表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

出会い

初めての作品なのでよろしくお願いします

これは高校1年の夏に俺がした恋の物語…

                           1、出会い

 

  セミがうるさいほどに鳴き声をあげ、雲ひとつないとはまさにこのことだといわんばかりに真っ青な空が広がる日のできごと……

 

  今日は7月20日、長いようで短かった1学期を終えて、明日から夏休みだという日の朝、俺は寝坊した。


 起きた時、汗だけの理由ではなく、枕が濡れていた、汗だけではないとわかるのは、理由はわかっているからだ。そう、夢を見たからだ。

 

  俺が小さいころに事故でなくなった親父の夢を見ていた。またいつもと同じ夢をみた…

 

  父親が寝てる俺の隣に立って一言だけいってだんだん薄くなって消えていく……


 親父が俺に話しかけている途中も、意識はあるのに、声が出ない、体が動かない。


 あったことがあるわけではないが多分金縛りに近いものだろう、目は開いているのに、


 見えているのに声がでない、何もできない俺を残して親父が消えていって最後に笑いかけて


 消滅する。その瞬間俺は目を覚まして、おきると泣いている。

 

  俺は仰向けに寝転がったまま半袖Tシャツの少ない袖で涙を拭って、ため息をついて親父の台詞を脳内再生する。


「お前が信じるものを信じて貫け……」


 その一言を親父が死んでから月に一度は現れて、口にして、消えていく。


 言葉の意味はわかっていない、信じるものといわれても


 宗教に入っていたり、アニメの世界の住人でもない、小さいころから不思議に思い続けてきた。


 当然今考えてもわかるはずもなく、考えるだけで涙が出そうだったので、思考を停止して時計を見る。その瞬間、体に戦慄が走った、時刻は午前11時、学校登校時刻は午前8時半、


 終業式開始が30分後で、終了は1時間後の午前10時、もうとっくにすべてが


 終わってみんなが下校しているころだ、それどころか校舎に残っている生徒はもう部活動に


 所属しているやつしかいないだろう、枕元の携帯を見ると着信が35件、半分が


 幼馴染で親友である森川 敦志、もう一人はこちらも幼馴染で親友である牧本 華恋という女友達。


 敦志は昔、住んでいた家が近所であったことで、小さいころからなにかとよく遊んでいた、まあ単に暇だっただけかも知れないが……。


 容姿は、チャラくみえる茶髪で、今時のアイドルのように全体的に長めの髪形をかなりうまくまとめている。顔は案外可愛い顔をしているが本人はそれを気にしていて、ダンディーに


 なりたいらしい。ちなみに本人は地毛だと言い張っているが、小さいころを知っているため染めているのはバレバレである。普段はそんな感じで、


 ボケてばかりの本当に可哀相なやつだが、決めるときは決めるし、正直俺も頼りにしている。

 

  華恋とのつながりも、経緯は敦志と全く同じような感じだ。容姿は、こちらも茶髪で、髪型は、おかっぱをセミロングくらいに長くして、前髪の揃いをなくした感じで、


 顔は可愛いといえるが、イメージは気の強そうな感じだ。さっきからナニナニな感じって説明多いな……まあいいや……


 まあ実際気は強い、っていうか、気も強いが腕っ節もめちゃめちゃ強い、戦闘力の面では俺は華恋の右に出る人間を見たことがない。……いやホントあいつ人間じゃないんじゃないの?


「ふぅ……」


  俺は携帯を見ながらため息をついて、枕元に置いてある、最近絶滅しかけているパカパカ携帯(色は真っ黒)をとり、敦志に電話をかけた、華恋にかけてもよかったが


 電話でまたぐちぐちおこごとを言われるのが嫌だったから敦志にかけている、3回コールすると敦志が電話に出た。


「ご気分は、どうでしょうか??眠り姫」


 と電話に出た瞬間にボケをかましてきやがったから苛立ちをこめた声を含めていった


「どこかの王子様がキスでもしてくれそうだな」


「またつまんない返事だな、もう少し面白い返事返せよー」


 とあきれた声で返してしたから、イラっとして電話を一方的にきった。状況を聞こうと思っ


 たがむかつくから、自分で学校にいって説教を受けようと制服に着替えて家を出た。


 俺が寝坊するあたりでわかると思うが俺は一人暮らしで小さな二階建ての6畳一間の小さ


 な部屋の真ん中にちゃぶ台があり、流しとコンロが申し訳程度についているとゆうマンガで


 よく見るような質素な部屋に布団を引いて寝ている、いつもは布団をしまっていくが今日はだしっぱな


 しで家をでてしまった。靴を履いている途中で気がついたがそのままできてしまった。


 家から高校までは徒歩で15分程度自転車を使えば5分ほどでつくが部活に入っていないため運動不足になりがちなので歩いて通っている、


 最初は道を覚えるのが苦手なので迷いまくっていたが今では無意識に歩いていれば学校につく。


  好きな音楽を聴きながら5分くらい歩いたところで、川に今時珍しい石橋がかかっている、


 春は、その川の両側を縁取るように植えてあるたくさんの桜の木が桜を満開にして


 すごくきれいだ、しかし今は夏、桜の木はピンクの花ではなく緑の葉をたくさんつけて、夏特有のジメジメとした風に煽られて揺れている。


  橋をわたろうとしたときに橋の真ん中にきれいな少女が立っているのに気がついた、


 黒髪のロングでよくアニメなどでみる清楚なキャラを思わせる顔立ちをしている少女だ。


 誰が見てもというわけではなく完全に、確実に俺の勝手な印象なのだが、その少女を見たときに思ったことは、桜が似合いそうな女の子だな


 と思った。


  よく見ると俺と同じ学校の制服を着ている、白と青の定番のセーラー服に身を包んで学校指定の

  

