表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
513/569

第四百五十五話

二日目、二話目の更新です。

前話を見ていない方はまずはそちらをー。


ランザスさんの魂と融合を果たした悪魔、エンヴァーの魔法が解放される前に、僕とリズがエンヴァーをその場から殴り飛ばした。

 凝縮された魔法ごと吹き飛ばされたエンヴァーはそのまま会場の壁を突き破り、屋外にまで吹っ飛んで行った。


「あんな魔力が暴発したら会場そのものが吹っ飛んでもおかしくなかったぞ……」

「うん、それくらい危険な魔力の匂いがした」


 すぐにランザスさんの元に向かう前に、系統強化により青くはれ上がった手を押さえているリズに、治癒魔法を込めた闇魔法の魔力を飛ばし、彼女の腕を包み込む。


「わっ、前と違う」

「ごめん、応急処置程度だけど……」

「前よりは平気。私のことは気にせず行って」

「っ、ありがとう!! リズ!!」

「貸し2」


 こんなに小声を聞いてしまって後悔することある?

 いや、とにかく殴り飛ばしたランザスさんの元に急がなくては……!!

 僕はすぐに視界にいるクロードさんとレオナさんに声をかける。


「クロードさん、レオナさん、先に向かいます!!」

「おう」

「ああ! 気を付けてくれ!!」


 さっきの衝撃で彼の意識だけでも戻せればいいのだけど……!!

 レオナさん達に声をかけ、突き破られた壁を乗り越えた僕は闇魔法に包ませた背中のレインに声をかける。


「レイン、大丈夫か!」

「は、はい! でもランザス様が……」

「できれば、すぐに君を安全なところに移したいけれど……」

「い、いえ!」


 背中で強く否定するレインに驚く。


「もしかしたら、僕が呼びかけたらランザス様は意識を取り戻してくれるかもしれません!! 駄目かもしれないけど……その可能性があるなら……僕は諦めません!!」

「……意思は固そうだな」

「足手纏いになってしまいますけれど……」

「慣れてるから大丈夫」


 ランザスさんに一番近しい人物はレインだ。

 なら、この子の声は彼にとってなにより特別なもののはず。

 まあ、背中に二人乗せているけれど、魔物の領域の遺跡の時よりかは軽いので問題はない。


「シア、聞いていたな!! レインを守ってくれ!!」

「ねえ、今の私の状況分かってる!? 刀がエンヴァーに刺さったまま、私なにも武器持ってないんだけど!!」

「ありがとう! 頼んだ!!」

「聞けよこのバカ!?」


 彼女はランザスさんを助けるために欠かせない人員なので、下ろすことはできない。

 それに、彼女はランザスさんと悪魔の魂が融合している状態と言っていたけど、まだやれることはあるはずだ。


『ウサト、最悪の可能性も考えておきなさいよ』

「……ああ」


 同化しているネアの声に頷く。

 勿論、ランザスさんを諦めるわけではないが、楽観的なことばかり考えてもいられない。

 その時がきたら僕も覚悟を決めなければならない。


『ウサト君、外が見えてきたぞ!!』

「ッ、先輩、電撃の準備をお願いします!!」


 走ってすぐに外から差し込む光が見え、そこから建物の外へ飛び出す。

 そこでまず視界に映りこんだのは、灰色に淀んだ空であった。


「なっ……!?」


 入った時に雲一つない晴天だったはずの空が、薄暗い雲に包まれてしまっている。

 カームへリオの都市の天空に雷が鳴り響く音が続き、雲そのものが渦巻くように蠢いており、それが自然に起きた現象ではないことは僕にでも分かった。


「レイン、これは」

「こ、これは、ランザス様の魔法です!!」

『こんな規模の魔法ありえるのか?!』

『私の十倍以上の魔力だ、できておかしくないけど……さすがにこれは』


 こんな、これだけのことができてしまう魔力を、ずっと一人という人間に詰め込まれていたのか!?

