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第四百五十二話

今夜24時30分より、TVアニメ「治癒魔法の間違った使い方」第12話が放送・配信開始となります!

第12話は魔王軍との戦争の後のお話! 黒騎士との下りもありますので、どうかお楽しみに!!


加えて、今月3月25・26日に

コミカライズ版『治癒魔法の間違った使い方』14巻

書籍版『治癒魔法の間違った使い方 Returns』2巻が発売されることになりました!!

こちらもどうかよろしくお願いいたします!!

 事態が事態なので、訓練はレインの系統強化だけをしっかり見るに留めた。

 ここで不自然にレインの訓練を切り上げるわけにはいかないという理由もあったが、悪魔云々を別にしてもランザスさんのためにレインが系統強化を身に着けることは重要なことだったからだ。

 訓練を見る予定だったリズとエリシャ、ロアに急用で訓練を見ることができないと伝えてから、僕は先輩たちが待つ宿舎に戻ることにした。


「———というわけだ、ルーネ。すぐに僕達と接触できるようにシアに伝えてくれないか?」

「うん。分かった」


 全員が集まった宿舎のリビングでレインから聞いた情報を共有した後、すぐにルーネにシアと顔を合わせる言伝を頼んだ。


「そいつ、シアみたいに苦しんでいるかもしれないんだな」

「……それは、分からない。ランザスさんの抱える苦しみを僕達が勝手に推し量るわけにはいかないから」


 彼が他の人を巻き込んでまで普通になりたいと願うほどの苦しみと葛藤が確かにあったはずなんだ。

 生まれた時からずっと……ずっと痛みに耐えてきた彼を責めることも、弱いなんて言えるはずもない。

 でも、だけど、と言葉を切ってから続けて言葉を発する。


「彼が取り返しのつかないことをして、それで後悔するようなことになってほしくない。だから助けたいんだ」

「……そういうことなら、わたしに任せろ。急いで伝えてくる!」


 こくり、と頷いたルーネは闇魔法の青黒い炎に包まれ、小さな獅子の姿へと変わる。

 そのまま開かれた窓から勢いよく飛び出した彼女は、とてつもない速さで屋根から屋根へと移動し、あっという間に視界から消えてしまった。

 その姿を目で追っていた先輩が僕へと振り返る。


「ウサト君。シアと話すのは分かったけれど、まさか彼女にランザスにとりついた悪魔を引きはがさせるつもりなのかな?」

「ええ。シアの持つ光魔法の系統強化なら、ランザスさんの身体から悪魔だけをひきはがすことができるかもしれません」

「問題は彼女がこちらの頼みに応じてくれるかどうか、だね」


 先輩の言葉に頷く。


「もしかしたらランザスさんを殺した方が早い……っていうかもしれませんね」

「いえ、それはないと思うわよ」

「ん? どうしてだ。ネア?」


 僕の言葉を否定したネアに、フェルムが聞き返した。


「シアはできるだけ貴方と友好的な契約関係を維持したいはずよ。少なくとも、言葉の上で貴方の顰蹙を買うようなことを言うはずがないわ」

「……確かに、そうだな」


 あっちから協力を求めてきたんだ。

 それに、シアの中にいる何者かは僕達のことをある程度知っているからな。


「でも、どちらにしてもランザスさんの状況をなんとかできる鍵を握っているのは彼女だからね。いくらなんでも僕でも悪魔を引きはがすようなマネできないし」

「「……」」

「君達、そんな僕ならなにやってもおかしくないみたいな目で見るのはやめてね?」

「フッ、ウサト君ならあるいは……!!」

「先輩、だからといって肯定しないでください」


 僕もそこまで万能じゃないんですけど。


「でも、シアの光魔法の系統強化が真価を発揮するためには……」

「この刀が必要なんだね」


 先輩が傍らに置いてある元は籠手だった小刀を手に取る。

 ファルガ様の身体の一部を用いて作られた武具は、所有者の可能性を広げる特別なもの。

 シアの未熟であろう系統強化を補助させるために、これの存在は不可欠だ。


「……でも渡していいのか? 一応それ契約の担保みたいなものだろ」

「僕も覚悟を決めなきゃいけないってことだね」


 ランザスさんのために、なにより彼の無事を願うレインのためにも手を抜くわけにはいかない。


