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第四百七十一話

二日目、二話目の更新です。

前話を見ていない方はまずはそちらをー

 お兄様が変わってしまわれた。

 間違いなくその原因は私の隣にいる治癒魔法使いであるのだけれど、私はこのお兄様の変化をいったいどのように受け止めればいいのか分からなかった。


「べ、ベル……お兄様が……」

「坊ちゃま、なんと凛々しく成長なされたことか……」


 ベルは普通に受け入れちゃってます!?

 い、いえ、ベルはまだ侍女見習いだった頃から幼いお兄様と私の世話をよくしてくれた人だから、感慨深くなるのは分かるけれど……!!

 混乱している私達に気づかずにお兄様と魔族の女の子の怒鳴り合う声は大きくなっていく。


「ナック君は救命団員でしょ?」

「ああ、お前の先輩だ」

「じゃあ、その訓練を拒否するってことは……まさかそういうこと!? ついにナック君が診療所勤務になっちゃったら、一番弟子の座は私のものってことでいいんだね!!」


 一瞬の静寂。

 それなりに離れているはずなのに何か糸のようなものが切れる音が聞こえた気がした。

 同時、お兄様と魔族の女の子が勢いよく立ち上がる。


「ハァ——―ン!? 上等だ小娘ここで決着つけてやる!!」

「こっちは最初からそのつもりだよ!!」


 お兄様が緑の魔力———治癒魔法を纏い、魔族の女の子は足元の影から真っ黒い……あれは、闇魔法!?

 真っ黒い魔力をマントのように形成させた女の子は、ふわりと宙へ浮き上がり自由自在に飛び回る。そんな女の子にお兄様はあろうことか治癒の魔力弾を放つ。


「残念、ナックくんのへなちょこ魔力弾なんて当たりませーん!!」

「前までの俺だと思うな!!」


 お兄様が掌に作り出した魔力弾を軽く放り、助走をつけた蹴りで空へと打ちあげた。

 ぐぅん! と一気に上昇していった魔力弾は魔力操作により空を飛ぶ女の子へと向かっていき———魔力で作られたマントを貫いた。


「魔力弾を蹴った!?」

「ウサトさんに倣うなら、この技の名前は治癒シュートだ!」


 おにいさまがまりょくだんをけりとばしている……?

 確かに普通に放つよりも勢いがつくのは分かるけれども、どうして?


「フッ、治癒シュート。いい技だな」

「中々センスのある技名じゃないか」


 そして恐らくお兄様がこうなった元凶であろうウサトさんとイヌカミさんは、どこか嬉し気に頷いている。


「でもさすがにこれ以上の喧嘩は駄目だな。よし、ミリア、ベルさん。ここにいてくれ」

「え、ウサトさ———」


 彼の名前を言い切る前に彼の姿がその場から消え失せる。

 どこに、と思い思わず周りを見ると———音もなく地面に沈んだお兄様の背後に立っていたウサトさんが、空を飛ぶ魔族の女の子に手をかざす。


「え、ウサトさ……わわっ!?」


 すると、魔族の女の子が真っ黒いマントの裏地に入り込み、ひとりでに動きながら目にも止まらない速さで、ウサトさんの背中に覆いかぶさる。


「……は?」


 未知の光景すぎてうまく反応できなかった。

 いつのまにかウサトさんがお兄様の後ろに瞬間移動して、

 お兄様が脱力するように地面に倒れ、

 黒いマントを纏って空を飛んでいた魔族の女の子がマントに取り込まれ、

 そのマントがウサトさんの肩に装着された。

 ……いったい全体どういうこと!?

 状況だけ見ても一切、なにも理解できないんですけれど!?


「う、ウサトさん!?」

『わぁ、おかえりなさい!!』

「ただいま、ナック、キーラ」


 大混乱に陥る私を他所に、立ち上がったお兄様と、ウサトさんに覆いかぶさったマントから先ほどの女の子の声が響く。

 さっきまでの険悪な雰囲気が嘘のようにウサトさんの帰りを喜ぶ二人に、彼が注意するように声をかける。


「僕があまり言えたことじゃないけれど、二人とも救命団で喧嘩はご法度だよ?」

「はい……すみませんでした」

「ごめんなさい」


 申し訳なさそうにする二人にウサトさんは頷く。


「反省しているならよし。……さて、ナック」

「はい?」

「君に会いたい人が来ているんだ」

「え、俺に……?」


 ウサトさんがこちらを見るように促してくれる。

 こちらに視線を向けたお兄様は、私とベルを見て目を丸くしてびっくりして、そのまま駆け寄ってくる。


「え!? えぇ!? ミリア……ベル……!? ど、どうしてリングル王国に! いや、それより……」


 お兄様が私の手を両手で握りしめるように取ってくれる。


「会えて嬉しい! 本当に!!」

「……はいっ」


 二年……いえ、お兄様がルクヴィスを出た日も考えると三年ぶりの再会になってしまう。

 それでも、お兄様は私のことを覚えていてくれて、気にかけてくれていた。

 家族の絆を認識するのはそれだけで十分だ。


「元気そうでよかった……!!」

「ええ! そういうお兄様も……」


 ……。

 ……、……。


「お兄……様も……その、えぇと、お元気……そうですね。ハイ、ものすごく」

「え、なんで疑問形……?」


 自覚なし……!?

