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第四百三十九話

二日目、二話目の更新です。


第四百三十九話、前半がウサト、後半がリヴァル視点です。

 朝食の後、リヴァルとその従者たちを見送った僕はそのまま続けてレインとロアの訓練をすることになった。


「なんつーか、孫娘のこんな姿を見るのは複雑な心境ではあるなぁ」


 見学しているクロードさんの隣で、床に膝をついた僕はレインとロアと手を繋いで魔力回しを加速させていた。

 身体の中の魔力を加速させられたロアは訓練場の床に突っ伏して震え、その様子をクロードさんは複雑そうに見ていた。


「すみません……」

「まー、気にすんな。こいつが効率的な訓練っつーのは俺にも分かるからな。見た目は大変よろしくねぇが、目に見える成果があるなら遠慮せずにやるべきだぜ。それにな……」


 一旦言葉を切ったクロードさんが不敵に笑い、ロアの頭に手を置く。


「お前さんの技術をロアがものにすれば、うちの流派もより強くなれるからな」

「はは、強かですね」

「本当は直接本人が弟子になってくれればなー、安泰なのになー」

「本当に隙あらば弟子にしようとしてくる……」


 いい加減諦めてほしいんですけど。

 相変わらずなクロードさんの様子に苦笑した僕は、彼からレインへと視線を移す。

 現在進行形で床に突っ伏し震えているロアとは対照的にレインは僕が魔力の加速を促していても平気なようになってきており、今では身体全体を襲う震えが少なくなっているように見える。


「大分魔力回しが滑らかになったね。レイン」

「は、はい。じ、自分でも不思議な感覚です」


 魔力回しを加速され、震えながらもちゃんとした受け答えをするレイン。


「以前までの自分が使っていた魔法が別物かってくらいに滑らかに魔力が放出できるようになっているんです」

「うん。それも魔力回しの成果だね」

「このまま系統強化も……」


 と、口にしたレインに僕は首を横に振る。


「焦りは禁物だよ。どれだけ魔力の扱いが向上しても系統強化が難しい技術であることは変わっていないんだ」

「……」


 でもまあ、焦るよなぁ。

 この子はランザスさんを慕っているし、そんな彼の身体の負担を軽くしたい一心で僕に師事してくれている。僕もこの子に系統強化を習得してほしい気持ちはあるけど、系統強化の訓練でこの子自身が危険な目にあうことを許容することはできない。


「時間はまだある。焦らずに続けていこう」

「……はい」


 訓練は順調に進んでいる。

 時間と切っ掛けさえ掴めれば系統強化の感覚を掴めるくらいにまで成長できるかもしれない。


「とりあえず、明日からの君の魔力回しの訓練は短くしていこう。次からは本格的な系統強化の訓練だ」

「っ、頑張ります!!」

「いい返事だ」


 レインから手を離し、彼の頭に手を置く。

 レインの魔力回しの訓練はここまでにして、あとはロアの訓練に集中して次は———、


「ウサト」

「ん? リズ? どうしたの? さっきまで先輩と組手をしていたはずじゃ……」


 僕達から離れたところで先輩と組手をしていたリズがいつの間にか近くで、僕達の訓練を覗き込んでいた。

 魔力回しに興味でも持ったのだろうか?


「先生から聞いた。系統強化の訓練をしてるって」

「うん、そうだよ。……もしかして君も……」

「むん、やってみたい」


 リズの系統強化は未完成で自分の身体を傷つけてしまう危険なものだ。

 ちょうどレインの魔力回しの訓練も終えたところで、手は空いているけど……まあ、いいか。


「じゃあ、リズ、手を」

「わぁいやった。じゃあ、遠慮なぶぶぶぶ……」


 そして、僕の手を握った瞬間、魔力回しを加速され床に沈むリズ。


「傍から見るとこんな感じだったんですね、僕」

「勇者にすら効くとか、中々えげつねぇよなコレ」


 レインとクロードさんがリズを見てちょっと引いた様子を見せる。


「お、そうだ。ウサト、そういえばお前さんに話があったんだ」

「話ですか?」

「おうよ、昨夜の従者交換。奇しくも俺んところの従者がガルガ王国の面々になったのは知ってんな?」

「ええ」


 中々に意外な組み合わせだったけれど、それがどうしたのだろうか?


