第九十二話
二日目の更新、第九十二話です。
エイリさんに留守を頼み家を出た僕とルーカス様は、エヴァを連れて結界の外で待っていたフェグニスさんと四人の騎士達と合流した。
「ウサト様、これからどこへ向かえばいいのでしょうか?」
「呪いは王座の近くにあります。なので、近くまで移動しましょう。フェグニスさん、案内を頼んでも大丈夫でしょうか? 実は……王座までの道のりがおぼろげなので……」
「……分かりました」
僕とルーカス様の元にまで近づいて来たフェグニスさんにそうお願いすると、彼は背後の騎士達に指示を出し、彼を先頭にして城へ向かって歩き始めた。
結界の在る庭園から城の中へ入り、魔具の明かりで照らされている通路を歩く。
「ウサト、今さら聞くのもなんだが……呪いというのはどういう姿をしているんだ? 一応、エイリからは聞いているのだけど、今一抽象的すぎて分からないんだ」
「そうですね……」
ルーカス様の質問に僕は横目でエヴァを見てから、昨夜のことを思い出す。
あの骸骨達の姿……簡単に言えば上半身のみの骸骨で、その首には首輪が嵌められそこから鎖が伸びているといった感じか。
「鎖で繋がれた憐れな魂……でしょうか」
「鎖か、それが魔術師がかけた呪いなのかな?」
「多分、そうです。彼らはエヴァの……サマリアールの王族の生きた肉体を欲しています。身勝手な理由で生を奪われた彼らの怨念はとても強く、同時に何百年も自分達をサマリアールの地に縛り付ける呪いから解放されたいとも思っています。この二つの願いが混濁して、今エヴァはこのような状態になっているといってもいい……」
僕がそう言葉にすると、エヴァが悲しそうな表情を浮かべた。
「かわいそうな、人達ですね」
「……そうだね」
ネアと同じことを言ったけど、この子の場合はそのかわいそうな人達に命の危険に晒されているから、意味合いが違ってくるな。
それでも憐れに思ってくれているのはこの子の優しさなんだろうけど。
「最後にもう一つ。これは僕が彼らと戦っている時に分かったことなんですけど、彼らは勇者を求めていたんです。勇者を捕らえることができれば魂は解放され、自分達は自由になるってね」
「それで自由にはなるのか?」
「分かりません。ですがそうなった場合、勇者と間違われている僕はサマリアールに縛り付けられ、エヴァも消えてしまう可能性が高いです」
「……」
想像したくないとばかりに表情を歪めたルーカス様はエヴァを抱え直す。
「ん? 待てよ、君は尋常ならざる力を持っていても勇者じゃないじゃないか。どうして呪いが反応したんだい?」
「それは……」
いいのか? ”彼”がいるこの場で言ってしまって。
ネアには呪いを破壊しにいくまで事を荒立てないようにとは言われているけど……いや、逆だな。ここで言わなきゃ駄目だ。
覚悟を決めた僕はベルトに差してある小刀をルーカス様に見せる。
「その理由はこれです」
「ウサト、なぜそれを持っている?」
「……」
驚愕の面持ちのルーカス様。
そんな彼の反応を見た僕は、前を歩いているフェグニスさんの背中に声をかける。
「フェグニスさん、前に言いましたよね? これはこの世のものとは思えない刀だと」
「……ええ、確かに」
「ははは、おいおいフェグニス。お前が渡したのか? いくらウサトが信頼できる客人とはいえこの国の者ではない。しかも城内で武器を返すなどと前代未聞だぞ?」
笑いながらフェグニスさんに話しかけるルーカス様だが、彼は依然としてこちらを振り向かない。
僕は再びルーカス様の方を向く。
「ルーカス様、確認します。この小刀は貴方様が渡すように許可したものですか?」
「いいや、違うが……?」
「では、これは無断で返してもいいものですか?」
「君を信頼しているとはいえエヴァが近くにいるんだ。無断で渡して良いはずがない」
つまり、フェグニスさんの独断ってことか。
……警戒しておいた方がいいな。周りの騎士達もフェグニスさんの部下なら信用はできない。
「ルーカス様、下がってください」
「ん、どうしたんだ?」
「……」
手でルーカス様を制止し、足を止める。
視線は僕達と同じく止まったフェグニスさんから離さない。
「ウサト、僕達は今から呪いを破壊しにいくんじゃないのか? 一体、どうしたんだ……」
「状況が変わりました。荒事になるかもしれませんからしっかりとエヴァを抱きしめていてください」
警戒しながらゆっくりとフェグニスさんと騎士達から離れる。
騎士達は、動揺しているようにも見えるけど、それが僕の行動に対するものか、また別のものから来るものなのかは判別がつかない。
