第八十一話
お待たせしました。
第八十一話です。
サマリアール。
祈りの国と呼ばれるその場所に、ようやく到着することができた僕達。
ここまで来るのに苦労したけど、僕にとってこれからが本番と言ってもいいだろう。なにせ、ルクヴィスの時とは違い、今度は僕一人がサマリアールを統治している人に書状を渡さなくてはいけないからだ。
サマリアールの外門前へ辿り着いた僕達は、まず外門の中へ入れて貰うべく守衛に話をつけた。
その際には、アマコには白い外套を被ってもらい、ネアには人の姿―――僕達を村娘として迎えた少女の姿に変身してもらった。そして、ブルリンにはネアの代わりに使い魔という立場になってもらった。
ブルリンを見て、守衛は一度身構えた様に見えたけど、そこは僕がブルリンを害のない魔物だとアピールすることでなんとか街へ入ることを認めて貰った。しかし、その時の守衛の挙動がどこかおかしかったのが気になった。
「リングル王国から……。……っ! 分かった。進んでいいぞ、その魔物は街中に入ることはできないが、外門近くの厩舎に馬と一緒に預けておくといい」
ブルリンから僕へ目を見やり、驚愕で目を丸くした守衛の一人は驚くほど簡単に僕達を通してくれた。
通してくれたことは嬉しいけど、なにも言われもしなかったし、国に来た目的を問われもしないのは少しだけ不気味だった。
「……なんか、妙だな。僕のことを知っていたのかな……」
守衛に教えて貰った門の近くの厩舎で、アルクさんと一緒にブルリンと馬を厩舎の中へ入れられるように藁を整えながらそんなことを呟く。
さっきの守衛の反応は明らかに、ブルリンと僕―――いや、僕の団服を見て態度を変えた様に見えたからなぁ。
「その可能性は無いとは言いきれませんよ? 魔王軍の進軍という話題は各国に知れ渡っているはずですから、それに合わせて救命団の活躍もたくさんの人に伝わっている事でしょうし」
……だとしても、その内容が信じられているとは限らないんだよなぁ。
なにせ、治癒魔法はあまりよく思われていない魔法。そんな魔法を使っている人が異常な身体能力で戦場を駆けまわり、沢山の人達を救ったと聞いて、信じて貰えるのだろうか?
……いちいち気にしても意味ないか。
今は何事も無く王国に入れたことに安心しよう。
「……はぁー。それにしても、ネアがやらかさなくてよかった……」
「彼女のことを心配しすぎではないですか?」
「僕が連れて来たといっても過言ではないですから、そこんところはちゃんと面倒くらい見ますよ」
死を受け入れていた彼女の命を救ってしまった。
僕自身と他人の命に責任を持つのが救命団の責任でもあるから、救ってしまった彼女の責任をもつのはある意味当然のことだろう。
「旅の途中では元気に振舞っているように見えるけど、本当は生まれてから一度も出ていない外の世界に不安で一杯のはずなんですよ」
「確かに、そうですね」
「だから僕は―――」
「ちょっとウサトー、遅いわよー!」
……今、君のことを話していたのに、当の本人は呑気なもんだ。
彼女の陽気な声を聞いた僕は、呆れ混じりのため息を吐く。
「……はぁー」
「ははは。さあ、ネアもアマコ殿も待っていることでしょうし、早く終わらせましょう」
藁をどけてブルリンが自由に動けるスペースを確保した僕とアルクさんは、ネアとアマコのいる外へ移動して、ブルリンと馬を厩舎の中に入れる。
ブルリンは気だるそうに一声だけ鳴くと、僕とアルクさんが作った場所に寝転がり、そのまま饅頭のように丸くなって、グーグーと眠り始めた。
「さて、次はどうします? このまま城へ向かいますか?」
厩舎に入り、そのまま寝てしまったブルリンを見届けた僕はアルクさんへと振り返り、これからの予定について訊いてみる事にした。
宿は後で探せばいいし、街を見回るにしても優先してするべきことじゃない、それならこのまま城に直行かな、と思っていたのだけど、アルクさんは首を横に振る。
「いえ、まず向かう所があります」
「へ? どこですか?」
「サマリアールに私たちが到着したことをリングル王国に伝えにいかなければならないので……」
伝えるって、遠く離れた場所にあるリングル王国にどうやって僕たちが到着したことを伝えるのだろうか。
僕の反応に怪訝な表情を浮かべるアルクさんだが、すぐにその理由を察すると申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「あぁ、ウサト殿はリングル王国でも利用する機会は無かったようですし、ルクヴィスでもウェルシー様が送ってくださったから知らないのは、ある意味当然でしたね」
利用? 送る? 何を?