 カバンを体の前で両手を組み合わせてもっている、俺は立ち止まって目を奪われた………。


  こんなにきれいな人を見たことがない、少女の持っているかばんについている校章の色から


 みて同じ年の少女だろう、あまり見ていると変態みたいに思われるとおもったから、目をそらそうと


 したとき、俺の心を見透かしているかのような言葉を急にかけられた。


「きれいな桜ですね」


 といいながら、俺に微笑みかけてきた。


  は??桜??なにをいっているんだこの少女は??と思いできるだけ言葉を


 選んで返事をしようとして顔を見てしまったのが悪かった、彼女の笑顔をよく見た瞬間に

 

 今までの思考がすべて飛んで気がつくとさっきまで自分が思っていたことと待ったく違うことを声に出していた


 「はい…とても…きれいです…」


 そう口にした瞬間、強い風が吹いて反射的に目の渇きを避けるために少し強めに閉じて、開いたときには少女の姿はなかった…


  少女の発した言葉は小さな違和感を俺の心に残していた…












                             2、不破 和人

 

  少女が消えたことに驚いて思考停止していたがすぐに復活して学校に向かっていた。


  学校に向かっている間はずっとなぞの美少女のことを考えていた、どこに住んでいるんだろう、とか、うちの高校の制服着てたよな、しかも同じ学年だったし、何組なんだろう……


 俺の通っている……というか俺も敦志も華恋も通っている学校はそれなりに頭がいい高校らしい、俺は華恋と敦志に誘われたから入っただけであって正直、この学校に興味はなかった


 から、どのくらい頭がいいのかは覚えていないが確か、華恋が言うには偏差値が60前半くらいらしい、この学校の制度は、前期中間、前期期末、後期中間、後期期末そして学年末に


 計5回のテストがあるが通知表や進学に関わるのは学年末テストのみらしい。だからこの学校の生徒で、普段の定期テストをまともに取り組む生徒は多くない、まあ仮にも進学校で


 あるし、勉強は皆豆にそれなりにはやっているらしいが、敦志はこんなもん「テストなんて……」とかいって中学のころからテスト後にはテンションがダダ下がりだ。それは


 高校に入っても変わらない、どうやら親が死ぬほど厳しいらしい。華恋は「こんなもん余裕でしょ」といって毎回たいした勉強もせずに、平均点くらいをとっている。俺はというと…


 正直この学校ではいわゆる落ちこぼれといわれる部類だ……というかこの前にやった前期中間テストは学年が合計332人いる中で312位だったちなみに敦志はなんだかんだで


 150位前後だった、そして華恋も敦志と同じくらいの順位だった。


  10分後学校について校舎に入り職員室に向かう。


  この学校の構造は5階建ての横幅は150メートルくらいで、奥行きは正確な数字はわからないけどだいたい、教室が向かい合わせであって、その間にまあ一般的な横幅の廊下が


 

 あると思ってくれればいい。校庭は400メートルトラックとさらにテニスコートが4面ほど、サッカーグラウンド、野球グラウンドがあり結構広いといえる校庭だ。


 テニスコートはオムニと呼ばれる短い人工芝と砂を混ぜた感じの地面が2面とハードと呼ばれる、硬いコンクリ上の地面のコートが2面といった感じだ、サッカーグラウンドは


 全面人工芝だが、野球はスライディングしても痛くないようなやわらかい土である。


  今も校庭には練習に励む生徒たちでにぎわっていて、「声だそう!!」というサッカー部の声や「気合入れろー!!」という野球部顧問の怒声やほかにもさまざまな声が聞こえてくる。


  俺はそんな生徒たちの姿を横目に1階の一番端っこにある職員室に到着すると、ドアの前で一度立ち止まって怒られるのを覚悟してから、右手をゆっくりとドアの前まで持っていき、


 手首のスナップを使って2度ほどドアをノックする、失礼しますと言い、ドアをあけて担任の前までいく。


  俺の担任の席は一番奥だが入り口から見えないわけではない、しかし担任の席に人影はみえない、が、別に留守にしているわけではないと思う。

 