「皆さんも僕達に近づかないでください。近づけば問答無用で殴ります」
構えを取らずに言葉だけで脅す。
まだ騎士達には敵意は向けない。今、明確な疑いがあるのは未だに背を向けているフェグニスさんだけだ。
「ウサトさん、大丈夫……ですか?」
後ろにいるエヴァが不安気に僕に話しかけてきた。
僕は振り返らずにできるだけ優しく返答する。
「うん、心配はいらないよ。今から何が起こってもルーカス様と君だけは守る」
本当はネアの思い違いであればそれでいいんだ。
だけど、もしネアの話通りのことをフェグニスさんがしているとしたら、僕はこの人に後ろを任せる事は絶対にできない。
だからこそ今から彼が味方か敵かを見極める。
「今、貴方に抱いている疑惑はただの間違いかもしれない。できれば僕もそうであってほしいですが……ルーカス様の先程の発言で疑いはより深まりました」
どうして無断で僕に小刀を返したのか。
よく考えれば異常だったんだ。いくら僕が信頼できる人物として認められたとしても城の中で刀剣類を渡すなんて普通じゃない。
姫であるエヴァの近くにいるならば尚更だ。
「どうして僕にこの小刀を返してくれたんですか?」
「……」
「もしかして、貴方は呪いが邪龍と勇者……いいや、呪いについてルーカス様よりももっと深い部分を理解していたのではないのですか?」
「……」
「……それを知っている上で、僕にこれを返したと仮定するなら……貴方はエヴァが危険に陥ってしまうことを良しとした、ということですか?」
「……」
全ての質問に沈黙。
後ろに下がらせたルーカス様とエヴァもようやく状況を把握したようで、信じられないと呟きながら息を吞んでいる。
「これは貴方が独断で僕に渡したのか、それとも本当に親切心で渡したのか。それを今ここではっきりとしなければ―――僕は貴方を信用できない」
目を伏し、そう言い放つ。
するとフェグニスさんは目元を手で押さえた。
「その前に、一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「……なんでしょうか?」
「それは、”本物”ですか?」
「……」
もう、確定だろう。自身の潔白を証明する言葉ではなく、あくまでこの小刀の正体を知りたがるということは、それを訊くだけの理由と価値がフェグニスさんにあるからだ。
僕は手に持った小刀を前に突き出し、口を開く。
「これは正真正銘の勇者が扱っていた刀です」
「……! ……く、くくく」
こちらに背を向けたフェグニスさんの肩が大きく震える。
「く、ははははは! そうか、そうですか! やはり、私は間違っていなかった!」
今までの冷静で礼儀正しい姿とは違い、喜びの声を上げて笑う彼の様子に僕はゾッとした。
「最初は憶測でしか無かったッ。あの方が扱っていた剣が! 何百年も行方が知れずにいた一振りが、まさかこんな形で見つかるとは思いもしなかった……!」
「ウサト……僕は……夢でも見ているのか?」
ルーカス様は豹変したフェグニスさんを見てショックを受けている。
傍目でしか見ていない僕でもルーカス様とフェグニスさんの間には確かな信頼関係があるように見えていた。そんな信頼するフェグニスさんが普段の冷静さを欠いたような笑い声を上げている光景は、ルーカス様にとって異様なものに見えているに違いない。
「いえ、ルーカス様。これは夢じゃありません」
今のフェグニスさんは、ルーカス様ですら知らなかった負の一面。
その姿が明かされた今―――、
「フェグニスさんは故意に呪いを発動させるように仕向けた。……彼は僕達の敵です」
拳を握りしめて、眼前で未だに高揚している彼を睨みつける。
彼は喜びに打ち震え、僕達の動揺を気にも留めていないようだ。
「すごいぞ……! 我が一族の悲願がようやく叶う! それも勇者と同じ故郷を持つ人間が選ばれるとは! しかも私の代でだ! こんな幸運なことは無い!!」
「我が一族、か……」
勇者を国に縛り付けようとした王……ではないな。
なら答えは一つしかない。
「貴方は勇者に魔術を掛けようとした魔術師の子孫ですね?」
「ええ、正解です。流石は勇者となるべきお方だ。素晴らしい慧眼をお持ちです」
魔術の発動後に処刑された魔術師。
ルーカス様の話では、当時の王のみが勇者に魅入られてしまったように伝えられていたけど、生贄を用いた魔術を発動した魔術師が普通な訳が無かったのだ。
勇者の力に魅入られた者はもう一人いたんだ。
「な……ッ、まさか……お前が……」