「ガルガ王国のは主含めて中々骨がありそうな若者達ばかりだったからな、ちょいと手ほどきをしようと考えていたんだが……見事に先を越されちまったみてぇだ」

「も、申し訳ないです……」

「謝んなくていいよ。悪ぃことでもねぇからな」


 リヴァルとその従者たちが気骨のある人々ってことは分かる。

 でも、荒療治とはいえリヴァルだけではなく従者の方々もまとめて簡易救命団式訓練を施したのはちょっとまずかったかもしれない。


「……ガルガ王国のリヴァル、先代の悪いところが似ちまったって前に言ったろ?」

「ええ」

「その悪いところっつーのは周りが見えてねぇことだ。リヴァルの親父、ガルガ王国の先代勇者とは違う意味だがな」

「違う意味?」


 僕の疑問にクロードさんは頷く。


「奴の親父は見ることすらしなかった。そしてリヴァルは目を背けていた。この違い、分かるかい?」

「……ええ、なんとなく」


 リヴァルは自身に課された勇者としての重荷と、他の候補を差し置いて勇者になってしまった罪悪感のせいで、ひたすらに自分を責め続けた。

 そのせいでリヴァルの耳には、彼を慕うはずの従者の言葉すらも届かなかった。


「いつかはどっかで潰れちまう前に、俺からちょっかいくらいはかけておこうと思っていたが……もうその心配はなさそうだな」

「そこまでするつもりだったんですか?」

「ハッ、ジジィのお節介だよ。将来有望な勇者の卵共(・・)が燻ってんのは見てらんねぇからな」


 卵共って……あぁ、なるほど彼ではなく、彼らってことなんだな。


「だがまあ、正直俺も不完全燃焼な訳よ」

「はい?」

「それで提案、いいか?」


 ……。

 多分、クロードさんがこの次にどんな提案をするか予想できた。


「まずは彼らの意思を確認してからですよ?」

「かはは、分かってるよ。話が速くて助かる」


 快活に笑うクロードさんに、僕もつられて笑みを浮かべる。

 なんというか、この人と関わっていくうちにこの人の弟子になったら楽しいんだろうなぁって思えてしまうんだよな。


『ウサト』

「ん?」


 同化しているフェルムの声。

 周りに気づかれないようにリズとロアの手に流す魔力回しから意識を逸らさずに彼女の声に耳を傾ける。


『訓練するんならアレを用意しておいた方がいいんじゃないか?』

「……え、でもたった三日だよ?」

『いや、必要になると思う』


 ……一応、用意しておくか。

 ネアか先輩に頼んでここに持ってきてもらおうか。



 朝飯の後、俺達はウサトに言われた通りににぎやかになりつつあった訓練場から宿舎に戻り、風呂と着替えを済ませることにした。


「……はぁ」


 昨日の夜から衝撃の連続すぎて最早現実感すらない。

 今度こそ運動に適した訓練着に着替えた俺は、なんともいえないため息をつく。


「行くか」


 部屋の扉を開き、俺と同様の準備を済ませた従者たちが待っていた。


「リヴァル様……」

「ここは人の目がねぇから、敬語じゃなくていいぞ」


 仕方ないとはいえ、こいつらに様付けされたり敬語で話されたりするのは心苦しいものがある。

 ……また後ろ向きなことを考えようとしたな、俺。

 自覚はなかったが、病んでいるのかもしれないな。


「……お前ら、無理しなくてもいいんだぞ」


 15人の従者達———こいつらは元々は勇者候補生として勉学を共にした奴らだ。

 勇者になるために競い合い、助け合った仲間でもあった。


 だけど、そんなこいつらを俺は裏切った。


 父の……国の思惑にその時になるまで気づかないまま、こいつらに無意味な時間を過ごさせてしまったのが俺だったんだ。


「昨日のアレで分かっただろ。救命団副団長の肩書きは伊達じゃない。お前らが無理だと思ったんなら、やらなくていいんだ」


 あの訓練は確かにウサトの治癒魔法のおかげで疲れることはない。