「ノンノン、ウサト君」

「はい?」

「君がなにを考えているのかなんとなく分かった。その上で、言わせてもらおうじゃないか」


 腕を組んだ先輩は得意気に笑う。


「私“達”だよ。君だけに覚悟を決めさせる真似はさせないから」

「先輩……」

「フッ、外れてたら赤っ恥だけどね……!!」


 なんで貴方は最後にオチをつけようとするんですか。

 ……でも先輩のこういうところにいつも元気をもらっているんだよな。

 悪魔がこの人を苦手にしているってことは、それだけ悪魔が苦手とする大事なものを持っているということなんだと思えてしまう。


「とりあえず、僕がシアに言おうとしていることを前もって言っておきます。多分ですけど、先輩の予想は間違っていないですよ」

「これぞ以心伝心……! ツーカーの仲だね!!」


 先輩は時々言葉選びが古いんだよな……。

 本人も分かって言っているんだろうけど、僕とカズキくらいにしか伝わらない。

 僕は、シアに持ち掛ける話を先輩、ネア、フェルムの三人に口にする。


「ウサト、それシアにとって都合がよすぎないか? 大丈夫なのか?」


 フェルムは訝し気な様子だ。

 この反応は予想していたので苦笑いする。


「多分、ネアも反対すると思うけど」

「いえ、意外と悪くないと思うわ」

「え?」


 ネアの意外な反応に驚く。

 彼女は顎に指を当てて、考えるそぶりを見せながら言葉を発する。


「これでランザスにとりついた悪魔だけじゃなくて、シアの出方も分かりやすくなるかもしれない。むしろコレをされて慌てるのはあっちの方ね」

「私もネアと同じ意見だよ。なによりウサト君らしいってのが大事だ」


 そういうことなら、迷いなく言えるな。 


「まあ、今はとにかくルーネを待ちましょう。多分今日中に返事が来るはずですから」

「うん、そうだね」


 シアとの話し合いがどのようになるのかまだ分からないが、いい方向に向かってほしいな。



 あの後、少ししてルーネが戻ってきてシアに話を通してくれたことを聞いた。

 話し合う場所は僕達のいる宿舎から少し離れた、やや大きめの建物の屋上。

 昼間なので目立つ団服は部屋に置いていき、フェルムの闇魔法の衣をマントのように纏った僕は、屋上から屋上へと跳躍しながら目的地へとたどり着いた。


「お、きたきた。待ってたよ」


 既に先についていたシアが、屋上の壁に背中を預けながら気さくな様子で手を振ってくる。


「来たのは君だけ?」

「いや、全員いる」

『ウサト君一人だけで会わせるはずがないじゃないか』

『会うのは二度目かしらねぇ?』

『一人で来させるはずないだろ』


 僕の身体から先輩、ネア、フェルムの声が聞こえたことで、シアの表情が引きつる。


「本当にデタラメな能力だよね。君の仲間の闇魔法は普通じゃなさすぎる」

『こいつと比べたらまだ普通だ』


 なんで一瞬で僕が比較対象にされた上に僕の方がおかしい扱いされたのか納得いかないけど、僕は大人なのでここは我慢する。

 本当はレオナさんにも同行してほしかったけど、あまり時間をかけたくないので彼女には後で情報を共有するつもりだ。


「で、そっちから接触しようとしたってことは、なにか分かったのかな?」

「君の言う通り、悪魔はランザスさんにとりついていた。彼の従者がそれを目にしてしまって、今朝僕に助けを求めてきた」


 回りくどいことは抜きにして単刀直入に今起こっていることを口にする。

 僕の言葉にシアは「やっぱりかー」と額に手を当てる。


「昨日の時点でまさかとは思っていたんだけど、やはり彼を狙ったか」

「理由まで分かるのか?」

「彼の特異性って言ったら規格外の魔力でしょ。エンヴァーはそれを狙った」


 悪魔が目をつける理由としては十分か……。

 身体を乗っ取れるとしたら、ランザスさんの身体が弱いかどうかなんて悪魔にとって関係ないとも考えられるし。


「目的についてもなにか分かった感じ?」

「聞いたところによると、勇者集傑祭に集められた勇者を自分の手駒にすることらしい」

「あぁー、なるほどねぇ。楽して戦力増やしたい魂胆が透けて見えるね。本当、そういう自分が極力動かないやり口は変わっていないみたいだ」


 ……本当に今、この子の身体を通して話している存在は誰なんだ?

