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第四百三十七話

二日目二話目の更新です。

前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。


第四百三十七話です。

 リヴァルの後に、レオナさんの抽選が行われ、その後に残ったリズが消去法で全員の従者が決まった。

 第二の試練に参加する組み合わせは———、


・先輩、エリシャ。

・リズ フレミア王国の従者二人

・レオナさん ロア

・クロードさん ガルガ王国の従者たち

・アウーラさん ミルファさん

・リヴァル 僕


 といった結果となった。

 ランザスさんは特例として変わらずレインと出るわけだけど、組み合わせとしては中々に面白いものになったとは思う。

 ……それで、抽選後にラムダ様は三日後に定められた第二の試練について話されたけど……。


『これより三日後、第二の試練を開始するわけだが、その間に決定した従者と交友を深めるのも良し! あえて関わらずに試練に臨むのも良し! しかし、勇者だけではなく従者諸君も国を代表する者ということを失念せずに試練に挑むように!! では、会食を楽しむように!!』


 本当に王様には変わった人が多いんだなって再認識させられるな。


「ほら、フェルム、ネア」


 お皿にとった食事を団服の内側に差し入れるように取り込む。

 同化しているフェルムがお皿を受け取ったことを確認し、僕も自分のためにとった食事を口にする。


「前と違って話しかける人が限られているので、食べやすいですね」

「確かにね」


 前の時はいろんな視線とかあって落ち着いて食べるどころじゃなかったからな。

 それに加えて、酒に酔ったリヴァルが絡んで来たこともあったけど、今回は比較的落ち着いてご飯を食べることができている。


「第二の試練も中々面白いね」

「先輩的には楽勝じゃないんですか? 謎解きとか得意でしょ?」

「そこは人並みだよ。でも謎解きは好きだね。謎解きは私の孤独を癒してくれる」

「急に反応しにくいコメントするのやめてくれませんか?」


 そのそこはかとなく闇を感じさせるエピソードはなんなんですか。


「従者シャッフル、これもまた隠された意図みたいなものを感じさせたね」

「これにもなにかあるんですか?」


 第一の試練はルール違反に対しての明確なリスクがなく勇者としての立ち振る舞いを求められたけれど、これも同じようなものがあるのだろうか?


「まだ得点とかそういうルールは知らされていないけど、基本勇者側の点数が高いことは変わらないはずだ。それなら、やろうと思えば他国の勇者の従者になった者に、第二の試練の妨害をさせてあえて足を引っ張らせる……ということもできるわけさ」

「なるほど……」


 こういうところでも勇者としての名誉が試されるってわけか。


「でもそういうことをする人はいないでしょうね」

「そうだね。……少し怪しい人物はいるけれど」


 先輩が誰のことを言っているかはすぐに分かった。


「リヴァルについては、まだ人となりを決めつけるのは早いと思っています」

「というと、明日から彼と関わるつもりかな?」

「拒まれたら諦めますけれどね。さすがにそこまで意識を割けるわけではありませんから」


 漠然とだけど、彼をただの柄の悪い人だと判断するべきじゃないと思っている。

 それを確かめるために、まずは話してみなければならない。

 ……そのリヴァルはラムダ王の話が終わった直後に会場を出て行ってしまったけど。


「む、ウサト君」

「はい? ……ん?」


 話をしている僕達の元に誰かが近づいてくる。

 そちらを見ると、ガルガ王国のリヴァルの従者と思われる騎士の三人がいた。


「……失礼、リングル王国の勇者イヌカミ殿」

「君たちはガルガ王国の……」


 先輩の言葉に騎士の一人が前に出て、胸に手を当ててお辞儀をする。


「我らはガルガ王国の勇者リヴァル様に仕える騎士であります」

「いったいどうしたのかな?」

「失礼は承知の上ですが、貴方様の従者殿とお話したく存じ上げます」

「うん? ウサト君と話?」


 ガルガ王国の従者が僕と話……?

