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第四百八十三話

お待たせしてしまい申し訳ありません。

色々と忙しく更新が遅れてしまいました。


今回は珍しく、カズキ視点でお送りいたします。

 俺とウサトの魔力操作は似ている。

 俺が外に放った魔力の操作に長けているなら、ウサトは体内。

 魔力回しという基礎を極めに極めたことによりたどり着いた魔力操作技術は、俺から見ても常軌を逸したものだと思う。


「———すごいな」


 ウサトの周囲に弾力を付与した光魔法の魔力弾を配置し、それらを操っていた俺は彼が今行っている技に思わず感嘆の声を零してしまった。

 パッと見は普通に立っているようにしか見えないけど操作した魔力弾がその体にぶつかれば、軽い音と共に跳ね返ってしまう。


「……」


 ……集中しているな。

 完全に目を閉じて、魔力感知にのみに感覚を集中させている。

 ウサトの魔力感知は比較的シンプルな部類で、波紋のように放った治癒魔法の波動で生物・物体の動きを把握することができる。

 先輩のように近接に特化したものや、俺のように光魔法のシャボン玉を出すやり方とは全く違いクセがない。

 特化していないとも言えるけど、だからこそあらゆる状況に対応するウサトの戦い方に合致している。


「カズキ」

「ん? どうした?」


 魔力弾を飛ばしている俺に、目を開けたウサトが笑みを浮かべながら魔力弾を弾く。


「僕だけ訓練を手伝ってもらうのも悪いし、カズキも魔力弾の練習がてらどんどんぶつけてきていいよ」

「いや、それじゃ」

「言い換えればキャッチボールみたいなもんだからね。こういうのは変に遠慮しない方がいいでしょ」


 ……それもそうだな。

 これは訓練ではあるけど、堅苦しいものじゃない。

 ウサトの言葉に軽く笑って頷いた俺は、大きく腕を翻しウサトの周囲に滞空させていた魔力弾を円軌道を描くようにすべて動かし、直線的に向かわせていた魔力弾を生物的な軌道に変える。


「じゃあ、俺も遠慮なくやらせてもらおうか!」

「ああ!」


 ———真っ当に訓練できる相手

 城の中ではなんだかんだでできることのなかったソレに俺自身もテンションが上がり、訓練にのめりこむように魔力弾の操作の精度を高めていく。

 自然と俺とウサトも笑みを作りながら、縦横無尽に操る魔力弾による攻防を交わしていく。


「「———!」」


 肩と背中へ向けた魔力弾が弾かれ、

 二の腕と腹へ向けた魔力弾も弾かれ、

 額、肩、足へ向けた魔力弾も弾かれる。

 俺も本腰をいれて訓練に臨むようになってからよく分かる。

 ウサトが今、体の中でやっている魔力操作がどれだけ異質なものかを。


『貴方様の魔力操作における技術は他の追随を許さない程に精密です。私が知る限り、比肩する者さえおりません』


 以前、ウェルシーは俺の魔力弾の操作を見てそう評してくれた。

 ウサトにも同じような評価が当てはまりそうだけど、自分の手の延長として飛んだ魔力弾を自由に操るのと、見えない身体の中の魔力を手のように操るのとでは、勝手が全く違う。

 下手くそに例えるなら、俺が魔力弾を操る感覚がゲームのコントローラーを操るものだとすれば、ウサトは謎の呼吸法で内臓をぐねぐねに操っているような感じだろうな。


「……いや、その例えはダメか」


 いくらなんでも変態的すぎるか?

