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第四百九十四話

お待たせしました。

今日は6月2日、ローズの日とのことです。


最初はスズネ視点、後半からウサト視点でお送りいたします。

 昨夜、シグルスの家に招待され夕ご飯をご馳走になった翌日。

 今日は救命団近くの訓練場で、私、ウサト君、そしてカズキ君の三人で訓練を行うことになっていた。

 ウサト君の技術向上を目的とした訓練の場には、ウェルシーとフレミア王国の元勇者のアウーラを筆頭とした城勤めの魔法使いたちが見学しにきている。

 彼女たちを見るたびに、研究に対する執念とか未知に対する強烈な探求心が伝わってくるのでちょっと怖い。

 しかし、そうなってしまう理由も今、私と手合わせをしているウサト君を見ていると理解できてしまう。


「ふんっ!!」


 雷獣モード2で移動する私の動きを察知したウサト君が最小限の動きでこちらが振るった木剣を防ぐ。

 こちらを見ず、治癒感知による感覚のみで私の動きを正確に把握してくる彼に中途半端な攻撃は通じない。


「どんどん攻めていくよ!!」

「!」


 訓練場内の木を蹴って、その勢いで電撃を纏わせた飛び蹴りを繰り出す。

 後方からの蹴りに対してウサト君はその場を動かない。

 だが———彼の背中を円を描くように回転する魔力弾が肩に移動すると同時に破裂、魔力の暴発により生じた衝撃波が推進力となって彼の体が弾かれるように横に吹っ飛ぶ。


「嘘ぉ!? っ、なら!!」


 着地と同時に地を蹴り加速、木剣を打ち込みにかかる。

 さあ、避けるか防御するか!! その上で速度で上回ってやろうじゃないか!!

 二手、三手までのウサト君の動きを予測しながら打ち込まれた木剣に対して彼がとった行動は、またもや動かず———そのまま木剣が直撃し、ぼよん、という柔らかな感覚が跳ね返ってくる。


「んな!?」


 直撃部位に弾力付与をした魔力弾!? 

 治癒残像拳……じゃないね!? 背中の魔力弾を魔力回しで瞬時に防御に転用してきたのか!!

 ……ッ、ウサト君の右手に魔力が集められた!! これは———ハッ!?


「っぶなぁい!?」


 ぶぅん!! と私の眼前をウサト君が無造作に振るった左手が通り過ぎる。

 魔力が集められた右手に気を取られた瞬間に無警戒の左手が飛んできたぁ!? 不意に君の素のパワーが飛んでくるのは普通に怖すぎない!?


「惜しかったね!!」

「まだまだですよ!!」


 今度はこちらから、と言わんばかりに距離をつめた私にウサト君が接近してくる。


「ッ、はは!!」

「!」


 迫る掌底を木剣の柄で落とし、合間に放たれる治癒崩しを同じ要領で電撃を発散させて弾き、下から振り上げた木剣は彼の魔力を纏った掌で受け流され、そのままこちらに伸ばされた手に合わせるようにこちらの掌を添え———投げようとしたところで、彼の腕の体表を流れる魔力で手が弾かれる。


「「———!!」」


 手が離れた直後、瞬時に体勢を整えながら電撃を纏わせた回し蹴りを直撃———させたが、捉えたのは治癒残像拳により作られた彼の魔力の残滓。

 一歩後ろに下がった彼が右腕を構える。

 その右腕の前腕には、4つの魔力弾が列を作るように並べられて———まず!?


「治癒連撃拳!!」

「四連!! 雷連斬!!」


 咄嗟に繰り出した四つの電撃を纏わせた斬撃と拳の衝撃と合わせて繰り出された四つの魔力弾が激突し、相殺される。

 衝撃波でどちらも後ろに下がったところで、内心で冷や汗をかく。


「連撃拳まで籠手なしで使えるようになっているのか……」


 しかも名前こそは同じだけど、技そのものは明らかに強化されている。

 というより、中身はほぼ別物だし、なによりギミック染みててかっこいい……!!


