第四百八十二話
二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。
「僕は城の方に用事があるから、二人はこのまま訓練を続けて」
「「はい!」」
カズキに会う約束を取り付けるためリングルの城下町の城の近くまでやってきたところで、僕はキーラとナックにそう切り出した。
「あ、ウサトさん!」
「ん? どうしたの?」
ブルリンを背負いなおして、そのまま背を向けて歩き出そうとする僕をナックが呼び止める
「ブルリンは俺達が連れて行きましょうか? 」
「大丈夫だけれど、平気?」
「そこはご心配なく。ウサトさんが留守の間、俺達はブルリンの世話をしていましたから!」
「言うことをちゃんと聞くおりこうさんですし!」
おりこうさん……おりこうさんか? ブルリン?
背中で眠そうにしているブルリンに視線を向けると、間延びした欠伸が返ってくる。
ま、まあ、基本的にこいつは大人しいし、僕が留守の間も大丈夫だったのでここはナックとキーラに任せちゃおうか。
「それじゃ、ブルリンは任せるよ。ほら、お前も惰眠を貪ってないでナックとキーラと一緒に走ってこい!」
「グルァ~」
のそり、と僕の背中から降りた後に、不満をぶつけるように僕の脚を一度殴りつけたブルリンはそのままナックとキーラの隣に並んでいく。
「じゃ、行こう。ブルリン」
「グルァー」
「ウサトさん、また宿舎でー」
走っていくナックとキーラ、ブルリンを見送る。
二人と一頭の姿が見えなくなったところで、僕も城の方へ向きそちらへ向かっていくのだった。
●
いつものように守衛さんに話を通し、城門の奥へと入った後はカズキへ会う約束を取り付ける言伝を頼んで城内の庭で返事を待っていた。
「カズキも忙しいからなぁ」
先輩は救命団員になったわけだけど、カズキはゆくゆくはロイド様の跡を継ぐべく勉強の毎日だもんなぁ。一年前までは元の世界で普通の高校生をしていたことを考えるととても現実感がない状況だ。
「……もう、元居た世界にいた時のことが遠く感じてくるな」
自分で選んだことだし、後悔はしていない。
ただ……時折、少しだけ思いを馳せることはある。
……。
……、……ん?
「待てよ。もしかして……ゆくゆくはカズキを陛下って呼ぶことになるのか。いや、カズキ王?」
「いや、気が早すぎるしやめてくれよ……」
庭にやってきたカズキが苦い顔をしてそう言ってきたので、僕はわざとらしく驚いた素振りを見せる。
「カズキ!? いつの間に!?」
「ぜってー気づいてただろ」
「ははは」
ジト目で睨むカズキに笑みを返す。
庭に出てきた感じからしてカズキっぽかったからね。
彼の少し後ろには数人の侍女さんの姿もあるが、今日はセリア様は来ていないようだ。
「突然、押しかけてごめん。カズキ」
「謝る必要なんて全然ないぞ。むしろ来てくれて嬉しいよ」
とりあえず僕は、来てくれたカズキに片手をあげて挨拶すると、彼も嬉しそうに笑ってくれる。
本当は会う約束だけできればよかったんだけれど、普通に会えたなら話が早いな。
「今って話せたりする? もし無理だったら時間を合わせるけど」
「変に気を遣わなくてもいいって。そこで話そうぜ」
カズキが指し示したいつもセリア様と先輩とかがいる時に話すテラスに移動し、そこに向かい合うように椅子に腰かける。
すると、すぐに控えていた侍女さんが紅茶を淹れてくれる。
「……」
「どうした? ボーっとして」
「いや、なんかこういった感じでカズキと話すのってあまりなかったなーって」
「確かに。いつもセリアとか、先輩もいたもんなー」
二人で話したことは何度もある。
でも、こういう形で話すのはなんだか初めてなんじゃないか?
