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第四百八十一話

遅ればせながらあけましておめでとうございます!!

2025年も『治癒魔法の間違った使い方』をよろしくお願いいたします!!


今回は二話ほど更新する予定です。

 ローズにナギさん。

 歴戦の実力者である二人の手解きを受けたその後は、救命団の通常の訓練を行うことにした。

 最初の頃はローズの指導で訓練を行っていたけれど、今では比較的各々の判断で集団と個人での訓練をやったりしている。

 そして今日は———、


「ナック、キーラ、ちゃんとついてこれてる?」

「「はい!」」


 ナックとキーラという救命団最年少の二人と救命団お馴染みのリングルの街中の走り込みを行っていた。


「グルァ~」


 因みに僕に背負われているブルリンも背中で惰眠を貪っている。

 どうして僕がこの二人と走ることになったかということについては、午前の組手を終えた僕が走り込みをしようと外に出たところで、ちょうど行き会いそのまま一緒に訓練することになったってだけだ。


「でも、すみません。俺達のペースに合わせてもらってしまって」


 いつもより遅めのペースで走る僕に申し訳なさそうにするナックに、僕は笑みを返して首を横に振る。


「気にしなくてもいいよ。午前中はとんでもなくハードだったから、むしろちょうどいいくらいなんだ」

「正直、その場で見たかったです」

「私も」


 戦い方の相性上、ナギさんとはある程度戦いの駆け引きは成立するけれど、基礎で僕を遥かに上回るローズ相手じゃ僕はボコボコにされるだけなんですけれど。


「見ていてそんな面白いものでもないんだけどなぁ」

「ハハ、ご冗談を」

「ふふふ」


 ナックは本当に冗談だと思っていそうな様子で、キーラの方は苦笑い……。


「あ、途中で城の方に用事があるから分かれることになるけれど、大丈夫そう?」

「なにかお城に御用なんですか?」

「うん。ちょっとカズキに用があってね。予定もなく会うのは難しいだろうけれど、事前に約束を取り付けておこうかなって」


 いきなり訪ねてカズキに会うのも迷惑がかかるだろうし。

 手合わせについてはそれほど急ぐ用事でもないので、カズキの都合に合わせるのが一番いい。


「……」


 それから少しの間、リングルの城下町に近い林道を無言で走る時間だけが過ぎていく。

 こんなに落ち着いたペースで走ることは意外にないので僕も新鮮な気持ちで走っていると、ふとナックが懐かしむような声でそんなことを呟いた。


「こうやって走っていると思い出しますね」

「ん? 思い出すって?」

「ルクヴィスでウサトさんに訓練をしてもらっていた時です」

「あー」


 ミーナとの戦いのためにナックを鍛えた時のことか。

 あの時も僕はブルリンを背負ってルクヴィスの街中を追いかけまわしたなぁ。

 当時のことを考えると、今のナックはかなりの成長を遂げたと思わされる。


「あの時は本当に驚きの連続でしたよ。僕を鍛えてくれるって言った貴方が、今みたいにブルリンを背負って街中を追いかけてきたり、すごい勢いで魔力弾を投げつけてぶつけてきたり……」

「ははは」

「今では笑えますけど、当時本当に死ぬかと思ってましたからね」


 懐かしいなぁ。

 初めてリングル王国以外の場所に来たから僕自身、色々と手探りなところもあったな。

 訓練の時なんて、ブルリンを背負って街中を走ったから学園長のグラディスさんに怒られたりもしたし。


「誰かを鍛えることは初めての経験だったからね。僕にとっても印象深い思い出だよ」

「俺にとってもそうですよ。あの時の経験がなければ、きっと俺はここにはいませんでした」


 そう言ってくれると嬉しいな。


「むぅ……」

「ん?」


 キーラ、どうした?

