第四百八十六話
四日目、四話目の更新となります。
前話を読んでいない方はまずはそちらをお願いします。
フレミア王国から、アウーラさん達三人がやってきた。
勇者集傑祭で出会った勇者であり、魔法専門の研究者である彼女たちは自国であるフレミア王国の待遇に不満を感じていたらしく、紆余曲折あって勇者としての地位をやめてリングル王国に来ることを決めた。
でも、まさかこんな早く来るとは思ってもいなかったので、彼女たちの突然の来訪にはびっくりした。
「到着直後にウサトさんと再会できるとは、やはり運が向いてきているということですね」
「今までが不運続きだったからねー」
「もう周りに振り回されるのはコリゴリだよ」
リングル王国に到着し、テンションが上がりまくっていたアウーラさん達三人に声をかけた僕は、ひとまず彼女たちをウェルシーさんに引き合わせるべく、城へと送ることにした。
一緒にいたアマコとは途中で別れたが、その際に「ウサトも大変だね……」と割と本気で同情した視線を向けられてしまったのはちょっと納得いかなかった。
「……こっちはびっくりですよ。いくらなんでもこちらに来るのが早すぎませんか?」
僕がリングル王国に戻ってから一週間くらいしか経ってないはずなのに、カームへリオ王国、フレミア王国、そしてリングル王国まで移動してくるのは早いどころの話じゃない。
僕の言葉にアウーラさんは晴れ晴れとした笑顔を見せてくる。
「はい! フレミア王国に戻った当日にすべてケリをつけてきました!!」
「ははは、なんか物騒ですね」
「勇者としての立場が仮だったこともありますけれど、それを踏まえても切羽詰まった状況でしたので……」
だとしても勢いがすごいな。
色々としがらみとかがあっただろうに、その全部を振り切ってきたのかな?
———と、そこまで考えて僕はあることに気づく。
そうだ、僕アウーラさんしか名前聞いていないじゃん。
このまま名前を知らないというのは、あまりにもダメなので、失礼を承知でアウーラさんの友人の二人に名前を伺ってみることにした。
「すみません。本当に今更ですけど改めてお名前を伺っても大丈夫でしょうか?」
僕の言葉に一瞬、きょとんとした顔をする二人だけど、すぐにハッとした反応を返す。
「……あ、ごめんなさい。そういえば名乗っていませんでしたね」
「今まであーちゃんのおまけみたいな立場にいたからしょうがないよ」
聞くタイミングを逃してずっと聞けなかったこともあるけど、いつもアウーラさんと一緒にいるから呼ぶ機会がなかったからな……。
まずはアウーラさんの右隣にいる白よりの金髪を肩くらいにまで伸ばした女性が、柔らかく微笑みながら自身の胸に手を当てる。
「私はエリンと申します。アウーラとはルクヴィスに通っていた時からの幼馴染で親友なんです」
そして、その隣のもう一人の腰に届くくらいの紺色の長髪の女性が答える。
「私はイマ。えーちゃんと同じく、あーちゃんの親友だよ。よろしくね」
「改めて、ウサト・ケンです。こちらこそよろしくお願いします。エリンさん、イマさん」
ちゃんとお互いに自己紹介ができたところで、再び歩き出す。
とりあえず、さっきの話が気になるし、話題を戻そう。
「全部ケリをつけてきたと聞きましたが、大丈夫だったんですか?」
「いえ、あー……大丈夫……ではありませんでしたね」
「えっ……」
大丈夫じゃなかったんですか?
ちょっと言いづらそうにするアウーラさんと、気まずそうに視線を逸らすエリンさんにイマさん。
「まず実家に戻ったら縁組を組まされる寸前まできていました。王家に近い身分の子息とのものです」
「私も」
「私もです」
「わぁ……」
がっつり外堀が埋められかけているじゃないですか。
なんか僕の住んでいるリングル王国とはかけ離れたドロドロになりそうな展開をしている三人に素直に慄く。
「それを知ったときはもう、ふざけんなって怒りました」
「今まで私たちの研究を嘲笑っていたくせに」
「掌返しを許すほど、私たちもバカじゃない」
旅から戻ったら勝手に自分の将来を決められているようなものだからなぁ。
さすがに僕も救命団員として選ぶ余地は……あったか? いや、シンプルに僕が逃げ出さなかったから一応選択肢自体はあったんだろうな……。
僕がそれを選ぶ暇もなく、突き進みすぎちゃったからだろうし。
「あくまでそういう話が進んでいた。という時点だったのでなんとかなりましたが、あと少し遅れていたら……自身の死を偽装して脱出するところでした」
この人気弱に見えて、実は行動力の鬼なのでは?
