってしまう、これだから童貞は…俺はそんな自己嫌悪を振り払ってサヤカの傍まで歩み寄る。
「俺はこう見えてあんまりほしいものがないんだ、だから母親からの仕送りには生活費以外全く手をつけていないから相当金はあるし正直使い道もないから困ってる、使うのに協力
してくれないか??」
これはかなりうまいこと言った自信がある、幼馴染の華恋は世話焼きの癖に自分がなにかしてもらうのを極端に遠慮するやつなのでこの程度なら手馴れたものだ。
「ほんとにいいの?」
俺のさっきの言葉が聞いたのかうつむいていた顔が少し上がる
「いいんだよ、俺もちょっと楽しみなんだ、女子の服選びなんて初めてだからな」
そういうとパッと明るくなってスカートがいいだの下着は一人で選ぶだのテンションマックスでまくしたててくる。
マジでガキかこいつ、切り替えはやすぎんだろ、正直顔はかなりきれいな顔っていうかその辺に出てるアイドルなんかより全然かわいい顔してるんだから服の趣味はきちんとしていて
くれよ…そう祈りながらデパートへ向かう…
結果……。めちゃめちゃ子供だった!!少し幼いなんてもんじゃないぞこれは。こいつが真っ先に向かった場所プリキャワとかいう幼稚園から大体小学校低学年とオタクしか興味
なさそうな、日曜朝の子供向けアニメのグッズがズラーっと並んでいる、おもちゃコーナーに目を光らせながら突っ込んでいって、小さい子に混ざってはしゃぎまわっている
俺たちが向かったのは自宅から10分程度のところにある、この街唯一のデパートといえる場所だった。発展途上中のこの街は、基本的に大きい店が小さい。
田舎じゃなくて発展途上って言い方で、見栄張ったこととか、発展途上ってなんかエロいよね、ってことはこの際気にしないで欲しい。とにかく、
この街で唯一の、大型の店といってもいい感じの店だ、名前はなんと≪ゴトーゴーカドー≫……完全にパクリな上にセンスが全く感じられない……
しかも誰だよゴトウさん……、しかも豪華な要素皆無だろ!!、むしろ普通の都会のデパートに比べたらありえないほど貧相だし……この街発展する気あんのかなー……。
そしてそんな小さな地上三階建てのデパートの二回にある、子供のおもちゃコーナーで遊んでいる、高校生くらいの女の子が一人……。
「大丈夫か……あいつ……」
本当にココロのそこから心配になる。
しかもなんか、幼稚園くらいの男の子に蹴られて泣かされてるし……
おっ新しい女の子が仲良くしてくれてる。うわ……めっちゃ仲良くなってんじゃん……。
いやもう、本当に大丈夫か……あいつ……。
「でも、まぁ…」
はしゃいでいる顔を見ているとこっちまで気分がよくなるしなぜか心がやすらぐこのまま眺めているのもいいかもしれないな…
それからしばらくはしゃいでいるサヤカを見ていたがサヤカの体力が切れたみたいで帰ってきた、本当に疲れた顔をしている。
それもそうだろう、小さい子達と急にじゃんけん始めたとおもったらおにごっこがはじまって子供たちの親御さんてんやわんやの店員激怒の俺爆笑だもんな…俺も笑い疲れた。
どうやらサヤカは小さい子達と遊ぶ約束をしてきたみたいで明日も同じ場所に集まるそうだ。お前は小学生か……。
何やかんやで俺は一週間ほどデパートに通いつめた。
ちなみにこのデパートの中は、地上三階立てのなぜか地下が3階まであり、地下をすべて駐車場に使っているという土地の無駄さに驚きだ。そしてまあ外見は普通のこの店のオリジナル
と差し障りない、白いコンクリートが円を書くように、長丸の形になっている。
まあ俺はとにかく通った、最後のほうとかお母様たちと世間話できるくらい仲良くなったけど、そんなことで少し喜びを感じている自分が腹立たしい。
でもただ一週間デパートに通ってお母様たちと仲良くなっていたわけではない、俺は一週間きちんと補習授業に通い、先生の愚痴などを聞きながら耐え抜いた、そして…ついに、
あと三日通えば補修授業は終わりというところまできた。でも俺の心には少しのわだかまりがあった、補修授業終了を告げるときの先生の顔がいつになく悲しそうだったからだ…
普通夏休み出勤しなくて先生もうれしいはずだ…なのに先生は本当に悲しそうな顔をしていた。なぜ?…
一週間してからはデパートにも行かなくなり、補修授業の傍ら家でサヤカとテレビを見たり、ゲームをしたり、猫と戯れたりと怠惰な日々をすごして三日が経った、ついに補修最終日…
俺の心のわだかまりはまだ消えてはいなかった、ラストの三日間も先生の授業はかなりくらかったし、先生らしくなかった、特に今やってる授業なんてひどい…
声が小さくてたまに聞こえないし黒板への書き込みも字が薄くてかなり読みにくい、そんななか最後の補修授業が終わった。