 元気なお兄様の姿を見ることができたのはすごく嬉しい。

 でも全然そうじゃないはずなのに、さきほどの壮絶なやり取りを見てしまった後だとお兄様が遠くにいってしまったと想えてしまうのはなぜだろう?



 ナックとミリアの再会。

 長く離れていた兄妹がようやく会えたこと、そしてその再会も悪いようにならなかったことに安堵していると、闇魔法のマントに潜っていたキーラが姿を現す。


「あの子、ナック君の妹さんですか?」

「うん、そうだね。カームへリオから帰る途中で偶然会ってここまで連れてきたんだ」

「兄妹だから結構似ているんですね」


 確かに二人並んでいると似ているな。

 双子、とまではいかないけれど顔立ちは近いものがあるね。


「キーラ、ただいま」

「おかえりなさい、スズネさん! ネアさんにフェルムさんも!」


 と、ここで先輩も僕の元に歩み寄り、それと同時にネアが人の姿に、フェルムが同化を解除する。

 ……さて、ひとまずミリアをナックに会わせることができたけど、僕達はまだ救命団に戻るわけにはいかないな。

 その前にまずは城へ報告に向かわなくちゃならない。


「キーラ、ナギさんはどこにいる?」

「カンナギさんですか? あの人は鍛錬中だと思います」

「そっか……それじゃあ、団長は?」

「私とナックくんをしばき倒した後に団長室に向かったと思います」


 ローズへの報告は宿舎に戻った後にして、ナギさんは……鍛錬を邪魔するのもアレだしシアとミオについて話すのは、落ち着いた時間にするべきか。


「……ネア、フェルム。僕と先輩はこのまま城へ報告に向かうけど、君たちは先に宿舎に戻る?」

「んー、そうね。口頭だけなら貴方とスズネだけで十分だろうし、私はこのまま戻るわ」

「ボクもそうする……。なんだかんだで長旅で疲れたしな」


 同化していたとはいえ、移動やらなんやらで疲れたんだろうな。

 フェルムにとってはリングル王国の外に出ること自体稀なことだし仕方ない。


「キーラ、魔法を解除していいよ」

「えっ」

「え?」

「……分かりました」


 どこか残念そうにキーラは僕の肩にかけられた闇魔法のマントを解除してくれる。


「ウサト様、イヌカミ様」


 そうしていると、ナックとミリアの傍にいた侍女のベルさんがこちらに歩み寄ってきていた。

 振り向いた僕と先輩に彼女は恭しくお辞儀をする。


「この度は、お嬢様を坊ちゃまに引き合わせてくださったこと、誠にありがとうございます」

「礼には及ばないさ。君たちはこれからどうするんだい? どこか泊まる当てとかはあるのかい?」

「いえ、それはこれから私の方で探そうと考えておりました」


 そっか、ここに滞在するなら泊まる場所が必要なのか。

 納得していると、先輩がこちらに声をかけてくる。


「ウサト君、私たちが住んでいる方の宿舎に部屋がまだ空いているけど、そこを貸すのって大丈夫なのかな?」

「団長に許可をもらえれば恐らく大丈夫です」


 あの人は訓練と規則には厳しいけれど、それ以外のことにはなんだかんだで寛容だからな。

 ナックも救命団の一員だし、その家族であり関係者のミリアとベルさんを一時的に滞在させることもおかしなことではない。

 まあ、選ぶのはベルさんとミリアさんなので、とりあえず候補の一つとして説明しておこう。


「———ということですが、ベルさんは、大丈夫ですか? その、貴族のご令嬢が泊まるにはちょっと普通すぎる場所ではありますが」

「願ってもないことです。坊ちゃまの近くとなれば、お嬢様もお喜びになります。……なにからなにまで本当にありがとうございます」

「いえいえ」


 ナックにとって大きな悩みであった彼の家族のこと。

 絶縁した両親はともかく、仲のよかった妹と再会できたことは彼にとっていいことだ。

 ルクヴィスで出会った時の彼を知る身として、そして彼に治癒魔法を教えた先生として彼が成長できることは、僕としても喜ばしいことだ。



 その後、先にネアからローズにミリアとベルさんのことを伝えておくようにお願いした後、僕と先輩は王城がある城下町へと移動することにした。

 僕達が帰ったということで、町の人々に出迎えをされながらいつもの通りを進んでいくと、見慣れた果物屋の前を通りかかる。


「あ、ウサト、スズネ、おかえり」

「ただいま、アマコ」


 金色の髪が特徴的な小柄な狐の獣人、アマコ。

 僕達が帰ってきていたことを予知で見ていたのか、ちょうど店の前に出てきた彼女に先輩が真っ先に話しかけていく。


「アマコ、私がいなくて寂しくなかったかい?」

「ううん、全然」

「そ、そんなにはっきり言わなくても……」


 ……そういう聞き方をするからでは?

