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第四百四十話

ご報告いたします。


昨日、TVアニメ「治癒魔法の間違った使い方」の放送開始日が解禁されました!

放送開始は2024年1月5日(金)24時30分!!

それに合わせて、PV第二弾がYoutubeなどに公開!


他にもオープニング・エンディング主題歌など、追加キャスト公開など情報が盛りだくさんなので興味のある方は活動報告、『治癒魔法の間違った使い方』公式サイト、X公式アカウント、などをご覧になってください!!



そして、お待たせいたしました。

第四百四十話 日記回です。

訓練一日目


訓練というものは己の肉体を鍛えるものだと思い込んでいた。身体を鍛え、肉体を強靭にする過程で精神がついてくる、と。だが実際は違った。走る。彼の訓練は肉体と精神のどちらも試す、しかも決してありえない精神が先に試され、あとから肉体という枠組みがくる。走る。幼少期、故郷であるサンダーラ王国領内の住んでいた村では一番の騎士になることを夢見ていた。好きな食べ物は父が狩り、母が調理した鹿肉のソテー。走る。元より治癒魔法使いには偏見を抱いてはいない。元々己の住む村には治癒魔法使いがいたからだ。俺よりも一回り年上の治癒魔法使いの彼女は率先して治癒魔法を用いて己を含めた村の皆を癒してくれた。走る。彼女の分け隔てない優しさに憧れを抱いたし、他者のために自らの力を振るうことの強さを知ることができた。故郷の両親から定期的に送られる知らせによると、魔王軍との戦争に治癒魔法使いとして参加し、多くの人を癒したそうだ。その際に同じ治癒魔法使いで同年代のいい人と出会ったとのこと。何度も文を送りあい、近々リングル王国に移り住むらしく村では彼女を送り出す祝い事をするそうだ。走る。村にとっても自分にとっても、恩人の祝い事はとても喜ばしいことだ。もしかするとお相手はウサト殿の見知った方かもしれないものすごく走った地獄のように走った槍を持たされ振るった走っ



「ヘンリィィ!! おいぃぃ!! しっかりしろぉぉ!!」

「……ハゥッ!」


 虚ろな目でウサトから渡された用紙にがりがりと無我夢中で文章を書き連ねていたヘンリーを正気に戻す。

 その際に彼の書いた文章を見てしまったがなんかもう普通に日記を書きながら走馬灯を文章にしたようなもので、素直に怖くなった。


「リ、リヴァルくん……」

「ああ、俺だ。大丈夫か!?」

「よかった。君がここにいるということは……明日から勇者候補生ってことだね……」

「走馬灯から戻ってきてない!? ヘンリィィィィ!! 正気に戻れぇぇ!!」


 軽く頬を叩いて今度こそ正気に戻す。

 く、訓練でどうしてこうなるんだ意味が分からん!?

 正直俺もああなってもおかしくはなかった。

 俺が正気を保てたのは———、


『『『……』』』

『『『明日もタノシミ……クンレン』』』

『渋くてかっこいいおじさま……』


 無言で用紙になにかを書きなぐるやべーやつら。

 虚無の表情で明日の訓練に思いを馳せるやべーやつら。

 一人、別のベクトルでやべーやつもいるが、そいつも含めて全員俺の同期であった。


「……」


 やばすぎる周りのせいで我に返れた。

 でも、正直俺も限界だ。

 なにせ、特に意識していないのに俺はなぜか今、ペンと用紙を握ってしまっている。


「お、俺は大丈夫……」


 とにかく周りのあいつらは放っておこう。

 と、とりあえず我を保つために、俺は今日行ったことを事務的に日誌にまとめよう。



〇編集者:リヴァル・ヴェーラリア

カームへリオ:訓練一日目


訓練内容・・・リングル王国・代表勇者イヌカミ・スズネの従者ウサトによる長距離走。具体的な走行距離は不明。勇者クロードによる基礎訓練と槍術訓練。

基礎訓練は主に体幹を中心に鍛えるもの。下半身を意識した踏み込み・足さばきを延々と繰り返していく。槍術訓練はひたすらに突きを繰り出す反復訓練。それ以外を許されず、勇者クロードの許しが出るまで繰り返される。


感想・・・治癒魔法を前提としなければ不可能な訓練。

非効率かつ非合理的な訓練ともいえるが、それを治癒魔法でなんとかしてしまっている。

ウサトの訓練も辛いとかそういう言葉で表せない類のものではあるが、勇者クロードの施す訓練も同等にきつい。

単調な作業が延々と繰り返される、頭ではなく身体で覚えさせるもの。



なんで俺こんなことしてるんだ?


駄目だ、我に帰ったら逆に混乱した。

まだあいつらの仲間入りはしたくない。


これで手を抜いてるという事実が信じられない。

俺は明日正気でいられるのだろうか。


ーーーーー

〇編集者:リヴァヴァヴァヴァ

カームへリオ:訓練二w/くぁwせdrftg


 おそろしいじかんはしらされた


 槍を持たされひたすらに基礎練習をさせられた


 おそろしいじかんはしらされた


 槍の訓練がクソ地味すぎて走った記憶すらなくなった


 おそろしいじかんはしらされた


 ウサトがいつの間にか隣で一緒に参加してた


 おそろしいじかんをはしらされた


 ・・・


ーーーーー

〇編集者:リヴァル・ヴェーラリア

カームへリオ:訓練二日目 その2


取り乱した。

もっと取り乱す。


真面目に書くだけバカらしいわクソがぁ!!