 でも、魔力回しを自分で訓練した身からすると、その表現もあながち間違っていない。

 魔力回しは誰にでもできるし、上達することもできる。

 でも、ウサトのように無意識でも魔力回しを行い続け、常に極め続けることは絶対に無理だと断言できてしまう。


「———ッと」


 その時、ぽすっ、一つの魔力弾がウサトの腕に普通に当たってしまう。

 そこで緊張が解けたのか、吐き出すように息を吐いたウサトが額を拭い、俺自身も大きく息を吸う。


「……いやー、ダメかー」

「ふぅ……大丈夫か? ウサト」

「うん。でもこれだけ集中して治癒感知をするのも結構神経使うなぁ」

「無理もない。むしろ最初でこれだけできるのは十分すごいと思うぞ」


 魔力操作と治癒感知、その両方をやっているんだからさすがのウサトも疲れるか。

 そのまま軽く一息ついたウサトは、また軽く右手を前に突き出すような構えをとる。


「今度は動いて対応してみるか。……胴体に魔力弾が当たったらこっちの負けってことでいい?」

「いいのか? 手加減しなくても?」

「むしろカズキこそ当てられるの?」


 お互いに軽口を交わしながら、魔力弾を掌に作り出す。

 さっきは動かない状態で魔力弾に対処してたけど、今度のウサトは両腕の防御と常識はずれな身のこなしで対処してくる。

 こっちも本腰をいれて当てにいかなくちゃな……!!


「はっ!!」


 五つ作り出した魔力弾を同時に向かわせる。

 真っすぐに向かってきた魔力弾に対し、ウサトは前に突き出した治癒魔法の緑の魔力を纏った手で―――滑るように斜めに逸らす。


「……弾いた? いや、受け流した……?」


 見たところ魔力回しの応用ってところか。

 受け流された魔力弾をさらに操り取り囲んだ状態から一斉に襲い掛からせるも、魔力感知ですべてを把握しているウサトはその全てを紙一重で避ける。


「五つじゃ足りないか!」

「いや、十分大変なんだけど!!」

「なら倍に増やせばいいな!!」


 さらに魔力弾を送り込む。

 それぞれが別々の軌道を描き襲い掛かる計十個の魔力弾に、ウサトの表情が一瞬引きつるも、すぐに笑みを浮かべ、魔力弾をその身に受け―――、いや違う!!


「魔力の囮!? 忍者かお前!!」

「フッ、治癒残像拳だよ!!」


 あろうことか弾力を持たせた魔力を脱皮するようにその場に置き、俺の目を欺きやがった!

 一見すれば色とか質感で分かりやすいはずが、ウサトの動きの速さ、そしてタイミングの上手さであっさりと騙された!!

 それでも魔力弾で追尾。

 ウサトの影を追っていくが、当のウサトは曲芸のように軽やかに後転と思いきや、不自然な挙動で空高く空中に飛び上が―――って、んん!?


「なんで!?」


 明らかに不自然な跳ね方したぞ!?

 いや、弾力を付与させた魔力弾を思いっきり踏んで跳んだのか!! 使っているところを見たことある技でも全然見慣れないってどういうことだ!?

