第四百四十六話
二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。
ランザスさんとレインが別行動をしている。
彼らの信頼関係を考えると絶対にありえないであろう状況に危機感を抱いた僕は、全速力で一番近くにいるレインの元へ駆ける。
リヴァルから離れて十数秒でレインの姿を視界に収める位置にまで近づくと、焦燥した様子のレインが周囲を見回しながら必死にランザスさんの名前を呼んでいる姿を見つける。
「ランザス様っ……どこに……」
「レイン!!」
すぐに彼の前で急停止すると、驚いた表情のレインが駆け寄ってくる。
……彼らの状況を見ているフーバードもいるってことは、まさかランザスさんの姿は運営側も把握できていない、のか?
「ウサトさん、ランザス様が……」
「状況は分かってる。ランザスさんのいる場所まで連れていく」
「え、なんで分か……わわっ」
レインを抱えた僕は弾力付与で作り出した魔力弾を踏みつぶし、屋根の上へと跳躍する。
そのままいくつかの家屋を飛び越え、ランザスさんの反応があった路地へと移動する。
「見つけた!」
暗い路地には壁に寄り掛かったまま動かないランザスさんがいた。
すぐに路地の地面に着地した僕が駆け寄ると、彼は頭を抱えながらなにかを呟いている。
「駄目だ……私には、無理だ……そんなこと、できない……」
「ランザス様!!」
「っ、れ、レイン……!?」
様子のおかしいランザスさんに僕が下ろしたレインが駆け寄る。
それでようやく気付いたのか、こちらを振り向いた彼の表情は青ざめており、お世辞にも顔色がいいとは言えなかった。
そんな彼にレインは急いで治癒魔法を施す。
「お身体は!? 今、治癒魔法を!」
「え……あ、ああ、大丈夫。少し眩暈がしただけで異常はないんだ。だから大丈———」
「大丈夫に見えません! 大人しくしていてください!!」
「あ、うん……」
……今はレインに任せるか。
ひとまず無事にランザスさんを見つけられたことに安堵していると、今度は僕に視線を向けてくる。
「ウサトも、どうしてここに……?」
「治癒感知……治癒魔法でレインと貴方が離れているのを確認したので駆け付けました」
「……そうか、すまない。……ん? んん? 治癒魔法で確認?」
しまった、分かりにくいかと思って表現を濁したら意味不明な説明になってしまった。
でもここで説明しても余計混乱させてしまう予感しかしないのでスルーしてもらおう。
「ランザス様、申し訳ありません……僕がはぐれてしまって……」
「いいや、君は悪くないんだ。私がこんなところに迷い込んでしまったんだ」
「迷い込んだ……?」
こんな暗い路地に?
体調が辛くなってここに入り込んでしまったとか?
運悪く、一緒にいたレインだけじゃなく、彼らを映し出しているであろうフーバードの目を離れてしまったとか……間に合ってよかったな。
「ウサトさん」
「ん?」
「あの、ランザス様に治癒魔法の系統強化を施していただけませんか? このような状況で願いするのは失礼かもしれませんが———」
「僕のことは大丈夫。任せてくれ」
元より、ランザスさんの身体は診ようと思っていたところだからね。
レインの治癒魔法で応急処置はできただろうけど、彼の身体になにかしらの異変が起こっているなら僕の系統強化が必要になる。
「ということでランザスさん、僕からも治癒魔法をかけます」
早速、治癒魔法と治癒診断をかけようと彼の肩に手を伸ばそうとする―――が、その寸前でランザスさんがその場から一歩下がり、僕の手を避ける。
「ランザスさん?」
「……いや、これ以上君に迷惑はかけたくない」
「迷惑だなんて思っていませんよ? 気にせずに、さあ」
断るランザスさんに手を伸ばすも、彼は頷いてくれない。
「っ、それでも今は第二の試練の真っ最中だから……駄目だ……」
頑なだな……。
でもランザスさんからすれば申し訳ない気持ちの方が大きいのかもしれない。
救命団流で行けばここは問答無用で系統強化を仕掛けてもいいが、彼の表情を見る限りレインの治癒魔法を受けて体調もよくなっているように見える。
「分かりました。でも第二の試練の後に系統強化をかけますからね? その間は……」
右手に治癒弾力弾を作り出し、ランザスさんに手渡す。
「一応、これを持っていてください。今日中は保つと思いますから、呼吸などが苦しくなったら胸元に当ててください」
「……ありがとう、ウサト。本当にすまない」
「謝らないでください。僕が勝手にやったことですからね」
一先ず、これでランザスさんは大丈夫そうだな。
ここで彼とレインとも会えたし、順番は違ったけれどこちらの目的を果たしてみようか。
「ランザスさん、一つ提案があるのですが」
「なにかな?」
僕はアウーラさんとミルファさんの時と同じように協力して問題を解く旨を簡単に伝える。
そのことに少しだけ驚きに目を見開いたランザスさんだが、すぐに柔らかく微笑みながら頷いてくれた。
「そういうことなら、喜んで協力しよう。レインもそれでいいかい?」
「はい! 僕達全然解けませんでしたからね!」
全然解けてなかったの……?
