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第四百九十話

お待たせしてしまい申し訳ありません!

第四百九十一話です!


後半はアウ―ラ視点でお送りいたします。


 でもシグルスさんも騎士団長という立場にいる人だから、ずっと訓練に付き合わせるわけにはいかない。

 時間にして一時間ほど、指導していただいた後はシグルスさんはそのまま騎士団長としての職務に戻ることになった。

 その後今度はウェルシーさん達と魔力回しや僕の新しい技術についての研究を行うということなので、ひとまず彼女たちの準備を終えるまで僕は訓練場の端の方で休憩しながら今回の手合わせの振り返りをしていた。


「シグルスさんの技は凄かったな」

「貴方とカズキとはまた違った技術よね。魔力操作の技量じゃなくて、膨大な戦闘経験から抽出される最適な戦術。中々に興味深いわ」


 シグルスさんの技に感心する僕とネアを見て同化を解いたフェルムが不思議そうに首を傾げる。


「へぇ、そんなにすごいのか。ボクから見るとただ魔力弾を浮かせているようにしか見えなかったけど」

「それは貴女の闇魔法が技術云々抜きで変幻自在だからそう見えるだけよ」


 パッと見は魔力弾を浮かせているようにしか見えないから、フェルムがそう思うのも分かる。

 戦闘経験に裏打ちされた判断力と技量から繰り出されるそれの厄介なところは、魔力弾が動く直前までどのような変化をするか判断しにくいところだろう。


「……魔力弾に役割を持たせるかー。僕にもできるかな?」

「ウサトは難しくない? 貴方、魔力の遠隔操作が苦手じゃない」

「そうなんだよなぁ」


 ネアの言う通り、僕は離れた魔力弾を操作することは苦手だ。

 これに関しては最早、体質のようなものなのでどうこうすることは難しい。


「……。初心に帰ってみるか」


 なんとなく右の掌に魔力弾を作り出す。

 体の中で魔力を循環させることが魔力回し。

 なら、治癒滑りの応用で体表で魔力弾を移動させるのはどうなんだろうか?