「騙していた訳ではありません。子孫というだけで魔術を学んでいた訳ではありませんので……強いて言うならば、幼少の頃から勇者の素晴らしさを父から聞かされ続けたくらいです」
驚愕するルーカス様にそう言い放ったフェグニスさんはこちらへ振り返る。
その顔は、目が大きく開かれ、歯はむき出しにするように笑みが作られ、普段の冷静な彼からは想像もできない形相であった。
「私達一族は勇者を尊敬しています。尊敬しているからこそ、サマリアールの希望であってほしい。その希望の為に私たちは呪いを守り続けていました。そして、私の代になって貴方が現れた」
僕を指さすフェグニスさん。
「ウサト様、貴方はこの王国に必要なお方だ。勇者の剣を持ち、そして呪いを相手にしての立ち振る舞い。まさしく勇者の名に相応しい御人だ」
「……僕は勇者ではありません」
「ですが資質はある。確かに呪いが反応したのは貴方の持つ剣でしょう。ですが、その呪いを圧倒し、あまつさえ姫様から引き剥がしたのは他でもない貴方の力です」
僕と呪いが戦うところを見ていたのか。
ネアとの会話と魔術を使っているのが彼女と気付かれていなかったのが幸いだった、のかな?
「そして見事に呪いは貴方を勇者として認めた……。貴方が簡単に囚われてしまうような凡人だったのならば、私も次の勇者が現れるまで待っていたでしょう。しかし貴方は闘志を見せて戦った! 姫様を救うために! これを高潔と言わずになんという!? 私は確信しました! 貴方はこの王国に絶対に必要な人間だということを!」
徐々に声が大きくなった彼に、僕は嫌な汗を感じた。
狂信的だ。周りの被害を考慮せずに自分の目的だけを求めている。
これがフェグニスさんの本性って訳か。全く、ネアが言っていた騙されやすいってのも否定できないな、これは。出てきたのがただの悪人なら良かった。
だけど、この人は自分が悪だと思っていない。それが本当に性質が悪い。
「どうしてだ……どうしてなんだ……フェグニス」
動揺したルーカス様が、声を震わせながらフェグニスさんにそう訊いた。
その言葉を聞いたフェグニスさんは昂ぶっていた感情を鎮め、柔らかな笑みを浮かべる。
「王よ。私は何も間違ったことはしておりません。彼はサマリアールに必要なお方です。この国の為に、私は彼を呪いで縛り付けるべきだと判断致しました」
「それはお前が判断することではないッ!」
声を荒げ、フェグニスさんを怒鳴りつけたルーカス様。
彼は信頼していたフェグニスさんが自分を裏切っていたことに相当なショックを受けている。
冷静でいられないのも無理もない。
「呪いのことを知っていたのか?」
「ええ、呪いを守るのが私達一族の務めですので」
「……ッ」
ルーカス様は、少し躊躇う様子を見せてから続けて質問を投げかけた。
「お前は、エリザを救う事ができたのか? 王族ですら知ることの無かった呪いを知っているお前は……あの呪いを消す手段を知っていたのではないのか?」
その言葉にフェグニスさんは反論するでもなく、ただ悲痛な表情を浮かべた。
「エリザ様のことは私も深く悲しみました」
……なんだ、それは。
まるでエヴァの母親が消えてしまったのはしょうがないことだと言わんばかりの態度と表情は。
ルーカス様も僕と同じように思ったのか、エヴァを抱き上げる手を震わせて声を荒げた。
「……それだけか? 僕の最も近くにいたお前が……ッ! 彼女の命が消えていく様を見ていたお前が! 全てを知っていて見ていただけのお前が! ふざけるなよフェグニス! 勇者に目がくらんだ狂信者にエリザは殺されたのか!! この子から母親を奪ったのか!!」
「呪いは悪ではありません。ただ彼らは解放されたいだけなのです。ウサト様がこの国に縛られればきっと囚われた魂は解放されるでしょう。そして、彼らはサマリアールの王族を許し、呪いは消えてなくなる。全ては丸く収まります」
「そんな戯言はどうでもいい! 娘はどうなる!?」
「残念ながら、どうにもできません」
その言葉にルーカス様の服を掴んでいるエヴァの手が震える。
……この人は絶対に僕とは相容れない。
今、目の前で薄ら笑いを浮かべているだけで、目の前から消し去りたい衝動に駆られる。
「ッ」
……感情のままに手を出しちゃ駄目だ。
戦う必要なんてないはずだ。
硬く拳を握りしめ、必死に感情を抑えつけ―――、
「王よ、呪いを壊すなんて大それた考えはおやめください。サマリアールの未来を思えば、姫様は必要な犠牲のはずです」
「あ?」
―――しかし、その言葉で僕は感情を抑えつけることができなくなった。
今、この人は何て言った?