でもだからこそ、魔法という分野に熱中できて、成功を収められたんだから凄いと思う。
「それで、さらに吹っ切れた私たちは勢いのまま実家に絶縁を言い渡し、城に突撃してきました」
「大丈夫だったんですか?」
「押し通しました。私たちのこれまでの魔法研究の資料を明け渡すという条件の元、私は勇者としての任を放棄することができました」
本当にアウーラさんたちの研究“成果”にしか目がいっていないんだな。
素人の僕だって、一番重要なのが研究の細部が記されているものではなく、その成果を0から導き出したアウーラさん達三人の方だって分かりきっているのに。
「それで私たちはフレミア王国から出ていくように命令……まあ、とどのつまり追放されたんです」
「へぇー……ん?」
あまりにもさらっと言われた衝撃の言葉に思わず彼女たちの方を見てしまう。
「追放!!? そ、それってすごく大変なんじゃないんですか!?」
「いえ、それほどでも……」
それほどの問題でもあると思うのですが……!!
瞬間瞬間に生きすぎじゃないか!? リングル王国でうまく生きていけなかったらどうするんだ!?
「ウサトさん、違います」
「そう、違うんです」
「私達が追放されたんじゃない」
慌てる僕に、大丈夫だと言ってくる三人。
「私たちが見限ったんです。私たちは自分たちの好きなことを研究したかっただけなのに、それを王家は許さなかった。その自由すらも侵すようなら、私たちがあの国にいる理由はありませんから」
「……そう、ですか」
アウーラさん達が納得しているなら僕がとやかく言うのも違うか。
それに、この三人なら助け合って普通にやっていけそうではあるし、何よりウェルシーさんが放っておくとは思えない。
内心で納得している僕に、アウーラさんが人差し指を立てる。
「研究資料を渡したとしても、あの研究を理解できる人材はフレミア王国にいないので全く問題ありません」
「な、なるほど」
「ウサトさんの技術と同じです」
なんで今僕が引き合いに出されたの?
魔力回しのこと? それとも僕の技のことを言っているのかな?
なんだか釈然としない気持ちになってしまっているうち気づけば城の城門前にまで到着していた。
「こちらが王城です」
「あのー……本当に今更ですが、突然お邪魔して大丈夫でしょうか?」
ここまで来て遠慮してしまったのか、アウーラさんが引き気味に聞いてくる。
「ひとまずアウーラさん達が来てくれたことをウェルシーさんに伝えておきたくて。心配はないと思いますが貴女はフレミア王国の勇者でしたので……」
「ああ、なるほど。無用な問題を抱えないようにするため、ということですね」
多分、大丈夫だろうけれど他国の元勇者がリングル王国に住むということになって後々、フレミア王国側からなにかしらの干渉がないとは限らないらしいからな。
そういう憶測も踏まえて、彼女たちのことはウェルシーさんと城に伝えなくては。
「そのためにまずは守衛さんに……」
と、先に城門の騎士さんに声をかけようと探してみる―――と、いつも騎士さんが立っている場所に、僕にとって見慣れた人物がいることに気付く。
「アルクさーん」
「おお、ウサト殿」
昨日までルクヴィスの学生たちの指導を行っていたはずだけど、もう城門の警備に戻っているんだ。
さすがはアルクさんだな。
「ルクヴィスの生徒さんたちへの指導、お疲れさまでした」
「ははは、ありがとうございます。……それで、今回はどのようなご用件で? カズキ様にお取次ぎしましょうか?」
「ああ、いえ今回は別件で―――」
ひとまずアウーラさん達のことをアルクさんに説明し、ウェルシーさんにそのことを伝えてもらうように頼む。
僕の頼みを聞いてくれたアルクさんは、部下の騎士さんに城に伝えるように指示を出してくれる。城にその騎士さんが走っていく後ろ姿を見送っていると、僕の後方にいるアウーラさん達三人を見たアルクさんが苦笑しながら話しかけてくれる。
「しかし、フレミア王国の勇者ですか。ウサト殿は相変わらず勇者と縁が深いですね」
「確かにそうですね。そもそもこの世界に来た時からずっと関わっている気がします」
というより、先輩がいる時点でずっと勇者と関わっているようなもんだな。
「でもまあ、勇者にも間違えられたりすることもありましたからね……その時は碌な目に逢いませんでしたけど」
「ははは」
邪龍とかサマリアールで魔術師に囚われた被害者の魂たちからとか。
ヒナと最初に会った時もそうなのか? いや、だったらシア関連も勇者が関わっているのか。
なんか僕と勇者は切っても切れない関係みたいになってそうで、普通に困るな……。
アルクさんと久しぶりに軽く雑談を交わしていると、城の入り口がある方から誰かが小走りでやってくるのが見える。