首を傾げながらアマコとネアを見れば「知らなかったんだ……」と呟くアマコと、僕と同じように首をかしげ、顎に人差し指を当てているネアがいる。
よし、ネアは知らないな。流石、引き籠り吸血鬼だ。
「説明するより見てもらった方が早いでしょう。ついてきてください」
そう言い、荷物を持ち直した彼が促した先には、サマリアールの街並みと、一際目立つ塔の頂点に吊り下げられた異様な存在感を放つ銀色の大きな鐘があった。
●
先を行くアルクさんの後をついていき、街の中に入る。
サマリアールの街並みは、リングル王国のような商業然としたものと違って、なんというかゴテゴテした道具がたくさん売られていた。
人もリングル王国にも負けないくらいにいて、活気に満ち溢れている。
はぐれないようにアマコとネアに注意しながら、人の多い通りを歩いていると、前を歩いているアルクさんが話しかけてきた。
「サマリアールは、祈りの国、という名の方が知られていますが、魔具の製作国としても有名な国の一つなんですよ?」
「へぇ、というとここにあるものは、ほとんど……」
「魔具です。日常的に使える様にしてあるものなので、それほど高価でもないのが特徴ですね」
魔具、リングル王国に住んでいた僕にはあまり馴染みのないものだけど、こう店前にたくさん並んでいるのは圧巻だなぁ。
火を起こす魔具とかないかな? また遭難しても火さえあればかなり生きられるし。
「私もここの魔具を愛用させてもらったわ。少ない魔力でかなりの時間を使えるから便利なのよ」
「君は、村から出たことなかっただろ? どうやって買ったんだ?」
「テトラがサマリアールに行く用事があるっていうから、ついでに買ってもらってきたの」
おばあちゃんにお土産を頼む孫じゃねーか。
きょろきょろと、楽しそうに周りを見ながら歩いている吸血鬼さんに呆れていると、後ろから誰かがぶつかって来る。
少しよろけながらも後ろを向けば―――、
「と……アマコ? どうした?」
「……」
アマコが僕にもたれかかるように団服の裾を握りしめていた。
外套で隠れて見えないけど、どこか緊張しているように見える。
彼女のただならぬ様子に周囲を見やると―――すぐにその原因は見つかった。
「あの子か……」
見つけたのは小綺麗な服を着た少年。
ただの少年ではない。
行儀よく椅子に座っている少年の首には、鉄製の首輪が嵌められていたのだ。
「奴隷……か」
安心させるように外套の上からアマコの頭に手を置きながら、リングル王国やルクヴィスでは対面することの無かった、異世界の現実と直面する。
人間に買われた人間。
思うところが無いといえば嘘になる、だけど、これも僕がこの世界で生きていく上で受け入れなくちゃいけない現実。
そんなことを考えていると、ふと奴隷と思われる少年と目が合う。少年は人懐っこい笑みを浮かべると、こちらに小さく手を振ってくれた。
ぎこちない笑みを浮かべ僕も手を振り返すと、後ろで奴隷を見ないようにしていたアマコは一層強く裾を握りしめた。
「不安なら、ずっと掴んでいていいよ」
「……うん」
あの少年の他に奴隷も、商人もいない。
恐らく、あの少年は既に誰かの所有物で、買われた後と見てもいいだろう。
アマコがここまで緊張しているのは、自身が獣人だとバレた時に起こる騒ぎを想像してしまったから……。
今まで、奴隷という現実と縁の無いリングル王国で暮らしていたからこそ、奴隷という存在が日常に溶け込んでいるサマリアールという国に恐怖している。
「すいません、私の配慮不足でした。前まではここまで表立って奴隷がいるような場所ではなかったのですが……」
「いいえ、向き合わなければいけないことでしたから」
アマコの様子に気づいたアルクさんが申し訳なさそうにするが、いつかは向き合わなくてはいけないことなので、彼を責める気にはなれない。
「それで、アルクさん。今、どこに向かっているんですか?」
「あ、はい。もう目の前に―――」
