第五百二話
二日目二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。
第五百二話です。
イアヴァ村に行くネアを見送った後、僕は予定通り先輩と一緒にカズキの待っている城の訓練場へと足を運んでいた。
訓練場には既にカズキとセリア様が待っており、そのまま僕とカズキは軽く流すようにいつもの魔力弾回しの訓練をこなしつつ、先ほどネアがここから出発したことを話した。
「へぇ、ネアは故郷の村にかー」
「うん。ネアも心配だったんだろうね」
いつものようにカズキが飛ばしてくる魔力弾を魔力弾回しで受け流し、弾く。
もうこの訓練には慣れているので、今では普通に話しながら淀みなく魔力弾に対処できるようになった。
「ウサトも行ったことあるんだろ? どういう所だったんだ?」
「長閑な村って感じかな。色々あったけれど、村の人たちも親切ですごく良いところだったよ」
良い所だからこそ、ネアが心配する気持ちもよく分かるんだよな。
たった一年といえばそれまでだけど、その間に世界的にも色々なことが起こりすぎた。
主に魔王軍との戦争が終わったとか、悪魔関連の騒ぎとかで。
「今はそこまで忙しい時期ってわけじゃないし、ちょうどいいかもな」
「そうだね。僕もここしばらくはずっと訓練しかしてないよ」
「お前は訓練のし過ぎなんじゃないか? ちゃんと休んでるか?」
心配するような感じで言われてしまった。
肩に当たる魔力弾を受け流しながら、僕も苦笑いを返す。
「休息自体はちゃんととっているから大丈夫」
「……」
「え、どうしたの?」
「いや、今のウサトを見ていると休んでいる姿が全然想像できなくて」
「僕マグロかなんかだと思われてる?」
そんな常に動いでいるイメージなの?
「真面目にウサトって休日になにしてる?」
「本とか読んだり、部屋の掃除とかやってるな」
「……ふ、普通だ……」
普段、カズキが僕に対してどんなイメージを抱いているのかなんとなく分かった気がする。
こ、これはあれか? 普段の行いというやつなのか?
「っ、そろそろ集中が切れてきたね」
「そうだな。休憩しようか」
カズキが魔力弾を放つのを止め、僕も構えを解いて全身を循環させていた魔力弾を消し去る。
軽く深呼吸をしてからカズキと一緒に、見学している先輩とセリア様の元に戻ると、二人とも僕達と同じように近況を話し合っていたのか会話に花を咲かせていたようだ。
「救命団の生活は私が思っている以上に充実しているよ。だから心配は無用さ」
「ふふ、うまく馴染めているようで安心しました。……あ、カズキ様、ウサト様、ご休憩でしょうか? ではこちらに」
セリア様が、侍女さん達が用意してくれたテーブルに座るように促してくれるので、厚意に甘えて席に座らせてもらう。
「ウサト君、次は私との訓練を所望させていただこう」
「先輩とですか? いつものように手合わせでいいですか?」
僕の言葉に先輩は首を横に振る。
「いいや、先ほどカズキ君とやっていた魔力弾の応酬みたいなものをやろう」
「でも先輩の魔法は魔力弾というより、放電って感じですけど」
できなくはないんだろうけれど、先輩は魔力弾ってイメージはあまりない。
「一定の形のある魔力弾から、私の魔法のような不定形の電撃を受け流す訓練も面白そうかなって思ったんだ」
「なるほど、確かに」
「それで、その次が今度はウサト君の魔力弾を私が対処し、またその次は私とカズキ君、そして立場を交代して訓練だ」
「僕の魔力弾で訓練になるんでしょうか?」
「……ウサト君の剛速球は治ると分かっていても怖いんだよ?」
力任せに投げているだけなんだけどなぁ。
一応、一回くらいは曲げたりはできるけど。
困ったように頭に手を置いていると、先輩の傍にいたセリア様が僕たちに声をかけてくる。
「フフフ、ウサト様は変わらず訓練にご熱心ですね」
「ははは、もうこれが習慣みたいなものですからね。……あっ、ということは訓練も趣味か」
「それじゃあ、毎日趣味じゃんか」
カズキが苦笑しながらそうツッコんでくる。
先輩が「ん? 趣味の話かな?」と興味深そうにしているで先ほど訓練しながらの雑談を彼女に話すと、先輩が椅子の背もたれに背中を預けながら自信満々な様子で口を開く。
「ウサト君、カズキ君。因みに私は休日は観葉植物の世話と、ウサト君と同じく読書が趣味だ」
「元の世界にいた時みたいにサボテンみたいのを育ててるんですか?」
そういえば、元の世界でサボテンを育てていたとか結構前に言ってたな。
……最初に魔王軍と戦う前だったっけ?