 悪魔かとお思いきや、その悪魔に嫌悪感を向けているし、敵対していると口にしている。

 だけどアウルさんやシアを利用したり、よくないことをしているのも彼女だ。

 目を細めてそんなことを考えていると、腕を組んだシアが人差し指を立て僕を見る。


「で、私を呼んだのはその対策のためってこと?」

「いや、そっちに関してはもう妨害できてた」

「……え、どういうこと? できてた?」


 シアの言葉に頷く。


「僕が訓練場で好き勝手に訓練していたら、なんか悪魔の目論見全部妨害してた」

「は?」

「なので今の時点で集まった面々が悪魔に影響されることはない」

「は?」


 実のところ僕にもなんでうまく妨害できたか理由は分からん。

 部分的にふわっとしているが、他ならない悪魔の愚痴からの情報らしいので信ぴょう性はかなり高いし……なにより、今日までランザスさん以外の他の皆に悪魔の影が見なかったことも説得力を持たせてしまっている。


「え、もしかして私のことをそんな冗談で騙されるバカだと思ってる?」

「落ち着いて、僕は嘘をついてない」

「むしろ嘘であってほしいんだけど……君が真面目な顔で言っても嘘に聞こえてくる意味不明さがあることを自覚したほうがいい!」


 ……。


「大丈夫、最近自覚してきた」

「なおさら性質悪いな!?」


 でも事実だからしょうがないんです。


『最近、色々自覚した上でやってるのが本当厄介なのよね、こいつ』

『多分、ネアの反応込みで面白がってるところもあると思う』

『リアクションいいもんね、ネアは』

『……えっ、ウサトがこうなった責任って私にもあるの!?』


 責任かどうかは分からないけど、ネアの反応も待っているのは実は本当ではある。

 まあ、口に出すと怒られるし言わないでおくけど。

 でも、さっきの言葉だけでも説明不足なので他の理由もちゃんと補足しておこう。


「まず悪魔に狙われていた勇者がいたんだ」

「うん」

「その勇者は自国への不信と、自分への不甲斐なさで追い詰められて自暴自棄になっていた」

「それは、まあ悪魔にとって格好の標的だね」

「そんな彼に僕は、余計なことを考えさせないように倒れるまで走らせて頭をからっぽにさせた」

「なんで?」

「それで結果的に前を向けて悪魔が手出ししにくくなった」

「だからなんで? 飛躍したよね、話?」


 経緯だけを説明すると事実なんだよなぁ。

 リヴァルは、本当は周りを見るだけの余裕がなかったから腐っていただけだし。

 むしろ、今のリヴァルが勇者候補生時代、従者だった彼らから慕われていた本当の彼だったってことだ。


「あと他には……」

「いいっ、言わなくてもいい。こっちが混乱するから……! 経緯は大体分かったから、どうして君が私を呼び出したのか教えて!!」


 それじゃあ、シアをここに呼び出した理由を話すか。


「ランザスさんから悪魔を引きはがすことに協力してほしい」

「え、別に構わないよ。そんな改めて言わなくても元より協力関係を結んでいるんだし、エンヴァーは私もなんとかしないと思っているからね」

「ああ、でもそれだけじゃ駄目だ」


 僕は黒い外套から鞘に納められた小刀を取り出し、それをシアへと差し出す。


「僕はお前を信用する」

「……本気?」


 元より、この小刀がないと今のシアは系統強化をうまく発動できない。

 成功したとしても彼女の手は血だらけになってしまうし、より強い系統強化を扱おうとすればもっと酷いことになるかもしれない。


「君の力だけがランザスさんを悪魔から助けられるんだ。なら、僕はそれに賭けてみようって思った」

「……なんで、いや訳が分からないよ。どうして私を信用できる?」

「確信はない。だけど、お前は僕が知る悪魔とは違うような気がする」

「……ッ」