瞬間、アルクさんの言葉を遮り、青色の複数の影が空から滑る様に視界を横切った。
思わずのけぞってしまったが、その影が横切った方向を向くと、少し離れた家屋の二階の屋根に青い鳥が留まっているのが見える。
「ハト?」
青色のハトのような生き物。それが、その一羽以外にも沢山並んでおり、皆一様に背に小さなリュックのようなものを背負っていた。
好奇の視線でハトを見ていると、ハト達がいる二階の少し下に看板のようなものを見つける。
手紙を銜えているハトのマーク、そして隣に『フーバード』と大きな文字で記されていた。
「フー、バード? アルクさん、あそこってもしかして」
「ええ、あそこがまず最初に行く場所ですね」
なるほどアルクさんの言っていた送る、とはそう言う意味だったのか。
「送り宿、フーバード。そこでまず私たちはリングル王国に到着の旨を伝えるのです」
フーバード―――その名を聞いた僕は、もう一度青色のハトを見て感嘆の声を漏らすのだった。
●
送り宿フーバード、とは手紙などを送る団体の総称であり、使役するハトに酷似した魔物、フーバードを使役する集団のことを言うらしい。
元の世界で言えば、送り屋というのは郵便局のことをいい、フーバードは配達員さんのようなもので、配達員さんの役割を担うフーバードの背中に取り付けられたリュックに手紙などをいれて運んでもらうことで、遠距離での情報交換を可能にしているそうだ。
「普通の鳥とは違うの?」
「フーバードは、普通の鳥とは違って、風のように速い鳥なんだよ。それに魔物でもあるから力も強くて、ある程度の重さでも楽々運べちゃうの」
「へぇー」
「それに、送り宿っていう名前は人間が泊まる宿じゃなくて、フーバードが泊まる家っていう意味もあるんだって」
「人間ではなく、フーバードの為の宿ってか。なるほどなぁ」
アルクさんが手紙を出している間、外で待っていた僕はアマコにフーバードについての話を聞いていたけど、凄く興味深い。
本にも名前と生態しか載っていなかったから、こうやって使い魔として人間の助けになっているとは思わなかったからだ。
ひたすらに、フーバードの生態に関心していると、次はネアがアマコを押しのけて話しかけて来た。
「フーバードの生態も興味深いけど、面白いのはあの子達の使い魔契約よ」
「ん? 使い魔契約って、なにか違う所でもあるのか?」
「違う所だらけよ」
みんな同じものだと思っていたけど、ネアから見れば全然違うらしい。
「あの子達の場合は一対一での契約ではなくて、一羽のフーバードにつき主にあたる人物が契約を共有していることなの。大勢で契約を共有しているから、どの国にいてもフーバードにとっての主はそこにいるのよ」
「共有しているからこそ、手紙の受け渡しができる……のか。というより何でそういうのが分かるんだ?」
自分で調べたのか?
それともフーバードを見て使い魔契約の仕組みに気づいたのか?
「ちょっと昔に、送り宿の職員とっ捕まえて聞いたの。さっきあの子達を見て思い出したんだけどね」
「君というやつは……」
無理やり聞き出した話かよ!?
ちょっと待てよ。フーバードの生態と仕組みを聞いて気付いたんだけど、僕がナックに手紙を手渡すようにしなくても良かったんじゃないか?
普通に送っていれば、事前にローズにナックが来るっていう事を知らせることができたのでは……?
……。
ごめんよナック。もしかしたらあの人、僕の手紙をわざわざ読まずに君に何かしらの理不尽なことをするかもしれないけど、頑張って……。
「お待たせしました。報告をリングル王国の方に送ってまいりました。ついでに面白いものを持ってきましたよ」
遠く離れている弟子の健闘を祈っていると、手紙を送って来たアルクさんが、一枚の紙を手にしながら建物からでてきた。
「面白いもの?」
「これです。ウサト殿の御友人について書かれていますよ」
「本当ですか!?」
友人、つまり先輩とカズキのことか!