「植物はいいよ、カズキ君。元の世界で私の孤独な心を癒してくれた友達だ」
「唐突に闇を出し始めるのはやめてください」
「おっと今は違うからね? 孤独じゃなくてもハナちゃんは友達だ」
「名前もつけてる……」
この人の家庭の事情を聞いてから、ちょくちょく闇を見せてくるようになったな。
でも、それを明かすことに躊躇がなくなったって考えると間違いなくいい傾向ではある。
「因みに例の本の進捗の方はどうですか?」
例の本、先輩がカームへリオで大人買いした僕と先輩をモデルにした小説について、先輩はどれだけ読み進めることができたのだろうか?
「フッ、最近棚に供え物にしたよ」
「もう別のものになってるじゃん」
思わず敬語が剥がれてツッコんでいると、例の本について分からないカズキとセリア様が不思議そうな顔で「例の本ってなんだ?」と尋ねてくる。
その質問に僕と先輩は顔を見合わせ、同時に目を逸らせる。
「「……」」
「え、なんで無言になるんだ? 例の本ってそんなにやばいもんなのか?」
じ、自分から話題を出したけれど言えない。
しかしここで言わないのは逆に怪しすぎるので、変な誤解をされる前に二人にはちゃんと説明しておこう。
僕と先輩をモデルにした小説と説明すると、カズキはちょっと引いた様子で口元に手を当てる。
「……うわぁ……なんだか大変なことになってるな。因みにそれに俺って出てる?」
「又聞きだけれど、カズキはそこまで変わってない、らしい」
ネア曰く「カズキはそれほど元の人物と乖離はないわね。王道よ王道、ウサトと一緒に出てくると笑うわ」らしい。
僕と一緒に出てくると笑うってもう失礼じゃないかこれ?
「それはそれでなんか嫌だな!? 俺だけフィルターなしの登場人物になってるってことだろ!?」
「カズキは王道だからね。僕と違って……」
「カズキ君は真っ当だからね。私と違って……」
「二人のキャラは一体どんなことになってるんだ……? え、怖……」
自嘲気味に笑う僕と先輩にカズキは顔を青くさせる。
そんな僕達と他所にセリア様は特に引いた様子もなく先輩に話しかける。
「スズネさん、後で小説を貸していただくことはできますか?」
「ヴェ……え、いや、そ、そそそそそれは遠慮したいな……」
ものすごく挙動不審になりながら断る先輩。
でもそんな意味深な反応の先輩にセリア様も興味を抱いたのか、にこり、と笑みを浮かべる。
「分かりました。では、カームへリオから取り寄せさせていただきたいと思います」
「別の国で出版されてるから入手に時間がかかるんじゃないかな……?」
「お父様にお願いしてみます」
「王女様の権力をフル活用しようとしてる? 普段そんなこと絶対しないのに!?」
まずい、このままではリングル王国に本の内容が伝わってしまう。
しかし、止めようにもどうあっても興味を引いてしまうことしか言えないので、あわあわ、と途方に暮れてしまう。
「カズキ、セリア様を止めてくれ……」
「見るのは怖いけど、内容そのものは俺も気になるから……ん?」
カズキを空を見上げて怪訝な顔をする。
僕達もやや遅れて後ろへ振り向くように空を見上げると、こちらに近づいてくる青色の影に気付く。
「フーバード? ウサト君宛てかな?」
「いえ、僕が契約している子はいつも宿舎の窓に留まっているので……」
「多分、俺が契約している子だな」
席から立ち上がったカズキが軽く腕を掲げると、その腕にやや小さめなフーバードが留まる。
