第八十四話
お待たせしました。
第八十四話です。
最初は、ウサトのサマリアールでの三日間を、
エヴァの日記でダイジェスト風にお送りします。
2446日目
今日はお客様が来る特別な日。
さっき、お父様は精一杯のもてなしをしてあげなさい、そう言ってくれたけれど私は初対面の方のお名前を間違えてしまうという過ちを犯してしまった。
どうして、私は、どうして、第一印象が大事なのに、最初の一歩で躓いてしまった。彼―――ウサトさんにどんな顔で会っていいか分からない。
けれど、何時までもこうしている訳にはいかないの。
ウサトさんはずっと外で待ってくれている。今こうして部屋に籠って不安な気持ちを綴っていても何も変わらない。
粗相をしてはいけない。
間違いを犯してはいけない。
もてなさなければならない。
彼のことを
よく知らなければならない。
今、とっても嬉しい気持ち。
ウサトさんがここにもう少しの間滞在してくれるから。いつも、ここに来てくれる人たちはすぐに帰ってしまうから不安だったの。
彼はとても面白く、食後の後に何時間も運動し続けられる凄い人。それにエイリともすぐに仲良くなってくれてすごく嬉しい。
今日からの数日間、私にとって実りのあるものになりそう。
でも、もしかしたら、私たちが寝静まった頃にここを出て行ってしまうという不安もある。
太陽が出て明るくなる前に、彼の部屋を見に行こう。
早寝早起きは大事だから、問題はないはず。
それでは、今日も素晴らしい一日でした。
おやすみなさい。
2447日目
今日は一日の半分をウサトさんが城の方へ行ってしまったから、いつも通りの一日だった。
いや、いつも通りじゃなかった。
今日、太陽が出る前にウサトさんの部屋を見に行ったら、ウサトさんが居なかったの。
綺麗に整えられたベッドと閑散とした部屋を見て、私は最悪の事態を思い浮かべた。
嘘つき、勝手に、とそんな言葉が頭の中でぐるぐると回っていた私は急いで外に飛び出したら―――なんとウサトさんはこんな朝早くから朝の訓練をしていたの!
てっきり、逃げだしてしまったと勘違いしちゃっていたけど、ちゃんとそこにいてくれた。
彼は嘘つきじゃなかった。
私の方を見た彼の表情は、酷く青褪めていたけどそれは朝の寒さに凍えていたからだろう。こんな寒い朝に早く起きて体を動かしているなんて、なんとも奇天烈なお方だ。
その後は最初に書いた通り、ウサトさんは城へ行ってしまったの。
私は家の掃除をして、庭の掃除をして、池の掃除をして、花壇の手入れをして、お母様のお墓を磨いたりして、いつも通りの日常を送った。
ウサトさんが帰ってきたのは太陽が真上からやや傾いたあたりだったかな?
聞けば、ウサトさんは一緒にサマリアールへ訪れてくださったお仲間の方々の安否を確かめていたようです。安堵するような表情を浮かべていたから、多分大丈夫だったのでしょう。
良かったら、その方々も来てくれれば……と提案したのですが、ウサトさんは途端に顔を真っ青にして大丈夫、大丈夫、と手を大きく横に振っていた。
どうして断られたのだろう?