「え、ウサト、貴方なにをやっているの……?」

「んー。魔力弾……回し?」


 まず手始めに掌から手の甲を通り一周。

 そして、次は右手から左手へ、背中、右足、左肩、左足、右手へと移動させる。

 やっていることは魔力を指から指へ移動させる魔力回しの遊びと同じ。

 そして、さらに魔力弾をもう一つ加え並行して回していく。


「なにしているのかしらこの人……」

「傍から見ると魔力弾が生き物みたいに身体を高速で這っているように見えるぞ……」

「結構楽しいよこれ」


 目に見える分、魔力回しよりも暇つぶしにちょうどいいな。

 なにより、これは治癒滑りの訓練にもなるし一石二鳥だ。


「魔力弾そのものを動かしているように見えて、これは……魔力弾を乗せて運ばせ……いえ、滑らせているのかしら?」

「うん。治癒滑りから着想を得た感じ」

「魔力回しと同じようで少し勝手が違うように見えるわね。やってることはキモいけど」


 キモいは言いすぎだろ。

 でもネアとフェルムは変わらず変な人を見るような視線を向けてくるので、ここは一つこの魔力弾回しで暇つぶしがてらの遊びを仕掛けてみよう。

 隣に座っているフェルムに掌に移動させた魔力弾を見せる。


「フェルム。僕は動かないからこの魔力弾を捕まえてみて」

「捕まえたらお前はなにをする?」

「あれ?」


 え、暇つぶし感覚で聞いたらまさかの罰ゲームありになった。

 うーん、でもまあこの子の性格上、そこまで無茶なお願いはしてこないだろうし別にいいか。


「まあ、いいよ。なんでもいうこと聞いてあげるよ」

「ネア、二人がかりだ」

「ええ、任せなさい」

「あれ?」


 いや、まずはフェルム一人からなんだけど……。

 僕が言葉を挟む前に、不意打ち気味にフェルムの手が伸びてきたので、掌から魔力弾を前腕までひょいっ、と移動させる。

 次にネアが僕の背中側から無言で伸ばした手をまた、ひょいっ、と躱させる。


「……ふっ」

「「……っ」」


 自慢気に笑って見せると、二人はムキになって僕の上半身を移動する魔力弾を捕まえようとする。


「っこの! おらっ! ふんっ!」

「なによ、これすばしっこいわね!? まるでウサトみたい!!」


 僕の名前を悪口みたいに言うな。

 治癒感知で動きを把握しながら動かしているので、二人はまったく僕の腕から背中までを移動する魔力弾を捉えられない。


「ネア、邪魔だ!!」

「そっちこそ邪魔しないでちょうだい!」

「なんだと!?」

「そっちこそ!!」


 ……というより、これ二人より一人の方がやりやすいんじゃない? すっごい押しのけあっているけど。

 それから数分ほど二人と魔力弾の鬼ごっこ? が繰り広げられたけれど、結局魔力弾に触れることすらできないままだった。


「はぁー、はぁー、くそぉ……」

「ふ、普通に動きがムカつくわ……!!」

「フッ、楽しんでくれてなによりだ」


 一個だけ動かすならこれぐらい自由自在に動かせるな。


「まあ、今までの延長みたいな感じだし、それほど難しいことじゃないな……うん」


 魔力弾を握りつぶし、疲労した二人のために治癒の魔力を散布し———ここでようやく、訓練場の入り口付近で僕たちを見て固まっているウェルシーさん達に気付く。

 彼女はまるで世にも恐ろしいものを見たような反応をしながら、こちらに震えた指先を向けてくる。


「う、ウサト様? それはえーと、魔力回し……ですよね?」

「広義的な意味では魔力回しとなんら変わらないです」

「では、狭義的なら?」

「魔力回しの別パターンの魔力弾回しですね。治癒滑りから着想を得ました」


 正直にそう言った僕に背を向けたウェルシーさんは、驚くほど穏やかな声でアウーラさん達三人に語り掛ける。


「こういうことです。アウーラ、イマ、エリン。こういうことなんです」

「ふ、ふふ……退屈にならずに済みそうです」

「予想を超えてくるところも予想通りです」

「研究が尽きない環境って苦しくて幸せ……」


 三者三様の反応を返すアウーラさん達にウェルシーさんはぐっと拳を掲げる。


「貴方達が来てくれて本当によかった……!」


 まるで覚悟を決めるようなテンションの彼女たちに僕もなんて言っていいかわからなくなる。

 というより、魔力弾回しは魔力回しとそこまで変わらないから、そんなに気合をいれる必要はないと思うのだけど。

 彼女たちの様子にちょっと引いてしまっていると、ウェルシーさん達とは別の方向からまた誰かがやってくることに気付く。


「お、まだやってるな! おーい、ウサトー!」

「カズキ様、そこまで急がなくともウサト様はどこにも行ったりはしませんよー?」


 カズキとセリア様に彼女のお付きの侍女さん達だ。

 僕とシグルスさんが訓練をしていたって聞いて来てくれたんだな。



 魔力回しを習熟した末に得られる技には依然として未知な部分が多い。

 なにせ、一言でまとめてしまえば魔力回しは魔力をより循環させやすくするだけの技術に過ぎないから。

 魔力を回してもただ慣れるだけ。

 単純に子供遊びが達者になるだけでそれ以上の恩恵がないと思われてしまっていたから、これまでウサトさんほどに魔力回しを極めた人はいなかった。


「他者への魔力回しに干渉。流しこんだ魔力で相手の魔力の流れを乱す。系統強化の暴発の肩代わり。ウサトさんの扱う技術にはすべてなにかしらの繋がりがあり、彼はまるで枝分かれさせるように発展させ続けている」


