第九十話
お待たせしました。
第九十話です。
ウサトが城へ行ってから五日目。
そして、ネアがウサトへ会いに行った次の日でもある。
私とアルクさんは、できるだけ外に出ないように宿の部屋で過ごしていたけど、何時までも戻ってこないウサトを心配していた。
「ウサト、大丈夫なのかな……」
「彼なら大抵のことはなんとかできると思っていますが、五日も戻ってこないとなると何かあったかと考えた方がいいかもしれませんね」
普段は、私たちは別々の部屋で過ごしているけど、こうやって話し合う時は一階の大きな食堂の端に座っている。
ネアは今ウサトのところへ行っていていないが、ここで働いている人達には「ネアは体調が悪くて部屋で休んでいる」と言っておいたので問題は無い。
だけど―――、
「ウサトも心配だけど、この状況もおかしいよ。私達以外にお客がいないのもそうだけど、多分、ここの人達は私の正体に気付いている。なのに、誰も追い出そうともしないし、騎士に伝えようともしない」
「ネアはともかく、アマコ殿の正体を知って尚、何もしてこないということは……サマリアール王はあらかじめ私達のことを知っていたということでしょう」
思案気に顎に手を当てたアルクさんは、周囲に聞こえないように声を抑えてそう言葉にする。
加えて、アルクさんはサマリアールの王様の目的はウサトかもしれないと言った。
「しかし、それも恐らくリングル王国とルクヴィスまでの私達の行動―――、旅の道中で仲間にしたネアに関しては知られていないはずです」
「……癪だけど、アイツが思いのよらないところで活躍したってことだね」
うるさくて、図々しくて、ウサトに馴れ馴れしい態度を取る吸血鬼が役に立っているという事実は認めなくちゃならない。
脳裏にこちらを小バカにするネアの嘲笑が浮かび、気持ちを落ち着かせながらこめかみを押さえる。
「ともかくネアが戻るのを待つしかない……」
「そう、ですね。ウサト殿が囚われている、ということでもあれば城に乗り込む考えもあります。あくまで最終手段ですが……」
「ウサトって捕えられるの?」
「……。ハ、ハハハ、ウサト殿だって人間ですから」
今の間はなんだろう。
でも、ウサトは普通の手段で捕えられるような人間じゃない。
速いし、強いし、非常に諦めが悪い。
邪龍が相手だって、臆せずに戦いを挑む度胸だってある。
弱点があるとすれば……。
「見て見ぬ振りができないこと、とか……」
私も、ナックも、邪龍の被害に遭う人たちも、ネアも、見て見ぬ振りをできない。
本人はそんなにお人よしじゃないって否定するかもしれないけど、彼は助けを求める声を無視できない。そして、苦しんでいる人を見過ごすなんてできない。
私は、ウサトのそういうところが危ういと思う。
「……もしかしたら、カズキ様のようにサマリアールの姫君に誘惑されているかもしれませんね。小耳に聞いた話では結構な美人と聞いていますし。ははは」
「……」
「あ、はい、冗談です。すいません」
沈痛な面持ちになった私を元気づけようと思って、快活に笑ったアルクさんの言葉に意図せず無表情になってしまった。
「ウサトって変な人に好かれるから割と洒落にならないよ」
カズキとウェルシーさん、キリハ達とか一部の人達は普通で優しい人たちだけど、スズネ、ハルファ、ネア、そして多分ローズさんと救命団の人達といった色々な意味でちょっと危ない人達に好かれてるから、アルクさんが言ったことはあながちありえないとは言えない。
「面倒なことにはなっていないといいけど……」
「それがもうなってんのよねぇ」
「!?」
第三者の声に顔を上げ、その方向を向く。
そこにはフクロウの姿で城へ向かったネアが、食堂の入り口の前で村娘の姿のまま笑顔を浮かべこちらに手を振っていた。
ウサトのところへ行っていたネアが戻って来た。
どこか気だるげな様子の彼女は、私とアルクさんの座っているテーブルに近づいてくると、アルクさんが引いた椅子に遠慮なく座り、ぐでー、と脱力するようにテーブルに体を預けた。