今以上のおもてなしをしようと思ったのに。
それでは、今日も素晴らしい一日でした。
おやすみなさい。
2448日目
今日はいつも以上に家が綺麗になった日でした。
ウサトさんは昨日と同じように、早朝に訓練をした後、私に「自分にもなにかできることはないか」と聞いてくれた。
お客様である彼にそんなことをさせる訳にはいかないっ……って思っていたけれど、エイリにもお願いされてしまいやむなく一緒にここのお掃除を手伝って貰いました。
……よく考えれば、何時も一人かエイリと一緒にしかお掃除をしていなかったから、エイリ以外の誰かと一緒にするのは初めてのことだった。
今、この日記を書いている時点で気づいたけど、その時の私は誰かと一緒に、という行動にかなり嬉しくなってしまっていたので、そんな考えに思い至ることはなかった。
でも「分担して掃除しよう」というウサトさんの提案には反対した。
私はこういう時は皆で同じ場所を掃除した方がより綺麗になるから、そっちの方がいいと思ったからだ。
どういう訳か、ウサトさんの目に光が無くなった気がしたけど、彼が心配ないと言っていたからきっと大丈夫なのだろう。
彼を見ていると、なんだか毎日が違って楽しい。
もっとここにいてくれないかな。
それでは、今日も素晴らしい一日でした。
おやすみなさい。
●
サマリアールの城へ訪れてから三日が過ぎた。
その間、アルクさん達の無事を確認する為にルーカス様に、色々訊く様に打診したりしたけど、聞けば宿には男性一人と少女二人が泊まっていると聞いたので、アマコもネアも無事なことを知り安心した。
しかし一方で、この三日間で僕は色々な意味で消耗していた。
この結界内のどこにいても、彼女の視線を感じるのだ。決して広くない場所だから、それもしょうがないかもしれないけど、ふと、後ろを向いたら木や家の影に隠れてこちらをジッと見つめているのだ。
どこのホラーだよ、と思わずツッコみたくなる光景に何度青褪めたか分からないし、何よりこの少女の僕を見る目が悪意も何も感じられない無垢な子供のような瞳だからなにも言えない。
「はぁー」
四日目の朝。
僕は日課の筋トレをするために外へ出ていた。
白んできた空を見上げながら、軽く深呼吸して何時も通りのメニューをこなそうとしていた僕だけど、つい後ろを確認してしまうのは、この三日間で彼女という存在が軽く恐怖になっていることに他ならない。
彼女は儚い―――いや、存在感が無いとでも言うのだろうか。
最初こそは気のせいの一言で片づけられたけれど、僕が何度も気配を悟れずに背後を取られるなんて普通ではない。
「……一体、何者なんだろうな、彼女は……」
病気か、そうではないのか。
一度、手袋ごしではあるけど普通の治癒魔法を施してみたけど、なにも効果は無かった。怪我などの外的なものからのものではないのは確実だ。
残る可能性は、病気のような内側のものか、はたまた別の事情からか……。
「いっそ系統強化を試してみるのも……いや、駄目だ」
僕はまだ完全に系統強化を使いこなせている訳ではない。魔力の暴発の危険がある内は使わない方がいいだろう。
どうするべきか、思案しながら庭を歩く。
すると、視線の先―――白色の石碑があるその場所の前に、誰かが座っている事に気づく。
「……エヴァかな?」
いや、彼女より大きいな。なら、エイリさんか……?
朝靄が立ち込めているせいで、よく見えないのでとりあえず近づいてみる。少し近付くと、その石碑の前に座っている人影が鮮明に見えていく。
石碑の前に胡坐で座っていた男は―――豪華なローブを遠慮なく地面に付け、優し気な笑みを物言わぬ石碑に向けていた。
「ルーカス様?」
「ん? おお、ウサトか。早いな」
「はぁ……」
サマリアールの王、ルーカス・ウルド・サマリアール。
こちらを振り向いた彼が、気軽な様子でこちらに声をかけた。
「どうしたのですか? こんな朝早くから」
「王たる者、誰よりも早く起きなくては示しがつかん―――というのは建前で、日中はどうしても暇が取れないから、こうやってここに来ているのさ」
そう言って石碑を見やるルーカス様。
この三日間、気が引けて訊くことはできなかったけど、この石碑はなんだろうか。
エヴァが大事そうに磨いてはいたから、大切なものなのは分かっているけど。
僕の疑問を察したのか、ルーカス様は石碑からこちらへ視線を向けるとゆっくりと口を開いた。
「これは……僕の妻、エリザ・ウルド・サマリアールの墓だ」
「墓……」
「といっても、この中には誰も居ないんだけどね。この墓は僕のただの自己満足と、母という存在を知らないあの子の為の、せめてもの慰めのようなものだ」
自嘲するように笑みを浮かべたルーカス様は、墓に手を伸ばし、光沢のある表面に手を添える。
真っ白いお墓の表面は驚くほどに滑らかで、凹凸一つ見当たらない。
「ここに、彼女の名前が彫ってあったんだ」
「彫ってあった……? でも、何も……」
「いやぁ、隣国からわざわざ彫刻師を呼びつけて、綺麗に彫って貰ったんだけどね。……あの子ときたら、毎日大切そうに磨いてくれるから、見ろ、削れて名前が見えなくなってしまっている」
「毎日、ですか」
「そう、毎日だ。五歳の頃から十年間、一日も欠かさずエリザの墓を磨き続けている……」
だからあんなに大事そうに磨いていた訳か。
しかも、十年間一日も欠かさず、彫られた文字が削れて潰れるくらいに……。