「なんかお互いに立場があるから、変に都合とかその辺に配慮するようになっちまったなぁ」
「そうだね」
僕も今は副団長だしね。
それにロイド様にこの国のため、そして魔族と人間の懸け橋になる覚悟を宣言したから生半可な肩書を背負っていない。
「先輩は……まあ、あの人はむしろ解放されたって感じなのか?」
「むしろあの人はこの世界に来た時点で解放されたようなもんじゃない?」
「……確かに」
僕の言葉に神妙な顔で納得してしまうカズキ。
先輩は勇者という肩書を持っていても普通に自由にしていたし、なんならその役目がなくなっても今は救命団員生活をエンジョイしているくらいだ。
「俺もぶっちゃけるけど、そんな一日の大半を勉強三昧してるわけじゃないぞ?」
「そうなの!?」
驚く僕にカズキは苦笑する。
「そりゃそうだろ。俺だって人間だぞ?」
「僕は一日中訓練しているものだからてっきり……」
「それはウサトが変な方向で凄すぎるからだ」
なんだろう、声色は褒めてる感じなのに言葉だけ見ると酷く見える……。
この話はなんだか僕がダメージを食らいそうなので話題を変えよう。
「そ、そういえば、前に話すのを忘れちゃったけれど、勇者集傑祭でカズキと同じ光魔法を使う子にあったんだよね」
「え!? 俺以外の光魔法使い!?」
「うん、ネーシャ王国の勇者のエリシャって子」
カズキからするとびっくりするよなぁ。
光魔法自体、使い手がものすごく少ないらしいから。
エリシャについて簡単にではあるが説明すると、興味を持っていたカズキが感嘆した反応をする。
「俺と違って消滅の力がない光魔法かぁ。そういうのもあるんだな」
「本人は消滅の力がないことに悩んでいたみたい。その代わり、透明になれたりしてカズキのとはちょっと違ってたね」
「俺とは真逆の悩みを抱えていたのか……でも、透明になれるのはすごいな! あれか? 光を屈折させている感じなのかな?」
あの子の光魔法はちょっと特殊な感じがしたので、カズキが同じように魔力を透明にできるかどうかは分からない。
……そのうちいつの間にか習得してもおかしくはないけれども。
「その子の光魔法に合わせた戦法を僕と先輩で考えたよ。光魔法で矢を作ったり、カズキみたいに足場にしたりとかね」
「おぉ……俺も同じようなことができそうだな」
カズキが軽く手を掲げると、その掌に光が集められ———十字の手裏剣のような形状へと変わる。
「おお、かっこいい」
「俺の場合は普通に放った方が速そうだけどな」
「いや、君なら投げてから操作することもできるから、あながちそうでもないと思うよ」
むしろ投げて加速させるから、使う状況的にはこっちの方が強いのでは?
僕の治癒魔法弾とは違って、狙いを定めて投げる必要もないのも利点の一つだと思う。
「ウサトならどう使う?」
「え、僕? うーん」
カズキの手にある光魔法の手裏剣を見ながら考える。
カズキの魔力操作で弾力付与もできているし、なんならカズキはそれに乗って移動できるほどの硬度があるから……。
「それを大きくさせて盾とかにするとか? カズキならできそうでしょ?」
「……」
「カズキ?」
「お、おう」
少し驚いたように目を見開いたカズキが、その手の手裏剣を宙に放り投げて巨大化させる。
大体、人ひとり分くらい隠せるほどの十字型の盾はしっかりと宙に浮いている。
「場合によっては、光魔法の消滅の力をあえて出して相手の攻撃を消滅させたりとか、盾の役目を終えたらそのまま相手に放り投げて使えるし……あっ、いくつも作れるならそれで周りの人たちを守れたりできる……かも……ね」
「……」
「……カズキ、もしかしてドン引きしてる?」
「うん」
カズキから聞いてきたんじゃん!?
見てわかるくらいに引いているカズキにショックを受けていると、彼は「ごめんごめん!」と謝りながら苦笑する。
「いや、思ってもみない使い方でびっくりしたんだよ。……俺の消滅の力って危ない力だから必死に制限しなきゃ制限しなきゃって考えてたけど、そうか、皆を守るための盾として使えばよかったんだな」
「咄嗟に思いついただけだからそこまで真剣に考えなくても……」
でもカズキの性格的にこっちの方があっているなぁとは思った。
「魔王と戦う前にあった遺跡の出来事で、カンナギの企みでウサトの魔法が光魔法に塗り替えられるって事件があったけどさ……今思うと、なんやかんやでやっていけそうだよな」
「あれは邪龍の影響もあったし、どちらにせよ、僕は魔力弾の操作が下手くそだから意味ないと思うよ?」
「ウサトのことだから、光魔法で全身を光らせて戦いそうだ」
カズキは僕をなんだと思ってるの……?
頬を引きつらせていると、からからと笑ったカズキが十字の盾を消して再びこちらに視線を向ける。
「そういえば、救命団の方はどうだ? 三日前にこっちに戻ってきたばかりだろ?」
「今日からようやく訓練できるようになったよ。午前中は団長とナギさんと組手してボコボコにされてきた」
「ははは、相変わらずだなぁ。……いや、真面目にとんでもないことしてないか?」
カズキはナギさんに指導してもらった経験があるので、ちょっと引いた様子だ。
訓練の話になったし、そろそろ僕がカズキを訪ねた理由を話しておくか。
「それで、今日カズキのところに来た理由なんだけれどさ」
「うん?」
今日、これから僕がする訓練についてカズキに説明する。
相手の意識を欺くフェイントを習得する上で実戦経験を積む必要があること。
その訓練にカズキも付き合ってもらえないか、ということ。
「———ということ、だけど」
「え、いいよ。面白そうじゃん」
意外と好感触!?