そんな彼女に私は声をかける。
「それで、何があったの?」
「んー、どうしよっかなー。言おうかなー、でも疲れてるしなー」
……。
「フンッ」
「いたぁ!?」
無言で手を手刀の形にして、割と本気に力を籠めネアの頭に叩き付けた。
頭を押さえて椅子から転げ落ち、もんどりうつネア。
「な、なにするのよ!? ちょっとからかってやろうかなって思っただけじゃない!!」
「そんなのいらないから早く話して。次にふざけたら鳩尾を穿つ」
「穿つッ!? なんか私に対する風当たり強くない!?」
面倒になっていると明言したその後に、話を勿体ぶられるような話をされればイラッとするのも無理はないと思う。
「まあまあ、落ち着いてください。ネアも疲れているでしょうし、とりあえずは昼食を食べながら話をしませんか?」
「そ、そうよ。私、滅茶苦茶頑張ってお腹減ってるし、疲れてるの。だから、その手を引っ込めなさいよ……っ!」
「……」
アルクさんの言葉に渋々頷いた私は椅子に座り直し、再び外套を深く被る。
しょうがない。確かに疲れているように見えるし、今のところは引いておこう。
アルクさんが宿の人に昼食を頼むと、あらかじめ準備をしていたのか、すぐに三人分の暖かい昼食がテーブルに運ばれた。
「で、ウサトのことだけど、結果だけ言うなら今、厄介事に巻き込まれているの。それもかなり面倒な、ね」
フォークでサラダをつつきながら言い放ったネアの言葉に、私は額を押さえた。
なんで、少し離れた間に厄介事に巻き込まれてるの……ウサト。
「なにがあったんですか?」
「サマリアールの姫って知ってる?」
「……噂程度には。姿を現したことの無いサマリアール王の御息女ですね?」
「そう。ウサトは昨日までの四日間、彼女と一緒に住んでいたの。サマリアールの王の計らいでね」
なにやってるのウサト……!?
今度は頭を抱え、城にいるウサトに言い様も無い気持ちになる。一国の姫と一緒に住むなんて事態、どうなったらなるんだ。少なくとも使者に与えられる待遇じゃない。
ネアはウサトが城に招かれた理由を簡単に説明した。
「なるほど、ウサト殿を城に招いたのは、彼を引き抜く為だった……ということですか?」
「ええ、そうね。引き抜き自体は断ったみたいだけどね。その代わり、城に何日か泊まることになっちゃったみたい」
ウサトのことだ。どうせ書状の話を受けて貰った手前、相手の厚意を無下にする訳にはいかないとかそんな理由で承諾したに違いない。
「そこはどうでもいいのよ。問題はその姫―――エヴァ・ウルド・サマリアールよ」
「彼女に何か問題が? まさか、その姫がウサト殿に惚れてしまった……とか?」
「そうだったらまだ可愛気があったんだけどねー」
半笑いのアルクさんの言葉に、ネアがゆっくりと首を横に振る。
「彼女は呪いを受けていたのよ。治癒魔法でも、解呪でもどうにもならない面倒な呪いをね」
「呪い……。ネアの魔術のようなものですか?」
「魔術よりも、悪趣味なものよ。凡そ、まともな頭でやろうとは思わない方法で造りだされた呪いが、彼女の体を蝕んでいる」
「……ウサトは、その人を助けようとしているの?」
私がそう聞くと、目の前の彼女は呆れる様に肩を落とす。
その様子になんとなく彼がどういう行動に出ているのかが分かってしまった。
「私は暗に見捨てろって言ったのに、彼ったら子供みたいな言い分で助けたいっていうから、今の今まで城の中を奔走してたのよ。全く、一度呪いに襲われたってのに全然懲りた様子もないもの」
「襲われたとは……呪いにですか? 呪いに意思があるということですか?」
「うーん、そこが複雑なのよねぇ。ま、これは説明しなくちゃいけないことね。貴方達に手伝って貰う上で知っていなければ困るし」
手伝う?
ネアが戻ってきた事にはウサトの状況を説明すること以外の目的があるの?