「なんというか、その、健気……ですね」
「ハハハ、言葉を選んでいるのが丸分かりだよ。正直に言ってみなよ、重いってね」
いや、確かにそう思ったけど、父親の前で娘の陰口みたいなことを言えるはずがないじゃないか。
無言の僕を面白そうにみていたルーカス様は、明るくなってきた空を見上げると「そうだ」と呟きこちらを見る。
「朝食を作らせていたんだが、君も一緒にどうかな?」
「……えーと」
どうしよう、エイリさんが朝食を作ってくれるはずだし、何より朝の筋トレをしようかなって思っていた所なんだけどな。いや、筋トレなら飯を食ってからでも出来るか。
ルーカス様が用意させた朝食か……。エイリさんの作るご飯がまずい訳ではないけど、毎回毎回ほぼ同じメニューなのは流石に飽きる。まだ三日くらいしかいない僕が言うのはアレだけど……。
「安心しろ。コックに作らせる料理は普通のものだよ」
「喜んで行きましょう」
「良い性格しているよ、君は」
即答した僕に苦笑したルーカス様は、立ち上がりローブについた土を払うと、僕の背後を見る。
「じゃ、それでいいかな? エヴァ?」
「は?」
彼の言葉と共に後ろを向けば、僅かに開いた後ろの扉から見覚えのある白い髪とこちらを一心に見つめるエヴァが居る。
彼女はルーカス様の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべると、こくりと頷き手を振ってくる。
何時から―――いや、もう慣れた。本当に気配が無い子だなぁ。ここまで来ると、何かしらの魔法を使っていると疑ってしまう。
「大分、―――になってしまったな……」
「え?」
「ん、なんでもないよ。さあ、お姫様の許可も貰った事だし移動しようじゃないか」
「は、はぁ……」
くるりと結界の出口がある方向に歩き出したルーカス様。
思わず聞き返してしまった僕だけど、先程微かに聞こえたその言葉は―――、
「き、はく?」
きはく……気迫、いや希薄か。
その言葉、そしてルーカス様の苦々しい表情に僕は言い様も無い引っ掛かりを覚えながらも、先を行く彼の後ろをついていくのだった。
●
ルーカス様が用意させていた朝食は、思いのほか普通だった。
映画とかでよく見るような長テーブルにずらりと食べ物が載せられたお皿が並んでいるという訳でもなく、普通の大きさのテーブルに必要な量だけ食べ物が用意されていた。
しかし、王様が食べるものとあって、テーブルもお皿も、フォークまでもが高価そうなものばかりで、料理に関しては、この世界で食べた中で最も豪華な朝食といっても差し支えない程のものだった。
ルーカス様の向かいの席に座った僕以外には、一応の見張りと思わしき数名の騎士が壁際で立っているだけで、他には誰もいない。
早朝とはいえ余りの警備の薄さに、僕は暗殺とか誘拐とかそういう可能性を邪推せずにはいられなかった。
「あの、見張る人がこんなに少なくても大丈夫なんですか?」
「君が僕を害するとでも?」
「いえ、それはありえないのですが……」
「なら、心配はいらないさ。必要以上に警戒していたら信用もなにもないからね。それに、ここにいる騎士達は優秀な者たちだ。間違っても暗殺なんて考えもしないしさせないよ。…………そうだよね、大丈夫だよね?」
言った傍から不安になってどうするんですか。
壁際で佇んでいる騎士を向き、そう訊いたルーカス様。騎士達は皆一様に困ったような表情を浮かべている。
こういうフランクなところもリングル王国の王様と違うところだよなぁ。
「それで、あそこでの三日間はどうかな?」
「……楽しく過ごさせて貰っています。娘さんにも色々助けられていますし」
ルーカス様の問いに愛想笑いを浮かべながら答える。
嘘は言っていない。甲斐甲斐しくお世話をしてこようとする彼女には助けられているのは事実だし。
「ま、あの子は少しやり過ぎなところはあるけど、健気なことには変わりない。いやしかし、まさか三日も保つとは思わなかったよ。君が嫌と言えば、すぐさま城の方へ泊まらせる用意はしていたんだがね」
「……は? まさか僕が音をあげることを考えて、あそこに泊まらせたんですか?」
「ははは」
笑って誤魔化さないでくださいよ……。
「今更変える必要はないだろう?」
「そうですけど」
「なら、いいじゃないか。本当に居ないんだぞ? あの子の異常性を理解した上でそれでも尚一緒に住もうとすることを是とする者はな。常識を振り回し、非常識に接するあの子を不気味に思い、誰もが逃げだしていった……」
常識を振り回し、非常識に接する―――うん、エヴァを言い表す言葉としてはこれ以上に無い程に当てはまる。
僕は救命団関係者や先輩とか、色々な意味で厄介な人たちと関わってきてある程度耐性があるから、大丈夫だったのかもしれないな。
しかし、気になるのはどうしてルーカス様は僕を駄目元でエヴァに会わせようとしたのか。まさか、訪れる人全員をエヴァに会わせているようではないだろうし。
「そもそもどうして僕を彼女に会わせたんですか……」
「いや、これといった理由は無いぞ。しいて言うなら、あわよくば娘を娶って僕の国に来てくれればいいかなーって、そんな期待をしていたりしたけど」
「ちょっと発想が強引すぎないですかねぇ……?」
思ったよりも計画的に嵌める気満々だった……? もしかして、一つ間違いがあったら人生の墓場に直行していたってこと?
