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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第三章 生と死を操る魔物 
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第七十六話

第七十六話です。


前回はネアの視点で書くとお知らせしましたが、急遽変更してアマコの視点で書かせていただきました。

 邪龍が吐き出した瘴気は屋敷周りを包み込んだ。

 その光景を見たウサトは、ネアに逃げるように叫ぶと共に瘴気の中に飛び込んでしまった。

 ウサトは治癒魔法があるから大丈夫、頑丈だから大丈夫。駆け寄りたい衝動を抑え、状況を見守っていると、瘴気に包まれた館の上方から黒い人影が飛び出した。


「ケホッケホッ……うぅ……おぇぇ……うぅ……」


 ネアだ。

 あの邪龍の瘴気を僅かに吸ってしまったのか、咳き込みながら涙を零した彼女は戸惑いの表情を浮かべ瘴気の中に目を向けている。


「なんて無茶苦茶な……私まで巻き込むなんて……」


 ……今はあの女に構っている暇はない。

 すぐさま瘴気の方へ意識を向ける。常人じゃ耐えられない程の毒の空間に入り込んだ彼は今どうなっているのか。

 すると、瘴気の上方が僅かに揺らめき、何かが飛び出した。

 出てきたのは邪龍の巨大な腕。しかし、その手に握られているものを見て、全身の血が凍るような悪寒に苛まれた。


「ウサト!?」


 邪龍に鷲掴みにされたウサト。

 身動きの取れない彼を見て動揺する私だけど、次の瞬間にはその動揺は恐怖に変わった。

 邪龍が、まるで彼を石ころのように大きく振り上げ洋館に叩き付けたのだ。


「……あ」


 常軌を逸した力で洋館の屋根に投げつけられた彼は、そのまま屋根を突き破り、三階、二階をも貫通し一階に大きな衝撃と、こちらまでに響く地響きと共に地面へ叩き付けられた。

 人間では絶対に耐えられるはずがない。

 あんなのを、人間が受ければバラバラになってしまう。

 ウサトが、死んだ? ―――そんな目の前の現実が受け入れられず、膝をついてしまう。


「ダメ、こんなの、見てない……ウサトがこんなところで、やられるはずがない……」


 彼の死を予知してはいない。

 まだ、私の予知した場面に遭遇していない。

 自分に言い聞かせるように、言葉を紡ぎながらゆらゆらと彼が落ちたであろう洋館の方へ向かおうとする。

 だけど、傍らで一緒に事態を見守っていたブルリンが私を止める。


「ブルリン……?」

「グゥ」


 目の前の彼から感じられた感情は怒りでも悲しみでもなく、信頼に似たものだった。


「心配、いらない?」


 その言葉に得意気な顔でこくりと頷いたブルリンはウサトが落とされた洋館の方を向く。あの程度でウサトがやられる筈がない、そう言いたいのか。

 ウサトとブルリンがどういう出会い方をしたのかは、話だけでしか聞いたことが無い。リングルの闇という場所でブルリンの親を殺した蛇の魔物をウサトと一緒に戦った、結局とどめを刺したのはウサトの師匠って話だったけど、壮絶な出会いなことには変わりはない。

 共に修羅場を潜り抜けた仲だからこそ、ブルリンには分かるのかもしれない。

 ウサトはそう簡単にくたばるような人間ではない、と。


「そうだ。私が動揺しちゃ駄目なんだ。ウサトは大丈夫、あの程度で彼がやられる訳ない」


 私は、彼と出会ってから少ししか経っていないけど、何度も彼の凄さを見てきた。とても人とは思えない動きをするし、性格も突然変わったり、意地悪なこともしてきたり、はちゃめちゃな所があるけど、彼は一度として私を裏切ったりはしなかった。