 だが、疲れることがないだけで疲れを感じないわけではないんだ。

 肉体と精神の矛盾———彼の訓練はそれを表に出させ、肉体だけではなく精神すらも試す。


「ならリヴァル君は……どうしてまた参加しようとしているの?」


 従者の一人がそう尋ねてくる。

 いつもの俺なら腐ってなにも言えないでいたが、俺は、彼女の問いに素直に答える。


「俺は、自分が勇者になんて相応しくないと思っている。その考えは今だって変わらねぇ。なにせ、俺は国が無理やり任命したお飾りの勇者だからだ」

『……』

「実力ではなく、後ろ盾で勇者になって……お前らを裏切っちまった」


 少なくとも俺自身はそう考えている。

 そもそも資格がない奴が勇者になって、仲間だったお前たちを傷つけた。


「その後、俺はみっともなく腐って……誰の声にも耳を貸そうとしねぇで自分を責め続けた。正直、今でも責めてるし、そう簡単に開き直れもしねぇ」

『……』

「でも、こんな俺でもせめて……お前たちくらいには胸を張れるようになりてぇと思った。そのためにウサトの課した訓練を乗り越えて自信を持ちたい。勇者としてじゃなく、お前らに胸を張れる男になりたい……って」


 我ながら支離滅裂なことを言っているのは分かっている。

 それでも、俺はこれまでいえなかったことをようやく口にできた。

 こいつらはどんな反応をするだろうか、こんな情けない俺に失望するのか、それとも———、


「リヴァル。そんなことを言うな」

「そうだ。お前が僕達に申し訳なく思うことなんて何一つない」

「……ッ」


 無言だった従者たちがそう言葉にする。

 まるで候補生時代と同じように話す彼らに懐かしさを感じながら、その言葉に耳を傾ける。


「俺達はお前が勇者になったことを納得してるんだ」

「そうだよ。国に選ばれたからじゃない。君が試験に落ちていたとしても、ここにいる私たちが君が勇者になったことを疑ってない」

「お前、ら……」

「そうじゃなかったら従者なんてやめて地元に帰ってるっつーの」

「仕事欲しさに従者になってるわけじゃない」


 口々にそう言い放った従者たちの言葉に言葉が出ない。


「訓練はすごく大変だったけど、リヴァルが昔みたいに戻ってくれて本当によかった」

「お前はまだやるつもりなんだろ? じゃあ、俺達もついていくぜ」

「私も!」

「俺も!」


 ……どちらにしろ、バカだったのは俺の方だったか。

 こいつらに罪悪感を抱いて、遠ざけて、結局のところそれで心配をかけさせてしまった。


「……やるからには、もう逃げられないぞ」


 俺の言葉に全員が頷く。

 なら、もう止めることも必要ない。


「ウサトの訓練、ここにいる全員で乗り越えよう」

『応!』


 多分、ウサトの訓練を乗り越えたとしても周囲から持て囃されたり、勇者としての箔が付くわけでもない。

 だが、それでいい。

 俺達全員で乗り越えていくからこそ意味ができる、と柄にもなくそんなことを考えながら俺は仲間たちと共に訓練場へ足を進めるのであった。



 仲間たちと共に覚悟を決めてもう一度訓練場へ足を運んだ俺達。

 そんな俺達を待ち受けるように、奴は変わらずにそこに立っていた。


「……フッ、全員来たようだね」


 ウサトに手を掴まれ、床で痙攣しているミルヴァ王国の勇者の従者に勇者リズの姿。

 予想すらしていなかった意味不明な光景に気丈に心を保とうと努める。


「俺と従者たち全員、お前の訓練に参加する」

「決めたんだね?」

「ああ……!!」


 覚悟を胸にそう言い放った俺の前で、ウサトはそのまま立ち上がり———なぜか近くにいた勇者クロードと共に並び立つ。


「突然だけど、クロードさんから君たちの訓練の合間に武術の手解きをしたいという申し出がありました」


 合間? 今、合間っつったかこいつ。

 あの地獄みたいな訓練の合間に? つーか、合間なんて存在するのか?