 だとしたら、ランザスさんはどれだけ苦しんで……。


「いや……」


 それよりも、この現象は明らかにこの都市にいる人たちに危険が及ぶものだ。

 その発生源は、僕の視線の先で宙に浮かんでいる彼。

 簡素な服の上に灰色のローブを纏った白髪の男。

 その右胸を、光を発する刀に斜めに貫かれながら、ランザスさん……いや、エンヴァーは歓喜に打ち震えるように笑っていた。


『は、はははは!! 最初からこうすればよかった! ランザスの肉体さえあれば勇者の手駒なんて必要ない! ははは!!』


 ランザスさんの身体を乗っ取った悪魔、エンヴァー。

 そのバカみたいに笑っている姿に、僕はなぜかサマリアールで遭遇した魔術師が重なっているように見えてしまう。


『ウサト、彼……傷が……』

「ああ、治って……いや、再生しているな」


 遠目で見えるだけでも、ランザスさんの肉体から煙のようなものが噴き出し傷が癒えているのが見える。

 特に左腕は折れたように前腕が紫色に変色していたが、それも巻き戻すように傷が消えていく。


『散々俺を苛立たせた報いだ! 手始めにこの国を滅ぼす!』


 エンヴァーの身体から溢れた魔力が空高く舞い上がる。

 それに伴い、奴の周囲には嵐が吹き荒れ、曇天の空もさらに荒れる。

 そのあまりある暴風は遠く離れている僕も巻き込み、視界が遮られた———その瞬間、僕の眼前に腕を伸ばして、突っ込んでくるエンヴァーの姿。


「!」

「そして、お前もだぁ!! 治癒魔法使い!!」


 風の魔法による空中移動か!

 その加速力も余りある魔力量で無理やり引き出していると見た!!

 だがそれでもなァ!!


「遅いわァ!!」

「ッッ!!」


 団長の拳と比べたらスロー同然!!

 猛烈な加速で僕目掛けて突っ込んで来たエンヴァーの頬にカウンターの治癒パンチを叩きこむ。


「これがさ、効かないんだよなぁ!!」

「!」


 ———が、奴はそれでも一切減速せずに、拳を受けて折れた腕で僕の腕を掴んだ。

 瞬時に肘を叩きつけ反撃するが、奴は怯まない。


「負傷覚悟、いやこれは……」


 治癒魔法と見間違うほどの人間離れした回復力。

 それが悪魔に由来するものと気付いた直後に、僕の身体はエンヴァーが巻き起こした嵐に飲まれながら城下町の中を突き進む。


「オラァ!!」

「……ッ! レイン、衝撃に備えろ!!」

『私のことも気遣え!!』


 背中のレインに警告した次の瞬間には、僕の身体は街の家屋の壁に激突し、部屋から部屋へ壁を破壊しながら突き進む。

 ッ、ここは城下町……それもここは居住区近くだ!! このまま街を破壊していくのはまずい!


『な、なに!?』

『か、壁がぁぁ!?』

『従者ウサト様!?』

『治癒魔法って飛べるの!?』


 壁を破壊しながら突き進まされる僕に、カームへリオの住民は驚きの声を上げる。

 このままじゃここにいる彼らも巻き込んでしまう……!


「治癒残像拳……!!」


 身体に弾力を纏わせた魔力を纏いクッションにする。

 さらにその上から金色の籠手を纏う左拳を引き絞り、ネアの拘束の呪術と先輩の電撃を宿す。


「調子に乗る、な!!」

「グァ!?」


 わき腹を殴り、怯ませた後に逆にこちらから襟を掴み返し、魔力の暴発を用いて方向転換!

 上下を入れ替えた上で、床に着地すると同時に開け放たれた窓からエンヴァーの身体を斜め上にぶん投げる!!