あの野郎恐ろしい時間を延々と走らせやがって!!

休憩という名の勇者クロードの訓練を挟み込むってどうかしてんのかボケがァ!!


普通に有意義な訓練をさせてくるのが余計性質悪いし、なんで俺達に試練を課すウサトが俺達と一緒に勇者クロードの訓練を受けてんだコラァ!!

なぁにが「この時間は僕も君たちと同じだ」じゃねぇよ!? そもそもあいつ槍持たずに拳で突きの訓練してるのも意味不明だわ!!

それに従者のあいつらとにこやかに会話していたのに、勇者クロードの訓練が終わった瞬間に鬼教官に変貌するの素直にこえーし、それを当たり前のように受け入れているあいつらもこえーよ!?


訓練場に集まる面々もどうなってんだ!!!

百歩譲って勇者イヌカミが来ることにはなんの疑問もねぇよ? だが、勇者リズに勇者アウーラ、勇者レオナも来るとか意味不明だろ!! 勇者ランザス以外の全員が揃って訓練場が勇者が集う憩いの場と化してんじゃねぇか!!

そして集まった誰もが俺達の訓練風景を見て誰も疑問に思わねぇのもおかしいだろ!!


一番謎なのが、今日の朝目覚めると訓練場のちょっと出た先に簡易的に浴場ができていたことだ。ラムダ王が急ごしらえで作らせた事実と、ウサトの「これで宿舎に戻る手間もなく訓練できるな……」という悪魔みたいな呟きにもドン引きした。




「あくまで俺の持論だが、技っつーものは強みにも弱みにもなりえるもんだ」


 三日目、早朝から続く走り込みの直後に俺達は木製の棍棒を配られ、一列に並ばされる。

 そこから始まるのは二日前から続く槍の修練。

 指導をする勇者クロードの言葉を聞き逃さないように耳にしながら、俺達は構えた槍による突きを繰り出す。


「決まった型から繰り出されるモンを相手に覚えられちまえば対策もされる。だがその弱みこそが強みになることもある。それがまた面白ぇんだ」


 息を揃え、一列に並んだ俺達が同じタイミング、踏み込みで槍に見立てた棍棒で空を突く。


「必要とあらば技を囮にし、不意の一撃を見舞うってこともできる」


 両手で握った棍棒が自身の肉体の延長にある感覚と共に、棍棒の切っ先が空を切り裂く。

 集中し、槍を引きようやく呼吸をしたところで、額から滴った汗が床へ落ちる。


「そこまで」


 勇者クロードの声に揃って動きを止め、槍を立てるように引き戻し背筋を伸ばす。

 そんな俺達に満足そうに頷いた彼は、続けて言葉を発する。


「折角身に着けた技も相対する敵から警戒に値するほどに練り上げなきゃ話にならねぇ。だからこそ、まずは基本の突きを鍛えろ」

『『『はい!』』』

「槍だけじゃねぇ。拳、剣、斧然り、極限にまで練り上げられた基本はあらゆる状況で必殺になりうる。それこそ魔法関係なくな」


 魔法はあくまでその後について来るもの。

 勇者クロードの訓練理念は基本をとことん突き詰めるというもの。魔法や戦法よりも覚えれば誰でもできる技術を愚直なまで訓練する。


「……」


 普通だったら、こんな訓練嫌になっていたんだろうな、とは思う。

 勇者クロードの訓練は地味で、正直上達しているかどうかすら分からなくなるものだからだ。

 だが、そんな訓練を続けられていた理由は———ウサトのせいとも言える。


「よし、じゃあ弟子ウサト、次頼んだ」

「弟子ではありませんが分かりました!! じゃあ、お前ら次は走るぞォ!!」


 一緒に訓練を受けていたウサトがにこやかな笑顔でクロードに礼の言葉を言った後、こちらを振り向く過程で世界観すらも変わった笑みを浮かべた鬼の形相へと変わり、走るように促してくる。


「ハハッ、待っていたぜェ!! 教官!!」

「次はデザートってことねェ!!」

「合間にデザートがくるって最高じゃないのォ!!」

「待ちきれねぇぜ!」


 従者たちはなんかもう、色々とおかしくなった。

 いや、元から色々な意味でおかしかった連中だが、色々とタガが外れてすごいことになってしまった。

 人間で最も優れている部分って、知能とかじゃなくて慣れなんだなぁって思わされる。


「そして他ならない俺も慣れてしまった……」


 訓練開始三日目、明日に第二の試練を控えた日になっても変わらず俺達は訓練場内を走る。

 ……。

 ……、……。


「いや待て、第二の試練どうすんの……?」


 よく考えなくても第二の試練の知恵試しに今やっている訓練は全く関係ない。

 もしかして、こいつらもウサトも絶対明日の試練のことなんて頭からすっぽ抜けている……?

日記フェイント(?)に出てきた治癒魔法使いは第八章百八十四話に登場したシャルンさんです。

そして、三日だけなのでまだ大丈夫なリヴァル達でした。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 知ってた。治癒魔法使いで戦場に行って文通してるの、シャルンさん以外に居ないんすわ。ここで伏線回収パネェなおい
[一言] 悪魔を見て精神をやられた人の犠牲者の手記にしか見えないwww
2023/12/21 12:28 しおりすぐ無くす読書好き
[一言] >従者たちはなんかもう、色々とおかしくなった。 薩摩兵児で、血迷うとらんものは一人もおらんど
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