 だからこうやって目の前まで来なくてはいけない、先生の机の前に行くと先生は


 机に伏せて寝ていた、名前は志村 美奈子といい年は25で若いともおばさんともいえない年齢である。


 顔は素直にかわいいといえて身長は150センチで栗色の長い髪をしている。先生や生徒でも人気者である


 その代わりひどく抜けている、この学校に就職したときに学園長に


「職員室では気楽にしててもいいんだよ」


 という台詞を間に受けすぎて本当に気楽に寝てしまうほどだ、最初のほうは他の


 先生方も注意したり起こされたりしていたみたいだが、おきても用が済むとすぐにまた寝てしまうため


 周りの先生ももうあきらめている。俺はため息をついて先生の机をみた、小柄な先生が


 伏せて寝ていてもスペースがまだまだあまっていて机には鏡やら学級日誌やらがきれいに


 整とんされておいてある、俺は鏡にうつる自分の中肉中背で髪は黒の目も黒で前髪が


 すこし長めの短髪の自分の顔を見て相変わらず個性がないなとか思ったがすぐに先生を起こすために肩に手を少し触れたところで先生が


 むくっと状態を起こして寝ぼけた顔で俺の顔をみた瞬間、「きゃあぁぁぁぁ」と悲鳴をあげだして涙目で俺をみながらいった


 さすがにちょっと傷付くな……


「だめです…いくら先生がすきでも…そんな…夜這いなんて…」


 と周りの先生にも普通に聞こえるほどの声の音量でいう先生と俺に周りの先生や他の先生に


 用があってきていた生徒たちの視線が一斉に降り注ぐ、俺はあわてていった


「まず先生のこと好きなわけじゃないですし、第一いまは夜じゃなくて昼の11時半です!!」


「じゃあ和人君あたしのこと嫌いなの…??」


 と涙目で聞いてきた、ってゆうか今にも泣きそうだ、なぜか周りを見るとさっきまで向け


 られていた視線と違う種類の視線、今にも泣かしたなー、という声が聞こえてきそうな


 まなざしがなげかけられている、俺は諦めた用に脱力しながらいった


「先生のことは嫌いじゃないですよ…」


「本当に…??」


「本当ですよ」


 といった瞬間に先生の顔がなにがあったかわからない速さでさっきまでの会話がなかったかのようには話を進めてきた


「和人君遅刻の理由は??」


「寝坊です…すみません…」


「こんな調子じゃ夏休みの生活習慣が楽しみですね!!」


 といわれたので、お前だけには言われたくないわ!!と思ったがまた泣かれたりしても面倒なので言わないでおいた。


「はい、すみません」


「本当に悪いとおもっているなら、これから夏休みの平日は必ず8時半に学校に登校してきてください、


  先生が和人君の苦手教科である数学をみっちり見てあげます!!」


 何で夏休みまで学校に!!といおうとしたのだがそれはできなかった、させてくれなかった、


 先生がしゃべりながら俺の顔に限りなく顔を近づけてきたからだ少しでも唇を前に


 だそうものならキスしてしまうほどに近くに、なまじ美人なだけに少しドキッとしてしまう、俺はつい唇に触れないように少しでも遠ざけるためにあごを引きながら1歩下がった、


 それがうなずいたと思われてしまった。生徒の俺でも少し見とれるくらいかわいい笑顔をみせて、少し頬を染めながら


「決まりですね♪」


 といって自分の席について即効でまた寝てしまった。








                             3、再会

  美奈子に妙な約束をさせられて、俺のだらだら過ごす予定だった夏休みをとられたことに


 少し凹みながらかえっていると、さっきの石橋に着いた。俺は不意に、なんとなく、気まぐれに、さっきの少女のことを思い


 だした、さっきの彼女とのやり取りをすべて脳内でリピートする。そのとき…


 体中に鳥肌がたった、さっきの彼女の台詞


「きれいなさくらですね」


 という台詞を頭で再生しまくる。


「おかしい…」


 あまりの驚きに声が出ていた

 

「俺は…確かに…確かにあの時…」


 そこで一度言葉を切って固唾を飲んだ


「両耳で音楽をきいていたはずなんだ…!!」


 そういい終えた途端、再び強い突風に見舞われた、今度のは強すぎる、当たりの草木が一気にざわめき、夏の湿っているが妙に生暖かい風が一気に吹き荒れる、具体的にいうと夏場に


 扇風機の強さが【強】の風力の約5倍近い風量を全身に浴びる感じだ。


  俺は体が飛びそうになるのを、石橋の手すり的な位置にある塀を掴んで必死にこらえていると、急に風が止んだ。


「さっきからなんなん…だ……よ………」


  まだ少し乾燥している目をパチパチと少し激しめに瞬きしながらつぶやきゆっくり目をあけるとさっきの美少女が俺の顔を覗き込んでいる。


  さっきは橋の真ん中から橋の端までの距離があったが今度は違う、手を伸ばせば届く、というレベルではない、


 両手をクロスすれば抱けるだろう距離である、俺は3秒ほど固まってからようやく後ろに飛んで動揺しながら聞いた


「お前さっきの…!!突然消えるしイヤホンしてる状態でも声が聞こえるし誰なんだよ」


「あなた…わたしの記憶があるの??」


 彼女が驚きの顔でこちらをみている


「当たり前だろ、ほんの1時間前の記憶がなくなるほどバカじゃねーよ!!」


 そういった瞬間彼女がいきなり俺に飛びついてきた、女に免疫なんてない、彼女いない暦=年齢な俺には


 耐えられない、声も出ずに顔を真っ赤にしてバカみたいに口をパクパクしていると彼女が抱きつくのをやめて、顔を近づけて


「どうしたの?」


 ときいているがそれでも声が出ない、俺は冷静さを取り戻すために少し距離をおいて深呼吸をしようと息を吸い始めた直後


「わたしをあなたの家においてくれませんか??」


 と突然言われて、すおうとしていた空気が逃げていく、激しく咳き込んでようやく呼吸を落ち着けて


「残念だけどそれはできないよ…」


 といったところで彼女が俺のほうにむかってすごいスピードで走ってきた、殴られでもすると思って構えたが少女は俺を通り過ぎて俺の後ろにある交差点に突進していった、


 交差点のほうから激しいブレーキ音の後に車がなにかをはねたような音が聞こえた、俺はその音を聞いた途端血の気が一気に引いて、気がつくと全力で走っていた。


 走っている間小さいころ自分の目の前で父親が車にひかれた時の映像が走馬灯のように繰り返される――。


 気がつくと俺は悲鳴にもにたようなさけびごえをあげていた。


 交差点につくと怪我をした真っ白な毛並みの猫を抱いた少女が横たわっていた、しかし明らかにおかしい…


 誰一人として倒れている彼女に気がついていない引いたブレーキ痕と思わ


 れる後はあるが肝心のトラックが存在しない、しかもみんなが見ていたはずなのに誰も倒れている彼女の

 