 さらに、掌に治癒爆裂弾を作り出し、そこに先輩の電撃を合わせる。


「電撃・治癒爆裂飛拳!!」


 斜めに投げられたエンヴァーに、ミサイルのように放たれた魔力弾が激突———緑の粒子と電撃を迸らせながら奴は向かいの建物の屋上の角に激突し、屋上へと投げ出された。


「……フゥゥ……!!」

『な、なんでこんな揺れて……』

『き、気持ち悪ぅ……』


 このまま戦ったらレインが危ないな。

 次、彼が声をかけてランザスさんに反応がなかったらさがらせるべき、か。


「じゅ、従者ウサト……さま?」

「ん?」


 建物内の後ろからの視線に気づき振り向くと……そこには僕を驚きの目で見る建物の住人であろうカームへリオの人たちがいた。


「い、いったいなにが」

「お騒がせして申し訳ありません。……ここは危険です。早く逃げてください」

「え? あ、ちょ」

「失礼します!!」


 弾力付与の魔力を踏みつぶし、そのまま大きく跳躍した僕は魔力の暴発を用いながらエンヴァーが放り投げられた屋上へと着地する。

 砕けた屋上の地面で大の字で横になったエンヴァーは、その身体を再生しながら余裕の笑みを浮かべていた。


「かはっ、ははっ……」

「……なにがおかしいんだ?」


 奴は何事もなかったかのように笑いながら立ち上がり、そのままふわりと宙へ浮き上がった。

 予想していたけれど、彼の魔法は風を操る魔法なのか。

 でもネロさんのように卓越した技術で扱われるものではなく、その常軌を逸した魔力量で無理やり運用したソレは自然にすら影響を与えるもの。

 ……今頭上で起ころうとしている異変もランザスさんの魔法で引き起こされたものだ。


「さっきからバカみてぇに攻撃してるが無駄だよ! こっちは効かないんだからなぁ!!」

「こっちも効かないのは同じだ」


 再生力がある程度で調子に乗られてもな。


『ウサト相手に不死くらいでいきがるとか恥ずかしい奴だな!!』

『ウサトは怪我も治るけど、避けるし物理的に硬いからこっちの方が生物として上ね!!』

『フッ、ウサト君にかかれば君なんてまだ常識の範囲内の生物だね!!』


 フェルム、ネア、先輩? ちょっと内側から攻撃してくるのやめてね?

 ……しかし、悪魔の再生力があるのは分かったけど、その場合今のランザスさんの身体はどうなっているんだ? 悪魔と魂を融合したから後天的に悪魔の再生能力が備わったのか、それともランザスさん自身が悪魔に変わってしまったのか……。

 できれば、後者であってほしくない。


「ら、ランザス様! 聞こえていますか!!」

「っ、レイン」


 僕の背中からレインが無理に身体を出してきた。

 無理に出てきたからかシアが呻く声が聞こえるが、彼は構わず必死にランザスさんに語り掛ける。


「悪魔なんかに負けちゃ駄目です!! 貴方の意思で身体を取り戻すんです!!」

「あぁ?」

「貴方は、貴方が思っているよりずっと強い人なんです!! だから……だからぁ……!!」

「うるせぇなぁ」

 

 彼の声に、エンヴァーは嘲るような笑みを返し舌を出す。

 それでもまだレインは諦めず、治癒魔法を浮かべた掌を見せ、魔力の継ぎ足しを行い系統強化を発動させようとする。


「だって、系統強化も……あと少しってところまで来ているんです!! 僕は、ランザス様に生きていてほしくて……!」


 彼の手に浮かんだ系統強化、完成の一歩手前といっていいほどまでに練り上げられたもの。

 それは間違いなくレインの努力の成果であり、それだけ彼がランザスさんを助けたいと思っていた証でもあった。


「貴方は僕の人生を自分が縛りたくないって考えていましたけど、違う! 貴方がいてくれたから僕は自由になれたんです!!」

「……」

「孤児で、治癒魔法使いで誰にも見向きもされなかった僕に生きる目的をくれた!!」

「……」

「家族の顔を知らない僕に、普通を教えてくれた!!」

「……」

「そんな貴方から離れて解放されただなんて、思うはずがないでしょう!!」


「あー……くだらない」


 レインの必死の訴えを、くだらないと一笑した奴が指を振るう。

 瞬間、彼を取り巻く風が動き、不可視の風の刃がレインの首を裂かんばかりに襲い掛かるが、それを僕が右腕で弾く。


「……っ」

「もうこの身体は俺のだよバーカ! この役立たずの元主は意識の底に沈めてもう上がってこれないんだよ!」

「っ、嘘だ!! 悪魔の言うことなんか信じない!!」

「その通りだ、レイン。君は間違っていない」


 レインのその言葉に僕は同意しながら、エンヴァーを強く睨みつける。


「君の知るランザスさんは弱い人間じゃない。それは一番彼の近くにいた君自身がよく知っているはずだ」

「ウサトさん……」

「そもそも、悪魔は自分にとって都合のいいことしか言わないからね。まともに言葉を受け取る必要もないよ」

「……はいっ」


 僕の言葉にエンヴァーは先ほどの嘲りの表情から一転して、殺意すら籠った目を向けてきた。


「本当に忌々しい奴だなぁ、お前は……!!」

「レインを追い詰めて惑わそうとしたみたいだけど無駄だぞ」


 なにせ、この子は短期間とはいえ僕の訓練を受けたからな。

 程度は違えど、間違いなく精神的に強くなっている!