何食わぬ顔で朝食を食べながら、恐ろしいことを言う人だ。
「なにを言う。僕は前国王にその強引な方法で王にされたんだぞ。あの時は生きた心地がしなかったけど、この年までなんやかんやで王様をやれてるから色々大丈夫だったよ。それに、あの子は若かりし時のエリザにそっくりだ、若干性格に難があるところも似てしまったが、気立て良し、行動力もあり、何より美人だ」
「そんなこと言われても……」
そんな恐れ多いこと出来るはずがない。
しかも、さりげなく性格に難があるところも似てしまったって……もしかして、そういう所も遺伝してしまったってことなのか? 若干、ルーカス様が遠いものを見る様になっているあたり、彼も色々な意味で苦労していたのかもしれない。
だけど―――、
「エヴァの意思を無視するのは、駄目だと思いますよ?」
ついでに僕のも。
「君という人材を引き込むために、娘を差し出すのも悪くないと思ってね」
「差し出すって、そんな言い方……」
「使えるものは全部使う。それがこの王国の―――サマリアールの未来へ繋がるなら、僕は外道と呼ばれても構わない」
だからといって自分の娘を差し出すとかはないでしょうに……。
そもそも彼女を娶る気なんて欠片も無い。彼女の意思も無視していることもそうだし、僕自身現状ここに来る気はないのだから。
「奴隷や獣人だってそうさ。奴隷の所有と獣人への敵愾心を煽るような風潮も、国政へ不満を向けさせない為のカモフラージュみたいなもので、サマリアールにとって必要なものだから、取り入れている――――獣人の少女と一緒に旅をしている君には悪いけどね」
「……」
「ああ、怒らないでくれ。国民に姿が露見しないように、宿で匿うように指示させたのは他でもないこの僕だ。人質なんかにしようとは思っていないよ。人質で従わせるなんてバカがすることだからね、何時か手痛いしっぺ返しをされるのがオチさ」
唐突にアマコの話を出されて睨んでしまった。
フッ、と息を吐いて気分を落ち着け、肩の力を抜く。
「奴隷は優秀な労働力だけど、この国で奴隷を扱う上で最低限の規則には従ってもらうようにはしているよ。奴隷への暴力・不当な罰・過剰な労働の一切を禁じている―――そんな者を見かけたのなら即座に捕縛させるようにしている」
「ここなら、奴隷という存在が不幸な思いをすることはないと?」
「そこまでは言っていない。そもそも奴隷に身を落とすような出来事があった時点で彼らは十分に不幸だろう。―――だけど、まあ……そうだね、せめて僕の国では不幸な思いをせずに働いてもらいたいとは考えている」
ルーカス様のその言葉に、僕はここに来る前に見かけた奴隷と思わしき少年の姿を思い出した。
礼儀正しく座って、こちらに無邪気な笑みを向けて手を振ってくれた彼からは、不幸とかそんな感じはしなかった。
まだこの国や、あの子のことを良く知らないからはっきりとは言えないけど、思ったよりもサマリアールという国は奴隷にとって、まだ優しい国じゃないかと思えてきた。
「っはぁー、まあ、僕が想像しているようなことじゃなくて素直に良かったと思いますよ」
「僕としては君がずっと無表情でこっちを見てくるのが怖かったよ。君に暴れられたら、例えフェグニスでも止められないだろうからねぇ」
「あはは、それは言いすぎですよ」
「魔力が続く限り動き続ける小柄なオーガなんて悪夢以外の何物でもないよ。しかも、君はやろうと思えばほぼ一瞬で騎士を無力化できるだろう? 数で取り押さえるにしても素早い君を捕えるのにどれだけの人数を動員すればいいか、全く見当がつかない」