リングル王国に所属する魔法使い特有の濃い青色の衣服を着た水色の髪が特徴的な女性、ウェルシーさんの姿に僕は驚く。
「ウェルシーさん……?」
「おや、ウェルシー殿が直接いらしたようですね」
僕とアルクさんが少し疑問に思いながら、少し息を切らしてやってきたウェルシーさんを迎える。
普段、運動をし慣れていないのか、そのまま胸に手を当ててゆっくりと呼吸を整えている彼女に、反射的に治癒魔法をかける。
「ぜぇ、ぜぇ、も、申し訳ありません。ウサト様」
「なにもそんなに急がなくても……」
「い、いえ、私のことより、そちらにいるのが……」
ウェルシーさんの視線が僕の後方にいるアウーラさん達三人に向けられる。
彼女の視線を受け、緊張に身を強張らせる三人に呼吸を落ち着けたウェルシーさんが落ち着いた声で話しかける。
「お久しぶりです。アウーラさん、イマさん、エリンさん。ルクヴィスに在籍していた時以来ですね」
「ウェ、ウェルシー先輩……」
「事情はウサト様とスズネ様から聞いています。私……いえ、リングル王国専属魔導士統括責任者として、貴女達の来訪を歓迎いたします」
———なんだろう、全然悪意とかそういうのが一切ない優しさすら感じさせる笑顔なんだけれど、どういうわけかなにか別の思惑のようなものがありそうな含みが……。
ウェルシーさんの笑顔に少しだけ違和感を抱きながら首をかしげていると、アウーラさんがぎこちなさそうに話しかける。
「私達、これからリングル王国で働きたいと思っているんです。フレミア王国ともちゃんと縁を切ってきたので、下働きでもいいので魔法の研究に携わらせていただきた―――」
「アウーラさん」
アウーラさんの両肩に手を置いたウェルシーさんがものすごく穏やかで優しい声で話しかける。
「貴女たち三人の優秀さは私もよく知っています。それに、フレミア王国でどのような扱いを受けていたかも……歓迎すると言ったでしょう? 私たちはすぐにでも貴女達が研究に没頭できる立場と環境を提供する準備ができています」
「「「えっ」」」
「ん?」
あまりにも話が早すぎるウェルシーさんに思わず僕もびっくりしてしまう。
そんな僕の反応に構わずウェルシーさんは、笑顔のまま続けて言葉を発する。
「現在。私たちは未曽有の魔力革新の研究・記録に着手しております。現在進行形で進化と発展をし続け、予想の斜め上を突き進み、さらに枝分かれしていく出鱈目さに……現状、私たちの手だけでは足りない状況なのです」
「ウェルシー先輩、それは、まさか」
「ええ、ウサト様です。先日、またなにかしら技を編み出したそうです」
「「「……っ」」」
「あの、本人目の前にいるんですけど?」
その心霊スポットに幽霊がまた出た、みたいな反応されるのはどうかと思うんですけど。
僕のツッコミが聞こえていないのか、構わずウェルシーさんが僕へと視線を向けてくる。
「ウサト様! 最近編み出した技術はなんでしたか!?」
「え……相手の魔法を妨害する技と、他者の系統強化を補助する技と、他者の魔力回しに干渉する技とかですね」
「魔力回しについてもまだまだ研究がまとめられていないのに、この方はポンポンポンポン技を発展させていくんです! ええ、素晴らしいでしょう!?」
「「「はい!!」」」
声を揃えるアウーラさん達に、満足そうにするウェルシーさん。
そのまま「ふぅ」といったん呼吸を整えた彼女は、改めて三人へ向き直る。
「貴方たちが望むのならば私の部署の一員として研究に参加してほしいです。もちろん正式な給与もありますし、貴女達の研究を制限することがないことも約束します」
その提案にアウーラさん達三人は顔を見合わせる。
そして、そのまま決意を固めたような顔で無言で頷きあうと―――、
「……わ、私、やります!! お手伝いさせてください!!」
「これは紛れもないチャンスです……!!」
「魔法革新を間近で見れるなんて絶対ない……!! よろしくお願いします!!」
「そう、答えてくれると思っていました……!!」
がしぃっ、と4人で腕を広げて抱きしめあう。
その光景を見た僕は、微妙な表情になりながら隣で苦笑しているアルクさんを見る。
「また騒がしくなりそうですね。アルクさん」
「ははは、ウサト殿がいてくれると話題に事欠きませんね」
「僕が自発的に提供してるわけじゃないんですけどね……」
正確には結果的にそうなってしまうだけで。
でも、アウーラさん達が正式にウェルシーさんの部下になってくれるなら、僕としてもいろいろと意見とか聞いて、魔力回しの応用とか新たに思いついたりできそうだな。
人数が増えたからどんどん新しいこと試してよさそう、と不穏なことを考えているウサトでした。
今回の更新は以上となります。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




