第五百話
ご報告いたします。
外伝コミックス『治癒魔法の間違った使い方~誘いの街・レストバレー~』の3巻が明日8月18日より、発売いたします!
外伝のウサト達の物語もとうとう佳境に……!
こちらもどうぞよろしくお願いいたします!
そしてお待たせいたしました!
第五百話です!
ミリアとベルさんが実家に帰ることになった。
彼女がここで長く滞在していたことを自覚してから三日くらいしか経っていないこともあり、もう少しここに滞在してもいいと思いはしたが、ミリアの決意は固いようだ。
二人がリングル王国を出発する日、宿舎の前で彼女達と関わった救命団員全員が見送りを行うことにした。
先に女性陣との別れの言葉を終え、その次に強面達がニヤニヤとした面持ちでミリアとベルさんの前に出てくる。
「へへ、ナックのことは俺たちに任せなぁ」
「ああ、俺たちがしっかり守ってやるからよぉ」
「それが大人の責任ってやつだからなぁ」
「まあ、ここまで来る行動力があるんだ。下手な心配は無用ってやつか」
「兄貴と同じく大したガキだったぜ」
「は、はい、ありがとうございます……!!」
「坊ちゃまのことを、何卒よろしくお願いいたします」
傍から見たら何事かと思うけれど純粋な厚意で激励の言葉を贈る強面達に、ミリアも顔を引きつらせながらお礼を口にし、ベルさんは綺麗なお辞儀をする。
しかし、こいつらわざとやっているのか……? いや、こいつら普通にいい奴らではあるから無自覚なんだろうな。
……っと、次は僕だな。
トング達と入れ替わるように僕が二人の前に移動する。
「短い間だったけれど、ここの生活は楽しかった?」
「はい……とても……とても楽しかったです。家では決して体験することのないような出来事がたくさんあって、その全てが私にとって大切な思い出になりました」
胸に手を当てそう言ってくれるミリアに頷き、僕は地面に膝をついて彼女と視線を合わせる。
「君の立場は朧気ではあるけど僕たちも分かっているつもりだ。その上で言うけれど……辛くなったらここに戻ってもいい。僕を含めた救命団員全員が歓迎するから」
「……いいのですか?」
「ああ、もちろんだ。だよな、お前ら」
後ろのトング達に言い放つと「テメェに言われるまでもねぇだろ」「当たり前だろ筋肉バカが」「なに良いこと言おうとしてんだ」と呆れ混じりの返事がくる。
「ね? だから、僕達のことは気にせずに頼ってくれ」
「はい、ありがとうございます。ウサトさん」
よし、と頷きそのまま立ち上がった僕はそのまま後ろに下がりながらナックの背中を押す。
緊張したように僕を見上げる彼に軽く笑いかける。
「今度はちゃんと別れの言葉も、再会を約束する言葉も言うようにね」
「はい……!!」
「頑張ってこい」
僕と救命団の面々は宿舎の近くで見送りを終わらせ、ナックは外門のところまでミリアとベルさんを見送りに行く。
意を決した表情のナックが、ミリアとベルさんと共に宿舎から離れていく。
またこちらを振り返って深々としたお辞儀をするミリアに僕たちは手を振り返していると、いつの間にか隣に移動してきた先輩が声を潜めて話しかけてくる。
「君も最後の見送りについていっていいんじゃないか? 師匠なんだし」
「いいえ。僕がいるとナックも気を遣っちゃいますからね。……なにより、ナックはちゃんと再会の約束は交わすべきだと思いましたから」
ナックが家を追い出される時はミリアに別れの言葉すら言えなかったはずだ。
家族として想いあっている兄妹の別れに「また会おう」の言葉もないのは、あまりにも寂しいし、なにより理不尽だ。
●
見送りから戻ってきたナックは別れの悲しさではなく再会を約束しやる気に溢れた顔をしており、その勢いのまま走り込みへ行ってしまった。
どうやら、しっかりとミリアにちゃんと別れと再会を約束する言葉を言えたみたいだ。
見知った人が二人もいなくなってしまって少し寂しい気分になりながらも、救命団の日常は変わらず続いていく。
そして僕自身の訓練も佳境へと近づいていた。
「はぁぁ!!」
何度目かのローズとの組手。
治癒魔法と打撃による攻撃に囮を織り交ぜ、攻防を繰り返した上で僕自身もそれを行う。
「……ッ!!」
ローズの拳は重く鋭い。
軽いジャブのような一撃すらも防御するだけで体の芯にまで響き、まともに受ければ意識を飛ばされる。
それは僕以上に力の扱い方が巧く、それだけ技量に差があるということに他ならない。
「ぐっ!」
至近距離から瞬時に放たれる拳を右腕で防ぎ、その衝撃に呻く。
まずは一撃一撃に対処する!! それができなきゃその先はない!!