「第二の試練じゃ俺もお前たちと共に試練に出るわけだからな。おっと、気にすんな、受講料は取らん!! 俺が好きでやるようなもんだからな! カッカッカ!」


 豪快に笑う勇者クロードのやる気に満ち溢れた言葉に白目を剥きかけながら、俺は無言でウサトへ近づき、腕を掴んでその場を移動する。


「待て、待て待て、お前なにがどうしてそうなった? おい?」

「どうしたの?」

「どうしたの? じゃねぇわ!」


 なんでお前はそんなに意味不明なんだ!?

 俺らさぁ! そんなここに戻ってくる前に時間かけたか!? なぁんで短時間で勇者クロードが手解きすることになってんだ!?

 国随一の武芸者の手解きとか、滅多に受けられるもんじゃねーんだぞ!?


「さっき俺達さぁ、心を一つにしてお前の課す訓練を乗り越えようって話してたんだよ!?」


 そう言ってやるとウサトは驚きながら晴れやかな笑顔を見せてくる。


「え、そうなの!? 良かった! なら頑張ろうね!!」

「頑張ろうねじゃねぇよッはっ倒すぞ!? だから、なにさらに試練を上乗せしてんだァ!」


 意味不明で無茶な訓練にさらに真っ当にきつい訓練が加わったようなもんだぞ!!

 さすがに俺の言わんとすることが分かっていたのか、ウサトが苦笑いしながらも口を開く。


「いやいや、さすがに強制するつもりはないよ! クロードさんの提案に関しては君たちが参加するかどうか選んでもらうから心配いらない!」

「そ、そうか……じゃあ、申し訳ないがここは断———」


『かの高名な勇者クロード殿による槍の手解きを受けられると?』

『このような機会は逃せないわ、ね』

『渋くてかっこいいおじさま……』

『この逆境、やるしかねぇよな』

『こういうのをあれだな、燃えてくるって言うんだなって』


 勇者クロードを前にしたあいつらが不敵な笑みを浮かべている。

 その様子にウサトも微妙な顔でこちらを見る。


「えぇと、君の従者たちはすごいやる気だけど」

「ちくしょう! あいつらは頭がいいけど、ノリのいいおバカ共だった!!」


 こいつら勉学の成績は良い癖によく分からんところで謎の非常識さを見せてくるんだった!!

 今までの俺が最悪すぎて、それの悪影響を受けたこいつらもその要素が出なかっただけで本来はこんな奴らだったことを頭から抜け落ちていた……!!


「くっ、やるしかねぇのか」

「君だけ不参加にできるけど」

「んなみっともねぇことできるか! あいつらがやるなら俺もやってやるよ!」

「……」

「ニヤニヤすんじゃねぇよ!?」


 なんだその微笑ましいものを見るような眼は!

 悶える俺にウサトが懐から何かを取り出し、俺に差し出してくる。


「あ、リヴァル、今のうちにこれを渡しておくね」

「……なんだこの紙の束は?」


 てか、明らかに普通じゃない量なんだが懐のどっから引っ張り出した?

 警戒しながら何十枚にまとめられた一番上の紙を見てみれば、それは候補生時代に何度も書かされた日誌と似たものに見える。

 ……どうしてこんなものを今?


「訓練内容を記録する日記の代わりのようなもの。これに訓練で感じたことや怒りや鬱憤を吐き出すんだ」

「怒りや鬱憤? 今、怒りと鬱憤って言ったか?」


 おおよそまともな訓練で出ることのない単語がこいつの口から飛び出してきたんだが? 俺の疑問をスルーしながらウサトが続けて言葉を発する。


「僕は必要ないと思ったんだけど、仲間が用意しておけっていうからね」

「まずこれの用途を説明しろ……!!」

「現実逃避用かな?」

「お前一度日記という言葉の意味を調べてこいよ!?」


 それぜってぇ日記じゃないじゃん!

 もっと恐ろしい別の何かだろうがそれ!!

同期の中では口の悪い真面目委員長タイプだったリヴァル君でした。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
〉〉お前一度日記という言葉の意味を調べてこいよ!? ほんそれwww
[一言] 夢なら良かったんですけどね(笑)
[一言] 次々と引き継がれていく伝統的な訓練日記……エモいな
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