 リヴァルではなく従者が話を持ち掛けてきたことに先輩も怪訝な様子だ。


「私が同席すると都合が悪いのかな?」

「……いえ、そのようなことはありません。これは主であるリヴァル様のご命令ではなく、従者である我々からの、その……頼み事のようなものなので」

「第二の試練で彼の従者になるから、か」


 内容は多分、彼の従者として第二の試練に参加することになったことだろうけど、肝心の彼は会場にいない。

 多分、彼らが僕達に話しかけているのはリヴァルも知らないことなのだろう。


「先輩」

「なにか訳ありみたいだね。うむ、ウサト君、話してきてあげなさい。私はその間に妹の元にいってくる」

「そろそろ嫌がられても文句言えませんよ?」

「フッ、引き際はわきまえているさ」


 わきまえているかなぁ。

 腕を組んでニヒルに笑った先輩に苦笑しながら、従者たちと共にその場を移動する。

 人目を避けるのか、会場を出た城内の人気のない通路で立ち止まった従者たちは、意を決したように僕へと振り返ると———そのまま床に伏せて綺麗な土下座を繰り出してきた。


「無礼は覚悟しております!! リヴァル様を、どうかお助けください!!」

「んん!?」


 一応土下座って獣人族の文化なんだけれど!?

 しかもいきなり土下座から入られてさすがの僕も驚く。


「とりあえず頭を上げてください。……こちらとしても国から使命を受けている身です。理由も聞かずに安易に受けるわけにはいきません。まずは、話を聞かせてください」

「し、失礼しました……」


 申し訳なさそうに立ち上がった従者の一人は、深刻な様子で口を開く。


「……このままではリヴァル様が潰れてしまうかもしれないのです」

「潰れる?」

「まずは、あの方を取り巻く状況についてお話します」


 従者の口から語られたのは、ガルガ王国の勇者の在り方と、リヴァルが勇者になった経緯。

 勇者に憧れていたリヴァルは勇者になるために努力したが、その憧れも努力もガルガ王国にとっては意味のないもので、彼は不本意な形で勇者としての称号を得てしまった。

 本来勇者になるはずだった騎士に対する罪悪感と、自国への失望を抱いていた彼は精神的に荒みながら———今に至る。


『勇者としての称号が名ばかりの飾りに成り下がる……形骸化した勇者制度ってやつね』

『勇者って名前自体が足枷になってんのは皮肉だな』


 話を聞いていたネアとフェルムもどこか呆れた様子だ。

 そういう国があるという可能性はあったけれど、いざ聞いてみるとリヴァルが投げやりになってしまう気持ちも分かる。


「先の会食でリヴァル様が無礼を働き、ウサト殿に不快な思いをさせてしまったことは重々承知しております。それを止めることができなかった我々にこそ非があることも……!!」


 悔いるような表情で続けて従者は語る。


「リヴァル様は……悪いお方ではないんですっ。理不尽に勇者候補を取り下げられ、放逐された我々を従者として取り立ててくださって……それにも関わらず誰よりも、自身を責めて……」

「君たちはもしかして……」

「ええ、我々全員が元勇者候補です……」


 リヴァルの従者が多い理由ってまさかそれが理由なのか?


「我々ではリヴァル様の苦悩を理解することはできても、解決することはできません。あの方が我々に負い目を感じている限りは……」

「そういう理由で……」


 リヴァルにとって従者たちは自分のせいで不当に勇者候補を取り下げられたようなもの。

 そんな彼らを従者として引き立てたとしても彼自身がそれに対して罪悪感を抱いてしまっているのか。


「でも、どうして僕にここまで話してくれたんですか? 言ってはなんですが僕は三日後の第二の試練で従者に選ばれただけの部外者です」

「……。我々は、各国の勇者とそれに関係する人々に関する情報をある程度把握しております」

「え、ええ……?」


 なんだろう、いきなり。


「ウサト殿はかの有名な救命団の副団長であり、書状渡しの旅の一環で訪れたルクヴィスで自身の境遇に苦しむ治癒魔法使いの少年に道を指し示したと聞いております。他にもサマリアール、ミアラークなど多くの人々の心を救ってきた貴方ならば……もしかしたら、と」

「……」


 なんか誇張されたり捏造されたりする小説云々よりも、ものすごい正確に情報を把握しているこの人たちの方が怖いんですけど。


「魔王軍との戦争の際は数多くの騎士たちの命を救い、強大な力を振るう軍団長とも戦い抜いた。その嘘偽りのない武勇に裏打ちされた実力は疑いようもなく、リングル王国の多くの民からも慕われていると存じ上げております……!!」

「……い、いやぁ、そこまではさすがに……」

「ご謙遜を!!」


 やんわり否定しようとしたらものすごい勢いでツッコまれた。

 よく見ると後ろにいる他の従者たちもうんうんと頷いている。


「で、でも戦争の話とか、よく知っているんですね……」

「いえ! リヴァル様に比べたら我々なんてそんな!! あの方は、我々以上に勇者に関する情報を把握しておられていますので……!!」


 勇者に憧れていたんだから、そりゃ他国の勇者のことも熟知している……ということなのかな?