僕への対処法が、完全に凶暴な魔物を捕える感じになっているんですけど。
「ははは。全く、なんて化物なんだ。考えれば考えるほど、君を捕えるのが無理な気がして来たぞ! 流石は第二のローズだ!」
「それは褒めてるんですか?」
「勿論さ!」
第二のローズとか化物とかさりげなく言われているし、全く褒められている気がしない。
しかも、結構過大評価されている。僕だって流石に大勢の騎士達に襲われれば、逃げの一手しか無い。どうしても迎え撃たなければならない時は……うーん、一人ずつ治癒パンチで気絶させていく……かな? 僕は先輩やカズキのように広範囲に効果が及ぶ攻撃魔法を持っていないから手段も限られるからね。
「……とにかく、僕をエヴァと会わせたことに関しては特にこれといった目的は無いと?」
「そうだね。あわよくばって思いもあったけど、君の性格上無理なのは薄々分かっていたから、本当になんとなく会わせた感じだよ。ま、結果的にはエヴァには良い思い出を作らせることができたから個人的には満足しているよ」
「思い出……」
表情を綻ばせるルーカス様の言葉に、首を傾げる。
この人はエヴァのことを大切に想っている、それは分かる。だけど、それでも大事な娘であろう彼女を僕に差し出そうとしたり、あの結界の中で暮らさせている。
僕をエヴァに会わせた理由に、彼女を治癒魔法で治して欲しいとかそういう可能性を考えていたけど、それも違っていた。
僕の力では無理だと思われているのか?
それとも、また別の要因で城の中にいるのか?
ただ受け身で話を聞いているだけでは、明確な答えを聞くことはできない。
それなら―――、
「ルーカス様、あの……もしかしたらの話ですが」
「ん? なんだい?」
「僕の治癒魔法なら、エヴァを治せるかもしれません」
これで凡その答えが分かるはず。
治せるのか、治せないのか、はたまた治す必要が無いのか。
僕の言葉に温和な表情を浮かべていたルーカス様が硬直するが、構わず言葉を紡ぐ。
「ですが、今は無理です。恥ずかしながら、僕自身治癒魔法に関してはまだ未熟な部分が多々あり、病気などを治せる腕前とは言えません。ですが、現在習得中の治癒魔法の系統強化を極めれば、彼女を蝕んでいる病気も―――」
「ウサト」
ピシャリと、静かで圧のある声で名を呼ばれる。
あまりの迫力に話すのを止め、ルーカス様と視線を合わせると、彼はどこか悲しそうな表情で口を開く。
「その善意は非常に嬉しいが―――無理なんだ。そう簡単な話じゃないんだ」
「……僕じゃ力不足なら、治癒魔法の系統強化を扱える人がリングル王国にいます。あの人達なら、きっと……」
「違う。違うんだ。確かにエヴァの体には問題があるが、それは病気じゃない。それが無ければ、誰が好き好んであの子をあんなところに閉じ込め、外の世界に望みを抱かないように教育しなければならない?―――ウサト、君は本当に良いやつだよ。彼女の後継にふさわしい優しい心を持っている。だがな、これは―――」
自嘲するような卑屈な笑みを浮かべたルーカス様はそこで一旦言葉を区切ると、脱力するように背もたれに体を預け、力無く―――、
「……これは罪だよ。あの子には何も関係ない、理不尽であまりにもお門違いな―――サマリアールの王族を蝕む死の呪いさ」
そう言い放った。
日記の意味怖(?)
・不安だから、日の出にウサトの部屋に突撃。
・三日目から当たり前のように、早朝のウサトの訓練を見ている。
・分担作業=彼女の視線から逃れる為の苦肉の策。
※ちなみに呪いと書きましたが、ネアの解呪はほぼ通用しません(辛辣)