両腕に魔力を纏わせローズの打撃を捌く構えを見せると、彼女は変わらず無造作な構えから刻むような連打を繰り出———すように見せかけ防御に構えた僕の腕を掴んだ。
「目先の一撃に囚われんな」
ぐいん、と視界が一転し宙へ投げ出され、上下が逆転する。
さかさまになった視界には未だつかみ取ったままの僕の腕を引き寄せ、強烈な踏み込みと共に肘を突き出すローズの姿が映り込む。
ッ、刻むような打撃に無理やり警戒させられた!! まずい! この攻撃は前に食らった内臓に通す技!! でも、この技の対策はこっちもできている!!
背中でストックしている全ての魔力弾を直撃する箇所に集中!!
槍のように突き出された肘が僕の鳩尾付近に直撃———歯を食いしばりながら耐える。
「ぐッッ……ふん!」
「ん?」
衝撃を防ぎきれなかったほとんどの魔力弾が破裂するが、なんとか防御を成功させた僕は無事だった残りの魔力弾を再利用する形で暴発させ、空中で体制を整え着地する。
「スゥ……ふぅぅぅ……」
よし、少し衝撃は通ったけど、前みたいに呼吸ができないほどじゃない。
というより、防御に回した九つの魔力弾のうち七つが弾けたんですけど……? どんな威力の肘を食らわしてたのこの人……?
「器用だな。魔力弾を防御に回したか」
「それでも、衝撃は通りますけどね……。てか普通に内臓破裂しそうな威力だったんですけど」
「テメェのことだ。一度食らった技くれぇは防ぐのは分かりきっていたからな」
ちょっと威力に抗議したつもりが褒められて何も言えなくなってしまった。
まったく、僕も結構チョロいよなぁ……。
内心で苦笑しながら構える。
「それじゃ、続きをお願いします。次からは今の防御とその応用をお披露目しますよ」
「情けねぇ技じゃねぇことを祈るぜ?」
「期待しててください、よ!!」
魔力弾を強く踏み、反動で加速しローズへと突っ込む。
急激な加速に驚くこともなく、それどころか笑みを強めたローズが正確に僕の顔面目掛けて拳を置くように突き出す。
だが僕はローズが繰り出した拳を肩で受け、そのまま弾力を付与した魔力弾で受け流す。
僕自身も体を半身にして滑るように拳の軌道を逸らすと、ローズは僅かに怪訝な顔をする。
「あ?」
「ここだッ!!」
治癒連撃拳!! 技名を叫ぶ暇もなく前腕に三つ並べた魔力弾を一気に解放する一撃を放つ。
だがそれよりも先に、ローズが横なぎに振るった蹴りが僕の胴体を捉える。
「……っ!!」
「隙を作った相手に隙の多い技を使ってどうすんだ」
「ぬぐぉ……確かに!!」
ローズほどの実力者なら技を繰り出すためのタメの時間さえあれば、瞬時に体勢を立て直せる!!
分かっていたはずなのに、目の前の千載一遇の攻撃のチャンスに目が眩んだ!!
衝撃に呻きながら、脇腹付近の防御に回した魔力弾が破壊されていることを確認する。
「とっさに防御に回したか。応用が利いた面白い防御方法だ」
「でもまだまだ扱いが甘い……でしょう?」
「ああ。ついでに言うなら突破する方法もなくもねぇ」
ローズが地面を蹴り、一瞬で僕に肉薄する。
さっきと同じく治癒滑りで受け流して、こっちから仕掛ける!!
治癒感知でローズの動きを読み、ギリギリではあるものの打撃が直撃する部分に魔力弾を移動させ、防———、
「ぐお……!?」
———いだはずが、衝撃が和らぐわけでもなく跳ね飛ばされるような衝撃が僕の体に打ち付ける。
直撃をもらった!? 確かに治癒滑りで防御したはずなのに!
すぐに立ち上がる僕にローズはひらひらと掌を見せてくる。
「点の防御は優秀だが、面の防御はそうもいかねぇ」
打撃する箇所をずらし……いや、掌底か!!