必要な犠牲って言ったのか?
よりにもよって、そんな都合のいい言葉で彼女を見捨てようとしているのか?
「これ以上辛い思いをさせるなら、いっそのこと幸せなまま―――」
僕は無言で手の届く位置にあった石の壁を殴りつける。
ガァン、という音と共に大きな罅が入り窓が割れる。それだけでフェグニスさんが口を閉ざし、腰の剣に手を掛けた。
「幸せなまま、なんだ?」
「……っ」
自分でも驚くほど低い声に、フェグニスさんとその周囲にいる騎士達が慄く様に下がる。
騎士長だろうが知ったことか。
協力してもらえるように説得しようとしたけどもういい。
必要な犠牲なんて言う阿呆は一度ぶん殴らなきゃ元には戻らないだろ?
なら、僕がその腐った性根を叩きのめしてやる。
「……」
今の僕はきっと怒りに満ちた形相って感じの顔になっているだろう。
誰に指摘されなくても分かっているくらいに、今の僕はキレていた。
「ウサト、待ってくれ」
完全にキレていた僕が拳を握りしめて問答無用でフェグニスさん目掛け進もうとしたその時、背後からの声に足を止める。
後ろを見れば驚くほど冷静な表情のルーカス様。
「エヴァの為に怒ってくれてありがとう。でもこれは僕が応えなくてはいけないんだ」
「……すいません、冷静ではいられませんでした」
「ははは、いいんだよ。正直、僕も激怒しかけていたけど、僕以上に怒ってくれた君のおかげで冷静になれた。……君が味方で本当に良かった。今心の底からそう思うよ」
ルーカス様の言葉に頭を冷やし、彼がフェグニスさんの姿をしっかりと見れるように横にずれる。
エヴァを抱き上げたまま、ゆっくりと僕の一歩前に歩き出たルーカス様は、強い口調で話し出した。
「フェグニス。僕は、サマリアールの為に王になったんじゃない。エリザの為に王になったんだ。……彼女がいたから王になった、彼女がこの国が好きだと言ってくれたから僕は王として頑張ってこれた。だから、彼女が消えてしまって……僕は王でなくなるはずだった」
ルーカス様の視線が、腕の中にいるエヴァへ向けられる。
「でもこの子が生まれてくれた。辛い運命が待ち受けていることは知っていたけど、それでも生まれてくれて本当に良かったと思えた。だからこの子の為にもう一度、僕は王として頑張ろうって思ったんだ。エリザのように笑ってくれることを望んで。この子がこの国で幸せな思いでいられることを願って、ね」
「お父様……」
「今はこの子が僕が王であるべき理由だ。断じてサマリアールの為じゃない」
それがルーカス様が王になった理由か。
なんというか、この方らしいなって思ってしまうのは少し失礼かもしれないけど、僕から見たルーカス様の姿は彼が理想の王と語ったリングル王国の王様の姿と重なったように見えた。
「フェグニス、お前は僕の敵だ。長年僕の右腕だったお前には悪いが、今日からお前は反逆者だ」
「考えを変える気にはならないと?」
「二度も言わせるな。ウサト、いいぞやってしまえ。王である僕が許可する。邪魔なあいつを片づけたら、呪いを破壊しにいくぞ」
そそくさと後ろへ下がって、そう言いだしたルーカス様にちょっとだけガッカリ。
いや、ルーカス様に戦わせるつもりは全然ないから別にいいのだけど。
「……だとしても、呪いを壊すことは到底無理な話です。例え、ウサト様が魔術を習得していたとしても、ここの魔術は特別なのですから」
「やってみなくちゃ分かりませんよ」