 今だって同じだ。

 私が信じなくちゃ駄目なんだ。

 彼を信じて、私は自分のするべきことをする。


「ありがとう。ブルリン、おかげで落ち着いた」


 今、瘴気が蔓延している館の近くにいけば毒を食らってしまう。

 そうなればウサトが無事だったとしても、彼の邪魔をしてしまう事になる。だから、私はここで邪龍の動きを予知しながらブルリンと一緒にアルクさんを守る。

 彼の無事を信じて、後ろに下がった私は洋館から瘴気に包まれた邪龍の方を見る。瘴気の近くでは困惑した面持ちのネアが、ウサトが叩き落とされた場所を見つめている。


「ヴ……ヴ、ギャ、ギャヒ」


 耳障りな声が聞こえると同時に瘴気が吹き飛ばされ、邪龍が姿を現す。その背には片方しかない翼が大きく広げられ、あれで周囲の瘴気を吹き飛ばしたのが分かる。

 邪龍はウサトを叩きつけた洋館を見て、嬉しそうに喉を鳴らすとおもむろに腕を振り上げた。

 あんな攻撃をした後に、まだウサトに攻撃しようというのか……!? これ以上は彼の生存が絶望的になってしまう。


「やめなさい!!」


 思わず制止の声を上げそうになってしまった私だが、それよりも早く空を飛んでいたネアが邪龍の挙動を止めた。

 彼女の声に金縛りにあったように固まる邪龍。


「私の許可なくこれ以上の攻撃を禁ずる」

「ヴ……ヴヴ」

「派手にやってくれたわね。もう滅茶苦茶、今日は村の方で寝ることになりそうだわ。んー、その前にウサトの手当てから先? まずは彼を噛んでからにしましょうか……」


 動けない邪龍を前にして、魔力の込もった手を向けた彼女は思案気な顔をしている。

 ひと通り考えを纏めたのか、再び邪龍の方に顔を向けたアイツは訝しむように首を傾げながら、手に込めた魔力をさらに怪しく輝かせる。


「……確かに普通のゾンビとは違うけど、それだけね。私の支配下にある限り、貴方は私の操り人形に過ぎない。能力を解けば、貴方はただの死体に戻る」


 邪龍の体が痙攣する。すると、邪龍の体からネアの魔力と同じ紫色の魔力がアイツの元に戻っていく。

 まるでアレの体を繋ぎとめていた枷が消え去るかのように見える。ネクロマンサーは死体という入れ物に魔力を入れて操る。

 その原理で行くなら、今ネアは邪龍に注入していた己の魔力を自分に戻している、と考えてもいいのだろうか?

 十数秒ほどで、邪龍の体から魔力が抜けきり、痙攣していた体の動きは完全に沈黙する。ただの死体に戻った邪龍を見たネアは、暫し様子を見た後で大きな息を吐く。


「ふぅ―――。なーんだ。結局ただの死体じゃない。何が邪龍よ、ウサトも変なこと言っちゃってさ。変に身構えちゃったじゃない。さーて、彼を捕まえなくちゃ♪」


 くるりと邪竜に背を向けた彼女を見て、私はブルリンに目配せする。

 邪龍がいなければ後はネアとゾンビだけ、それだけなら私とブルリンでも十分に倒せる。見た感じ、彼女が邪龍を再びゾンビにするにはそれなりの魔力が必要なようだし、その間に彼女をボコボコにするなんて訳ない。

 ……若干、私がウサトみたいな考え方になっている感はいなめないけど、これが今の状況での最適解だろう。

 彼女に気づかれないように洋館に脚を運ぶ。

 しかしその最中、ネアの背後にいる邪龍の隻眼が視界に映り込む。


「……っ」


 月明かりが映り込んだ漆黒の瞳。

 その目がぎょろりと蠢いたのを見た瞬間、突如として持ち上がった邪龍の腕が背を向けたネアを鷲掴みにした。


「―――!? なっ、なんで!?」

「枷ハ、消エタ。邪魔ナ魔力モ出テイッタ。邪魔ナ勇者モ殺シタ」


 喋った……!?

 それよりもネアは邪龍のゾンビ化を解除したはずだ。なのに何で邪龍は動いていられるの!?


「感謝スルゾ死霊遣イ。貴様ニ蘇ラサナケレバ後三百年ハ朽チテイクママダッタゾ」

「蘇らせっ!?……貴方は死体だったはず!! 正真正銘のっ、死した肉体には魂は無いっ!! 貴方のどこに魂なんか……!!」

「知ラヌ。ソンナコトハドウデモイイ。我ガココニ存在スルコトニ変ワリナイ」


 ネアをその手に捕まえたまま、大きな体を直立させた邪龍は周囲を見回しある方向を見定めた。邪龍の手の中にいるネアも邪龍が見ている方向にあるものが見えたのか、その顔を真っ青にさせる。