 相変わらずな先輩の反応にアマコは苦笑いする。


「ん、冗談。相変わらず元気だね、スズネは」

「も、弄ばれてる……!!」


 悶える先輩から僕へとアマコが視線を向ける。


「ウサトはこれから城へ向かうの?」

「うん。カームへリオで起こったことについてと、その他諸々の報告だね」

「カームへリオでは大変だったって聞いてる。……ウサトのことだからきっと何かしらやったのは分かるけれど」


 僕が常に事件に巻き込まれてなにかをやらかしていると思われているだなんて心外すぎる。

 いや、まあ……今回は我ながら「やってしまったな……」って思ったことがいくつか心当たりがあるのだけど。


「フッ、決めつけはよくないぞ、アマコ」

「それもそうだね。空飛ぶ治癒魔法使いさん」


 既に僕がカームへリオ上空でエンヴァー相手に立ち回ったことが噂として伝わってしまっていたようだ。

 しかし、空を飛ぶ、というところには誤りがあるな。

 僕は「フッ」と笑みを浮かべて人差し指を立てる。


「アマコ、正確に言うには僕は飛んでない。爆発してぶっ飛びながら落ちてただけだ」

「……」

「おバカを見るような目で見てくるのはやめなさい」

「おバカ?」

「言葉にしなくていいから」


 本当におバカを見るような目で見られてしまった。

 いや、でもあの戦いでルーネの炎の闇魔法を扱ったことで、新たなインスピレーションが与えられたといっても過言ではないんだぞ?

 まだ実践してないけどルーネの闇魔法での加速を治癒爆裂波で再現して、治癒加速拳を越えた加速力で突っ込んだり、空中で二段ジャンプしたりとか。


「……ウサトは相変わらずだったってことだね」

「因みにウサト君はクマの獣人の子を引き寄せた」

「ウサト? どういうこと?」


 先輩の言葉にアマコが僕を見上げる。


「ああ、ヒノモトで戦ったジンヤさんの娘かもしれない子で、お祭りでやってきた勇者の一人なんだ」

「??? ……え、ど、どういうこと? ジンヤの娘? ……え? 本当になんで?」


 まあ、当然混乱するよなぁ。

 ジンヤさんの娘……かもしれないあの子のことはアマコにもちゃんと話しておかなきゃな。

 アマコにとってはジンヤさんは母親であるカノコさんを酷い目に合わせた人だから。


「はぁ……色々聞きたいことができたけれど……二人は先に城に報告しなきゃいけないもんね」

「城への報告の後にナギさんに話す必要があるから、その時に聞く?」

「ん、そうする」


 それじゃあ、帰りにアマコを迎えに行くか。

 そのことを話し、一旦アマコと別れた僕達は滞りなく城へと進んでいく。

 いつも門番を務めているアルクさんに挨拶しようと思ったけれど、彼は引き続きサマリアールからの学生の引率? をしているようで不在だった。

 そのまま僕達はロイド様の待つ玉座へと招かれる。


「スズネ、ウサト、此度の勇者集傑祭、誠にご苦労であった」


 ロイド様のいるいつもの広間には、護衛の騎士たちとシグルスさんにセルジオさん、そしてウェルシーさんがいた。


「カームへリオで起きた事件についてはファルガ様より聞いている。まさかシア・ガーミオとは別件の悪魔の干渉とは……おぬし達が無事でよかった」


 ファルガ様が先に説明していてくれたのか。

 それならこの場ではエンヴァー関連はそれほど深く説明する必要はないな。ランザスさんに関しても……できるだけ彼のことは秘密にしておくべきだから、後で人払いをしてもらって改めて報告しよう。

リングル王国に戻ってからやることが多い……。

噂以上のことをやらかしているウサトにドン引きするアマコでした。


今回の更新は以上です。

次回の更新はなるべく早めにできたらなと思います。

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― 新着の感想 ―
治癒シュート。 いつかウサトもやりそう。
[良い点] アマコの切れ味鋭いツッコミは実家に帰って来たような安心感がある [気になる点] ナックとキーラはそのうち合体治癒魔人2号になれる気がする
[良い点] 順調に染まりきったナックとキーラの様子。 [気になる点] さて、ナックよ久々に妹に会った訳だがどうするつもりだ? あとベルさんは地味にキャラ立ってるが・・・ [一言] ・・・私知ってる。 …
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