 そばによろうとも避けようともしない、道をいく誰もが起用に存在がないかのように踏むぎりぎりをとおっている。


  俺は頭が真っ白になりながらも倒れている彼女と猫を家に連れて帰った。

















                                4


  色々なセミの泣き声が協調性もなく、ただうるさく鳴りつけ、耳を打つ朝。


  俺はあまりの暑さに目を覚ました、眠い目をこじ開けてみると朝からすごい状態だった。


  例の美少女が、というか名前はサヤカというらしい、サヤカが俺の上に俺の体を抱くようにして眠っている。俺はあわてて体を起こすと、


 俺の体の上から落ちたサヤカがむにゃむにゃいいながら起き上がった。俺はそんなサヤカのことを少しエロいなーと眺めながら、昨日の記憶を順をおって再生する……。


  車に引かれた彼女をつれて帰って家で怪我を治療するために、本能を殺して、服を脱がしてみて驚いた。


  怪我はたくさんしているものの、しているのはすべてかすり傷とよべるもののみである。


  そのあと極力見ないようにしながら俺のジャージを上下着せて俺の布団で寝かせて、俺は少しサヤカから離れた場所に寝たはずなのだが…


  俺が目をぱちぱちしているとサヤカが眠そうな目を擦っていった


「こんばんわ…」


 といってもう一度寝ようとしたのをとめた


「いや、待て!!!!せめておやすみだろーが!!」


「だってこんなこと今まで教わらなかったもん!!」


 といった瞬間はっとした顔になって


「今のは忘れて…」


 といって顔を背けてしまったサヤカに内心でため息をつきつつ。


「全く…恥ずかしくなるんなら寝ぼけんなよなー」


 と笑いながらいってやると笑顔になって抱きついてきた、さすがに二回目のなのでそこまで動揺を


 表に出すことなく対処できた、両腕を掴んで引き離すとほっぺたを膨らませていたので


「飯にするか」と軽くごまかしてサヤカから離れて、冷蔵庫の中にあったカレーパンを投げると


 それを受け取ってうれしそうに咀嚼している。それをながめながら聞いてみた


「サヤカの服とか下着ってどうするんだ??」


「後で買ってくれると、助かるな」


「じゃあ今日にでも買いに行くか、ずっと制服ってのも色々困るだろ」


「制服のほうが燃えない!?」


と語尾にハートをつけた感じで言ってきたのに対して俺は飲んでいたコーヒーを噴き出してしまった。しかも漢字が違う…


「動揺することでもないと思うよ、男の人の趣味くらいバッチリ把握してるよ!!」


「んなことで威張るな!!」


「だって男の人ってみんなそんなこと考えてるんじゃないの!?!?」


 と本当に不思議そうな目で見てきたので


「男がみんなそうなわけじゃねーんだぞ、今までどんな人生送ってきたらそうなるんだよ…」


 と呆れていった言葉がだめだったらしい、サヤカはうつむくと静かに


「ごめんなさい」といって無言になってしまった。


 どうやら俺は地雷を踏んだらしい。俺はどうしていいかわからなかったが


「別に謝ることでもねーよ、でも一緒に住む以上はサヤカの過去のことも多少は聞かな


 きゃいけないこともあるだろうけど、できるだけ触れないようにするから」


 そこで一度言葉をきってもう一度顔を赤くして話しはじめる


「その…なんか…相談とか…話してもいい時期がきたら…教えてくれよな」


「うん…そうするね…」


 そういってサヤカもうつむいてしまった。


  うつむいたまま1時間が経過したころ和人の精神は崩壊しかけていた。


 この家すごくいにくいよ!!なんかきざなこと言った後だと気まずいよ!!すごく!!サヤカずっと


 うつむいてるけど笑いこらえてるのかな…さすがに1時間笑いこらえるならわらって

 

 くれたほうがらくだよ!!もうなんなんだよ!!帰りてーよー!!ってかここ俺の家だしなん


 で俺んちで俺がこんなに息苦しい思いしなきゃいけないんだよ!!とそこで、「にゃー」と今まで忘れていた存在を思いださせる鳴き声が聞こえた。


「そっか……そういやお前も連れて帰って来たんだったな……」


と苦笑いしていうと「にゃー??」と首をかしげたように鳴く


「お前のせいで俺は今大変なことになってるんだぞ」


とこれも苦笑いでいうと


「にゃー♪」


 と今度はなぜかうれしそうに俺の膝に擦り寄ってきてゴロゴロいって、コテッと俺のほうに倒れて寝てしまった。


「なあサヤカ…」


 返事がない…


「おーいサヤカさーん…」


 やはり返事がない、なにかあったのか心配になりサヤカをよくみると船を漕いでいるではないか


「もしかして、寝てらっしゃいますか??」


 というと声が聞こえたかのようにサヤカがゆっくりと横に倒れこんで静かに寝息だけをたてている。


「なんだ、寝ちゃったのか…人騒がせっていうか、さっきの俺の緊張と恥ずかしさはなんだったんだよ…」















 「さてと……」


 俺はサヤカの話に整理をつけたところでもう一つの問題について考える。


「どーするかなー」


 そういい拾ってきた猫を横目にみると猫はそ知らぬ顔で、俺にスリスリと擦り寄ってくる。俺の今住んでいるアパートはペットは本当は禁止なのだ、しかし大家さんの奥さんが大変な


 猫好きらしく、少しの間なら黙認してくれるらしい、ちなみに旦那さんは猫が大嫌いらしいので旦那さんに黙っていてくれるとのこと。でもおそらく長く置いておくことは


 できないだろう。


  俺は決意をして俺は寝ているサヤカに声をかける


「サヤカー起きれるかー」


「うぅ……」


 と少しうなり眠そうな顔をしたまま上半身のみを持ち上げ、あぐらをかいて座る。


「拾ってきた猫について話したいんだけど……」


「あぁ…うん……」


 しゃべりかけると一応は反応するが、多分理解はできていないだろう。すると猫がサヤカに歩み寄っていき「にゃー」と鳴いてあぐわをかいているサヤカの膝にのっかりまたねてしまった