 だとすれば、僕についていた悪態も本当は分かった上で言っていたことになる。


『こいつら単純に勇者オタクなだけだろ』

『大本の国は勇者を軽く見てるけど、それ以外はとんでもない熱量を向けている感じねこれ……』


 形骸化した勇者制度に苦しむ勇者、か。

 元より従者として選ばれた時点で話をしようと思っていたけど……ここに来てから頼まれごとばかりされている気がするなぁ。

 ほとんどが僕自身のせいとも言えるけど、ここまでくれば一つも二つも変わらないか。


「……とりあえずリヴァル殿と話をさせてください。まずはそれからです」

「! 感謝いたしますッ。リヴァル様は会場外のバルコニーにおります。ご案内します」


 勢いよく頭を下げた従者の騎士はそのまま僕を案内すべく通路を進み始める。

 歩いている最中、フェルムが声を潜ませて話しかけてくる。


『おい、ウサト。いいのか?』

「話を聞かない限り始まらないからね。僕自身、三日後の試練のこともあるし」


 どうあっても彼とは話をしなきゃならないんだ。

 それに、僕としても彼という人物を誤解したまま試練に臨みたくない。


「この先に、リヴァル様がおります」

「貴方達は?」

「我々がいると、リヴァル様も本音を語らないでしょうから……影ながら見守っております」


 なんだかすごい忠誠心だ。

 従者の方からこれだけ信頼されているんだから、精神的に不安定じゃなければちゃんとした人みたいだ。

 一旦、従者たちから離れバルコニーに向かって進んでいくと、彼らの言った通りバルコニーの手すりに身体を預け、酒を煽っているリヴァルの姿を見つける。


「あー、リヴァル殿」

「あぁ? ……なんだよ、お前かよ」


 声をかけると、酔って赤らんだ顔で振り返った彼は目を据わらせる。


「第二の試練の話か? 真面目なこったな」

「それもありますが、まずは貴方から話を聞こうと思いまして」

「あぁ、話ぃ?」

「隣、失礼します」


 彼がよりかかっている手すりの隣に移動する。


「それで、リヴァル殿」

「殿なんてつけるな、年も変わらねぇだろ……敬語もいい。俺は、あんたに敬われるような大したやつじゃない」


 なんかものすっごいネガティブになってないかこの人……?

 本人がこう言ってくれるなら人目がない場所では敬語は外すか。


「ここには君の従者に案内してもらった」

「……お節介な連中だ。俺のことは聞いたのか?」

「簡単には」


 そう言うと、リヴァルは額に手を押さえて大きなため息をついた。


「君のことを心配しているぞ」

「……。そんなこと、お前に言われなくても分かってんだよ」


 ……相当心にきてるな、これは。

 横目で彼の精神状態を確認し、バレないように系統劣化で弱めた治癒魔法を放射状に放っておく。

 これで少しは心が安らぐだろうけど……。


「あんたも分かってんだろ。俺は、ここにいる勇者の中でどうしようもない奴ってことは」

「そんなこと思ってないけれど」

「世辞はいいんだよ。俺は勇者に相応しくない」


 僕の言葉を切って捨てた彼は、さらに心を落ち込ませながら内心を吐露する。


「父が勇者だからって選ばれて、その上俺以上に勇者に相応しいあいつらが理不尽にその資格を奪われた……それで罪悪感で故郷へ追い返されようとしたあいつらを従者として取り立てて、罪滅ぼしでもしてるつもりになって……」

「彼らは君を信頼してる」

「だろうよ。あいつらはそういう奴らだ。みんな、いい奴らなんだ」


 その信頼がリヴァルを傷つけているのか。


「……悪かった」

「え?」


 いきなりの謝罪に呆気にとられる。


「顔を合わせた時、お前を偽善者と呼んで本当に悪かった。俺と年の変わらねぇ奴が戦場に出る時点で普通じゃねぇのに、その上で負傷した騎士を救うなんてとんでもねぇことだ」

「いや、僕は……」

「あの時の俺は最悪だ。醜い嫉妬で周りに当たり散らし、勇者どころか騎士としてもありえない醜態を晒したんだ。下手をすれば、お前たちに悪い印象を与えてもおかしくなかった」