 こちらも慌てて、中空にいるウサトへすべての魔力弾を一斉に向かわせ……ウサトが掌に浮かんだ魔力弾を地面へ構えていることに気付く。


「治癒爆裂波!」


 まずい、と思った瞬間にはすでに遅く、ウサトの掌の魔力弾が弾け、地面方向に向けての衝撃波が放たれた。

 上から放たれた無差別の衝撃波で一方向から追撃させられた魔力弾が、押しつぶされるように地面へ叩きつけられあっさりと消し去られた。


「先輩の時にも言ったけど、こういうのは初見でしか通用しないけど……とりあえず僕の一勝ってことでいい? カズキ」


 衝撃の戦法に呆気にとられている俺に、着地したウサトがそう言い放った。

 我に返った俺は、呆れと嬉しさの混じる笑みが浮かんでしまうのを自覚しながら魔力弾を作り出す。


「このままやられっぱなしでいられるか。もう一回だ、ウサト」

「ああ、やろう」


 気負わない友達との訓練がここまで楽しいだなんてちょっと思いもしなかった。

 さらにやる気を高めた俺はそのまま内心の高揚に合わせ、魔力弾の操作に没頭していく。



 結論から言うと、ウサトの持つ手数の多さはいくら確認しても把握しきれないことが分かった。

 本当に敵として戦うやつは、戦っている間ずっとウサトに翻弄されているんだろうなーって思ってちょっと同情したくらいだ。

 俺も何度か胴体に魔力弾を当てて勝ちを拾ったけれど、正直全然勝った気がしない。


「さすがに疲れたな……」

「ははは」


 でも、やっぱりというか体力的に俺の方が疲れてしまったので、今は訓練を切り上げて訓練場端の原っぱで休憩している。


「ウサトはさすがの体力だな」

「伊達に鍛えているわけじゃないからね。魔力の方も系統劣化のおかげで大分節約できるようになったし」


 俺も体力は確実に落ちているだろうから、もうちょっと運動の時間を増やすべきだよなぁ。

 城にこもりがちな自分の運動不足を内心で嘆いていると、近くに腰掛けていたウサトがおもむろに自分の掌を見つめる。


「今回の訓練でちょっと見えてきたものがあったな」

「へぇ、どんなの?」

「全方位治癒魔法弾とか、治癒弾きと治癒流しに連なるやつ……とか」

「……」

「聞いておいてドン引きするのはどうなの?」


 ちょっと言葉に詰まってしまった。

 そんなぽんぽん技って思いつくものなんだな。

 普通なら思いついた技に磨きをかけて実戦向きにしていくのが普通なんだろうけれど。


「は、はは、つーか全方位ってなんだよ」

「全身に魔力弾を配置して」

「配置して?」

「魔力を暴発して射出する」

「ウサト」


 俺はウサトと視線を合わすように地面に膝をつき、その肩に手を置く。


「なにか悩みとかあったら聞くぞ?」

「僕、なんで心の心配されてるの?」


 いや、冷静に考えて全身から魔力を暴発するってやばいからな?

 なんかもうウサトの系統強化の暴発って、普通の暴発とは別物になっているような気がしてならない。


「はぁ。やっぱウサトが一番無茶苦茶だよな。先輩以上だよ」

「……え」


 普通にショックを受けたような顔をするウサトに苦笑する。

 やっぱりウサトと話していると退屈しないな、と今一度思いながら俺もその場に腰を下ろす。


「はぁ、なんだか今のウサトのトンチキ具合を見てると、そのうち消滅アリの光魔法でも普通に弾いちゃいそうだけどな」

「あ、それならもうやってできた」

「やってできたぁ!?」


 思いもよらない答えにびっくりした。

 光魔法っていうと俺以外の使い手から消滅の力込みの魔力弾を向けられたってことか!?

 驚く俺にウサトはなんてことないように手を軽く振る。


「魔物の領域に探索に向かったときにね。正体を表し……まあ、表したか? シアに光魔法の魔力弾を放たれたときに僕の先達から伝授してもらった治癒流しで受け流したらできた」

「お前やばいな」

「なんかカズキにドン引きされるのってあまりないから新鮮だね」


 消滅の力のやばさは使い手の俺自身がよく理解している。

 触れればなくなる(・・・・)

