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第四百四十二話

二日目、二話目の更新です。


明日、12月25日、『治癒魔法使いの間違った使い方Returns』Vol1発売いたします!!

戻ってきたウサト達の物語をまた楽しんでいただければと思います!!


 第二の試練が行われる当日。

 それぞれの待機所に向かう前、前回の試練と同じようにナイアさんが僕達のいるテントに足を運んでくれた。


「第二の試練は前回と違って派手さという点では欠けますが、謎解きなど観客も楽しめる要素などがありますので、また違った反応が楽しめそうですね」

「確かにね。戦闘がない分、謎解きに集中できるのはいいね」


 ナイアさんの言葉に先輩が頷く。

 テントの中には、二人以外には僕と、フェルムと同化している人型のネアがいる。


「でもこの試練のキモは謎解きだからね。肝心の問題を確保するために多少の競争はあると思ってもいい。というより、私はそのつもりだよ。ウサト君もそうだよね?」

「ええ、僕も負けるつもりはありませんよ」


 結果的に点数を合わせることにはなるが、今回の試練に限っては代表としての順位ではなく、試練内の競争をメインと考えている。


「そのための秘策もありますからね」

「奇遇だね。私もとっておきの作戦があるんだ」

「「フフフ」」


『なあ、ネア』

「多分、このおバカ二人の秘策は同じね。想像がつくわ」


 僕とリヴァルの友情コンビネーションを見せてやるぜ。

 不敵に笑う僕と先輩のやり取りを見ていたナイアさんは微笑ましそうに笑う。


「また第二の試練では色々と起こりそうですね」

「ナイアから見て、お祭りをみるのは楽しいかい?」

「ええ、もちろん。私もお父さまの娘で、カームヘリオに生きる人間ですから」

「そっか、それじゃあ君も楽しめるように私達も頑張るよ」

「……」

「ナイア?」


 無言になるナイアさんに先輩が声をかけると、彼女は不意に背後のテントの垂れ幕から外を確認するそぶりを見せる。


「……お伝えしたいことがあります」


 背後を確認したナイアさんの言葉で、秘密の話と察した僕達は表情を真面目なものにさせる。


「悪魔関係でなにか分かったのかな?」

「いえ、目立った異変は今のところは起きていませんが、その……第二の試練の後、お父さま……ラムダ王がお二人とお話しがしたい、と」

「ラムダ王が……?」


 驚く先輩に、ナイア様が困ったように笑う。


「ああ、いえ、そこまで重要なものではないんです。本当はもっと早く話そうとしていたらしいのですが、お祭りの関係で忙しく今になってしまったようなんです」

「そういうことだったのか。それで、どうしてナイアから伝えることに? ラムダ王からの呼び出しなら、事前に呼び出しが来るとは思うのだけど」


 確かにそうだ。

 ナイアさんが伝えなくても、連絡が来るはずだ。

 先輩の指摘にナイアさんは頷く。


「ウサトさん、お父さまに治癒魔法を施すと同時に悪魔の魔力に影響されていないか確かめていただけませんか?」

「! 分かりました」

「私から事前に話は通しておきます。なにより、お父さまはスズネさんとウサトさんとお会いするのを引いてしまうくらいに楽しみにしているので」


 本当に王様と縁があるなとは思ってしまうが、ラムダ王が悪魔の魔力に影響されていないか確かめるのは重要なことだ。

 ナイアさんの言葉に頷いていると、無言で話を聞いていたネアが彼女に話しかける。


「あの王様っていつもあんな感じなの?」

「いえ。このお祭りの期間中の姿では分かりませんが、普段のお父さまは厳格でものすごく真面目な人なので……ああなるのはお祭りや、公務以外でして……」

「厳格……?」

『真面目……?』


 ネアと彼女に同化しているフェルムが困惑の呟きをしている。

 どうしよう、僕も全然想像できない……。


「ラムダ王のことについて、承知いたしました」

「頼みます。……あっ、そろそろ待機所に移動する時間ですね。私も客席の方に移動します」


 もうそんな時間か。

 ナイアさんの言葉に僕は先輩とネアを見る。


「ネア、君はどうする?」

「前回と同じで観戦してるわよ。ウルアと合流するように約束も取り付けたことだしね」

「ウルアさんとか」


 そういえば、ウルアさんは今回も観戦なんだな。

 一応彼女も従者だったはずだけど、リズとエリシャの成長のために見守っている感じなんだろうな。


「それじゃ、僕と先輩はこっから別行動ってことだね」

「フッ、ウサト君、手加減はしないからね」

「いや、制限されているんだから手加減してくださいね?」

「きゃうん」


 雷獣モード全開で問題全回収……なんてことがあったら、目も当てられないから。

 そんな会話をした後に、僕と先輩はそれぞれの待機所へと向かうのであった。



 今回の試練も、第一の試練と同じように別々の入口からの開始となる。

 その一つの入口がある待機所に移動し、ガルガ王国の勇者リヴァルと合流した僕は、第二の試練の開始を待っていた。


「なんか不思議な気分だ」

「どうしたの?」


 まくっていた団服の袖を伸ばしていた僕の隣で、リヴァルが感慨深い様子でそんなことを呟いていた。

 今の彼の姿は第一の試練の時のように金の装飾が施された鎧姿ではなく、動きやすい簡素な布製の衣服に身を包んでいる。

 それだけで、彼が三日前とは変わったことがよく分かる。


「少し前までは、俺ん中では鬱屈とした感情がずっと渦巻いていたんだ。俺は勇者なんかじゃない、どうしようもない駄目な奴なんだってな」

「今はどう?」

「俺は勇者じゃないってのは変わらねぇよ。そもそも、任命されたから勇者にさせられたって考え自体が思い違いだって自覚した」


 そう語るリヴァルはどこか吹っ切れた様子に見えた。


「勇者として何かを成したわけでもねぇし、新たな技術を開拓してもない。武術を極めたわけでもねぇし、民に誇れる偉業を成し遂げてもいねぇ。……そう考えるとな、ガルガ王国が選ぶ“勇者”にそこまでの価値を感じなくなった」

