第四百四十一話
お待たせいたしました。
第百四十一話です。
三日目、リヴァル達の訓練は無事に終わりを迎えた。
その間基本的に訓練場内を走り回り、その合間にクロードさんの指導が入り、それが終わったらまた走るの繰り返し。
クロードさんの指導は僕もリヴァル達と同じ立場で受けさせてもらったりもして、僕自身充実した三日間を過ごせたと思う。
勿論レインの訓練も手を抜いていない。
レインは魔力操作の訓練の一環として、僕に背負われ走るという状況下で安定して治癒魔法を発動していられるよう訓練させ、時折治癒妨害で魔力をあえて乱したりさせてみた。
ルクヴィスでナックに施した訓練の簡易版みたいなものだけど、走らせるか僕が背負うかの違いしかない。
充実した三日間だったな、うん。
でもここで誤算だったことがあるとすれば……。
第二の試練が頭脳を試される訓練だということをド忘れしていたことだ。
「明日に備えて訓練を早めに切り上げる」
昼にさしかかる時間帯。
リヴァルとその従者たちを前にして、僕は静かにそう告げる。
緊張した面持ちでこちらを見る彼らに僕は一度目を伏せた後に、続きの言葉を言い放つ。
「この三日間、君たちは誰一人として折れずに訓練についてきた……」
さすがに魔王領で施した訓練ほど厳しくはしていないが、それでもそこそこキツイ訓練をさせたつもりだ。
その訓練に彼らは一人も脱落せずについてきた。
それはとてもすごいことだ。
「声をかけあい、助け合い、君たちは一人ではなく全員で乗り越えた。普通にできることじゃない」
『『『教官……』』』
「……」
僕の呼び名がいつの間にか教官になっていたけど、そこらへんは……まあ、気にすることでもないだろう。
「今日を以て、訓練は終了とする。短い間だけど、君たちと訓練を共にできて楽しかった」
『そんなっ』
『教官……!』
『まだ俺達、訓練したりないですよっ』
「ああ、僕も同じ気持ちだ……!!」
「……」
本当は三日と言わずに一週間は時間が欲しかった。
でも、それでも三日間という期間を乗り越えたのは彼らの強さに他ならない。
「明日の訓練が知識が要求される試練だけれど、君たちならばきっとやってくれるだろうと、僕は信じてる……!!」
『『『はいっ』』』
いい返事だ……!
たった三日ではあるが、クロードさんの指導を共にした彼らの声に僕も感慨深い気持ちになってしまうな。
「いや、おかしいだろッッ! どう考えても勢いで誤魔化そうとしてるじゃねーか!!」
と、ここで堪えきれなかったのかさっきまで無言でいたリヴァルが元気なツッコミをいれてくる。
「リヴァル! 明日は頑張ろう!!」
「だから勢いで誤魔化そうとすんじゃねぇよ!? そもそもお前頭脳プレーとかできんのか?!」
「……。フッ、自慢じゃないけど発想力はあるつもりだ」
「なんで知識試される試練で発想力発揮しようとしてんだ……!!」
正直に言おう、この世界特有の常識とか専門知識みたいなものが出たら僕は役立たずといってもいい……!! 付け焼刃程度の知識もたった三日間で備えられるわけではないので、第二の試練はフィーリングでなんとかするつもりである。
「僕達はコンビ。つまりは一蓮托生、頼りにしているよ」
「もしかしてとんでもねぇ重り課せられてんのか俺……?」
どんな結果になるか分からないけれど、僕としてはどんな試練でも全力で臨むつもりである。
●
リヴァルと彼の従者たちと別れた後、僕は訓練場から泊っている宿の部屋へと戻っていた。
「ここで落ち着くのも久しぶりだな」
「貴方、この三日間ほとんど戻ってこなかったわね……」
「一日目に鞄に着替え詰めて何事かって思ったけど、本当に訓練場で寝泊まりするってどういうことだよ……」
ソファーに身体を預けて脱力している僕をネアとフェルムが呆れた目で見てくる。
この三日間、僕はここに戻ってきていない。
本当は適度に戻って休むつもりではあったんだけれど、二日目の朝にドン引きするくらいの速さで簡易型の浴場を訓練場周りに増設され、加えて食事は宿の従業員さんと先輩が運んできてくれたことから、数日程度なら部屋に戻らなくて済んでしまったのだ。
「私も訓練場に泊まりたかったけどなー」
「さすがに先輩がいるのはマズいですからね。でもご飯を用意してくれて助かりました」
「フフフ、多少は無理を言ってしまったが、私も料理を作るのが好きな家庭的な女だからねッ!!」
訓練していたリヴァル達のモチベーションにも繋がっていたから、先輩のサポートは本当にありがたかった。
なんだかんだで無事にリヴァル達の訓練を完走させることができたことに安堵していると、腕を組んだネアが変わらず呆れた様子で話しかけてくる。
「それでウサト、明日はどうするのよ」
「フッ……なにも考えていないぜ」
「自信満々に言うことじゃないわね……」
潔い僕の言葉にフェルムも呆れる。
「だろーな、知ってた。……スズネは?」
「私もウサト君と同じだぜ」
「このおバカ主従……!」
実際、この試練に関してはいくら事前準備しても意味なさそうではあるんだよなぁ。
「一応、明日の試練のルールについておさらいでもしておこうか」
「ですね。今日まで訓練続きだったので、僕ももう一度確認しておきたいです」
特に難しいルールではないけれど、本番になって重大な違反をやらかした……なんてことにはなりたくないからな。
頷く僕に先輩は、第二の試練のルールについて語ってくれる。
「試練のルールは単純。第一の試練と同じ、街の一区画を丸ごとフィールドにした“問題探し”だね」
また街の一部をフィールドとしているんだからカームへリオは豪快だなぁって思ってしまう。
それを観戦する人々もいるってんだから大変だ。
「フィールド内に設置、もしくは隠された問題を探して解く。回答はフーバードに取り付けられた魔具によって確認され、その場で正誤を伝えられる」
「その場でって言うと……」
「これも魔具によるものだね。これもサマリアールからの技術提供によって可能にできたことらしい」
「ルーカス様かー」
以前、会った時も声を録音する魔具とか出していたしおかしなことでもないけど、魔具の技術進歩というか、そのあたりも本当に未知数だなって思う。
「点数配分はどんな感じですか?」
「一般から募集した問題は一点、運営側から出されたものは二点だね。今回は従者を入れ替えての参加なので、獲得した点数は勇者と従者も同等に獲得できる仕様みたいだね。一応、妨害もアリみたいだけど、まあ、するメリットはないだろうね」
同等、か。
例えば、5点獲得したということは勇者と従者それぞれが5点を得て、別の組み合わせとなった従者が3点を獲得したら、5点獲得した勇者の点数と合わせて計8点ってことになる……のか?