 どんだけ眠いんだよ……と突っ込みたくなる衝動を抑えて、俺は冷凍庫にいき保冷剤をとってきて、寝ぼけているサヤカの首元にくっつける


 「ひわ……」という声をだして鳩が豆鉄砲くらったような顔をして目が覚めたらしい。全くなんて期待通りの反応なんだ……


「おはようさん、悪いな起こして」


 そういってサヤカに保冷剤をわたすと気持ちよさそうに頬にくっつけながらいう


「うん……大丈夫……どうしたの??」


 やっぱり理解してなかったか……と思い少し苦笑い気味に答える


「猫のことだよ、どうしよっかなって」


 そういうとサヤカは一瞬キョトンとした顔になって首をかしげる


「このまま飼うんじゃないの??」


「心苦しいけどそうも行かないんだよ」


 そういうとサヤカは不安そうな顔になり


「どうして??」


 と聞いてくる。俺はそれに言葉を選んで返事をしていく


「実はこの家は本当は猫を飼ってちゃいけないんだよ、今は大家さんに交渉して少しの間の許可は得ているけど、このままいくとこの家を追い出されちゃうんだ」


 そういうと見る見るサヤカの表情が沈んでいく


「どうして……どうして……??」


「だから……」


 ともう一度説明しかけてとどまる、今サヤカがほしいのは説明ではない。今は話をすすめるべきだ。


「なあ、サヤカ。俺も猫を捨てようなんていってない」


「じゃあどうするの??」


 と少し希望に満ちた目で見てくる。


「猫のいい飼い主を探そう、学生の俺なんかよりもきちんとした大人が面倒みてくれるほうがこの猫も幸せだろ」


 俺はできるかぎりやさしくといかけると、一度少し不満そうな顔をしたがすぐに笑顔になってうなずいてくれた


「名前はなんにする??」


 と機嫌が少しよくなったサヤカが聞いてくるが


「ごめん、名前は付けないほうがいいと思うんだ、つけちゃうとあげるときにつらくなるだろ……」


 そういうとサヤカもなっとくしてくれて


「うん……」


 といってくれた。


「とりあえず……寝るか……」


「うん、そうだね」


 そういってもう一度二人で横になる。サヤカの隣には猫が擦り寄っていき、微笑ましいなぁなどと思っていると、すぐに睡魔が襲ってきて、寝てしまった。















                           5、補修

  夜も更け、辺りが真っ暗になり、うるさかったセミたちに変わって、鈴虫が耳にやさしい音色を奏で始めるとき。


  急に家の電話が力強くなった。俺は眠い目を擦りフラフラと電話に近づいて電話に出る。


「もしもし…」


「和人君……もしかして寝てたの…??」


 泣きながら電話をしてきた聞きなれた泣き声に一気に目が覚める。しまった…、そう思って時計を見るが時すでに遅し………。


  それから丸々1時間泣き出したり、急に怒り出したりする先生をなだめながらようやく、区切りをつけて、説教は明日に持ち越しになった。


「ふぅ……」


 なんだか今日は一日寝てたな。このままじゃ俺の花の16歳の夏休み寝て終わるな……。しかもなんかまだ眠い。しかしこれ以上寝るわけにはいかない。


「よいしょ……!!」


 俺は腹からだるそうな声を出して立ち上がると、それにあわせたかの様に猫が立ち上がり足にゴロゴロとのどを鳴らしながら擦り寄ってくる。


「どうした??」


 俺は擦り寄ってきた猫を抱きあげ、キスするくらいの高さに顔を近づけていうと、かわいく「にゃー」とないて少しざらついた舌で鼻をなめる。やっぱり少し痛いが、俺は軽いやせ我慢


 をして地面に猫をおろし、寝ているサヤカを起こさないように静かに家をでて、コンビニに向かう。なにか弁当でも買おうかなと思ったからだ。


  コンビニは家から大体5分くらい歩いたところにある、向かっている間も、やっぱり夏の夜に酔いしれつつ、いつもなら好きな音楽を行きながら向かうところだが、


 今はこの心地よい風を肌に感じながら(まあ今日は特に何もしてないから目を閉じてもなにもないが)、土でできた地面を踏みしめながら、学校を通うときにも通っている川沿いを


 ゆっくりと進んでいく。

 

  コンビニに着くと、俺はとりあえず弁当のコーナーへ行き、サヤカの分の弁当である、野菜弁当と、俺の分としては、アボカドクリームのショートケーキなる微妙そうな、ケーキと、


 猫の分のさんま缶を買ったところで少し目を引くものを見つけ、買おうか迷ったが結局買ってしまった。


  帰り道、行き道とは違い、自分への甘さに、少し絶望しながら帰る。


「ふぅ………」


「はぁ………」


「へぇ………」


 さっきから何度ため息をついても自分を慰める方法は思いあたらない。


「はぁぁあ……」


 俺はこれで最後のつもりと一気にため息をして、さっきコンビニで買った……いや買ってしまった、猫用のおもちゃ(棒の先っぽにねずみのようなフサフサがついているやつ)