腕を組んで僕がそう言うと、フェグニスさんは憐れな人を見る目で僕を見る。
「確かに貴方なら大抵のことは一人でできるでしょう。それだけの力と意思がある、ですがこればかりはどうにもなりません――――なにせ、貴方は一人なんですから」
フェグニスさんが手を上に挙げると、彼の周りにいた騎士達は無言で剣を引き抜いた。
やっぱりついてきた騎士達のフェグニスさんの息がかかっていた人達だったか。
ま、フェグニスさんの話を驚かずに静観していた時点でなんとなく分かっていたけど。
「いくら強大な力を持っていたとしても一人ではできることが限られる」
「ハ、ハハハ……」
ああそうか。この人は僕が一人で呪いを相手にすると思っているのか。
だからさっきから妙に強気だったのか。
どうせ僕には呪いが破壊できないとたかを括って、どうせこれからの展開はルーカス様とエヴァを集中して狙って隙を見せた僕を倒そうって魂胆だろうけど―――甘すぎる。
「ハハハハ……」
「ウ、ウサトさん?」
「ウサト、怒りすぎておかしくなっちゃったのかな?」
「いや、おかしくなったとかじゃなくて、ただ本当に傑作で……」
困惑するエヴァとルーカス様に心配いらないと手を横に振りながら前を向く。
確かに、僕は何でもかんでも一人で出来る訳じゃない。負けそうなときは誰かの力を借りてしまう。
今回の呪いの件もそうだ。
僕一人では今頃エヴァと共に呪いに囚われていただろう。
今そうではないのは、僕には仲間がいるからだ。
「なにがおかしいんです?」
「なにがおかしい? つまらない話は終わって、その次が武力行使か? 大した一族だな、流石悪質な呪いを守り続けたやつらだよ。サマリアールの為とか言って結局全部、自分の願望を叶えたいだけじゃないか、これが笑えないはずがないだろ?」
「……ッ!」
何が勇者だ。
何が一族の使命だ。
何がサマリアールの為だ。
その為に一番大事なものを犠牲にしようとしているじゃないか。
「フェグニスさん、貴方は三つ間違えていることがある」
「それは、なんですか?」
「一つ目、必要な犠牲なんて存在しないこと」
誰かが悲しむような犠牲は、必要とは呼ばない。
犠牲の上で成り立つ平和なんて僕は絶対に御免だね。
「そして二つ目は、僕は勇者なんて大層なものじゃないこと」
本物の勇者がいるのに、どうして僕が勇者にならなきゃいけないんだ。
僕には救命団が一番合っている。
「……三つ目は?」
フェグニスさんの言葉に答えようとすると、背後の暗闇から音も無く一羽の黒いフクロウが僕の肩に飛び乗った。
欠伸をするようにホォ~と鳴いたフクロウにクスリと笑みが零れた僕は、再びフェグニスさんの方を見て、得意気に言葉を言い放った。
「僕は一人じゃないってことだよ」
瞬間、僕とフェグニスさんの側方の窓から月の光とは別の赤色の光が照らされた。
驚愕に目を見開いたフェグニスさんと騎士達の視線の先には―――サマリアールの塔に設置された巨大な鐘が真っ赤な熱を帯びて、真っ二つにされている光景が広がっていた。
狼狽するフェグニスさんと騎士達の姿に、僕は嗜虐的な笑みを浮かべ―――、
「さあ、お前達の大切な”希望”はぶっ壊したぞ。これでもまだ余裕な顔ができるか?」
―――そう言ってやった。
本当に病んでいたのはフェグニスさんでした。
因みに、マジギレウサト君があのまま突っ込んでいたらフェグニスさん達は生きたまま化石のように壁にめり込むことになっていました。