「ハッ、どちらにしろランザスは二度と目を覚ますことはない」

「……」

「奴がどうやって俺と接触したか知っているかぁ?」


 聞いてもいないのにべらべらと話すなこいつ。

 今のうちに不意打ちを叩き込むか? いや、悪魔のこの不用意な会話で少しでもランザスさんの身体を取り戻す糸口を見つけられるかもしれない。


「お前からランザス様に近づいたんだろう!」

「いいや、違うなぁクソガキ。俺はな、引き合わせられたんだよ」


 引き合わせられた。

 誰に、と一瞬だけ疑問に思うが、彼を疎んでいたであろう存在を僕は知っていた。


『……当たってほしくなかったわね』


 ネアが口にしなかった最悪の可能性。

 呆気にとられるレインに、悪魔は揚々と口を開いた。


「ミルヴァ王国の国王とその配下共。そいつらランザスの強大な力を恐れて、この俺を引き合わせたんだよ!」


 ランザスさんの力を恐れたミルヴァ王国の人々は、あろうことか悪魔にランザスさんを引き合わせ、あわよくば傀儡、それか始末しようとしていた。

 その事実にレインは言葉を失うほどに動揺し、そして———、


「やっぱ、そう簡単に変わらないよね。人間って」


 背中にいるもう一人、シアも小さな声でそんなことを呟く。


「ランザスも哀れだよなぁ!! 救いの手に見えた俺が、あろうことか自分を疎んでいた奴らによって引き合わせられてたんだからねぇ!」


 つまり、ミルヴァ王国もランザスさんが悪魔にとりつかれていることを知っていたのか。


「……レイン、どうやらランザスさんを国に帰すのは危険みたいだ」 

「え?」

「は? 何を言っている?」


 僕の言葉にエンヴァーも訝し気な視線を向けてくる。


「だって、そうだろ? 傍迷惑なお前を引き剥がしても、彼を疎む場所に帰すことなんてできない」

「お前、イカレてんのか?」

「だったら、どうするかって話だけど、 リングル王国に身を隠してもらうって手もあるけど、まずは身体を診てもらうためにミアラークのファルガ様に頼らせていただくって手もある」

「だから、何言ってんだよお前は!!」


 本気で意味不明な人間を見るような目で睨むエンヴァーに僕は笑みを変えずに、言い放つ。


「お前のくだらねぇ戯言に聞く耳持つ気ははなっからないってことだよ」

「なんだと……!! だから、ランザスはもう表には出て———ッ」


 唐突に奴が頭を抱える。

 どうしたんだ? と警戒しながら構えていると、頭を抱えたまま顔を上げたエンヴァー……いや、ランザスさんは苦渋の表情でレインを見る。


「レ……イン……」

「ランザス様!?」


 レインの言葉で身体の支配権を取り戻せたのか?