「今から、エヴァ・ウルド・サマリアールを蝕んでいる呪いの正体を教える。そしたら、呪いを完全に破壊する私の完璧な計画を貴方達に手伝って貰うわよ」
●
「ルーカス様、単刀直入に言わせて貰います。僕はエヴァの呪いをぶっ壊そうと考えています。なので、呪いの正体を教えてください」
「ホゥェ!?」
単刀直入すぎるわ!? と思ったのは私だけではないはずだ。
エヴァ・ウルド・サマリアールの呪いの正体をルーカスから聞き出す為に、彼の元を訪れたウサトの第一声に私は驚愕した。
目の前にいるサマリアールの王と思わしき男、ルーカスも突然のウサトの言葉に後ろを振り向きあんぐりと口を開けている。
「ウサト、君は突然何を言っているんだ!? びっくりし過ぎて僕がどうして君をここに呼んだのか、忘れてしまったよ!?」
「僕は冗談を言っているつもりはないです」
静かな声でウサトがそう言うと、ルーカスは驚きの表情から一転して真剣な表情になる。墓の前で座っていた彼は、ゆっくりと立ち上がりウサトと目を合わせた。
「……どういうことだ。呪いを壊すとは、エヴァを助けるということか?」
「助けます」
「力業で解決できる問題ではない。それは呪いと相対したであろう君が一番よく分かっているはずじゃないのかな?」
「ええ、確かに力業だけじゃどうにかなる相手ではないのは分かっています。だからこそ、僕にはこれがある」
私の方に目配せをしたウサトは、拳を掲げる。
彼の意図を読み取った私は、ウサトの手に魔術を流す。彼の手に浮かんだ紫色の文様に、ルーカスは目を丸くした。
「それは、まさか……魔術か?」
「知っていましたか……。使っているのは僕の使い魔ですが―――僕とこいつなら呪いだってぶっ壊せます」
まるで私と一緒なら呪いを壊せるかのような物言いに、少しだけおかしい気持ちになる。
それほど私がウサトに信頼されているってことなのかな?
ちょっとだけ誇らしい気持ちになっていると、目の前にいるルーカスが唖然としたまま、地面にゆっくりと腰を下ろして小さく笑った。
「は、はは。僕の国の情報網もまだまだだね……。君が魔術を扱えるなんて夢にも思わなかったよ。今のエヴァも君の使い魔のおかげで消えずに生きながらえているということかな?」
「はい。でも、それもその場しのぎのものでしかありません。根本の原因を断つには、呪いそのものを壊すしかない」
「だから、僕にその呪いの正体を聞こう、という訳か」
その言葉にウサトが頷くと、ルーカスは額を手で覆う。
「正直、助かることは無いと思っていた。あの子も、彼女と同じように僕の前から消えてしまう。そう、覚悟していたはずなんだけどね……」
そこで言葉を切った彼は、少しだけ声を震わせ続けて言葉を紡ぐ。
「でも、やっぱり駄目だ。諦めきれない、何時までも何時までも、別れの言葉を言えなかったエリザの姿が僕の脳裏にちらつく。なのに、あの子までいなくなってしまったら僕はもう、王である必要がなくなってしまう―――彼女とあの子が愛した、サマリアールという国を憎んでしまうから……」
私にはちょっとだけこの男の気持ちが分かるかもしれない。
人間の人生は短い、あの村でずっと人間に化けて過ごして来た私にとって、人の死というものはある日突然に訪れて来るものだ。
老い、病気、魔物に襲われて命を落としたとか、色々な理由があるけど、どれをとっても身近で生きていた人間が死んでいなくなってしまうのは辛いことだ。
……こんなこと、ウサト達の前では絶対に口にしないけど。
彼の独白を無言で聞いていたウサト。そんな彼に、ルーカスは先程の弱々しい姿から一変して力の籠った瞳を向け、口を開いた。
「ウサト、今からする話はサマリアール王家の恥だ。欲に取り憑かれ、目先の利益にしか目が行かず、その末に自らのみならず子々孫々までを死の呪いという呪縛で縛り付けてしまった―――そんな愚か者の話だ。だけど、この話を聞いて役に立つかどうか分からない。それでも聞くかい?」
「ええ、必要なことですから」
そうか、と呟いたルーカスはようやく話す気になったのか、ウサトに向き合うようにあぐらをかいた。
「数百年前、サマリアールは大きな厄災に見舞われたことを知っているかな?」
「邪龍と勇者の戦いでしょう?」
「……もう驚かないよ。君ならそれくらい知っていてもおかしくないって思っていたからね。うん」
既に邪龍と勇者のことについて知っているウサトに、若干頬を引きつらせつつもルーカスは言葉を紡いだ。