 を取り出し、眺める。


「これ、サヤカには見せないほうがいいよな……」


 つい独り言を言ってしまう。


  そう、俺はサヤカに「名前をつけてしまうと離れられなくなるよ」みたいなカッコいいことを言っておいて、実際こんなものを買ってしまったんだ……。


「よし……」


 俺はサヤカの前でこれを出すまいとかなり情けない決意してから、そそくさと家に帰る。













                            6

  家に帰るとサヤカは地べたで寝てしまっていた。最近こいつ寝てしかいないよな……。


 「こんなところで寝てたら風邪ひくだろ……ま、人のこと言えないか……俺もよくやるし……」


  俺は照れ隠しに独り言を言いながら、寝ているサヤカを引きっぱなしの布団に寝かせようと抱き上げたとき、サヤカはお姫様抱っこの状態で目を覚ました。


 お互いがしばらく停止した状態で見つめあい……そのままキスに……なんて甘い展開はありえなかった……


 サヤカの握った拳がきれいに和人の顔にめり込んでいき、サヤカが和人から落ちていく、


 和人はそのまま倒れていったがサヤカは身軽に着地を決めてすぐに我に帰ったらしく、慌てた様子で近づいてきて心配してくれている、どうやら本当に寝ぼけていただけらしい。


 和人は初めは意識があったがだんだん意識が遠のいていく、気がつくと目の前が真っ白になっていた。貧血かーなどと思っていたがどれだけたっても白の世界から解放されない…


 おかしいと思って体を起こそうとするが驚くことに感覚的には体は起きている状態だ。そこに聞きなれたやさしい声がした


「和人…ようやく話せるときが来たんだな…」


 聞こえた声は聞きなれてはいたもののすぐに反応できる代物ではなかった…最後に聞いたのは確か昨日の夢のなかだったきがする、そんな無駄な記憶を呼び覚ましながら


 無理だと思いながらも声をかけてみる


「もしかして…親父??えっ…」


 自分で挑戦したのに声が出たことにおどろいた、さらに驚くことに体も動く、今までは声も出なければ体がピクリとも動かない状態だったのにどうなっているんだ…


 喜びよりもなぞのほうが多かった…「もしかしてここは天国で!!俺はサヤカのパンチで死んだとか!!」とこころのなかでふざけようと思ったことを思わず口にしてしまったとき…


 隣から笑い声が聞こえた、かなり豪快に笑っている、最初は誰の笑い声かわからなかったがすぐにわかった。笑い声の方向をみると親父が腹をかかえて笑っている。


 もしこんな状況じゃなければ少しは怒ってもいいところだろうけど今回は状況が全く違った…さすがの俺でもこれが現実ではないということくらいはわかる、


 、それがわかる理由は明確だ…


 背景がないというかむしろ床すらない真っ白な世界に俺はいる…なにもない、いつもの夢なら自分が寝ている部屋の映像が出ている、修学旅行にいるときに見た親父のときも見ている


 風景は自分の部屋ではなく、自分が寝ている部屋の自分が寝ているところから見える風景だった…


 無意識に真っ白な世界をキョロキョロ見回してしまっていた、そこへ笑うのにあきた親父が話しかけてきた。


「とりあえず、今の状況を軽く説明するぞ、俺はあの少女のことについてきちんとした言葉で告げることを許されていない…


 俺に与えられている権利はお前に現状のヒントを与えて正しい答えを導きださせることしかだけなんだ…」


 そういいながら親父が自分の力のなさに奥歯を噛み締めたが、すぐに俺に向かって状況の説明を始めた


「あの少女は普通の人間ではない…それが今お前に伝えられる情報の限界だ…」


 そういった瞬間に親父の体が徐々に薄くなっていって最後に「私はずっとお前の見方だ…」といいのこして消えていった。

















                            7、少女の正体


  目を覚ました俺は今回は不思議と泣いてはいなかった。そして目を覚ました時にはもう日が暮れていた。


  しばらく時計を見ていないことを思い出して時計を見ようと起き上がろうとしてみたが体になにか重いものが乗っかっていてうまく動けない、


 少し寝ぼけていた頭が徐々に冴えてくるごとに状況を把握していく、きちんと把握できたときにはもう遅かった、


 サヤカが俺の体に巻きついて寝ている、おそらく殴って気絶させてしまった俺を心配して介抱している間に寝てしまったんだろう、さすがに学習能力はさほど低くないので上に


 乗っているサヤカを起こさないように、奇跡のように枕元においてあった携帯をとって時間を確認する、時刻は午後11時15分と表示されている。


 思い返せば今日は一日中寝ていた気がする…さすがに明日は学校に顔を出しにいかなきゃいけないし、サヤカの日用品だって買わなきゃいけない、そう思ったときさっきの親父の


 言葉を思い出した「あの子は普通の人間ではない」その台詞と親父が残して言った会話中のヒントをさがして今ある状態の把握を試みるが、結果は情報が少なすぎるという理由で


 全くわからない、でも確実にもう一度親父は俺の夢に現れる、それだけはわかる根拠は一応ある、親父は今伝えられることはといった、それはおそらく状態が変わると


 話してもいい情報の量が変わるのだろう、その状況を変える条件は全く不明だ、時間かもしれないし、ある程度の行動が必要なのかも知れないし、もしかしたら精神的な問題なのかも


 しれない俺は心にざわめいている不安と疑問を大きなため息で跳ね除けた。とりあえず状況の整理にとりかかる…


 今わかることなんてせいぜい4つ程度、


 まず一つ目はこいつをしばらく家においておかなきゃいけないってこと


 二つ目はこいつは人間じゃないってこと


 三つ目はこいつの存在には親父が関係しているってこと


 そしてこれが一番の謎だ、わかることといっていいのかもわからないな…とりあえずサヤカがいった最初の一言が俺のなかでなにかひっかかっている……。


 サヤカを家に泊めてやっているのはなし崩しではない、サヤカの謎について興味を持ったからだ。サヤカがかわいいからとかそんなふしだらな理由ではない……。


 ほ、本当に違うんだからね!!冗談はさておき…本当に冗談だよ…?