 邪龍が向いている方向には村がある。

 ネアが村娘として過ごしていた場所だ。


「コノ世ニ再ビ、蘇ッタナラバ我ノヤルコトハ一ツ。破壊ダ、皆平等ニ殺ス」

「やめて……!!」

「ナゼダ?」

「あ、あそこは私のものなの、お願いだから何もしないで」


 首を傾げる邪龍にしどろもどろにそう言ったネア。


「貴様ニトッテ人間ハ餌ダロウ? 貴様ノ父ト、アノ村ヲ覚エテイルゾ、アソコハ食糧庫ダ。クズ共ガ家畜ノヨウニ己ガ食ワレル順番ヲ待チナガラ無駄ナ生ヲ過ゴス場所ダ」

「……っ、そうよ。あの村は私のものなの。食糧庫なの、だから手を出さないで欲しいわね」


 邪龍にそう言われたネアは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 しかし、そんな彼女の言葉に邪龍は鼻で笑い、彼女を掴む手に力を籠めた。


「うっ、ぐ……」

「関係ナイ、コロス、アノ村モ国モ大陸モ全部壊ス」

「やめて……手は出さないで。蘇らせたのは、私でしょう?」

「ヴ、ギャギャッ……知ルカ。コウモリ風情ガ」


 不快に笑った邪龍は、そのままゴミを捨てるかのようにネアを洋館の吹き抜けとなった三階に放り投げた。邪龍に握りつぶされ、身動きの取れない彼女はそのまま三階の床に叩き付けられ、視界から消えた。

 彼女がどういった感情で村を庇ったのかは分からないし、分かりたくもない。

 根本の原因があの女にあるから心配する必要も無いけど、邪龍を止める唯一の手段だったネアがやられてしまった今、状況は絶望的だ。


「どうすれば、いいの?」


 立ち向かうべく予知をしても、邪龍に殺されるという結末ばかりが見える。

 邪龍が私たちの方を見ると、ドロドロとした黒い目に見られ、金縛りにあったかのように体が動かなくなる。

 殺される、そんな単語が頭に過った瞬間―――、先ほどネアが叩き付けられた洋館の一階の壁が内側から吹き飛び、何かが飛び出してくる。

 その何かは槍に刃のようなものが取り付けられた武器を振りあげ、目の前の邪龍の下顎に思い切りたたきつけた。


「!?」

「さっきのお返しだァ!!」


 大きく横に傾く邪龍。

 風に靡く白い団服。

 その手に持たれた斧のような刃が取り付けられた槍。

 長大な槍を軽々と持ち上げ、地面に降り立った彼はこちらを振り向く。


「無事だったか!?」


 彼が来てくれたことに嬉しい気持ちはある。

 だけども、彼の―――ウサトの顔を見た私は喜びとは別の言葉を吐き出してしまった。


「こわっ!?」


 何せ彼の顔は、血まみれで恐ろしいほどに剣呑な目つきへと変貌していたからだ。




 あの邪龍に館に叩き付けられた僕は、凄まじい衝撃に晒されながらもなんとか意識を保つことができた。下を見れば瓦礫に埋まった体、上を見れば見事に空まで吹き抜けになった館。