「まだまだァ!!」

「まだあるのぉ!?」


 こちらに休む隙を与えないのか、ウサト君の右腕の前腕を中心に六つの魔力弾が円を描くように回転する。

 それはさながら装填されたリボルバーのシリンダーのようで、その一つが装填されるように前腕を通り前に突き出した掌に移動し———膨れ上がる。


「え、なにそれ」

「ハァ!!」


 ウサト君!! 今の「ハァ!」は「波ァ!!」みたいな感じのニュアンスだよねぇそれぇ!?

 呆然とした呟きをした次の瞬間、広範囲に及ぶ強烈な衝撃波が放たれる。


「予備動作ナシィ!?」


 迫る緑の衝撃波に慌てて電撃を纏わせた木剣を横なぎに振るいかき消しながら、その場を移動するがウサト君はそのまま掌を私がいる方向に向け、また彼の前腕を通り掌に魔力弾が装填———間髪いれずに放たれた衝撃波が迫る。


「ひょおおお!?」


 我ながら素っ頓狂な声を発しながら衝撃波から逃れ、射程の外まで距離をとったところで今行った技について分析する。


「ま、魔力のストックで治癒爆裂波の連続使用を可能にさせたって感じかな……?」


 弾数制限はあれど、その分間髪入れずに放てるのが強みってことか。

 魔力弾のストックを消費してしまうところも欠点と……いや、普通にアレを連射されたら近づくどころじゃない。

 そもそも忘れがちだけどウサト君の素の身体能力がぶっ飛んでいるので欠点にすらなっていなかった。


「……ふぅ」


 呼吸を整え、内心の高揚を感じながら私は笑みを浮かべ木剣を構える。

 電撃の魔力弾を生成し、それらを背後に並べるように展開———昨日、ウサト君の発想を丸パクリした技を今この場で使う。

 まだ試し打ちすらしていない段階だけれど、君との手合わせにおいてはこれでいい。


「ようやく出してきましたね。新技」

「フッ……」


 ごめん、私のアイディアすっごくしょぼかった上に、ウサト君の考えたやつの方がずっとよかったからそっちを採用しちゃった。

 恥ずかしくてそんなことは言えないけれど。

 まだまだ粗削りで未完成とすら呼べないものだけれど、ウサト君と同じようにこの模擬戦の中で技を磨き、最適化していけばいい。


「それじゃ、続き行くよ! ウサト君!!」

「ええ!!」


 充実した時間はまだまだ続いていく。

 勇者だった時とは異なる心躍るひと時に高揚しながら、私はウサト君との模擬戦にのめりこんでいくのであった。



 昼、訓練を一旦切り上げた僕たちは訓練場の端の木陰に移動し、三人で昼食をとることにした。

 お弁当は先輩が用意してくれたもので、それらを食べながら模擬戦闘訓練について話していた。


「ウサト君ってもう完全に籠手が必要なくなったよね」


 先輩の言葉に僕は、少し悩んでから頷く。


「そう、ですね。治癒連撃拳も生身で出せるようになりましたし、あとは治癒系統爆破拳くらいですね」

「なんだっけ、その技?」