よく見れば、ものすごく疲れているように見える。
「カズキ、その子に治癒魔法をかける」
「ああ、頼む」
カズキが手紙を受け取ったところで、フーバードに治癒魔法を当てる。
フーバードがこんなに疲れるだなんて、よほど急いでここまで来たんだろう。
「これは……俺宛て……フラナからだ」
「フラナさんから? いったいどうしたのでしょう?」
手紙を受け取ったカズキがそれを開き、隣に近づいたセリア様と一緒に読む。
読み進めていく音にカズキとセリア様の表情は硬くなっていく。
「……なにかあったんでしょうか?」
「分からない、が。只事ではないような感じではあるな」
近況報告かなにか……なんて、そんな軽いものじゃなさそうだな。
確かフラナさんは今、エルフの隠れ里に帰郷しているって話だけれど。
手紙を全て読み終えたカズキは、真剣な表情のままセリア様と顔を見合わせる。
「お父様に話を通してきます」
「頼む。ウサト、先輩。一緒に来てくれ」
「分かった」
今この場で立ち止まっている時間が惜しい。
短く返事し、カズキについていく形で先輩と共に城へと足を踏み入れる。
その間に、セリア様が侍女に指示を出し情報を共有し始めているからか、城を進んでいる間に情報が伝わり場内が慌ただしく人が動き始める。
「カズキ君、フラナの身に……いや、エルフ族になにかあったのか?」
先輩の問いかけにカズキが頷く。
「フラナの故郷、エルフ族の隠れ里が襲われているみたいです」
「襲う? 誰が?」
隠れ里が襲われるだなんて只事じゃない。
まさか、人間が襲撃をしかけているのか?
「正体は定かではありません。……フラナからの文によると里を襲っているのは、人間でも魔物ではない黒い影のようなもので―――俺が以前、里で相対した“暴食の獣”に酷似した何か、らしいです」
僕が邪龍、先輩が雷獣、そして同時期にカズキが相対したという暴食の獣。
確か森を食らう恐ろしい存在と聞いていたが、それがどうして今里を……?
「詳しいことは手紙からじゃ分かりません。でも、一つ言えることは事態が切迫していることと、フラナがリングル王国に助けを求めているということです」
リングル王国へ救援を求める時点で相当な事態だろう。
救命団の派遣の可能性もあるので、僕自身気を引き締めていると、隣を歩く先輩が微妙な顔で僕へと話しかけてくる。
「ウサト君、このような切迫した状況でこんなことを言うべきではないだろうけれど……」
「いっそのことはっきりいってもらった方が僕も楽です。……さあ、どうぞ」
「……フラグ乙ッ……!!」
その言葉ってそんな苦渋に満ちた顔で言うことってあるんだな。
というより、ネアがリングル王国を出て半日も過ぎていないのにどんな運命持ってんだよ僕。
どんよりと落ち込んでいると、先頭を歩いているカズキが不意にこちらを振り向いた。
「そういえば、ウサトってフラナが帰郷してるって言った時から胸騒ぎがしてるって言ってたな……」
「……あっ、ウサト君……」
「もう僕、変なこと言うのやめようと思います」
口に出さなくても胸騒ぎ感じただけでフラグ回収とかどうしようもないじゃん。
それに、ネアに散々口酸っぱくして言われてもう騒ぎがあっちからやってくるとか、いよいよ僕は妙な運命に呪われている気さえしてくる。
まさかの即日フラグ回収。
第四百七十二話あたりでもう胸騒ぎを感じしていたウサトでした。
閑話か登場人物紹介を更新した後に第十九章へと移ります。
今回の更新は以上となります。