 とりあえずこいつと暮らすしかないのか…


 正直傍から聞いたらバカらしかっただろう…


 訳わからん女に通学中に訳わからんこといわれて再開したと思ったら急にあなたの家においてくださいだもんな…


 それを了承してしまう俺の心の広さにもびっくりだ。


 でも今となってはサヤカをつれてきてよかったと思っている、おそらくサヤカは親父の不可解な夢とかかわりがある。


 親父の夢の謎、サヤカの不可解な言動、サヤカの存在…


 必ず突き止めてやる……














                                 
















                                    8、それから

   翌日はサヤカに家のものを触るなときちんと忠告し、猫の餌ではないが、この前買って置いたまぐろを少し炙って料理してから朝飯をやってから学校の補習授業に向かった、


  それからは長ったらしい先生の長い説教を受け、帰るときには夏の長い日が暮れかけていて、3階にある教室にちょうど眩しい角度で日が傾いていた。夏の夕方は少し寂しい気がする、


  だからだろうか、俺は夕焼けになった窓を見て少したそがれながら、ふと思ったことを聞いていた。


「先生って猫好きですか??」


「え??」


  先生は持ってきたのはいいが結局説教しかしなかったため、全く出番のなかった数学の教材を片付けていた手を止めて、まつ毛を八の字にして首を可愛くかしげて聞いてくる。


「どおしたの??急に」


「いや、実は、この前たまたま猫を拾ってしまって」

 

 そういうと先生の視線に少し厳しさが混じる


「確か、和人君のおうちってペット禁止じゃなかったっけ??」


 しまった、このことはいくら許可を貰ってるからって他言無用なんだった……。まあここまでいったんだから全部言わないと余計に怪しいよな


「ちゃんと、管理人さんに話しをして一応の許可は貰ってますよ。まあ、期間限定ではありますけど……」


 そういうと、先生は視線から厳しさをスッと抜くと。イタズラっぽい笑顔を向けていう


「その話、よーく聞かせてもらいましょうか」


 そこでまたしまったと思ったがやっぱりもうすでに遅かった


「は、はい……」


 俺はサヤカのことを、うまく隠して、猫の里親を探さなければいけないということのみを伝えた。


「……ふーん、そうゆうこと……」


俺は次に続くであろう先生の説教を受ける覚悟をして身構えた。


「よし!!その猫ちゃんの里親探し、その猫ちゃんあたしが引き取っちゃダメかな??」


「…………へ??」

 

 俺は少しの間を置いて、間抜けな声を出していた。なんだよ『へ??』って、せめて『え??』だろ。


  すると先生はもう一度、いう


「だからーあたしが猫ちゃん引き取っちゃダメかなー??って」


「ほ、本気っすか……??」


 俺は少し警戒しながらきく。


 すると先生はまたイタズラ的な笑みをしていう


「うん♪」


「……お願いします……」


 本当なら喜ばしいことのはずなのに……なぜか俺にはプラスの感情はわかなかった。


  結局猫は先生に譲ることに決まり、引渡しは明日ということになった。


  長く話していたので学校をでたころには真っ暗になってしまった、道を歩いて家に帰る。


  俺は夏の夜は好きだ、夕方と違って昼間の余韻を全く残していないので、寂しさもなく、しかし、目を閉じるとなぜかその日の楽しかった思い出のみが走馬灯のように


 きれいによみがえるからだ。


  俺は夏の夜の心地よさに、少しばかり酔いしれながら、家に到着する。


「ただいまー」


 ただいま……か、なんだか懐かしい気がする。


 そんなことを考えて玄関で靴を脱いでいると眠そうな声が聞こえてきた


「おかえりー」


「なにもいじったりしてないだろうなー」


 目を細めて少し疑いの眼差しでサヤカをみると、眠い目を擦りながらこっちに向かってきた


「大丈夫だよー、ちゃんと猫ちゃんにもごはんあげたし、あたしは冷蔵庫のおにぎりは食べちゃった」


 なにぃ?…と思ったが飯を用意していかなかったのは俺であるためこらえた。


  家のものが特に変わっていないのを確認してからふと思いついたように言う。


「そういや、とりあえず猫の里親は見つかったぞ、だからあした連れていくな」


「……え??……あ、うん、そう……なん…だ……」


 そういうと、サヤカは少しショックな顔をしたあと、すぐに取り繕ってへたくそな、引きつった笑顔になる。


  サヤカの気持ちは十分にわかるが、けじめはつけなければならない。


「ま、まあいい人だからさ……落ち込むなよな……」


「うん……」


 そうはいっても無理だよな……。


  サヤカは俺に顔を見せない様に俺と逆方向をむいて、地べたに座り、俯いている。


「ごめん……今は少し一人にしてもらってもいいかな……」


「あぁ……わかった……30分くらいで戻ってくる……」


「うん……ごめんね……」


「………」


 俺は出て行く前に励ましの一つでもかけようかと思ったが、今、俺はサヤカから奪う側の人間なんだ、そんな人に優しくされたら、変な希望を与えてしまう。


 俺は少し歯を食いしばって我慢すると、黙って家をでた。


  静かな夜の外出ではあるが、俺の心は穏やかではなかった。


  これで本当にいいのか……。


  なにかもっといい解決策があるんじゃないのか……。


  そんな全くもって自分勝手なことを考えながら夜の川沿いをどこへ行くともなく進む。


 自分で勝手なことを考えているとわかっているのに、わかっているが故に思考を止めることができないのが、もどかしい。家に帰ってサヤカの落ち込んだ顔を見るのが怖い……


 そんな人間が小さい、器が小さい自分にも嫌気が差してくる。さらに、そんなことで嫌気がさしている自分にも嫌気がさしてくる。

 