 不満げな声が聞こえて振り向くけれど、ナックと並走するキーラはにこにことした笑顔を浮かべ僕を見上げていた。


「……私は、ウサトさんの訓練をお手伝いをした時を思い出します」

「ん? ああ、部隊を鍛えた時か。あの時もキーラはよく手伝ってくれたね」


 出張救命団魔王領編、というべきか。

 都市で募った魔族達に訓練を施す際に、別のメニューで魔力回しを教えることになったキーラにも手伝ってもらうことになったんだよな。

 キーラが一緒に訓練を見ていてくれたおかげで僕もかなりやりやすかった覚えがある。


「あの訓練で救命団の訓練がどのようなものか学べましたし、それにウサトさんには私の闇魔法のこととか、たくさん助けられました」

「遺跡の時は僕だけの力じゃないよ。君が自分の意思で闇魔法と向き合ったからこそだよ」

「……えへへ」


 なんだか昔話に思いを馳せる感じになっているのかな?

 それなら僕も似たようなことを話せばいいのかな? ……いやそれじゃあ、僕の壮絶な救命団入団時の思い出話になりそうだからやめておこう、うん。


「「……」」

「……二人とも睨みあってどうした?」

「「いえ、なんでも」」

「そ、そう?」


 なんだかものすごい目つきで睨みあっていたけど本当に大丈夫?