 なんともまあ見事な一撃を食らってしまった。おかげで体中は痛いわ、動けないわで大変だ。

 とりあえず治癒魔法を掛け続けながら、体の動きを邪魔している瓦礫をどかし、立ち上がるとズキンッと先程から上がらない右肩に痛みが走る。 


「いってぇ」


 さっきの落下の衝撃で肩が外れちゃったのか。

 ローズと訓練で何回か脱臼は経験しているけど、やっぱりこれが一番痛いな。なにせ治癒魔法を使っても勝手に治る訳じゃないからな。

 右肩に左手を添え、痛みに耐える為に歯を噛み締める。

 左腕に力を籠め、ゴキリと骨を嵌め直したら即座に治癒魔法を用い、痛めた肩とその周辺を治す。


「ぐっ……」


 腕をぐるぐると回しながら、肩以外に大きな怪我がないかを確認する。

 他に目立った傷は無い。ちょっと頭を切って血こそ流しているけど、それほど重傷じゃない。

 ローズの訓練で同じような威力を体験している僕にとってはさっきの一撃はまだ大丈夫な範囲内だぜ。

 ……笑えないな。全然笑えない。


「体は大丈夫だけど、僕にアイツが倒せるか……だな」


 毒も厄介だが、アイツは頭も良い。

 僕の攻撃が通じない時点で正攻法での勝ちが薄いのは嫌という程思い知らされた。弱点か何かあればいいのだけど……。

 ふと、ネアの書斎から持ち出した手帳のことを思い出す。

 確か先代勇者はアイツの口の中に飛び込んで、中から心臓を刃で貫いて倒したって聞いた。つまりは中からの攻撃が有効なはず。


「だけど、邪龍はゾンビだ。内臓なんて動いているはずがない」


 それに数百年も放置されていた死体だ。内臓なんて腐るを通り越して崩れているかもしれない。

 ―――いや、


「待てよ。なら何で僕が殴った時は……」


 ……もう一度確かめてみる必要があるな。

 もしかするならば先代勇者と同じ方法で邪龍を倒すことができるかもしれない。

 そうと決まれば、直ぐに外へ行こう。

 足元の瓦礫をどかし外へ通ずる出口へ向かおうとすると、横でかろうじて形を保っていた鎧が倒れ、その手に持たれていた長大な槍が甲高い音を立て地面に落ちた。


「……これは」


 長さ二メートルを優に超えるハルバード、余程の大男が使っていたものなのか、持ってみれば中に鉄心が入っているのかかなりの重量がある。

 ……化物相手にはこれぐらい用意しておかなきゃ駄目か。

 幸い、僕が振り回すのに丁度良い重さ―――っ!?


「な、何だ!?」


 ハルバードを手に取っていると、館の上方で何かが落ちるような音が聞こえる。

 まさか、と思い、近くの部屋に入り窓の外を見ると、目と鼻の先に邪龍の姿がある。しかもその視線の先にはアマコ達がいる。


「悠長にしている場合じゃないな……!」


 あの野郎、今度は僕の仲間に手を出そうとするつもりか……!!

 一旦窓から距離を取り、肩に担いだハルバードを両手で握りしめる。 

 出入り口から行く余裕はない。このまま壊していく! 

 力のままにハルバードを横薙ぎに振るう。大きな破砕音と共に砕け散るガラスと壁、それに目もくれずに外へ飛び出した僕は再び武器を構え直し、一気に邪龍目掛けて跳躍する。


「さっきのお返しだァ!!」


 そして、横を向いていた邪龍の下顎にフルスイング気味にハルバードを叩きつける。不意の一撃が効いたのか、邪龍の下顎からは数本の鋭利な歯が砕け、地面に倒れる。


「無事だったか!?」


 邪龍から意識を逸らさずアマコ達の安否を確かめるべく声をかける―――のだが、何故かアマコは僕の顔を見て顔を真っ青にする。


「こわっ!?」


 人の顔見てその反応はどうかと思う。

 彼女の反応に若干の理不尽さを抱きながらも、すぐさま邪龍の方を向き攻撃を試みる。

 奴は既に起き上がり、口元から瘴気を零しながら憎悪に満ちた目で僕を睨みつけていた。


「マダ生キテイタノカ、勇者ガ!!」

「ハッ!! 随分と饒舌になったなぁ!! トカゲもどきがよォ!!」


 怒りの形相で振るわれた爪を避けながら、両手で持ったハルバードを邪龍の脇腹へ叩き付ける。しかし、それも拳と同じように弾かれ、効果がない。

 やっぱり刃物でも駄目か、どんだけ硬いんだこいつ。


「これなら!!」


 武器を左手に持ち替え、右の掌に生成した治癒魔法弾を連続して邪龍の目に投げつけ視界を潰す。小さな破裂音と共に、視界が潰された邪龍は困惑の叫び声を上げながら我武者羅に腕を振り回す。

 だが、即座に奴の斜め後ろに回り込んだ僕には当たらない。


「そぉい!!」


 そのまま邪龍の後ろ脚に蹴りを入れ、バランスを崩し転ばせる。

 ドシィンッと地面を揺らし、邪龍の巨体が倒れ伏す。その瞬間、邪龍の胸部が無防備な状態で晒されたのを見た僕は、ハルバードを地面に突き刺し、無手のまま邪龍へと肉薄する。


「僕の考えが正しければ――――――!!」


 最初に拳を打ち込んだ時とは違い、掌底を邪龍の胸部へ打ち込む。

 それほどの力を籠めていないからか、大した効果は無いけど―――、掌に感じる確かな鼓動に、僕は疑惑を確信へと変える。

 やっぱり、こいつの心臓は動いている。

 どういう訳か分からないけど、確かなことは、こいつには明確な弱点が存在するということだ。ならば、先代勇者と同じ方法で、こいつの体の中に入り心臓を破壊すれば倒すことができる。


「なら早速……ッ」


 起き上がろうともがく邪龍の手足を避けて、口元へ移動しようとする瞬間、脚に力が入らなくなりガクンッと体のバランスが崩れる。

 ……まだ完全に治しきれなかったか……!!