「勇者と邪龍の戦いは、勇者の勝利という形で終わりを迎えた―――ここまでがある程度の城の人間が知っている歴史。普通の英雄譚ならばここで終わるはずなんだけどね。問題はその先なんだ」
「その先……」
「戦いの後に残されたのは廃墟と、怪我と毒でまともに動けない民と騎士達。建物はともかく、怪我人はすぐさま治療すれば完全とは言わずとも動けるようになれるくらいの怪我だったらしい」
それでも多くの死者が出たはずだ。
もし勇者が現れていなかったなら、サマリアールという国は今この場所に無かったかもしれない。
「だがな、当時の王は壊れ果てた街も、怪我で苦しむ民も見えてはいなかった」
「見ていなかった……なら、その王には何が見えていたんですか?」
一国の王には、荒れた国も、傷ついた民も眼中になかった。それは王としてあるまじき行いでしょうね。普通の精神状態ならそんな愚行は決してしない。
するとしたら、それ相応の理由があるはず。
そう、例えば―――、
「勇者だよ。圧倒的な力を振るう邪龍を下した超人の力に、王は魅せられた」
―――他者を魅了する力。
人智を超えた力―――全快状態の邪龍というあまりにも規格外すぎる怪物を下して見せた、勇者の姿はきっと何よりも神々しく、とても魅力的なものに見えたに違いない。
「力があれば誰にも負けない、力があれば蹂躙されることもない、力があれば怯えなくて済む。子供の理屈で王は勇者の力を欲してしまったんだよ。だが、普通の方法では勇者を国に留める事はできない、説得も拘束も不可能となれば、王は別の方法を考えた」
「魔術、ですか」
「そう、魔術だ。今でこそ失われつつある技術だけど、当時、人間の魔術師というものが至る所にいてね。サマリアールにも一人だけ、魔術師がいた。王は、その魔術師を利用して勇者を『王国に縛り付ける為の魔術』を作らせようと考えたんだ」
「ホー……」
愚かな考えね。
本来、魔術とは人間が簡単に手を出していい領域にあるものじゃない。例え扱えたとしても魔術の在り方を変えるような試みは、かえって危険を呼び込むことになる。
それを防ぐために、解放の魔術という保険があるのだ。
……ん? 失われつつある?
「ホ、ホー?」
「なんだネア、今大事な話をしてるから静かにしてくれ」
え、いやあの、今ルーカスの口からちょっと聞き逃せない言葉があった気がするのだけど。
翼で彼の肩を軽く叩くも小さな声で窘められてしまった。
そんな私たちのやり取りに気づかないまま、ルーカスは続きの言葉を紡いだ。
「だが、勇者ほどの怪物を普通の魔術で縛り付けられる訳がない。なにせ、邪龍をも倒した最強の存在が、ただの一人の魔術師の術に抗えないはずがないからだ」
「まあ、邪龍を倒すくらいですからね」
私自身、邪龍の怖さは身をもって知っている。
長年、屍として劣化していた状態でもあれほどの強さを持っていたのだ。全快状態なら、例え国が一つ相手でも容易に蹂躙できる力を有していると考えてもおかしくはない。
「普通に考えて、そこで計画を断念すれば良かった。力に魅せられていても勇者を捕えることなんて到底無理なことぐらい、普通は分かるはずだった。そのはずだったんだけど、王は文字通りに普通では無かったんだ」
「その王は一体、なにをしたんですか?」
「力が足りないなら増やせばいい。規模が足りなければ大きくすればいい。勇者という圧倒的な個を縛るには相応の対価を用意すれば良い―――その為に、王はあまりにも愚かで、最もやってはいけないことを行った」
「最もやってはいけないこと……対価……まさか!」
強大な力を御するにはそれ相応の力が必要。
たった一人の魔術師の力だけでは、勇者の力を抑え込むことができないとしたら―――自然と手段は限られる。
「生贄だよ」
まあ、そうなるわね。
人の命は魔力以上のエネルギーがある。それを何十人、何百人分も集まればとてつもない力になるだろう。
冷静に考察する私だけど、ウサトの方はそうはいかないらしく怒りのあまり拳を握りしめ小さく肩を震わせていた。
「邪龍の被害を受けた五百にも上る大量の怪我人を、生きたまま魔術を強くするための依代として利用した。老若男女関係なく、魂を抜き取られ皆物言わぬ躯となって息絶えた……」
「バカげてる……!」
「僕もそう思うよ。だけどね、力を求めるあまり王は自身が守るべきものの優先順位を誤ってしまったんだ。国は民がいてこそ成り立つのに、王は国の繁栄のみを優先させて守るべき民を生贄にしてしまったんだ」