 剣呑な雰囲気の二人にちょっと引いていると、ようやくリングルの城下町へと入る。

 いつものように声をかけてくれる道行く人に挨拶を返しながら、軽く流すように走って行く。


「もう少しで城に着くな」


 たまには軽く話しながら走るのも悪くない……が。


「……うーん」


 ちらり、と斜め後ろを走るナックを見て悩む。

 妹と再会して確かにナックは明るくなった。

 彼にとってそれは良いことなんだろうが……この子は今、無理をしている。

 もちろん、それはミリアと再会したことを嫌に思っているわけではなく、別の……彼女に対するうしろめたさのようなものを感じさせるものだ。

 表面上はナックも明るく取り繕っているようだけど、そんなもの僕を含めた救命団員達には丸わかりだ。

 実際、昨夜も———、


『おい、ウサト。テメェ、ナックと話をしてやれよコラァ』

『それでも副団長かァ?』

『俺からしてもいいんだぜぇ?』

『自分の訓練だけやりゃいいって考えてんじゃねぇだろうなぁ?』

『職務怠慢ってやつじゃぁねぇのかぁ?』


 夕食後、トングを筆頭にした強面共に囲まれて言われたことがコレである。

 同じ仲間である僕を取り囲む強面共に対し、僕はなるべく穏便な対応をしようと務めた。


『あ? んなことお前らに言われんでも分かってるわ、この山賊どもがよォ』

『『『あぁ!?』』』


 きっと、傍からは山賊がかよわい一般人を詰っている光景に見えていただろう。

 しかし強面共の指摘自体は全然的外れでもなんでもなく、僕自身も気にかけていたことなので普通にナックと話すことを了承した。


「……話しておくべきだな」


 できるだけ落ち着いて話せるタイミングで話しておきたいが、ミリアに近いところで話を聞くのも配慮に欠けるからな。

 このタイミングがちょうどいい。


「ナック、キーラ。ちょっと立ち止まろうか」

「え? どうしたんですか?」

「休憩ですか?」


 不意に立ち止まった僕にナックとキーラは不思議そうにするが、一旦それに答えずに僕は二人を邪魔にならない通りの端の方に移動させる。

 近くの出店の店主さんに断りをいれてから木箱を貸してもらい、そこに二人を座らせる。

 僕はブルリンを下ろして、その身体に軽く体を預けるようによりかかり、ナックに対して話を始める。


「ナック、今のうちに話しておこうと思う」

「はい?」


 木箱に座ったナックが首を傾げる。


「多分、君は分かっていると思うけど……ミリアとちゃんと話さないと駄目だぞ?」

「っ……、はい」

「なにを話すかは、分かってるよね?」


 こくん、と頷いたナックに僕も安堵する。

 ミリアは年不相応に大人びていても、子供だ。

 十歳くらいの女の子が従者と一緒といえど、遠方からリングル王国にまで来るなんて相当だ。どれだけ大丈夫、平気と口にしても、その言葉通りだとは限らない。


「分かって……いるんです。ミリアは口では大丈夫って言っていても実は寂しい思いをしているんだって。……俺の両親が、重すぎる期待を向けて、頑張らせていることも」


 ナックから聞いた話だけで、彼の両親を必要以上に悪く言うことはできない。

 でも、僕の中ではかなり印象が悪い彼の両親が、唯一望む素養を持っていたミリアに過度な期待を寄せて無理をさせていても不思議じゃない。


「でも、俺にはどうしたらいいか分からないんです。だって、俺はもうアーガレス家の一員じゃないし……なにより、あの家に背を向けて逃げ出したから」

「……」

「逃げた俺が、今頑張っているミリアに偉そうなことを言えるわけがない……」


 ナックの膝に置かれた手が震える。


「俺は……自分のことばっかりで、一人残した大事な妹に貴族としての役割を押し付けてしまった……そんな俺が、今更ミリアの兄としてなにをしてあげたらいいか……」


 自分だけ両親の影から抜け出してしまった負い目。

 今、ナックを苛んでいるのはソレだ。

 彼に言うべきことは分かっている。

 それを、簡潔に伝えようとしたその時、隣に置いた木箱に座っていたキーラがいつの間にか装着していた闇魔法のマントをはためかせ———ナックの背中をビンタするようにどついた。


「痛ぁ!? な、なにするんだ!?」

「ナック君、うじうじ悩んで面倒くさい」

「め、面倒くさい!? 言うに事欠いてお前が!?」


 辛辣にそう返すキーラは、ナックと視線を合わせずにそのまま言葉を発する。


「まずは話さないと駄目じゃん。別にミリアちゃんとナック君は喧嘩をしているわけじゃないんだから」

「……それは、分かってるよ」

「分かってないからうじうじ悩んでるんでしょ?」


 うぐ、とナックも呻いて言い返せない。


「勝手に責任を感じて距離を取られる方がミリアちゃんにとって嫌なことだと、私は思うな」


 キーラがナックから僕を一瞥する。

 多分、この子は自分が闇魔法を扱いきれていない頃のことを思い出しているんだろうな。

 自分の力を恐れるあまり家族から距離をとろうとしていたキーラが、似たようなことで悩んでいるナックにそうアドバイスする姿に僕は、あえてなにも言わずに見守る。


「戻ったら、ミリアちゃんと話すように約束を取り付けるから」

「え、は!? いや、それは心の準備が……!!」

「心の準備なんていつまでもできないでしょ。ミリアちゃんがいつ帰るか分からないんだから」


 強引……ではあるけれど、別にナックとミリアは喧嘩しているわけでも拗れているわけでもないから別に悪い強引さではないんだろうな。

 これで仲が悪くなることなんてありえないだろうし。

 ナック自身もそれが分かっているのか、吐き出すようなため息をついた後に立ち上がる。


「……分かった! 分かった!! 今日、話すよ!! あぁ、もうまったく……ウサトさん、訓練再開しましょう!」

「ははは……ああ、そうしようか」


 僕とキーラも立ち上がると、覚悟を決めたナックが前へと走り始める。

 そんな後ろ姿を見たキーラは。誇らしげに僕を見上げる。


「どうでしたか? ウサトさん」

「今の成長した君を見たら、グレフさんもきっと喜ぶよ」


 本心からそう言うと、キーラが、ずい、と僕に頭を傾ける。

 フェルムに近い灰色の髪に、小さな角。

 無言でこちらに傾けられた頭を見て、以前キーラにお願いされたことを思い出した僕は、一つ頷いた後にキーラの頭に手を置いて軽く撫でる。


「えへへ」


 ナックもキーラもリングル王国に、救命団に来て成長している。

 その事実を喜ばしく思いながら、僕は先を走ったナックを追いかけるべく走り込みを再開させるのであった。

実はミリアに対してずっと負い目を抱えていたナックでした。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
まあしょうがないとは言え、逃げたも同然ですからね。 味方だったミリアとは、ちゃんと会話したほうが良いでしょうね。
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