 ここまでで治癒魔法と体力を使いすぎたからか、治癒魔法の効力も僕の判断力も大分鈍ってしまっているのか!!


「貴様ァッ! 奴ト同ジヨウニ我ヲ!!」

「……チッ」


 しかも、奴に作戦がバレてしまった。自分を倒した戦術だ、一目見て僕がやろうとしていることを悟ったのだろう。思考が単純な癖して賢いってのはそれだけで面倒くさいな……!

 体内に入られない為か、さらに濃度の高い瘴気を口から放出し始めた邪龍に舌打ちをしながら、近くに突き刺しておいたハルバードを回収して邪龍から離れ、アマコ達がいる場所にまで下がる。


「だ、大丈夫なの!? ウサト!!」


 アマコが駆け寄って来る。

 膝をつきつつ、治癒魔法を再度体に掛け直しながら、彼女の言葉に答える。


「……正直、あまり大丈夫じゃないな……」


 多分、毒とさっきの怪我が僕が思っている以上に響いている。まだ余裕こそあれど確実に回復する速さが落ちている。その証拠に完全に治したと思っていた脚に異常をきたしていた。

 これでは一際濃度の高い瘴気が充満している体内には入れない。多分、その前に僕の治癒魔法が尽きて、僕は死んでしまうだろう。


「……ネアは?」

「彼女は、邪龍にやられて館の方に……アイツに、邪龍は止められなかったみたい」

「そうか……」


 彼女も駄目だったか。

 とりあえずはアマコとブルリンに手早く邪龍の弱点を話しておくか。奴が僕に警戒して近づいてこない内に次の策を考えなくちゃいけない。

 大雑把ではあるが邪龍の弱点が心臓だと伝えると、彼女は表情を顰める。


「心臓が弱点なのは分かった。けど、どうやって攻撃するの……?」

「そこが問題なんだ。見ろ、奴を……僕が心臓を狙うと分かってか慎重になっている。裏を返せばそれだけ大事な部分ってことだろうけど、唯一の方法である口からの突入も奴が警戒していて入れない」


 本当はさっきで決まっていたはずなんだけどなぁ、……本当に自分の詰めの甘さが嫌になってくる。

 ……悔やんでもしょうがない。どうにかしてアイツの心臓を攻撃する。


「一か八か、毒覚悟で口の中に突っ込んでいくか……」

「私に分かるほどに疲れ切っているのに……。助かるか分からない方法は取らないでよ……」

「でも、毒を超えられるのは……いや、ごめん」


 こちらを哀しそうに見るアマコの顔を見て、考えを改める。

 自己犠牲なんて簡単な道を選んじゃいけない。彼女の為にも、僕の為にも生きてまた旅を続けなくてはいけない。

 それに、自分から命を投げ出そうとしていることをローズに知れてしまったらどんな目に遭わされるか分からない。あの世に行ってもボコりにきそうだ。

 何か別の方法を模索しよう、相手もそろそろ動き出しそうだし何時ものように戦いながら活路を―――、


「ウサト、殿……」

「!」


 不意に、背後から声が聞こえた。

 まさかと思い振り返ると、ブルリンを支えにして起き上がったアルクさんがいた。

 洗脳から解かれたのか、その目には確かな光が灯っている。


「目が覚めたんですね! アルクさん!」

「ええ。……状況は分かっています。操られている間も朧げながらに意識があったので……。それに、先程の貴方の話を聞いて、事態の深刻さも把握しました」


 そう言い、邪魔な甲冑を脱ぎ捨て立ち上がった彼は強い意思が垣間見える瞳で僕を見る。


「私に、考えがあります」



絶体絶命の状況で、目を覚ましたアルクの考えとは……?


ウサトの使っているハルバードは第六十九話にちょろっとだけ出たものですね。

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