 そんな危険な魔力を「やったらできた」感覚で弾いてしまうのは普通にどうかと思う。


「もうなんでもありだな」

「カズキの魔法もなんでもありだと思うけどなぁ。光魔法で相手を縛り付ける手錠とか、ロープとか作ったらもう最強じゃん」

「一瞬で俺の発想を超えてくるところがだよ」


 本人はさらっと口にしているけど、手錠にロープって……なるほど、そういう応用の仕方がって感心してしまう。

 ずっと攻撃性ばかりに目がいってそれを必死に抑え込むことばかり考えて、それがなんとかなった後は思考停止していたな。

 今度こっそりできるかどうか練習しよう。


「ま、訓練に関してはこれからカズキに付き合ってもらうことになるね」

「お前だけ城に来てもらうのも悪いし、俺から救命団の方にも行くよ。たまにそっちも見てみたいし」

「うん。先輩も喜ぶと思う」


 ずっと城の中にいるのも息苦しいからな。

 そういう意味で城の外でのびのびと過ごしている先輩が羨ましくもある。


「……でもたまにこういう息抜きもいいな」

「忙しそうだもんね」

「それはお互い様だろ」


 むしろウサトの方が忙しないくらいだ。

 でも、俺もウサトも自分で選んだ道だし、嫌々やっていることでもない。

 それにウサトがこの世界で人間と魔族の架け橋になるってんなら、俺はそれを助けられるようになりたいって思いもあったからな。……こんなこと恥ずかしくて言えないけど。


「フッ、僕も応援しているよ。陛下」


 嫌ってわけじゃないけど、ウサトや先輩からそう呼ばれるのはむずがゆくなる。

 俺だけからかわれるのも納得いかないからちょっと反撃してみるか。


「そういえばウサトってサマリアールの王様に気に入られてたよな?」

「そういえばカズキ……! 魔王領に行ったときに一緒に同行したニルヴァルナ王国の王女様のセンリ様が、コーガに熱烈なラブコールをしたって話、聞いたかな!?」


 仕返しがてらにサマリアールの王様のことを話すと、すごい食い気味に話を逸らしにきた。

 ……いや、でもコーガの話も気になるんだが。

 センリ様って俺が行ったときに会わなかった王女様のことだよな……? 色々とタイミングが合わなかったって話らしいけれど。

 そのまま、慌てふためくウサトと他愛のない雑談を交わしていると、俺たちしかいない訓練場に誰かがやってくる。


「おお、ここにいらしたんですね」

「あれ? シグルスさんじゃないか。どうかしたんですか?」


 やってきたのはリングル王国騎士団長であり、俺の剣の師匠のシグルスさん。

 最近はいつも装備している全身鎧ではなく、動きやすさを重視した軽装の姿でいるようになった彼が、俺とウサトを見てこちらへやってきた。


「ウサト様がカズキ様を訪ねてきたと聞きましてな」


 シグルスさんの言葉にウサトが「あ」と声を漏らす。


「もしかして、もう団長から話を?」

「ええ」

「ウサト、話ってなんだ?」

「シグルスさんにも訓練を手伝ってもらおうって話」


 なんか人選が贅沢すぎじゃないか?

 ウサトの訓練を考えると仕方ないけど。


「急な話ではありましたが、ウサト様は我々にとっては命の恩人といっていい存在。そのような御人の一助となるとならば、協力は惜しみません」

「あ、え、団長のことだから結構無茶な言い方をしたと思いますから、忙しいようでしたら断っても……」

「フッ、いいえ。私個人としても一度貴方と話す機会があればと思っていたのです」


 ……そういえばシグルスさんってなんだかんだでウサトと面と向かって話したこと自体少なかったんだよな。

 訓練している場所そのものが違うし、シグルスさん自身騎士団長という立場で多忙だったからしょうがないとも言える。


「それに、戦後のいざこざもようやく落ち着きを見せてきたことで、ようやく私自身余裕が出てきましたからね」

「それなら奥さんと息子さんのために休日でもとったらいいのに」

「うぐ……」


 俺の指摘に痛いところを突かれたとばかりに呻くシグルスさん。

 でもまあ、冗談だけど。

 真面目なこの人のことだからちゃんと時間はとるようにしているんだろうし。

 ウサトはシグルスさんが妻子持ちだと知って、ちょっと驚いているようだ。


「こ、こほん。さすがに今日はかなりお疲れのように見えるので、訓練そのものは後日ということで、よろしいですか?」

「はい。その時はよろしくお願いします」


 では、と続けて言葉にしてウサトは改めて俺とシグルスさんに向き直る。 


「これ以上長居するのも悪いし、そろそろ戻るよ」

「おう」


 もうちょっと話したいが、さすがにこれ以上はな。


「カズキ、シグルスさん。また後日、よろしくお願いします」

「じゃあな、ウサトー」

「お気をつけて」


 後ろを振り向いて城門へと向かっていくウサトを見送る。

 久しぶりにちゃんとした訓練ができたけど、いい気分転換ができて楽しかったな。


「カズキ様」

「はい? どうしました?」


 隣のシグルスさんに声をかけられ、彼の方を見る。


「先ほどセリア様がお探しになっていました」

「……やっべ」


 ウサトが来たから、セリアになにも伝えずに来ちゃったんだよな。

 とりあえず、戻ってからは速攻で彼女に謝らなくちゃな、と反省しながら俺は急いで城へと戻るのであった。


久しぶりのカズキ視点でした。

改めて見ても変態的な技術をしていたウサトでした。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
こんなにやべーウサトを軽くあしらえる奴がゴロゴロいるこの世界も大分やべーな笑
カズキからすると元の世界も含め気楽に話ができる貴重な友人ですからねウサトは。2人とも楽しそうで何よりです。 …色々と非常識な事をやってるという意味では穏やかとは言い難いけど。 >結論から言うと、ウサ…
訓練は相変わらず変態でしたが、カズキと楽しそうに過ごせているので、微笑ましい話でした。
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