 シアの表情が僅かに歪む。

 彼女のその変化を確認しながらも、僕は手に持った刀を彼女の前に押し出す。


「さあ、どうする。受け取らないのか?」

「あぁもう! 無償の善意は一種の脅迫なの分かってる!? いいの!? 私、裏切っちゃうよ!?」

「それをして意味がないのはお前が一番よく分かってるはずだ」

「くっ……! 分かった、受け取るよ!!」


 半ば奪い取るように刀を手に取ったシアは、なにを思ったのか刀に触ってなにかを確認する。


「ど、どうせ、ネアの魔術で細工とかされているんでしょ」

「……」

「図星か。くくく、騙されないんだから。どうせ君もこれに未練たらたらなんだろ」

「いや、それはシアのものでいい」


 僕がそう口にした瞬間、彼女の手に持った刀が光に包まれる。


「はぁ!?」


 脇差———小刀ほどのサイズだったものが普通の刀ほどの大きさにまで延長し、革で作られた鞘も今は赤と黒模様の鞘へと変わっていた。

 勇者の武具としての適応した姿。

 かつて、ファルガ様に武具をいただいた時と同じ光を見て僕も驚くが、それ以上にシアが口をぱくぱくと閉口させながら僕と刀を交互に見る。


「……。え? は? 君が認めたってこと?」

『ウサト君が認めたから姿を変えたってこと?』

『えぇ、こんなことあるのかよ……』


 シアの満足する姿にならなかったのは、ファルガ様だけじゃなく僕が所有者として認めていなかったからなのか?

 でも、小刀が先輩の持つ武具と同じような刀になるとは……。


「え……マジ? ウサト?」

「僕は最初から真面目なことしか言ってない」

「行動そのものが真面目からほど遠い男がなにを……!!」


 本当に酷い言われようだ。

 でもシアからすれば本当に意味が分からないことになっているだろうな、と思い彼女の様子を見てみると案の定、手にした刀を見て硬直し———いや、我に返った後、引きつった笑みを浮かべる。


「ふ、ふはは、君がここまで形にしてくれたんだからもう協力なしにしちゃおっかなぁ!」

「は?」


 そう口にした瞬間、シアの手の中の刀がまた光を放つ。

 光が収まると、刀は小刀———ではなく、小刀を通り越して見慣れた籠手の姿に戻ってしまった。


「え……え、嘘ぉぉぉぉ!? い、今の冗談!? 冗談だから戻して!?」

「はぁ……」


 ため息をつきながら戻れと念じると、光と共に籠手は刀に戻る

 どうやら鞘も一緒に武具と化したようだ。


「今後、裏切るようなことをしたら籠手に戻すから二度としないように」

「いや、なんでそんなことできるの?」

「フッ、ファルガ様からの信頼の証に決まってるだろう」

「……くそっ、君に色々言う人たちの気持ちがよく分かって悔しい……!」


 まあ、シアが完全に武具をものにしたら元にすることもできなくなるかもしれないけど、今この時だけは好都合ではある。

 ちゃんとした協力関係を結ぶことができたので、後はランザスさんを助けるための作戦を練っていくだけだ。

 作戦によっては他の勇者にも事情を説明する必要があるかもしれないな。

頑張って刀にしたのに勝手にグレードアップされた上に、調子に乗ると籠手に戻される仕様にされたシアでした。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] とうとう小手までおかしくなりましたかw
[気になる点] 勇者の武具は使い手が認めれば他の人物にも適応変化しますが、その使い手を殺害し武具を奪取した場合、小太刀のようにそのままの状態を保持、または殺害された使い手の怨念により所謂呪いの武具とな…
[一言] この武具に自我が芽生えてそうで怖い…
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