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第六十四話

本日二話目の更新です。


第六十三話を読んでいない方はまずそちらをお読みください。

『ぐっ、うああああああああ!!』


 ミーナから放たれる炸裂魔法の余波をまともに受けナックが苦悶の声を上げるも走り続けている。しかし、いかに走ろうが広範囲に破壊をもたらすミーナの炸裂魔法の波状攻撃からは逃れられない。


「ウサト!あの子は大丈夫なのか!?」


「ウサトくん……」


 カズキと先輩がこちらを心配そうに見ている。


「―――ミーナが使っている魔法は言うなれば、ただの炸裂魔法。ウサトさんの用いる系統強化ではありませんが、それなりの威力を持った魔力弾です。彼女はそれを複数生成しばら撒いている。しかし、単純なれどその威力は強力……いかに脚が速かろうとも逃げる場所が限られれば不利になるのは必然。ウサトさん、流石にこれは……」


 ハルファさんの言う通り、逃げる場所が限られるという事はナックにとって絶望的な事だろう。


「ウサト……大丈夫なの?」


 団服を掴むアマコまでもがカズキと先輩と同じような目でナックを見ている。

 ああ、大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。


「それがどうした?たかが安全な場所が無いだけだ」


 そんなものいくらでもどうにかなる。

 僕が君に指し示した道は救命団だ。救命団が走る戦場には休憩する場所も安全な場所も無い。いつ刃物や魔法が四方八方から襲い掛かってもおかしくない状況で活動しなくてはいけない僕達にとってこの程度劣勢でもなんでもない。

 ナック、君は今どんなことを考えてミーナの攻撃を避けようと必死になっている?

 避ける為か?

 チャンスを見出す為か?

 相手が疲れるのを待つ為か?

 少なくとも、さっきの不意打ち以降お前には自分からミーナを倒そうとする意欲が欠けているのは丸分かりだ。


「ふざけるなよ、ナック」


『え?』


 先輩達だけではなく周囲に居る人達の素っ頓狂な声が聞こえるが、そんなことが気にならない程僕は憤っていた。

 僕は君に逃げる為に訓練を施したわけじゃない。

 勝利を勝ち取るために君を訓練したんだ。

 そんなその場しのぎに逃げ惑う為にやってあげたんじゃないぞ。ただ逃げ惑うだけじゃ救命団にはなれない、どんな状況でも自分の課せられた人を助けるという使命を全うするのが救命団だ。


「僕らしくないけど、応援の言葉くらい送ってやろうかな……」


 息を吸うと同時に団服を掴んでいるアマコがひゅっ!?という驚きの声と共に頭の耳を抑える。先輩もカズキもハルファさんも目を丸くして僕が何をするのか見ている。

 構わずに息を吸いこんだ僕は―――。











 空気が熱い。

 吸い込む空気で肺が痛くなる―――。


「がぁ……!!」


 それでも走る脚は止めない。

 いや、止めたらあっという間に炸裂魔法の直撃を食らい意識を手離してしまうだろう。

 まだ止めちゃ駄目なんだ、いくらミーナでもあれだけの魔法を撃ち続けられる訳ない。耐えて、耐えて耐えて耐えて耐え忍んで一気に勝ちへ持って行く。


「―――その姿がお似合いよ」


「うぐぁ……ぁぁぁああ!!」


 足元近くで魔法が炸裂し、吹き飛んだ石が右肩にぶつかる。右半身を後ろに捻り衝撃を逃がすも、続いて襲い掛かる熱風は回避できない。真正面からまともに熱風を受け、思い切り地面に転がり呻き声を漏らす。