「……」

「多分、従者……俺の仲間たちも気づいてたんだろうな。気づいてなかったのは俺だけで、ようやくそれを理解した」


 国の象徴としての勇者。

 僕としては、ガルガ王国の勇者としての在り方を否定するつもりはない。

 結局のところ、勇者の定義は国によって違ってくるものだからな。


「お前のとんでもない訓練に必死でついていくうちにぐちぐち悩んでいるのが馬鹿らしくなっちまったよ」


 そう愚痴るように言った彼は不意に額を押さえて空を仰ぐ。


「まー、結局これからどうするかって話だが……あー、どうすっかなぁ、本当に」

「それなら、さ」

「ん?」


 呆気にとられてこちらを振り向くリヴァルに、僕は人差し指を立てる。


「君たちがこれからガルガ王国の新しい勇者の形を作っていけばいいんじゃない?」


 今のガルガ王国の勇者は先代の父親ではなくリヴァルだ。

 それを認めたのは王国だし、土台は十分にできている。


「はぁぁぁ、お前さぁ、簡単に言ってくれるよなぁ……!!」

「君にとっての試練みたいだし、簡単じゃないからこそだろ? それに、君も一人じゃない」

「……ああ、そうだな。確かに……その通りだ」


 リヴァルには彼を慕う従者たちがいる。

 自分自身を認めたリヴァルに、彼らがいればもう折れることはないと僕は思う。


「それに、僕とクロードさんの訓練を乗り越えられるガッツがある君たちなら楽勝だろ」

「……ハッ、確かにあれ以上の困難があるとは考えにくいな」


 いや、そこで普通に同意されるのは……。

 反骨的な反応を予想していたのに、普通に納得されて釈然としない気持ちになるが、本人が前向きになってくれたならそれでいいか。


「でもまあ、とりあえずは目の前の試練だな」

「そうだね」


『此度は勇者・従者を交換し行う!! 国も文化も異なる組み合わせで協力し、知恵比べに臨む!! それが第二の試練!! フフフッ、もう待ちきれないぞぉ!!』


 外ではラムダ王のテンションが振り切った声が聞こえる。


「リヴァル、この試練に当たって秘策がある」

「……すっげぇ嫌な予感がするんだけど」

「乗ってみる気はあるか?」

「お、おう」


 頷いたリヴァルに僕は背を向け、身体を前に傾けてしゃがむ。

 彼を背負う態勢に移ったところで、声をかける。


「よし、いつでもいいぞ」

「……」

「……いつでもいいぞ?」

「まさかお前。これが秘策じゃねぇだろうな?」

「……フッ、乗ってみる覚悟はあるんだろ?」

「なあ頼む、一回お前をはったおしてもいいか……ッ!」


 いや、落ち着いてほしい。

 第一の試練でも有用性を発揮した戦術なんだ。


「君をおぶって僕が最速で問題を確保する。いくら回答に時間がかかったとしても回収速度さえあれば問題ない、これぞまさしく奇策だぜ」

「そうだな。見た目のイメージが壊滅的に悪いことを除けばなァ……!!」


 確かに見た目はいいとはいえないだろう。

 でも、もう第一の試練でやっているし、なによりリズ達も同じ戦法を使っていたことから有効な戦術なはずだ。


「僕はリングル王国ではブルリン……ブルーグリズリーを日常的に背負って走っている。背負うことには慣れているぜ」

「どんな誇り方だ……ッ! それに巻き込まれる俺の心配をしてくんねぇかなぁ!? ……俺の評判もこれ以上下がる余地ねぇけどなぁ畜生!!」


 すごい、連続ツッコみからのセルフツッコミだ。

 しかし、作戦として全然悪くないので、リヴァルに再度に背中に回した手に足を乗せるように促す。


「もうすぐ試練開始だ」

「くっ……」


『では、数えるぞ!! 十、九、八…』


 ラムダ王の開始の合図を予告する秒読みが始まる。

 それでも尚、ふんぎりがつかないのかリヴァルが苦渋の表情で抵抗する。


「やらないからな?」


『七、六、五…』


「いくら有効な戦術でも絶対嫌だからな!?」


『四、三、二、一…』


「絶対にやらないからなァァァァ!!」


『ゼロ! 第二の試練開始ィィィィィ!!!』


「ちくしょぉぉぉぉ!!」



ウサトの秘策に乗る決断に迫られるリヴァル君でした。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 策(ウサト)に(物理的に)乗る(笑) 奇策が本当に奇策なの最高(笑)
[一言] ウサリヴァありだ…………はっ!落ち着け俺! 俺にはウサフェルというカップリングが既に概念としてあるだろ! 一旦深呼吸だ……。 すぅ、はぁ…………。 よし、ウサフェルは世界一!!!!( *´﹀…
[一言] いろいろ吹っ切れたようで何より。
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