終わったときには、夏の割にはもう夕方になり始めて軽く、日の色がオレンジがかって来ている。
先生の性格なら最終日には「お疲れ様」のひとこともあるはずだが、先生は無言でうつむいて教室を出ていこうとする……。
先生の表情は俯いていてしかも中途半端な角度で差し込んでくるオレンジっぽい光のせいで、見えない。
俺は、その後ろ姿に声をかけようとした瞬間、先生が何かに決意を固めたような視線で俺をまっすぐに見つめてきた。
俺は先生の視線に気おされて言葉を飲み込む。
少しの間教室に沈黙が続く、空気が重い…そう思ったが言葉がでなかった、先に沈黙を破ったのは先生だった
「これは教師として絶対に言ってはいけないことだから…本当はいうのを黙っていようと思ったんだけど、黙ってるのってすごくつらいから聞いてほしいの…」
なにがいいたいのか全くわからない………
…いや。
本当はわかっている…
わかっていて目をそらしていた…
耳をふさいでいた…
思考がそっちへ行かないようにしていた…
…相手が先生だからや、先生に気を使ってではない…
自分の身を守るため、自分が傷付かないようにするために…
キーワードはたくさんあった、俺よりも成績が悪いやつなんていくらでもいたのに、俺だけが補修になったり、手伝いといっては何度も教材運びに付き合わされたり、
雨が降った日には傘にいれて途中まで送ってくれたときもあった…
今まで俺はそれをすべて無視し続けてきたんだ…
だから…
今更俺にこの言葉を言ってもらう資格は…ない。
「先生ね……実は―――」
俺は息を吸い込んで次の言葉を発しようとした先生を遮った。
「次に会うのは夏休み明けですね、さようなら……………すいません…」
そういって早足に教室をでて昇降口に向かう。いや逃げる……、先生のそのあとに発するであろう声をするであろう動きを見たくなかった、聞きたくなかった。
しかし、そんなに簡単に逃げることはできない、膝間づいて顔を両手で覆い、肩を小刻みに揺らす先生を、、俺は中途半端な角度からの日差しのせいで完全に見えてしまった。
先生の肩のゆれにあわせてゆれている、泣き声は、俺にとっても、先生にとってもつらい声は、音は、俺を逃がしてはくれなかった。
俺の最後の一言はとても小さな声で言ったので聞こえたのかわからないが多分聞こえたのだろう、先生のすすり泣く声はまだ聞こえている、
俺はそれを聞きながらもしっかりと前を向いて歩いた、
すると、階段があるかどで曲がったところに茶髪で短髪のチャラそうなやつが壁に寄りかかって待っていた。
「よぉ…敦志…」
そう、こいつは敦志、俺の幼馴染で親友、でもこいつは………。
「お前……ついに言われたのな…」
「まあな、まさか学校で言われるとは思ってなかったけどな…すまん」
「俺に謝るなって、ただの片思いなんだからさ、俺からしたらOKしてたほうが困ったよ」
「そか…ならよかった」
そういってお互い少し引きつった笑顔を見せ合って学校をあとにする。
9、親友
補修授業の帰り道学校で待ち伏せ??していた敦志と一緒にかえっている。サヤカと出会ったあたり石橋の前でどちらからともなく立ち止まる。
敦志の家は石橋を渡ったあと俺の家と反対方向だからだ、かつては俺もそっちのほうに両親と住んでいたのだが、一人暮らしをするので変わってしまった。
お互い黙ったまま沈黙が流れるが、静寂を破ったのは敦志だった。
「じゃあ、またな」
「おう、またな」
少しそっけないような気もするが小さいころから俺も敦志も別れが照れくさくて苦手だったのでそっけない別れをしているのでたいして気にもせずに翻って家の方向に歩き始める。
でも立ち止まって半身になって後ろを向き、もう背を向けて歩き始めている敦志の背中に、聞こえないほどの小さな声でつぶやいた……。
「……ごめん……」
俺は後ろ髪を引かれる思いで家に帰った。
家に着くといつものようにサヤカと夕飯をたべて、風呂に入って寝た。
10、幼馴染
翌朝はインターフォンの音で起きた。新聞の勧誘だと判断して、居留守を決め込むことにする。しかしインターフォンは一回では終わらない、二回、三回、四回…と続けてきたので
こっちも意地でも居留守を決めてやろうと思ったその瞬間。
ドンッドンッドン!!、ドアをたたく、って言うか蹴っている音が聞こえる。俺はあせって飛び起きる。ゆっくりと眠い足取りで歩いていきドアののぞき穴からそっと外を見ると。
「……ッ!!」
見知った顔が鬼の形相で立っていた。この女は幼馴染の華恋である。顔はきれいに整っていて髪は茶色だが清楚さをきちんと残している、
顔は町に一人で歩いているとすぐにナンパされてしまうくらいに良い、幼馴染なのであまりほめるのも照れくさいが俺の目から見ても普通に可愛い、
だが問題がある………怖い!!