驚きながら、アルクさんが見せてくれた紙に目を通す。
そこには、各々の国で活躍している犬上先輩とカズキの話が載っている。詳細はほとんど書かれていないけど、決闘トーナメント本戦進出ッ!! とか、魔牛討伐!! とか物騒な単語があるあたり、二人も壮絶な旅を送っているようだ。
「こんな記事を見たら、邪龍なんてあまりたいしたことじゃないな。うん」
「それはないでしょう……」
「それはないよ……」
「それはないわ」
そんな総ツッコミしなくてもいいじゃないか……。
だけど、二人も頑張っているんだなぁ。
二人の活躍を見ていると、僕が頑張らなきゃって気持ちになってくるな。
「ねえ、勇者ってどんな人達なの?」
「ん、ああ……二人は―――」
「やっぱりウサトみたいな怪ぶふぉ!?」
「誰が怪物だ。誰が」
早速、勇者の二人に興味を持ったネアが瞳を子供のように輝かせ詰め寄って来るが、純粋な人間であるはずの僕を、怪物扱いしようとしたので、弱めのデコピンを打ち込んだ。
勿論、彼女の変身が解けないように配慮してある。
額を押さえて、う~、と唸るネア。
「いったぁ~! 何するのよ!? 頭がどこかへ飛んで行くかと思ったじゃない!?」
「安心しろ。手加減してる」
ローズなんて、人が吹っ飛ぶレベルのデコピンを放つんだぞ。
「ウサトの手加減は手加減じゃない。……しかも今、言い切る前にやったよね……」
「ん? なにかな、アマコ」
ボソッとなにかを呟いた彼女に目を向けると、額を守る様に外套を深く被られる。
……しょうがない、今のは見過ごしてやろう。
軽口も言う余裕も出てきたようで、逆に少し安心し―――
―――ゴォ―――ン!!
「っ、うぉ!?」
驚きのあまり肩を震わせながら、大きな音がした方向に目を向ける。
ゴォーン、ゴォーンと何度も繰り返し鳴っているのは、城と同じくらいの高さの塔にある鐘からであった。
「び、びっくりした……って、え?」
空気を通じて振動が伝わるほどの音に顔を顰めていると、先程まで騒々しかった周りが静かになっていることに気づく。
周りを見れば、サマリアールの国の人達がその場で膝をつき黙祷し始めていたのだ。
「な、なんだ、これ……」
僕達以外の全員が祈りを捧げているその光景にひたすらに戸惑っていると、近くにまで歩み寄って来たアルクさんが小さな声で囁く。
「これが、祈りの国の所以です」
「正直、異様ですよ……」
「……そうですね。他国にいた私たちからすれば、この光景は少し馴染のないものかもしれません」
祈り、というよりは信仰に近い。
子供でさえ、小さな手を合わせ何かを必死に祈っている。
祈りの国、最初に聞いた時は特に何も思う所も無かったけど、今目の前で視界にいる人々すべてが無言で膝を屈している光景は―――異様なものに見えた。
「なんか、あれ……気持ち悪いわ」
どこか嫌そうな顔で塔を見ていたネアがそう呟く。
「どうした? 鐘の音に浄化されそうになっているのか?」
「そこまで邪悪じゃないわよ……ッ」
そこそこ邪悪なのは自覚しているんだ……。
ちょっとした事実に驚いていると、不意に鐘の音が鳴りやむ。それと同時に祈りを捧げていた人達が動き出し、また先程のような活気のある街並に戻っていく。
驚きの切り替えの早さだ。
「それではウサト殿。二人をブルリンの元へ連れて行ったら、サマリアールの城へと向かいましょう」
「え……ああ、そうですね。手紙も送ったことですし」
そうだそうだ、書状を渡すことを忘れちゃいけない。
サマリアールのインパクトの強さで危うく、忘れるところだった。
荷物の中にある三枚の書状と、予備の分がちゃんとあることを確認する。
よし、ちゃんとある。それじゃ、後はアマコとネア、それと余分な荷物をブルリンの居るところに送りにいこう。
「それじゃあ、アマコ、ネア。今から君達をブルリンの居るところに置いていくけど―――って」
後ろを振り向けど、ネアとアマコの姿はどこにもいない。
え、は? あれ? 二人ともさっきまで話していたのに、突然いなくなってしまった。
「まさか、犬上先輩みたいにふらふらとどこかに?」
いや、ネアはともかくアマコが僕達になにも言わずにどこか行ってしまう事がありえるのか?