「……」

「だけど、それでも……身勝手かもしれないが、お前に否定してほしかった。俺は勇者に相応しくないって、そう言われれば諦めもついた」


 そこまで口にしてリヴァルは手にした酒瓶を煽る。

 かなりの勢いで酒を飲んだ彼は、口元を拭い自嘲気味に笑う。


「ハッ、笑えるよな。なにが偽善者だ。俺は、そんなことを言う資格すらない卑怯者だ」

「……」

「だから、放っておいてくれ。お前には悪いが、俺は第二の試練では役に立たない」


 ……これは、重症だな。

 というより、カームへリオに集まった勇者のほとんどが一癖も二癖もありすぎる。

 安心感がありすぎるレオナさんが逆におかしいって感じてしまうくらいだ。


「ハァ……」


 でも放っておけないよなぁ。

 彼は今、周りの状況とマイナス思考に押しつぶされて、ずっと後ろ向きなことしか考えられていない。

 こういうのは普通、長い時間をかけて改善していくものだろうけど———彼の心の問題をなんとかするには、ちょっとばかし力技でいくしかない。


「リヴァル」

「……なんだ?」

「走るぞ」

「は? なんでだよ?」

「走るぞ」

「いや、聞き取れなかったわけじゃないんだが? おい? なんで肩に手を置く?」


 これ以上ここで喋らせていても腐っていくだけだ。

 自分への不甲斐なさと、ガルガ王国の勇者という重りを背負う状況は毒でしかない。

 気分は進まないが、ちょっと荒療治で行くしかない。


「不貞腐れるのは余計なことを考えているからだ。まずは君の頭をからっぽにする」

「は? 余計なお世話だ。ぐぁ!? 担ぐなぁ!?」


 問答無用でリヴァルを肩に?担ぎ歩き出す。


「走るって意味が分からないぞ!? おい、酔っているんだぞ俺は!!」

「治癒魔法で酔いは治した」

「クソが!」


 治癒魔法で酔いは治せる。

 そのまま暴れるリヴァルに構わず通路を歩いていると、心配で角から覗いていたリヴァルの従者の騎士たちが困惑の表情で出てくる。


「う、ウサト殿」

「貴方達の主、ちょっと借りますね」

「いったいなにをなさるおつもりで……?」


 僕はリヴァルを肩に担いだまま答える。


「これ以上後ろ向きなことを考えさせないように、一緒に走ってきます」

「意味不明なんだが!? しかもっ、こいつ、全然びくともしねぇんだけど!? 石像かなんかか!?」

「これも訓練の成果だ」

「外法の間違いだろ!?」


『こいついいツッコミしてるわね』

『変に考えさせないのはあながち間違いでもなさそうじゃね?』

『確かにね。こういう責任感強い奴って延々と溜めこんでいるから、ウサトの無茶ぶりも荒療治にはなりそうね』


 ずっと後ろ向きで考え続けるからどんどん不貞腐れて行ってしまうからな。


「お、おいお前ら! こいつを止めろ!!」


 リヴァルが従者の騎士たちに助けを求めた。

 彼の声に迷うそぶりを見せながら顔を見合わせた。


「リヴァル様がこんなに感情を露わにさせているなんて……」

「この機を逃すべきじゃ、ないよな……うん」

「ずっと無理をさせてきたんだもん、私達も恩に報いなきゃ……!!」


 彼らは、意を決したような表情を浮かべる。


「リヴァル様、我々もお供します!!」

「は!? なんで!? 止めろよ!! 意味分からないって!?」

「主が苦難に立つならば、我々も同じ苦しみを分かち合います!!」

「今苦しみの前にいる主が見えないのか!?」


 フッ、君の従者たちも中々気骨のある人達じゃないか。

 それぞれが覚悟を決めた目でまっすぐに僕を見た彼らは、自身の胸に手を当てる。


「ウサト殿、我々も!!」

「その意気や良し、ならばついてこい!!」

「「「応!!」」」

「え、は!? お前らいったい誰の従者!?」


 そこまでの覚悟なら僕も止めない。

 彼らのリヴァルを想う気持ちは本物、その気持ちに僕も本気で応えるべきだ。


「全員、訓練場へ行くぞ!!」

「「「ハッ!!」」」

「いやああああああああ!?」


 出張救命団カームへリオ編ってところかな。

 まずは後ろ向きなことしか考えない心の毒を全部吐き出させてやる。

何事も一生懸命な従者たちとツッコミとして輝き始めるリヴァル君でした。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
従者たちが有能なのは、勇者候補になれるくらいの能力の持ち主たちだから納得ですねw
[一言] 君の!頭が!空っぽになるまで!走るのを!やめない!
[一言] 人間くさいキャラ好きなのよね!( *˙ω˙*)و グッ!
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