いや、まあランザスさんがはぐれちゃってそれどころじゃなかったんだろう。
『おぉい!! ウサト!! いるかァー!!』
快く受けてくれた二人に安堵していると、僕達のいる路地にリヴァルの声が聞こえてくる。
どうやら彼も近くに来てくれたようだ。
「僕のコンビも来たようだね。じゃ、一緒に合流しましょうか」
「そうですね」
頷いてくれたランザスさんとレインと共に声のした方へと歩き出す。
「あ、ウサトさん。これリングル王国の問題があったんです。見てもらってもいいですか?」
「ん? そうなんだ。見せてみて」
レインが問題が記された紙を見せてくれる。
リングル王国に関係する問題か、僕と先輩にも分かるように勇者とかその辺に関係した問題ならいいのだけど……どれどれ。
―――
『ラムダ陛下からの問題』
魔王軍との戦争で活躍した勇者イヌカミが所属するリングル王国。
勇者イヌカミの従者であるウサトが副団長を務める救命団に所属する団員の人数を答えよ。
―――
まさかの救命団関連の問題だった。
まあ、僕と先輩が関わっているという意味で僕達が答えやすく、他国で分かりにくい問題ではあるな。
「分かりますか?」
「うん、これくらいの問題ならむしろ簡た……いや、待てよ」
これ、いつの時点の団員の数を聞いているんだ?
「……」
そもそも団長のローズを数にいれているのか?
ブルリンは除くとして、最近ナギさんとキーラの二人が加わったし、時期を考えれば先輩が入団していない時期のことを言っている可能性がある。
ナック加入の時期を考えれば、ローズを含めて十一人。
先輩が入った時点でネアを含めて十三人。
ナギさんとキーラが入って十五人。
そしてローズを含めない場合で、挙げられた候補から一人減らされる。
「あ、すみません! 当てずっぽうで二回答えてしまったのであと一回しか答えられません!!」
「え?」
「いやぁ、申し訳ない。私とレインとそれぞれ答えたらどちらも間違えてしまって……」
……まさかのラストチャンスだったぜ!!
やばいやばい! これ間違うとか救命団員としてもあちらの運営側としても色々と気まずすぎる。
思いもよらないところで焦燥しながら、路地を出るとリヴァルにアウーラさん、ミルファさん―――だけではなく、なぜか先輩と取っ組み合いをしているリズの姿があった。
「……???」
まるで想像していなかった光景に思考が真っ白になる。
「なんで君がここに~!」
「それはこっちの台詞~!」
取っ組み合いといってもじゃれ合いみたいなものだがその傍ではおろおろしているエリシャにアウーラさんの従者二人がいる。
しかもそこにいるのは二組だけではなく、治癒感知でランザスさんの近くにいたレオナさんとロアもいるではないか。
「ふっ、二人とも落ち着いてくれ……」
「あわわわ……」
……ど、どういうことだ?
なぜかこの場にクロードさんを除く六組の勇者が集まっていることに意味が分からなくなっていると、僕と同じように表情を引きつらせていたリヴァルが近くに寄ってくる。
「リヴァル、これどういう状況?」
「……俺に分かると思うか? なんか……集まった」
レオナさんは近くにいたから分かるけど、先輩とリズはなんで?
困惑の視線を向けているとリズから離れた先輩が得意げな笑みを浮かべる。
「フッ、君が空に魔力弾を打ち上げるのが見えたからね。いっそのこと集まって2点問題を解こうと思ったのさ、レオナはその道中で合流したのさ」
「なるほど……」
まあ、僕達と同じことをしているしおかしなことでもない。
第二の試練的には異例の事態ではあるだろうけど。
先輩の言葉にリズは不思議そうに首を傾げる。
「そうだったの?」
「君はなにも理解しないでここに来たの?」
「匂いを辿ったらここに」
リズはそもそもなにも考えてなかった。
治癒の魔力の匂いが心地いいって言っていたし、僕の魔力の匂いを追ってきたんだろうな。
……いやなんでだ!?
駄目だ! 予想外の展開過ぎて明らかな異常事態すらもスルーしかけているぞ僕!?
『……よかった』
『ランザス様? なにがよかったのですか?』
『いや、なんでもない。なんでもないんだ……』
なんだかもうカオスってこういうことを言うんだろうなって思いながら、僕はこの第二の試練が色々な意味で崩壊していることを悟ってしまうのであった。
こんな状況になって実は滅茶苦茶安堵していたランザスさんでした。
今回の更新は以上となります。
次回はなるべく早く更新できたらと思います。