  俺は結局考えもまとまらないまま、30分歩きまわり、気がついたら家の前に立っていた。


 あとは、ドアを開けるだけなのに………


 ただそれだけのことをするのが怖い……


 サヤカという女の子の泣き顔を見てしまうのが怖い……


 このまま逃げてしまおうか……そんな情けなく、なんの解決にもならないことも一瞬頭をよぎった。


「クソッ……」


 俺は中に声が聞こえないくらいの声量で吐き捨てた。するとなかから「にゃー」という泣き声が聞こえてハッと我に帰る。


  俺は自分のことしか考えていなかった、猫のことも、さらにはサヤカのことさえも考えていない。そうだ……、入ったときにサヤカが泣きそうな顔をしていたら、励まそう、


 空元気をしていたら胸を貸してやろう。


  俺は決意して家の中に入る。


「おかえりー」


 俺はなにが起きたのかわからなかった。


  サヤカは俺が隠しておいたはずの猫用のおもちゃを取り出してピロピロして猫と遊んでいる。


「さっきはごめんね」


 そういいながら、少し苦笑いするサヤカは見ていて痛々しかったが、そのなかにはれっきとした決意があった。


「気にしてねーよ」


 俺はやさしい表情で笑いかける。


「ありがと」


 するとサヤカも今度はきちんとした笑顔でそういって、また猫と遊び始めた。













「いてっ」


  翌日、俺は鼻に軽い痛みを感じて目を覚ました。


「にゃーーー」


 眩しいなか目を開けると、猫が俺の鼻をガジガジと噛んでいる。


「いてーよ……」


 俺が半分寝ぼけながらいい、上半身を起こすと「にゃーーーー」と噛ませろよーみたいな感じで俺の体に擦り寄ってくる。寝ぼけてたから感覚麻痺してたけど、実は結構いたい。


「そっか……今日なのか……」


 俺は猫を横目にそうつぶやくと、辛気臭くなりそうだったから、あくびをしてごまかした。


  俺はサヤカを起こし、一緒に焼いたトーストという定番の朝飯を食べている間も、サヤカはずっと猫のことを話していた。


  そして迎えてしまった約束の時間。俺は猫を通学カバンに入れて、顔だけ出して、肩にカバンをかけるという


「じゃあ、行ってくるけど、サヤカは本当にこなくていいのか??」


「うん……いいの……」


 そういい、全くできていない、へたくそな笑顔をすると、一瞬カバンをみて、悲しそうな顔をしたが、すぐに今度はやさしい笑顔で猫に笑いかけ、いう


「じゃあね……お別れだね……ちゃんと向こうのおうちでも、おりこうにするんだよ……」


 顔は笑顔なのに、やさしいすぎるほどの顔なのに……サヤカの台詞の後半は何をいっているのかわからないくらい涙声だった……。


「じゃあ……もう……行くな……」


 俺はそうきりだすと


「うん……」


 そういってやさしい微笑みを向けてくる。


「いってきます」


 いってらっしゃいはなかった……多分もう声を出せないんだろう……だしてしまえば自分の感情が表に出てしまうから……。


  外にでると、天気は快晴だった。でも俺の心は正直快晴ではなかった。晴れてはいるけど少し雲がかかっているような……。


 そんなふしぎな気分だった……。


「よし……」


 俺は定番になってきている気合の入れ方をして、歩きだす。


  俺は学校に着くと、校門の前で先生を待つ。今日は先生が車で迎えにきてそのまま猫の引き取りをして解散らしい、


 ちなみに校門は坂の上にあり、とくになにか特別なものがあるわけではない、田舎の学校という形容詞が一番ただしいような見た目だ。証拠に学校の回りは畑や池で囲まれている。


 「ごめんね待った??」


 そんな声がしながら目の前に車が停車する。すると先生は車のトランクから猫用のアタッシュケースを取り出した。


「先生そんなの持ってたんですか??」


「ううん、昨日買ったの」


「マジですか??」


 そんなに猫好きだったんだ、それなら、俺も少し安心かな。


「じゃあ先生、移しますよ」


「うんお願い」


 そういって先生はケースのふたを開ける、俺はそれに猫をそっと入れると、瞬間、頭の中を走馬灯のようにグルグルと猫とすごしてきた記憶が駆け巡る。


「じゃあな」


 俺は最後に涙声でつぶやくと、最後に、おそらく初めて、そして最後に、やさしく頭を撫でた。


 俺はすぐに顔を上げていう


「じゃあ、先生……お願いします」


「うん、じゃあ、今日はもう解散でいいよ、明日からはまた補修開始するからね」


 先生は最初は気を使ったようなしゃべりかただったが徐々に声色をよくしていき、最後にはウインクをして車に乗り込み、走り去っていく。


   俺はその車の後ろ姿が見えなくなるまで、無言で見送り、セミのうるさい鳴き声が静寂を許さない中、最後には乾いたアスファルトを一滴だけぬらした……。


  少しの間をおいて、上を向いて、家に帰りサヤカを励ますための気合を入れる


―――――――――よしっ――――――――。










  俺は家に着くと、静かに鍵を開けて中に入る


「ただいま」


 最近はもう慣れてきた挨拶をすると笑顔で出迎えてくれる


「おかえり。……どうだった??」


 少し微妙な顔で聞いてくる。


「あぁ、ちゃんと渡してきたよ」


「そう……。そういえばね!!今日やってたテレビで――――」


「サヤカ!!」


 一度落ち込んだ顔をしたあと、すぐに取り繕うとするサヤカを、俺は少し大きめの声で遮る。


「ど、どうした……の??」


 サヤカは少しおびえながら聞いてくる、でも、多分おびえているのは俺に対してではない……。自分の気持ちが怖いんだ……。だから俺は―――。


「まあ……その……なんだ、俺の前ではあんまり強がるなよ……泣いちゃダメなときなんてこの世にないんだよ、悲しければ泣けばいい、うれしくても泣けばいい、人間そんなもんだろ」


 俺は今までみせた顔のなかで一番のやさしい声と顔でいった―――直後、俺の胸にそっと華奢な体があずけられる。


 俺の胸で嗚咽を漏らす、サヤカを俺は、なにも言わずそっと頭を撫で続けた―――。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