「そう聞くと、従者も試される試練でもある……みたいですね」
「そういう意図も少なからずあるんじゃないかな? まあ、ラムダ王はこういう形式の方が面白いって考えかもしれないけど」
でも、一般から募集した問題ってどういうのが出るか全然想像できない。
お祭りの関係者が中身を確認したうえで出題しているだろうから、変な問題は出てこないだろうけど、それを僕と先輩が解けるかどうかは別なんだよなぁ。
「それで、またお前に制限がつくのか?」
フェルムの言葉に先輩は苦笑しながら頷く。
「雷獣モードは完全に禁止にされちゃったね。雷獣モード0はオッケーだけれど、頭を使う試練だから別に使う機会はないだろうね」
「ウサトはそもそも脳を縛っているから、ある意味で公平な試練とも言えるんでしょうね」
「おい?」
誰が脳みそを縛った脳筋だ。
「僕の発想力を嘗めるなよ? 今から新技を作ってもいいんだぞ?」
「は? やってみなさいよ」
……。
「ミニ治癒爆裂弾を拳にくっつけて治癒コーティングで手を守って殴る籠手なし同化なしでできる治癒連撃拳」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
本当に即興で考え早口で言ったら、事件性のある悲鳴をあげられてしまった。
「本当に作る人がどこにいるのよ!?」
「やれといったのは君でしょ……」
「やると思わなかったんだもん!! これ私悪くないでしょ!?」
いや、でもこれ欠点もあるんだよね。爆裂弾と治癒コーティングで二段階工程挟まないといけないし、連続で叩きつけられない。
「そっちがそう来るなら、こっちにも考えがあるわよ」
「ほう?」
「今から私が問題を出すから解いてみなさい! ついでにスズネとフェルムも!!」
「面白い、受けて立とう」
「フフフ、ネアからの挑戦状か血が滾るね」
「いや、なんでボクも……?」
唐突だが、明日の予行練習にもなりそうなので受けよう。
腕を組んで得意げな表情のネアは人差し指を立てる。
「それじゃあ出すわね。……一日の間で大きくなったり小さくなったり、ときどき増えたり伸びたりする、それでいて自分のものでありながら絶っっっ対に触れられないし、持つことができないものはなーんだ!」
もう出題の仕方もそれっぽいな。
……フッ、全然分かんねぇや。
大きくなったり小さくなったり増えたり伸びたり、触れないし持つこともできない……?
「筋肉?」
「ここまで典型的脳筋おバカの回答だと逆に怖いわよ……」
「お前の筋肉、分裂したりするのかよ……」
ドン引きされてしまった。
隣で一緒に考えていた先輩が、ぽんっ、と手を鳴らして分かったアピールをして、悩む僕とフェルムをにやにやと見ている。
「……ハッ、分かったぞ。 ネア!!」
「へぇ、それじゃあ答えは?」
「答えは暴れてるウサトだ!!」
「おい?」
フェルム??? この問題文的に僕がとんでもない化け物になっているのだけど。
「……盲点だったわ。確かにその答えでも当てはまっちゃうわね」
「だから、おい? 自分のものでありながら絶対に触れられないってところは違うだろ?」
「ウサト君、それだとそれ以外は当てはまっちゃうことになるけれど……」
くっ、僕とフェルムでも駄目か。
もう答えは出ないと見かねたネアが上機嫌に先輩に視線を移す。
「それじゃあ、スズネ。回答を言いなさい」
「答えは影。どうかな?」
「はい、正解」
……。影かぁ。
そう言われてみれば確かに問題文と合致するな。
「影は光の角度で小さくもなれば伸びることもあるし、光源が複数あれば増えているようにも見えるわ。んでもって、影は触れもしないし、手でも持つこともできない」
「「なるほど……」」
納得のあまりフェルムと声を揃えて感嘆としてしまう。
むぅ、認めるのは悔しいけど、納得もできるいい問題だな。
「さすが長く生きているだけある」
「普段は全然そう思えないけど」
「うるさいわよー」
でも明日はこういう形式の問題とかあったら楽しそうではあるな。
なんだかんだで、問題を楽しんでしまっていると、パンっと仕切りなおすように手を叩いた先輩が僕達を見回す。
「ま、問題を解くことも重要だけど、結局言えることは明日、私たちは競争相手ということだね」
「フッ、明日の試練楽しみにしていますよ」
なんだかんだで先輩とこんな形で勝負することは少なかったので、僕自身ちょっと明日の試練にワクワクしているところがあるのは内緒だ。
技は本当に即興で考えました。
問題については今回のネアが出したものに近いものを出題する予定です。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