「貴方が、そんなだから」


 熱風で地面を転がってしまったせいか、ポツリポツリと聞こえてくるミーナの声も認識できない。

 ただ、感情が籠められていない何時もとは違う声が聞こえてくる。


「いつまでもいつまでもそんな惨めな姿を晒しているから……貴方は駄目なのよ」


 転がってはいられない、転がる勢いを利用して起き上がりその場を離れる。次の瞬間には再び吹き荒れる複数の熱風が眼前で起こる。

 思わず腕で顔を隠し後ろに大きく飛び、走り出す。

 怪我の全てを治している余裕はない、最低限だけ治して放たれる魔力弾の回避だけに集中する。


「だから、もう立ち上がる事の無いよう徹底的にやってあげるわ……ッ。此処を出るという愚かな考えに至る事の無いように―――徹底的にね!」


「……っ」


 いや、ミーナの方を見ちゃ駄目だ。

 見るのは迫り来る魔力弾だけ、そうしないと……あれを食らって、ここで終わってしまう。歯を食い縛り、走る。

 逃げる為に……負けない為に……。


「まだ、耐える……俺は、負けてなんかない……っ!」


「……身を守ってばかりの貴方が!この私に勝てると思っていること自体おかしいのよ!!何でそれが分からないの!?何で受け入れるだけで抗おうとしないの!?何で―――」


「うるさい!」


 炸裂音で認識できずただ耳障りな彼女の甲高い声にそう叫び、回避に集中する。

 いや、回避というのはあまりにもおざなりな、逃げ―――。



『ナッァァァァァァァァック!!!!』



「「!?」」


 頭に叩き込まれるように響く声。

 その声にミーナまでもが、いや此処で見ている人たち全員が動きを止め声のした方を見ていた。俺も体を震わせながら声が聞こえた方向を見れば、そこには怒髪天をつかんばかりに目を剣呑なものに変えたウサトさんが、腕を組み立っていた。


「ウサト、さん」


 自分でも驚くほどの掠れた声で彼の名を呼ぶ。

 見て分かる程に怒っている彼にどんなことを言われるのかが怖かったからだ。



「逃げるな戦え。バカ野郎」



 それだけ言ってウサトさんは、黙った。

 あまりにも簡潔過ぎる応援と罵倒に俺は呆然とするしかない。ミーナも訳が分からないのか、困惑するように俺とウサトさんの顔を交互に見ている。

 特別な意味なんてないのは分かる。

 言葉通りの意味で、この言葉以上に俺に効く言葉は無い。


「は、ははは……んな無茶な……」


 逃げるな、か。

 回避させる訓練をあれだけさせておいてどういうことなんだろうか。最初はそんなことを思い、ムッとしてしまったが次第に先程までの自分の動きを思い出し恥ずかしくなる。

 ウサトさんの言っている事と俺が考えていたことは全く違っていた。

 最初戦っていた時の様な勝つために逃げていた時と、ついさっきまでミーナの攻撃から逃げていた俺の行動原理は全くの別物だったからだ。最初は倒してやる、という感じで息巻いていたけど、今では心底ミーナを怖がって……逃げる事しか考えていなかったんだ。

 嘗めていたのはどうしようもない程に俺で、ミーナはむしろ本気で俺を倒そうとしてくれていた。


「本当にバカ野郎だな。俺は……」


 調子の良い事を言っておいて逃げてばかりだった。

 やろうと思えばどんな怪我をしても耐えられたはずだ。でも……痛いのは嫌で、負けたくなくて、ミーナと真正面から立ち向かいたくなくて逃げていた。

 カッコ悪くて無様でそれでいて昔の俺から全く変わっていなかった。


「でも―――」


 力の限り両の頬を叩く。

 もう目覚めた。俺はもうミーナからも逃げない。


「ありがとうございます!!」


 きっと皆はウサトさんの言葉の意味が分からないだろう。

 もしかしたら絶体絶命な俺に無理難題を押し付けている最低最悪の師匠に見えるかもしれない。俺自身、少しそういうことも思ってもいないけど、実際は全然違う。

 ウサトさんは俺のことをちゃんと分かっているし、俺もウサトさんの優しさも厳しさも知っている。だから伝わった。逃げちゃいけないって、立ち向かうって……だから俺はウサトさんの言葉通りに、ミーナに立ち向かう。