 いや、でもあの様子じゃ……。


「ごめ、ん。こんな、ことになって……」

「そんなこと言わないでくださいっ……」

「ぜんぶ、私のせい、だ」


 悲痛な表情で懺悔の言葉を口にしたランザスさんが次にこちらを見る。


「ウサ、トさん」

「……はい」

「遠慮なんてしなくて、いい。どんなことをしてでも、私を、止めてくれ……」


 その言葉で糸が切れるように脱力した彼が次に顔を上げた瞬間、その身体の支配権はエンヴァーへと戻ってしまっていた。

 奴は一時でも身体が戻されたのが気に食わないようで、血走った目で頭を掻きむしった後にこちらを憎悪を込めて睨みつけてきた。


「ああああ! どいつもこいつも思い通りにならないなぁ!! 全部、お前だ!! お前とそのガキを殺せば、奴も身体を取り戻そうって意思すらなくなる!!」


 内側でしっかりと生きているランザスさんの心を折るために、レインと僕を殺そうとするか。

 言うのは簡単だなぁ、オイ。


「そんなことをさせるとでも?」

「今の俺は誰にも殺せないんだよ!! いくら攻撃してもなぁ!!」


 まあ、不死身だし魔力量も僕よりも遥かに上なのでそうなんだろうな。

 だけど、その程度の障害、魔王と戦った時と比べれば遥かにマシとすら思える。

 目の前で風の魔法を身に纏い、魔力を雑に溢れ出させているエンヴァーを目にした僕は、小さく深呼吸をした後に口を開く。


「……先輩」

『ああ』


 先輩を呼ぶと、彼女はすぐに同化を解いて出てくれる。

 それにより彼女の武具である金色の籠手も消えたことを確認した僕は、早速指示を出そうとするが、それよりも先に待ったをかけた先輩が笑みを浮かべる。


「私はレインを連れて安全なところに逃がす。んでもって勇者全員で竜巻の対処と避難の誘導……だろう?」

「流石です」

「ふふん、そうだろうそうだろう」


 本当に流石すぎる。

 なんだかんだいって、この人がいると一番頼もしい。

 レインを先輩に託し、彼に背を向ける。


「レイン、ランザスさんのことは僕に任せろ」

「……もしものことになっても、ウサトさんを責めません。でもっ……ランザス様を、助けてください……!!」

「ああ!!」


 雷獣モード0、白い電撃を纏った先輩がレインを脇に抱えて、瞬時にその場を移動する。

 移動する先輩とレインに当然、エンヴァーが追撃をしようとするが、それよりも早く両腕を打ち鳴らした僕の強化・治癒目潰しが、奴の目を眩ます。


「ッ、忌々しい!!」

「ハッ、早速、レインに手出しできなくなったな!!」

「お前の次に殺せばいいだけの話だろ!!」

「できないことは口にするもんじゃないぞ!!」

「死ね!!」


 宙に浮かんだエンヴァーが纏う威圧感が増す。

 とりあえず、今のシアの系統強化でランザスさんを助けることは無理とはいったが、それで諦めるほど僕は往生際がよくない。

 やれること全部試して絶対にランザスさんを助ける方法を見つけてやる。



 空を飛べるってことがこれほどまで厄介なことだとは思いもしなかった。

 風の魔法で無理やり空を飛ぶエンヴァーは、屋根から屋根へと飛び移りながら移動する僕に、絶えず魔力弾と刃を放ってくる。

 僕はそれに、魔力の暴発と治癒流しで対応しているけれど……!


「あいつ降りてこないな!?」

『完全にウサト相手に近づいてこなくなったな』


 フェルムの闇魔法で翼を生やして滑空はできるけど、それでも限界がある。

 かといって魔力の暴発でも、自由自在に動ける奴相手では無策で近づくのは危険すぎる。


「よし、ならぶっつけ本番でやってやるか!」

『え、なにするのよ?』

「名付けるなら……治癒爆破跳躍拳」

『それ爆裂弾を至近距離で炸裂させて空中で加速するとかじゃないわよね?』


 ……フッ。


「やっぱり分かるもんだね。さすがは信頼する使い魔だぜ」

『こんなに不名誉なことあるかしら……?』


 そこまで言うか。

 でも、普通にできる感じはするので、とりあえず組み付いて無理やり近接戦に持ち込もう。


「よし、なら早速———」

「ウサト!!」

「うわっと!?」


 治癒爆裂弾を作り出そうとしたところで、風の攻撃が殺到する僕の隣に青黒い炎に包まれたライオンが現れる。

 一瞬敵かと思った炎に包まれたライオンは、シアの協力者であり闇魔法を扱う魔族とエルフのハーフの少女、ルーネであった。


「ルーネか!」

「さっきスズネとすれ違った! あそこにいるあいつが敵か!?」

「ああ! そうだ!!」


 僕が答えると、ライオン状態で並走していたルーネは、そのサイズを小さくしながら僕の肩に飛び乗る。


「シアも一緒なんだな!? なら、力を貸す!!」

「! そうか、君の魔法があれば……!! フェルム、ルーネが振り飛ばされないように固定してあげられるか!?」

『……いや、その必要はない』


 なんでだ? とフェルムに尋ねようとすると、肩にいるルーネが僕の肩から沈み込むように消えた。

 一瞬なにが起きたのか理解できなかったけど、え、フェルム? まだ会って二度目くらいだよな?