華恋はたまに急に家に遊びにくる、掃除してやるだなんだといって押しかけてくる。その際インターホンを押してから2秒であけないと殺すといわれていた
当然まにあったことなどあるわけがない。
おそるおそる鍵を開けるとその瞬間ドアが勢いよく開く、そのとき俺は後悔した、公開したってのとかけてるんだけどね……。
家に入られるのが嫌だとかそんな情けない理由ではなくて、俺がさっきまで寝ていた布団にはパンツにタンクトップ一枚という斬新な格好をして寝ている美少女が一人…
っていうか良くあのインターフォンの嵐で起きなかったな、それ以前にドア蹴られまくって起きていても素直にうるさいと思っているレベルなのにスゲーな…
今はそんなことどうでもいい!!とりあえずこいつにサヤカの存在がバレたら恥ずかしいとか以前に犯罪者にされかねない。何罪かは知らんが…
何とか隠さなくては!!
この思考までわずか0.5秒、ドアが開き華恋がうちのマンションの廊下のタイルから俺の玄関の少し色の変わったタイル地面に足をつけようとしているところだった俺は疾風迅雷
のごとく反射で振り返り、電光石火のごとくサヤカの体全体に布団をかける。
華恋は勢いよく入ってきたはいいものの俺の奇怪な行動に困惑しているようだった、セーフ…気づかれてないみたいだな…もう体内に電気が残ってないぜ、まだまだ長続きしないな……
ふざけた思考をやめて俺はあわてて取り繕う
「オオ!!ドッドウシタンダヨ…」
「………」
まずい!!スゲー棒読み!!
自分でも驚くほどの棒読みをするともうこれ以上ないくらい冷めた目で見られた
「あんたなにやってんの??」
「いっいや!?とくに…なにも?」
後半は声がうわずってしまっていた、それを受けて俺は観念した、両手を上げて降参をアピールしてから無言でさっきかけた布団をどける
「…へぇ」
それからの沈黙俺は恐怖に胸が裂かれそうだった、はっきりいって俺はいつもはこんなに同様したりしないし怖がったりもしないが、この女だけは別格なんだ、さっきはナンパされると
いったがそういうやからは確実に半殺しにされている、それくらいってか町では知らないやつは多分いないだろう、俺も小さいころから一緒にいるだけあってこいつに鍛えられて
それなりに強くはなったがやっぱり勝てない、多分今ここではむかっても30秒後には天使の輪と羽つけて「じゃあなっ」とか言ってるだろう
中二のとき、俺も一度だけ街の不良とケンカになったことはあった、んだけど…
なんでケンカになったのかわすれたなー、確かあの不良たちってカップル襲うので有名だったのになー
俺の隣であるくのなんて華恋くらいだし、華恋と歩いてて襲うような怖いもの知らずこの街にはもういないと思うけどなー、
まぁいいや、ちなみにそのヤンキーたちにはほぼ無傷で勝ってやったぜー!!
ってこんなこと考えてる場合じゃない!!
そこまでの思考は意識的には数分に及んでいたが実際は5秒もなかっただろう。
「じゃあ…とりあえず警察いくか」
「いや、なんでだよ!!何罪だよ!!」
「不純異性交遊」
「違う!!しかもそれは警察じゃなくて学校だろ!!」
「じゃあ学校行くか??」
「行かねーよ!!」
ひととおり突っ込み終わったので深呼吸して話を持ち出す。
「とりあえず話を聞いてくれ」
「ほう…言い分があるのか、この状況で…」
そういってまだ寝ているサヤカに視線を移す、そしてもう一度俺を見るがその視線は蔑むような目だった
「この鬼畜…」
「だから違うんです!!お願いします、聞いてください!!」
「情けない声出すな変態鬼畜」
「あぅぅぅぅ…」
泣きそうなって悶絶してしまって話が進まない
「わかったわかった…はぁ…ろくなものが聞ける気がしないがとりあえず聞いてやろう…」