「―――無茶な事を言うものね。こんな状況で」


「最高の師匠だ。逃げ腰だった俺を立ち向かえるようにしてくれた」


「そう、でもね。それで私を上回るとは思わないでね?」


 ミーナの両手に生成される十の魔力の塊。

 すぐにでも放てる体勢にあるのだろう。さっきまでの俺なら既にこの場から離れているだろうけど、今の俺は違う。


「フゥー……」


 集中し治癒魔法を全身に纏う。

 先程までは最低限しか展開していなかった治癒魔法だけど、今度は全力で纏う。


「お前を倒す」


「出来ない事は言うものじゃないわよ?」


「ああ、もう言わない。だから……これが最後だ」


 走り出す。

 回避する為じゃない、倒すためにミーナが居る方向目掛け走り出す。当然の如く、魔力弾を撒き散らすようにばら撒く彼女だが、もう俺は逃げない。どんな威力の炸裂魔法だろうと立ち向かう覚悟はできている。

 顔を守る様に腕を十字に構え突き進む。


「お、おぉぉぉぉ!」


 ばら撒かれた炸裂魔法が最初の着弾で砂利と小石を弾き飛ばし身体を傷つけるがそれでも走る脚を止めない。こんな痛み、今まで苛められてきた長い苦しみに比べれば何でもない。


「っ……おぉぉぉ!!」


 次にはじける様に吹く熱風。

 焼ける様に全身を熱にさらされるが、これも親に見捨てられた喪失感に比べれば何でもない。

 気付かない内に目から止め留めない程の涙が流れているが、構わず治癒魔法の行使を続け突き進む―――。


「ナック貴方……!チッ!?」


 舌打ちと共に最後に放たれたのは俺目掛けて真っ直ぐ近づいてくる魔力弾。咄嗟に作り出したものだから威力もそこまで無いと見えるけど大きくて、俺を気絶させるには十分な威力が伴っている。

 普通なら避けるべきだろう。

 でも俺は治癒魔法使い、どんな逆境も不条理もその身一つで乗り越える魔法使いだ。

 痛みなんていくらでも我慢できる!

 走りながらボロボロになったシャツを破き、右拳に巻き付けそのまま振りかぶる。


「砕けろぉぉぉぉぉ!!」


「な!?」


 魔力弾に右拳を叩きつける。

 爆炎が俺を包み込み、先程とはまだ違う息苦しさと喉が焼ける様に痛みが襲う。あまりの痛みに叫びすらできない―――が、意識はまだある。


「ッ―――――!!」


 辛うじてボロ布が残る傷だらけの右手で炎を払い、炸裂魔法を掻き消す。腕を振り切った先に居るのは、目を見開きながらも盾を構えるミーナの姿。

 ようやく向き合った。

 ようやく向き合えた。

 正面から向き合ってみて自覚する。

 やっぱり俺はミーナが怖かった。

 日記に書いていた事もお前に言った言葉も全てお前にビビっちまっている自分を偽り、隠す為の虚勢だ。臆病な自分を誤魔化して、挙句の果てに無意識に逃げていたバカ野郎が俺だ。


「ッ―――ぁあああああ!!」


 震えてもつれそうになる足を必死に立て直し、脚を踏み出す。

 蹴りの為の足も上がらない、右手も上がらない。

 でも何も出来ない訳じゃない。そんな技に耐えなくても俺にはこの体がある!!走れるこの脚がある!!

 掠れた雄叫びと共に力強く地面を踏み、眼前の彼女へ走り出す。


「そんな体で何ができるというの!?もうやめなさい死ぬわよ!?」


 全力で踏み出し倒れる様に走る。

 誰が見ても何もできないように見える筈だ。

 でも、ウサトさんはきっとどんな状況だってその身一つでなんとかして見せる筈だ!!

 そしてこれが俺のあの人に、救命団の一員に成る為の大きな一歩!!

 全力でミーナの盾に体当たりをぶつける!!