思わぬ反応にびっくりしていると、対面のカズキはわくわくしたように笑った。
「俺も動きが鈍らないように自主練するのも限界があったから、ウサトと模擬戦をするのは大歓迎だ」
「……そういえば先輩も満足に訓練できない、みたいなことを言ってたな」
それも先輩が救命団に入ろうとした理由の一つとは聞いていたけれど。
決して城内の騎士たちの実力が不足しているわけじゃないのは分かっている。
でも、カズキの魔法を使う上で本気で相手できるのが、ものすごく限られてしまうから『思う存分』という意味で訓練をすることができないのかもしれない。
「今からでも少しだけやってみるか?」
「僕は構わないけれど、———」
「俺も大丈夫だよ。言っただろ? 一日中勉強しているわけじゃないってさ」
そう言ってくれるカズキに僕も苦笑しながら立ち上がり、そのまま移動する。
場所はテラスからそう遠くない場所にある城内の訓練場。
その場所に移動した僕とカズキは向かい合うように立ちながら、軽く準備運動をする。
「ウサトはなんか伸ばしたいところとかあるのか? ほら、いつも身体とか鍛えているけど」
木剣を肩に置いたカズキの質問に僕は腕を組んで少し悩む。
伸ばしたいところ……か。
今日の訓練で言うなら実戦経験を培いたいってところだけれど、それ以外だとしたら……。
「正直、地味に伸ばしたいのは魔力弾の操作とかなんだけれど……僕ってそこらへんはてんでセンスがないんだよなぁ」
曲げられても一回だけ、それでもある程度はやりようはあるが、やっぱりカズキの縦横無尽に操る魔力弾は魅力的に見えてしまう。
「うーん、ウサトはセンスがないというより、得手不得手が分かれてる感じだと思うんだよなぁ」
「得手不得手……?」
掌に魔力弾を浮かせたカズキがそれを浮かせ、円を描くように飛ばす。
衛星のように回る魔力弾を滑らかに操った彼は、僕に視線を戻して口を開く。
「俺が外の魔力操作に長けているなら、ウサトは内側の魔力操作だろ?」
「まあ、それはネアにも言われたことがある」
「魔力回しも表現を変えれば、自分の身体の中に作った魔力弾を自由自在に操っているようなもんだろ?」
「……確かに」
見方を変えれば、確かにその通りだ。
無意識に別物って考えてた。
魔力回しも魔力弾と同じ……か。
……。よし。
「カズキ、僕の周りに魔力弾を配置してくれない?」
「? いいぞ」
カズキが光魔法の魔力弾を僕の周りに放つ。
弾力付与により、無力化された魔力弾を確認してから、僕は治癒感知を発動する。
「……ふぅ……」
治癒感知で僕の周囲に配置されたカズキの魔力弾を把握。
その一つがゆっくりと僕に向かって近づき、前腕あたりに触れそうになった瞬間———弾力付与により弾性を持った魔力で前腕の一部を覆い、魔力弾を弾く。
「……弾力付与を使った防御をもっとスムーズに、か」
イメージは弾力付与の魔力弾を体内で操る感じ……つまり魔力回しの応用だな。
これまでも相手の攻撃や、地面への衝撃を弾力付与による魔力で防いでいたけど、これをもっと反射的に意識せず———且つ最小限の範囲で発動できるようになれば、午前中にローズに食らった内臓に響く打撃にも対応できるかもしれない。
「どうやら、面白いことを考え付いたようだな」
「うん、君のおかげでね」
「俺はどうしたらいい? 手伝うぜ」
———本当に僕は縁に恵まれている。
その事実を心から嬉しく思いながら、僕は今思いついた訓練法をカズキに説明する。
「それじゃあ、僕は動かないからカズキは周りに配置した魔力弾をぶつけてきて欲しい」
「当たっちまうけど大丈夫か?」
「魔力弾をぶつけられる部分を、弾力付与を用いた魔力でピンポイントで防御する。慣れたら複数同時、もっと慣れたら僕自身も動きながら、さらに慣れたら今度はカズキ自身からも魔力弾を放ってもらおうかなって」
僕の説明にカズキはちょっと微妙な顔をする。
「なんか無抵抗の友達に魔力弾をぶつけるみたいで、ちょっと気が引けるな」
「大丈夫、カズキ。僕は慣れてるから」
「そんな満面の笑顔で言われても闇しか感じないんだけどなぁ。……ま、お前が必要っていうならやってやるか!」
パンッ、と合掌するように手を合わせたカズキが両手を広げ、たくさんの魔力弾を生成する。
続々と僕の周囲に配置される魔力弾を目にした僕は、感覚を治癒感知にのみ絞るために目を閉じて意識を研ぎ澄ます。
「やるぞ、ウサト!!」
「さあ来い!!」
カズキの協力の元、行われる防御訓練。
彼の力を借りるからには、絶対に完璧なものにしないとな。
思っていたよりも筆が乗ったカズキ回。
素で避け、分身で変わり身し、受け流し、その上さらに威力軽減する技を身に着けようとするウサトでした。
今回の更新は以上となります。