 サンドイッチを頬張りながら疑問の言葉を口にするカズキに僕は答える。


「系統強化と系統劣化の治癒魔法を接触させるとなぜか爆発するから、それを応用した技がそう」

「へー……なんか俺と先輩の魔法でやると大変なことになりそうな技術だな」

「電撃と消滅メインの光だもんねー。下手をすると取り返しのつかない現象が起きてもおかしくない」


 先輩とカズキの言葉に僕も同意する。

 というより、治癒魔法の時点で僕がのけぞるくらいの炸裂が起きるんだから、それ以外の攻撃的な魔法でやったら本当になにが起きるか分からない。


「まあ、これを生身の人に向けるのは危なすぎますからね。滅多なことでは使いませんよ」

「君の場合、なんだかんだでなんとかして使いそうな気がする」

「ですね」

「二人とも僕への認識ひどくない?」


 まあ、治癒コーティングさえすれば一回くらいなら無傷で抑えられるだろうけど、それをするなら普通にぶん殴った方が強い。

 そもそもこの技を使う機会がある時点で、相当な事態になっている訳で……。


「そのうち系統強化と系統劣化の関係性とかも調べなきゃならないんでしょうけど……」

「今はそれどころじゃなさそうだもんな」

「うん」


 今日なんてウェルシーさんとアウーラさん達、凄かったからなぁ。

 僕の魔力弾回しに対しての見解やらなんやらで荒ぶっていたし、午後にも訓練があるにも関わらず時間が惜しいという理由で城に戻って研究に向かって行ってしまったくらいだ。


「一応、弾力付与をした治癒魔法弾を渡したけど……大丈夫かなぁ」

「弾力付与の手頃なサンプルを渡しただけだと思う」

「治癒もされるし、間近で研究もできる優れものだね」


 そんな気持ちは一切ないのに研究の後押しをしてしまったのか僕は……!?

 だから魔力弾を受け取るとき、皆あんなに笑顔だったのか!?


「あ、そういえば魔族とエルフ族との話は聞いてるか?」


 カズキが不意に切り出した話に僕と先輩は首を傾げる。


「エルフ族との交流? 魔族が?」

「ああ。リングル王国には直接関係ないけれど、今魔族側がエルフを含めた亜人と交流を持とうとしているんだって。ウサトは知ってたか?」

「ううん。初耳」


 でもおかしな話でもないな。

 魔王からしてみれば、エルフ族とか獣人族とかの交流を重要視して当然。

 なにより、僕が獣人族の長であるハヤテさんと交流があると知ってものすごく興味を持っていたし。


「なにも知らせずに交流を持とうとするといらない不信感を抱かせるから、事前にリングル王国に知らせたってことかな?」

「はい。実際今のところは挨拶程度の交流を予定しているらしいのでそれほど堅苦しいものじゃないらしいです」


 それじゃあ、近いうちに魔王領から特使的な人がエルフ族とかを訪ねにいくのか。

 いったい誰が行くのだろうか? コーガは……ないな。なら順当に考えてアーミラさんあたりかな?