「体当た―――ぐっ!?」


 蹴りの様な吹き飛ばす威力とは違う、体当たりは当たってからが勝負。

 盾と言う壁に力の限り激突し左肩から嫌な音が聞こえるが、盾の後ろで耐えるミーナに構わず、脚を踏み出しそのまま押し込む。

 地面に突き刺さった盾の先端がつっかえになっているが気にも留めずにそのまま進む。


「俺はッ、お前が怖かった!お前の顔なんて見たくなかった!!お前を見ていると……ッまだ俺を愛してくれた両親が居た時の……貴族だった俺を思い出しちまうから!!」


「……っ!!」


 未だ目から涙は溢れている。

 盾の後ろから俺の顔を見たミーナは、ただ耐える様にくぐもった声を出すだけ。


「でも今日ここで終わりにする!!今日から……今日から俺は……!!救命団のっ……!!」


 独白でも構わない。

 ただお前と過去と決別するために宣言しなくてはならない。


「治癒魔法使いにッ、なるんだァァァァ!!」


 そう叫び、さらに盾を押し込めると、盾の中心の凹んでいた部分から延びていた亀裂が地に突き刺さっている部分にまで達し―――そのまま真っ二つに割れる。

 盾が真っ二つに割れ、阻むものがなくなった俺はそのままミーナへ渾身の体当たりを叩きこんだ―――。









「はぁ……はぁ……」


 渾身の体当たりによって吹き飛んだミーナが地面へ叩き付けられる。

 その様子を息を切らしながら見て、膝をつく。魔力がほとんどないし体が痛いし、もう色々疲れた。


「……やった……これ、勝ったのか……?」


 若干霞掛かった視界のまま周囲を見ると、目の前の光景が受け入れられないとばかりに口を閉口する学生達と、安堵するように息を吐くウサトさんが見える。

 そうか、俺、勝ったんだ。

 不思議と勝利の喜びとは別に安堵感の方が大きかった。


「まだよ……まだ終わってない……」


「っ!?」


 倒れ伏していたミーナが口から血を吐きながらも、異様な執着を見せた瞳で俺に魔力を籠めた手を向けていた。

 身構えようとするも身体に力が入らず、それどころか脚から力が抜け座り込んでしまう。


「貴方に負ける筈がない。貴方を出す訳には、いかない、のよ……!」


「何で……」


 何でそこまで俺を出したがらない……?

 何で俺なんだ。俺以外にも他の誰かがいるじゃないか。そこまで俺に執着する理由が分からない。得体のしれない恐怖に身を竦ませる。


「ナックくん!離れるんだ!!」


「ハルファ、さん?」


 ハルファさんが血相を変えて叫んでいる。

 どうしてそんなに話した事の無い俺にあんな慌てて叫んでいるのだろう。ボーっとした思考のままミーナの方へ向くと、彼女はその手に再び魔力を集め何かをしようとしているのが見える。

 しかし何かが違う。掌に魔力弾を集中するのではなく、魔力を手に集めて―――まるでウサトさんがしていたような―――。


「ナック!系統強化だ!待ってろ、今そこに行く!!」


「……え?」


 系統強化。

 確か、カーラ先生が言っていた熟練した魔法使いが使うような難しい技術だって。でもミーナがそれをやって、ハルファさんとウサトさんが血相を変えているということは、かなり危ない事なんじゃないか。

 ましてや炸裂魔法を扱うミーナだ。生まれ持った魔力と炸裂魔法という系統の魔法で、系統強化―――いや系統強化による暴走なんてされたら俺だけじゃなく此処に居る人達もただでは済まないだろう。


 逃げなきゃ。

 逃げなきゃ爆発に巻き込まれて死ぬ。

 そう思い、立ち上がろうとして気付く―――。


「……は」


 呆然としている場合じゃない。

 逃げようと思っている場合じゃないだろ……ッ。

 例え、此処に住んでいる人たちが俺を見捨てた事のあるような人たちでも助けない理由にはならないだろ。それこそ救命団失格だ。


「ナック!?何を―――」


 こちらに走り出そうとしているウサトさんを一度見てから、ミーナへ走り出す。左腕は肩が折れて使えない、なら火傷を負った右手を使うしかない。残りの魔力全部を使って右腕へ―――我武者羅に魔力を籠め、震える膝を叱咤し無理やり立たせる。