「ッ……それで、勇者を捕まえられたんですか?」
「いいや、捕まえられなかったそうだ」
「なんですかそれ、そんなのまるで……」
「犬死に、だろう? その言葉が適切だ。勇者の捕獲を行った王の策は見事に破られて、残ったのは数百にも上る死体と目的を果たせぬまま発動し続ける魔術のみ。そして、その魔術が王家を蝕む呪いへと変わった」
それがあの娘を蝕んでいた呪いの正体。
恐らく、あの骸骨達は勇者を捕まえる為に生贄に捧げられたサマリアールの人々の魂で、彼らを鎖でつないでいたのは魔術師が発動したサマリアールに魂を縛り付ける魔術ってことか。
「その、呪いをつくった魔術師はどうなったんですか?」
「処刑されてしまったよ。魔術が失敗し、復興の為と銘打ってあのサマリアールの塔を作らせた張本人だからね……。魔術師を処刑した王も、呪いによって消えてしまったらしい」
ウサトから聞いた話とは違うわね。
あの塔はサマリアールの王が作らせたって聞いていたけど、彼は魔術師が作らせたと言っている。ウサトの聞き間違いかもしれないけど、この違いは大きい。
王が作ったというのならまだ疑う段階だけど、魔術師が作らせたというのなら何かしらの意味がある。
「……ネア、何か分かったか?」
ウサトが声を潜ませてそう声をかけてきた。
彼の方を見て、こくりと頷いて一声鳴く。
呪いの正体については分かった。
私はあの娘の肉体と魂を奪っているのは同一の呪いだと考えていたけれど、それは間違いだった。
肉体を奪っていたのは生贄に捧げられたサマリアールの民で、魂を奪っていた―――いいえ、正しく言うならサマリアールという場所に縛り付けていたのは魔術による呪いだろう。
私の拘束の呪術が肉体を束縛する魔術だとしたら、数百年前のサマリアールの魔術師が習得していた魔術は魂を縛り付ける魔術。なんとも悪質な魔術を覚えていたものね。
「僕が呪いについて知っていることはここまでだ」
「教えてくれてありがとうございます」
「礼を言うのは僕の方さ。君は諦めていた僕に希望を見せてくれた。……他に何かできることがあったら何でも言ってくれ、できるかぎり君を手伝いたい」
ルーカスの言葉にウサトはもう一度礼を言うと深く頭を下げて、その場を後にする。
「とりあえず、次は呪いの大本の場所を探すか」
「それは私がやるわ。一人の方が動きやすいし、何よりウサトはまず万全の状態でいて貰わなくちゃ困るわ」
「……分かった。頼んだぞ? 君が頼りだ」
ウサトに自信満々に頷き、思考を巡らせる。
呪いの正体が完全に分かった今、次にすることにウサトの手は必要ない。
まずは―――ウサトが言った通り、呪いの本体を探す事から始めましょうか。
●
「と、いう訳よ」
「サマリアールの民の呪い、ですか。それはまた随分と厄介ですね」
ウサトとネアが相手にしようとしている呪いの正体についてはよく分かった。
だけど、ネアの話を聞いて一つ疑問に思ったことがある。
「どうしてここに来てるの? 貴女は今頃、呪いの本体を探しているはずじゃないの?」
「そんなものすぐに見つけたに決まっているじゃない。いい? 私は呪いに関しては専門家よ? ここに来たのは別の理由があって来たのよ」
「……じゃあなんなの? その理由は」
呆れるように肩を竦めるネアに少しばかりイラッとしながらも、冷静に質問する。
その質問にネアはフォークを置いて得意げな表情を浮かべると、窓の外を指さした。
「あれよ」
「……あれ?」
彼女が指さす方に目を向けると、そこには国の中央にそびえ立つ白い塔が見える。
この国に来てから幾度も聞いた鐘の音を鳴らすサマリアールの塔。サマリアールに住む人々からは祈りの対象として見られているソレになにがあるのだろうか。
「何百年もの間、どうやって呪いは発動し続けることができたのか。答えはすぐ近くにあって、あまりにも単純なものだってことね。ま、ウサトは城の呪いを壊さなくちゃいけないから、離れられない。だから、こっちの仕事は貴方達と一緒にやることにしたのよ」
「……ネア、一体なにをしようと言うんですか?」
アルクさんの言葉に、くくく、と悪い笑みを浮かべたネアは―――、
「今夜、私たちでサマリアールの希望の象徴をぶっ壊しに行こうっていうのよ」
そんな、とんでもないことを言い放った。
呪いの正体が明かされました。
邪龍の被害にあった人達は、怪我や毒は受けていましたがちゃんとした治療を受けていれば、普通に生きていけた人たちでした。