拳よりも面の広い掌底で治癒滑りをほぼ無効化させたのか!! 一度の攻防で速攻で修正してくるとか相変わらずとんでもない判断力だ!
「本当に瞬時に技の弱点見抜きますね!?」
「一目見りゃ分かるだろ」
「分かってたまるかぁ!!」
それは流石に貴女だけだ!!
でも、的確に僕の技の弱点を指摘してくれるのは本当にありがたい!!
弱点さえ理解していれば使いどころを間違わない。
「新しく技を作るのは悪いことじゃねぇが固執するんじゃねぇ。技を使い分けろ」
「はい!!」
新技ばかりに目がいったせいで、動きがパターン化していたな。
しっかりと呼吸を整え、また構えをとる。
これまで身に着けてきた技、全部織り交ぜて繰り出していく。
でもそれを頭で考えて出していくのは駄目だ。反射的にその場その場での最適解を出せるようになるのが理想。
「行きます!!」
魔力弾を踏み加速、からの背中からの魔力弾の暴発でさらに加速。
ローズに真正面から突撃する―――と見せかけて、急停止と同時に今度は前面に回した魔力弾を暴発させると同時に纏っていた治癒残像拳を前方へ放つ。
「目くらましか」
一瞬も騙されずに迫る残像拳を手で払いのけるローズ。
だが、一瞬でも視界を遮れればそれでいい!!
その間を利用し、構えていた五つの治癒爆裂弾を、粘性のある魔力弾でつなぎ合わせたものをまとめて投げつける。
「治癒爆裂乱弾!!」
「!」
乱回転、さらに破裂するタイミングもズラした爆裂弾に、ここにきて初めてローズが後ろに下がるという回避……いや違うぞ!?
下がると同時に足を蹴り上げ―――、
「オラァ!!」
「ハァァ!?」
破裂した爆裂乱弾の衝撃波を力技でかき消した!?
ナギさんですら刀を使ってすることを、それ以上のパワーでなんで蹴りでやるんだ!? ……ッッ、いや、驚いている暇はない!!
瞬間移動と見間違うほどの速さで肉薄してきたローズが放った手刀をギリギリで避ける。
ぴしっ、と頬に傷が走る感覚にひやりとした感覚に苛まれながら、間髪いれずに掴みにかかる手を弾く。
でもその代わりに蹴りをもらってしまうが、それはしっかりと防御する。
「いい反応だ」
掴まれればまず散々な目に合うのは分かりきっているからな!!
先輩がふわっとした感覚で投げるとしたら、ぐるぅぅん!! って感じで技術とパワーで投げるのがこの人だ!! 打撃以上に掴みから来る回避の難しい投げ技が怖い!!
受けていい攻撃と、そうじゃない攻撃を見極めろ!! できなきゃ一瞬で意識を飛ばされるぞ!!
魔力弾で受け流し、掌底を腕で防ぎ、弾丸のようなジャブを額で受け、刈り取るような回し蹴りを全力で避け―――僅かな合間に息を吸い、軽く広げた手を打ち鳴らす。
「治癒猫騙し!!」
「!」
ここで隙ができた……!!
よし、ここから―――、
「治癒連撃———」
「さっき言ったことも忘れたのか?」
前腕に並んだ魔力弾を目にしたローズが瞬時に、技を潰しにかかる。
ここで回避ではなく、直撃するのを恐れずに技そのものを潰しにかかる……ことも想定した上で、前腕に並んだ魔力弾を連撃拳を放つ前に破裂、推進力にし、さらにローズとの距離を詰める。
「っ」
「ここだッ!!」
放つのは魔力を用いた技ではなく、素の拳!!