もしかして、誰かに攫われた? いや、あの子に限ってそれは無い。
先輩の時とは訳が違う、ここはサマリアールで亜人を忌み嫌う国だ。
そんな国でどこかへ居なくなる―――嫌な想像が僕の脳裏を過る。
「アルクさんっ、二人が!」
「……まずいですね。書状の方は後回しにして二人を探しましょう」
アルクさんの言葉に頷く。
もしものことがあってからじゃ遅い。
書状も大事だけど、何時でも渡せるソレよりも今居ない仲間を探す方が大事に決まっている。
アマコとネアを探しに、その場から移動しようとする―――が、歩き出した僕の腕をアルクさんが掴んだ。
「……ウサト殿、止まってください」
「っ、どうしたんですか、早く二人を―――」
「後ろを見てください」
アルクさんに促されるままに後ろを振り向けば、城のある方向から数人の騎士達が隊列を組み歩いてくるのが見えた。
それだけでは、アルクさんが僕を止める理由にはならないが、隊列を組みこちらへ進んで来た先頭にいる騎士の視線は明らかに僕とアルクさんを捉えていた。
長大な剣を携えた、ローブと鎧が合わさったような服を着た男―――白髪交じりの黒髪の男性は、僕とアルクさんの前にまで歩み寄ると、低く重い声でゆっくりと口を開いた。
「少し、よろしいでしょうか?」
「……ええ」
なんだ、この人達は。
明らかに僕とアルクさんを見て近づいてきたように見えたけど。
さっさと話だけ聞いて、二人を探しにいきたい。そう思いながら答えると、男は恭しいお辞儀をした。
「―――リングル王国、救命団に所属する治癒魔法使いのウサト様と見受けます」
「……なっ」
どうして、僕の素性を知っている……?
まだ城にも行っていないし、守衛の人にもリングル王国から来たとしてか言っていないはずだ。
もしや、この人達は二人が消えた事と何か関係があるのか?
「ウサト殿、落ちついてください」
「アルクさん……っ、でも」
「彼らはサマリアールの騎士達です。それに……」
僕の肩を掴み諌めていた彼の視線が、目の前で佇む男の腰にある剣に向けられる。
その儀式用を思わせる長大な剣の柄尻には、不格好とも思えるほどに大きな球体があり、それは一定の間隔で点滅を繰り返している。
その剣を数秒ほど見た、アルクさんは目の前の男達に聞こえない程度に声を潜ませる。
「……アマコ殿がここから離れた理由が分かりました」
「え……?」
「彼らがいる前で理由を話すことはできませんが、彼女達は無事です。ですから、ここは穏便に済ませてください」
「……はい」
握りしめた拳を解き、肩の力を抜く。
アルクさんの言葉からして、アマコは自らネアと一緒にここから離れたという事か。
……この人たちと会ったことが原因か? アマコが何かしらの予知をして”この人達に自分とネアが遭遇してはいけない”という結論に至り、僕とアルクさんから離れたと考えれば辻褄が合う。
少なくとも、そう簡単に信用していい人たちじゃないことは確かだろう。
とりあえず、話だけして何かしらの強硬手段に出たら、こっちもそれ相応の応対をすればいいだけだ。
「……貴方は?」
「……失礼、私は騎士長のフェグニスと申します。此度は、リングル王国から遠路遥々お越しいただいた貴方様を御迎えに伺いました」
「迎え? えーと、一体どうして?」
騎士長、軍団長とは違うような役職だけど……なんらかの上役の立場にいる人なのか?
どちらにしても完全に僕の素性を理解しているのは怪しすぎる。
僕の質問に、フェグニスと名乗った人は温和な笑みを一層に深め、ゆっくりと口を開く。
「我が王、ルーカス・ウルド・サマリアール様が貴方様とお会いすることを望んでおります」
「は?……はぁ!?」
サマリアールの王が僕と会う事を望んでいる。
その異常すぎる話に、僕だけではなくアルクさんまでもが驚きの声を上げるのだった。
勇者二人も結構な大冒険をしていました。
次話は、サマリアールの王様との邂逅です。
今回登場した、各国への連絡手段であるフーバードの名前の由来。
風鳥→風バード→フウバード→フーバード
……圧倒的ネーミングセンスの無さ……。