 あの人は真面目で、責任感もある人だし。


「でもカズキ、エルフって結構閉鎖的な人たちって聞いたけれど、そこのところは大丈夫そうなの?」

「閉鎖的っつっても人間に対してだからな。昔から獣人やドワーフとかと協力関係を結んでいるし、魔族との交流も結構前向きなんじゃないか?」


 閉鎖的なのは人間に対してか。

 人間の亜人への認識を考えたらそうなっても当然か。


「エルフといえばフラナの方はどうなのかな?」

「……あー……」


 今、故郷であるエルフ族の集落に帰郷しているというフラナさん。

 先輩から彼女のことを尋ねられたカズキは、少し悩まし気な表情をする。


「フーバードによる連絡はありませんね。ちょっと音沙汰もないので心配でもあります」

「帰郷しているからゆっくりしているってことも考えられるからねぇ」


 エルフ族の集落か……以前のミアラークで行われた会談でフラナさんの父親である族長達と会ったことはあるけど、あまりよくは知らないんだよな。

 なんか預言者? 占い師? っぽいお婆さんに白き癒し手とか言われた覚えはある。


「でもまあ、もしものことがあれば契約しているフーバードを使って急ぎの連絡を送ってくるでしょうし、現状は大丈夫だとは思います」

「そっか……しかし……」


 と、ここでなぜか先輩は僕とカズキを交互に見て顔を顰める。

 多分、僕とカズキがフーバードと個人的に契約していることが羨ましいかなにかだろう。


「先輩も契約すればいいじゃないですか」

「!? ……ッ、心が通じ合ったね……!!」

「……」

「そんな、しまった!? みたいな顔をするのはもう失礼じゃないかな!?」


 昨日の会話を思い出し、しまったと思う。


「でもずるいよ……!! 私なんて相棒になる魔物との出会いなんて全くないのに……!!」

「フーバードと契約すればいいじゃないですか」

「契約する相手がいないよぉ!?」

「「あっ……」」


 先輩の悲しい訴えに僕とカズキは顔を見合わせて視線を逸らす。

 基本遠方との連絡手段であるからな……。

 立場的なものだと、そもそも国同士で契約したフーバードを利用したらいいし、個人間での契約となるとそれなりの親交が必要になる。

 僕だって個人で契約しているのはハヤテさんくらいだし。


「そ、それなら俺たち3人でフーバードと契約すればいいんじゃないか?」

「あ、それはいいね!! 先輩もそれでいいですか?」

「フッ……もちろん構わないさ」


 今更、先輩としての威厳を取り繕うとしても大分遅い気が……。

 なんだかんだ僕が方々に移動することが多いから、そういう時にフーバードは便利だな。


「それじゃ、そうと決まれば午後の訓練が始まる前に契約しにいくか」

「そうだね。……あっ、でもちょっと待って」


 カズキに頷き、立ち上がる。

 周りを見回す僕に二人が怪訝な顔をする。


「どうしたの?」

「いえ、フーバードとの追加の使い魔契約をする分には全然いいんですけど、何も言わずにやるとネアが怒るので事前に許可をもらおうかと」

「異性がいる飲み会を許さない彼女みたいだ……」


 ちょっと分かりにくい例えを口にする先輩に苦笑いしつつ、訓練場を少し出て宿舎の方を見る。

 すると、宿舎の外の階段でフェルムとナギさんと並んで昼食を食べているネアの姿を見つけたので、先輩とカズキも一緒にそちらへ向かう。


「おーい、ネアー」

「あら、どうしたのよ。ウサト」

「スズネとカズキもいるじゃん。お前ら一緒に飯食ってなかったか?」


 小走りで彼女たちの元へ駆け寄ると、サンドイッチを口にしながらネアが胡乱な目をこちらへ向ける。

 手っ取り早く、用件だけ言っておこう。


「今から、追加のフーバードの契約をしに行くんだけど。一応言っておこうかなって」

「———はぁ?」

「「ひぇ……」」


 一瞬で剣呑な雰囲気を纏ったネアに隣に座るフェルムもナギさんも怯えた声を漏らす。

 最近理解できてきたのだけど、ネアは使い魔のポジションにかなりのプライド的なものがあるので、ここで返答を間違うと後が怖い。


「いい度胸ね。どこの鳥の骨か分からない使い魔と追加で?」

「先輩が使い魔がいないと駄々をこねたんだ」

「え、ウサト君?」

「スズネが?」


 すまない、先輩。

 元々先輩のために契約しに行くようなものだからネアを説得する理由付けになってくれ……!!


「それはもう地面をもんどりうちながら暴れまわるくらいに」

「ウサト君!? 私の尊厳が著しく脅かされてる!?」

「いえ……スズネならしてもおかしくないけれど……」

「おかしいだろう!! 私はそこまでじゃない……はずだ!!」


 そこは自信をもって否定してほしかった。

 先輩を見て、怒りを鈍らせるネアを見てもう一押しと判断した僕は必殺の言葉を口にする。


「このまま放置すると矛先がフクロウの姿の君へ———」

「仕方ないわね。許可してあげるわ」


 ぽん、と黒髪赤目の少女の姿からフクロウへと変身したネアが僕の肩に飛び乗る。

 そんなに先輩に構われるのが恐ろしいのか。


「その代わり、この私がフーバードを選んであげる。私に盾突かず、敬い、従順な個体が望ましいわ」

「はいはい」


 まあ、そのくらいはいいだろう。

 魔物と意思疎通ができるネアなら相性のいい子を勧めてくれるだろう。


「ねぇねぇ、ウサト君。私になにか言うことがあるかい?」


 ……。


「日頃の行い?」

「くぅーん」


 反論できずに悲しい子犬の鳴き声をする先輩。

 そういうところなんだよなぁ、と内心で苦笑いしながら僕たちは街の方へと向かっていくのであった。

フルバースト型となった治癒連撃拳でした。


次回の更新は明日の18時を予定しております。


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― 新着の感想 ―
ネアが束縛系彼女なのか姑なのか審議案件ですねコレ
先輩の「くぅーん」すこ
先輩かわいいなあ
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