 つい今しがたウェルシー先輩と共にカームへリオでウサトさんが編み出した技についての確認を行ったけれど、やっぱり何度見ても驚かされる。


「納得できる繋がりがあるってのも厄介です」

「うん。突拍子がないわけじゃなくて、ちゃんと頭では理解できちゃう」

「それはまた恐ろしいんだよねぇ」


 うんうん、とお互いに頷く。

 突然なんの脈絡もなく生み出された技も、その実はしっかりと筋道が通った思考で生み出されたもの。

 だけどそのやり方を理解しているのはウサトさんだけで、彼がどのような感覚でそれを行っているのかも解明できていないのが問題なんだ。

 いわば、我々はウサトさんの魔力回しへの意識そのものに全く追いつけていない。……ううん、それどころかどんどん引き離されていっているといってもいい。


「リングル王国に来て本当によかったです。もしこの機会を逃していたら私たちは一生後悔していたくらいです」

「彼の技術が伝わる頃には、既に彼は二歩も三歩も先を行っているからね……」

「うんうん」


 ただ息をするだけで垂涎ものの研究課題をポンポン出してくれるようなものだ。

 ……ちょっとその勢いと量で許容量を超えてくることが苦しくなるけれど、大好きな魔法研究のタネが尽きないというのは本当に幸せだ。


「そして……」

「ええ……」

「あれだね……」


 私たちは再び訓練場へと顔を向ける。

 少し前にシグルスさんと訓練をしていたウサトさんは、つい先ほど遅れてやってきたスズネさんとは別のもう一人の勇者、カズキさんと一緒にまた別の訓練を行っている。


「救命団の食事ってどうなんだ?」

「どうって……やっぱり一日が訓練中心だから結構ボリュームがあるね」

「おおー」


 10メートルほど距離を空けて、向かい合うように立っているウサトさんとカズキさん。

 軽く、構えをとりながらも力むことなく、限りなく自然体に近い様子の彼らは世間話をするように語り合っている。

 でも、ただ世間話をしているわけじゃない。


「そういうカズキこそ王城のごはんってどんな感じなの? やっぱり毎日フルコースみたいな? 高級フレンチとかそういう?」

「いやいや、どんなイメージだよ。特別な日以外は結構普通だぞ?」


 軽い雑談とは逆に彼らの間で繰り広げられている訓練は異様だった。

 カズキさんが生きた鳥のように自由自在に動き回る魔力弾を連続して放ち、それをウサトさんがその身に受け、身じろぎ一つせずに身に纏った魔力のみで弾き受け流す。


「てか今度食べに来いよ。ウサトが来るならロイド様も喜ぶし」

「そ、そうなの? なんだか緊張しちゃいそう」

「今更何言ってんだよ」


 からからと笑いながらカズキさんは魔力弾を向かわせる手を緩めない。

 驚愕するのはそのあまりに精密すぎる魔力操作。

 目視もせず操っている素振りも見せてもいないのにも関わらず、意のままに動く魔力弾。そして消滅の特性を持つ光の魔力にウサトさんと同様に弾力を持たせ、その特性を打ち消していること。


「ならカズキも今度うちに食べに来なよ。うちで食事担当してるのがアレクってやつなんだけど、本当に料理が美味しいんだ。顔はいかついけど」

「お、いいな。久しぶりに賑やかな飯も楽しみたいし、近いうちにお邪魔させてもらおうかな」


 “無意識にできるように他愛のない雑談をしながら訓練をやってみよう”

 そんな話から始まった訓練を傍から見せられた私たちはもう大変だ。


「……明日からも楽しみですね」


 すぐに埋まってしまった手帳のページをめくりまた書き記す。

 今日からウサトさんの訓練を見学させていただくことになっている。もちろん、私達自らが彼のいる救命団にまで足を運ぶつもりだ。

 ふふふ、この手帳が新たな未知に埋まっていくのが楽しみです。

治癒滑りが悪い技すぎる。


次回、アウ―ラ視点の日記回です。

次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
治癒滑りで魔力弾を体表で助走をつけて加速し、腕を滑走路として撃ち出す治癒加速魔力弾・・・治癒レールガン来るか?
魔力弾回しを防御に……ピンポイントバリアに……
前文と後文のアウーラがアウ-ラになってる
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