相手に隙を作らせたのに、隙のある技を使う。
ローズに忠告された僕のポカを敢えてもう一度使い、完全に虚をついた拳はそのままローズへと叩き込まれた。
「「……!!」」
衝撃に僅かに後ろへ跳んだローズ。
だが軽やかに着地したローズは、僕が繰り出した拳を防いだ腕を下げる。
受け流させないくらいの防御はさせたけど、防がれた……か。
「感覚は掴めたようだな」
「いや……当たってないんですけど」
「防御させた時点で上出来だっつってんだよ。今のは私も虚を突かれた。面白ぇことにな」
そう言って腕を組んだローズは楽しそうに笑った。
上出来、そう言われた僕は体の力が抜けるように座り込んでしまう。
さっきまで本気の本気の攻防をしていたから、今になって汗が噴き出てくる。
「まさかああいう形で虚を突いてくるとはな」
「ええ。折角の助言を忘れて同じことをすれば、貴方の場合、今度は力技で教え込んでくると思いましたからね」
徹頭徹尾この人は戦いながらも僕の技の弱点を教えたり、攻撃の対応できるように動いてくれていたからこそできた戦法だ。
でも逆を言えば、こういうやり方も相手の虚を突く戦法として使うこともできるってことだ。
「技術そのものは理解できたか」
「ええ、僕なりの形ではありますけど」
「変に私を真似る必要はねぇからな。お前はお前のやり方で磨き上げていけばいい」
「はい!!」
とにかく、これでローズから合格をもらったわけだ。
「訓練自体は今日を以て終了……だが、お前にやる気があればこれまで通りにやっても構わねぇ」
「この感覚を忘れないように定期的に手合わせをしていくつもりです」
「おう。それじゃ私は戻っているぞ」
「ありがとうございました……!!」
背中を見せて歩き出したローズにお礼を口にしながら頭を下げる。
彼女の姿が完全に見えなくなったところで僕は脱力するように地面に寝転がる。
「やっぱり強ぇー」
基礎がしっかりしていると簡単に崩すことはできない。
ローズ自身の戦闘経験の多さとセンスによるものが多いこともあるけど、それでも基本を鍛えていくことも大事だ。
「練習あるのみ、か。どれだけ鍛えてもそれは変わらないな。……っし、走り込みに行ってくるか!!」
精神的にも回復したので反動をつけて立ち上がった僕は、腕を回しながら歩き出す。
救命団宿舎にまで近づいていくと、ちょうど宿舎に戻ろうとしている先輩とネア、フェルムと行き会う。
僕を見つけた先輩は元気よく手を振ってくれる。
「あ、やっほー、ウサト君」
「三人は走り込みを終えたところですか?」
「おう。そういうお前は……いや、ボロボロだな本当にどうした」
こちらを見て引くフェルムに、僕は改めて自分の服装を見る。
いつも着ている訓練着は土だらけに、地面に叩きつけられたり、転がされたり、樹に激突したりぶん殴られたりで、穴も開いてしまっている。
「今、団長と組手して合格もらえたところだね」
「合格もらえた姿かそれ……やばすぎるだろ……」
「あー、もう。貴方、服が穴だらけじゃない」
ボロボロの訓練着を見たネアの言葉に僕も苦笑いをする。
さすがに今日ほど本気になっての訓練ってあまりやっていなかったから、訓練着がここまでボロボロになることってあまりないんだよなぁ。
「後で持ってきなさい縫ってあげるから」
「え、いいの?」
「新しいのにする方がもったいないでしょ。それに、裁縫程度なら私にしてみれば楽勝よ」
村娘の経験もあるから別にできてもおかしくないと思うけど。
ちょっと申し訳なく思いながら頷いていると、そこでなぜか先輩が、ぐぬぬ、と恨めしそうな顔でネアを見ていることに気付く。
「先輩どうしたんすか」
「ネアが君と私の幼馴染ポジションまで奪おうとしてる……!! 恐ろしい子!!」
「前提からして僕と貴女は幼馴染ではありません」
相変わらず平常運転っすね。
最早慣れているのか、ネアは先輩を完全スルーしている。
「あ、訓練着は早めに持ってきて頂戴ね。私、早ければ明日くらいにイアヴァ村に行っちゃうから」
「もう準備ができたのか?」
「ええ、時間をかけている間に貴方が騒ぎに巻き込まれたら面倒だし、早めに済ませるわ」
「そんな頻繁に騒ぎに巻き込まれてたまるか」
君は僕をなんだと思っているんだ。
ここまで来ると、言霊的な感じで本当に巻き込まれちゃうぞ?
でも、ネアが離れるってのは中々にないことなので僕自身少しだけ不安なところもあるな。
「そんな一週間とかかかるような用事じゃないみたいだし、その間くらいは大丈夫でしょ。ははは」
「「「……」」」
「……あの、三人して黙るのやめてくれない?」
むしろここで黙られるのが一番怖いんですけど。
「ウサト君、そういうのは世間一般でフラグ乙って言うんだよ」
「やっぱり先輩は黙っていてください……」
「くぅーん」
どうしよう。
多分大丈夫なんだろうけど、不安になってきた。
ローズに合格をもらったウサトでした。
今回の更新は以上となります。