『え、フェルム!? ルーネと同化したの!?』

『こいつは純粋だし、なにより同じ闇魔法使いだからな。なにより純粋だ』

『二回も言ったわね……』

『なんだここー!?』


 フェルムの同化は一定の信頼がなければできないはずだ。

 でも、フェルムから見るとルーネは、同じ魔族で闇魔法使い。

 それに加えて彼女の言う通りに純粋で素直なルーネは、フェルムにとっても同化するに足る子だったんだな。

 あとは……。


「フェルム自身の変化、かな」

『ぶつぶつ言ってないで、さっさと動け!! ウサト!!』

「ああ!! ルーネ、君の魔法を使わせてもらう!!」

『なんだかよく分からないけど、いいぞ!!』


 青黒い炎の闇魔法を発動させる。

 白の団服に炎のようにゆらめくフェルムの魔法を縁取るように青黒い炎が走り、同化したルーネの闇魔法を宿した姿へ変わる。


「雷獣モードならぬ炎獣モードといったところかな。……君の魔法があれば!!」


 飛んでくる風の魔法を手刀で切り払い、弾力付与を踏み潰しエンヴァーへ向かって跳躍する。


「ハッ、身動きのできない空中にのこのこ飛び込んで来た!!」


 やっぱり身動きのとれないところを狙おうとしていたか!

 あっちからは攻めあぐねた僕が焦って突撃してきたように見えるだろうが……!!


「空は飛べないけど、ぶっ飛ぶことはできるぞオラァ!!」

「……は?」


 両足からルーネの闇魔法を暴発させ、空中で爆発するように一気に加速する。

 ロケットのように凄まじい勢いの加速に面を食らったエンヴァーは、慌てて避けるが———エンヴァーとは反対側の体側で魔力を暴発させて方向転換し、飛び蹴りを食らわせる。

 ———ッ、風の魔法で防御したか!!


「っ、なんだその動きはぁ!! だが、そんな分かりやすい軌道!」


 痛みに悶えながら奴はその手に竜巻を生み出し、放つ。

 それを第一の試練の時と同じ規模のものと判断し、両腕から魔力の暴発により衝撃波を放ち急制動をかけながら方向転換———それからさらに黒炎を爆発させ、竜巻を回避するように加速する。


『きゃあああ!? 外でなにが起こってる!? なんで私、こんなことになってるのぉぉ!?』

「軌道は読めるなら、これはどうだ! 治癒残像拳!!」


 背中のシアの絶叫にさすがに内心で謝罪しながら、両手からの衝撃波で軌道を変える挙動に合わせ、治癒残像拳で攪乱する。

 僕の実体を捉えられず、見当違いな残像に攻撃を仕掛けるエンヴァー。

 そんな奴にすれ違いざまに拳を叩き込む。


「あああ、ふざけんなよもぉぉぉ!! なんだよぉぉ!!」

『はい、拘束の呪術♪』

「あがぁっ!?」


 拳を叩き込んだ瞬間にネアが込めてくれた拘束の魔術で身動きが封じられる。


「ルーネ! やるぞ!!」

『おう!!』


 その隙を見逃すはずもなく、次の暴発で青い黒炎を散らし、さらなる加速を得た僕は一瞬で奴に肉薄し、腰だめに構えていた魔力を放つ。


『こくえん!!』

「治癒爆裂波ァ!!」

「ガッ!?」


 至近距離で治癒爆裂波を黒炎の暴発と重ねた一撃。

 威力ではなく、吹き飛ばす力に重点を置いた衝撃波は、為す術のないエンヴァーを都市の外へと吹き飛ばした。

変に距離をとって追い詰めようとした結果、爆発して飛ぶ(?)という発想に至ってしまったウサトでした。

炎獣モードのウサトの飛び方のイメージはマガ〇マガドに近いですね。


今回の更新は以上なります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ルーネのこくえん可愛い
[良い点] >「名付けるなら……治癒爆破跳躍拳」 『それ爆裂弾を至近距離で炸裂させて空中で加速するとかじゃないわよね?』  ……フッ。 ネアww [一言] 感想欄があらゆる特撮や漫画のバトル物の詰め…
[良い点] どんな状況でも絶望感がないのがいいですね(〃ω〃) 某作品みたいに筋肉ですべて凌駕するではないですが 斜め上で突き進むウサト君が大好きです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