「手放してたまる、もんですか……貴方を……!出させたりは……」


 込められた過剰な魔力が彼女の手を傷つけるかのように裂傷を与え、溢れる。痛みに涙し、それでも俺を倒そうとしている彼女に俺は言い様の無い気持ちを抱きながらも、走る。

 俺を虐げてきた彼女でも死んで良いなんて筈がない。彼女を含めて皆を助ける。その為には彼女を気絶させなければならない。

 まだウサトさんは遠い―――俺が終わりにするしかない。


「終わりにしよう……」


 直ぐに彼女の眼前に辿り着き、振り上げたこぶしをただ振り下ろす。俺を見上げた彼女は何時か俺を見た時の様に執着が籠められたような眼でこちらを見る。

 瞬間、彼女の手が眩い輝きを放つ―――が、こちらも右拳に治癒魔法の光を灯し彼女に拳を振り下ろした。


「―――ぁ」


 拳に確かな手応えを感じたその後、霞んだ視界に光が広がる。

 俺かミーナの魔力の光かそれは分からない。

 でも……懐かしい、そう思える光だ。全ての力と魔力を振り絞ったからか光で視界がおぼつかないまま、ぐらりと体が崩れる。

 地面に倒れそうになると、誰かが俺を支えてくれた。

 ようやく視界が晴れ、支えてくれている人を見れば―――。


「ナック、大丈夫!?」


「ウサト……さん」


 額に汗を滲ませたウサトさんが、安堵に息を吐き俺を抱きかかえていた。抱きかかえられている腕から暖かいオーラが感じられていることから治癒魔法を施してくれているようだ。


「良かった、無事だったようだね。怪我も大したことないし……うん、直ぐに治すよ」


「ミーナは……」


「無事だよ。君が気絶させて、込められた魔力も指向性を失って霧散しちゃったんだ」


 間に合ったのか。

 気絶させればなんとかって思っていたけどよく考えれば危ない橋を渡っていたのは確かだ。今更ながら自分が置かれていた状況を自覚し体の芯が冷たくなるような感覚に陥る。


「君のおかげで僕を含めた皆を助けることが出来た。誇っていい」


「俺、本当に……」


「ああ、救命団に入る資格が十分にある。しかも―――」


 未だ動けない俺を持ち上げたウサトさんは、ミーナが見える方向を向いてくれる。

 向いた先には気絶しているミーナがいる。でも、さっき見た時と違う点に気付く。


「君の治癒魔法も、本来ある形に戻ったようだしね」


「……ぇ」


 怪我が無くなっている。

 俺がさっきの戦いで与えた傷も、ミーナが自らの系統強化で負った傷もまるで元から無かったかのように綺麗さっぱりなくなっている。

 無事な彼女を見て、思わずウサトさんの顔を見てしまう。


「僕じゃないぞ?一番に駆け付けた時には彼女はもう治し終わった後だったからね。だからこれも君がやったことだ。理屈は分からないけど……君の助けたいって思いがまた他人に治癒魔法を使えるようにしたんじゃないのかな?」


「助けたい思い……」


「僕達治癒魔法使いにとって一番欠けちゃいけないものがそれだ。それを最後の最後で君は取り戻した。過去の因縁を断ち切って、尚且つ自分を虐げてきた周りと彼女を助けるということでね」


 ウサトさんの言葉を聞いた俺は右手に魔力を籠めた。

 もう魔力が底を尽きかけているので指先ぐらいの治癒魔法ぐらいしか行使できないが、しっかりと小さな緑色の光が指先から浮かんだ。それがどうしようもなく大切なものだと思った俺は光を包み込むように握りしめる。


「ずっと一緒だった……でも、辛い時に自分のことしか考えられなくて……他人の事なんて気に掛けないほど苦しんで……気付かない内にしまい込んで……でも……今、ようやく戻りました……もう絶対に離したりしません。俺は、この思いを二度と忘れません……ッ」


 握りしめた拳を額に押し付け、上擦った声でウサトさんに話す。

 黙って話を聞いてくれたウサトさんは、にっこりと柔らかな笑みを浮かべると俺を抱えたまま歩き始める。


「今の君なら昨日以上の訓練に耐える事だって可能だし、団長も文句なしに入団を許可してくれるだろう。……何はともあれ君は頑張った……あ」


「……?」


「さ、君の勝利を真っ先に祝いたい人達が来るぞ」


 涙を拭い、ウサトさんの歩く先を見る。

 すると今まで俺を支えてくれた人たちがこちらに来るのが見えた―――。


最後の最後にナックは失くしたものを取り戻すことができました。



次話で第二章を終わりにできれば、と思っています。

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