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第四百三十四話

報告がギリギリになってしまいました。

今月10月26日にコミカライズ版『治癒魔法の間違った使い方』第13巻が発売されます!

詳しい内容は活動報告に載せますので気になった方はそちらをご覧ください。


そして、お待たせいたしました。

第四百三十四話です。

 アウルさんの襲撃を受けたり、シアと交渉したり、色々なことがあった翌日。

 いつも通りの時間に起きて、軽く朝食と身支度を済ませた後に早速訓練場へと向かうと、そこには既に先客がいた。

 こんな早い時間に起きるのは大抵僕だけだったので、疑問に思いながら近づいてみるとそこにいたのは意外な二人であった。


「……エリシャにウルアさん?」

「おはようございます!」

「やあ、ウサト」


 先に訓練場で待っていたのはリズを除いたネーシャ王国の二人。

 ……もしかして昨夜のことについてか?

 リズがバラしたとは思えないけど、隠し事は苦手そうだからそれで気づかれちゃったのかな?


「えーっと、リズは?」

「お姉ちゃんは相変わらず夢の中です……」


 やっぱりブルリンと似てるなぁ。

 どうしたものかと少し思い悩んでいると、僕の表情を見てなにかを察したのか、ウルアさんが首を横に振る。


「リズはなにも話してないよ。あの子が系統強化を使った形跡とその傷が治っていることから、君と同行していたって予測しただけだから」

「あー……」


 確かにリズの系統強化で服の袖部分とかボロボロになっちゃっていたからなぁ。

 それに加えて彼女の傷を完全に治せる治癒魔法の使い手って考えたら僕だけになっちゃうか。


「昨夜のことですが……」

「明かさなくてもいい。むしろ、あの子が勝手について行ってしまったことでこちらが謝罪しなければならないくらいだからね」

「お姉ちゃんがすみません……」


 そういうことであれば助かる……。

 こっちの問題に彼女たちを巻き込みたくないからな。


「昨夜の件については一応戦闘自体はありましたが、報復とかの危険はありません。あとは……僕自身、リズに助けられたところもあるので、あまり彼女を怒らないでください」

「もう怒ってしまったから無理かなー。君が許したとしても、勝手なことをして迷惑をかけたことには変わりないからね」


 ちょっと失礼かもしれないけど、常識的でちょっとびっくりした。

 魔王然りネア然り、魔術を扱える人はちょっと変わったところがあるイメージだったので、初対面のインパクト以外至極まともな対応をしてくれるウルアさんに驚いてしまう。


「君の目的がどのようなものかは分からないけれど、リズがついていって君との約束を守るということは悪だくみとかそういうものではないのは察することはできるよ」

「こちらとしてもあまり隠し事はしたくないんですけど、無関係な貴女たちを巻き込みたくないので」


 相手がシアだったからよかったけど、他の執念深い悪魔だったらリズとその周囲の人間が狙われていてもおかしくなかったわけだしね。


「まあ、この話はここまでにしよう。私がこの場にいる目的の半分は達成されたので、今度はそのもう半分だ」

「なにかあるんですか?」

「研究者として君の訓練風景を一度見ておきたいと思っていてね。今日は近くで見学させてもらえないかお願いしにきたんだ」


 アウーラさんと同じ感じか。

 そんなことでいいなら全然見てもらっても構わない。


「まあ、君としても秘匿しなければいけない技術でもあるかもしれないなら、断ってくれても———」

「あ、いえ、全然見ていってください。できれば気づいたところとかあったら教えてください」

「……うーん! ウサト、無自覚かもしれないけど君の今の言葉は私達研究者にとって最大の挑発だということを自覚した方がいいッ!!」

「えぇ?」


 なんだか変な怒り方をするウルアさんに首を傾げる。

 その隣で「先生がすみません……すみません……」と慣れた仕草で謝罪するエリシャにちょっと引いてしまう。


「おはようございます!」

「おはようございまーす!!」


 と、そうしている間にレインとロアが来たようだ。

 この子たちが来たということはもうすぐアウーラさんと彼女の従者の二人も来るので、訓練を始める準備を進めよう。



 レインとロアの訓練は変わらず基礎である魔力回しの加速からだ。

 系統強化は綿密な魔力操作が要求される高等技術。

 治癒魔法で自傷覚悟の訓練をした僕もそれなりの時間がかかったものなので、いくら見た目がよろしくない訓練でも絶対に欠かすことのできない訓練だ。

 今日は、いつもの面々に加えてウルアさんも参加しているが、彼女は同じ研究者気質のアウーラさんと従者の二人と並んで僕達の訓練風景を観察していた。


『ウルア氏。魔力回しの加速、見解をお聞かせください』

『理に適っているが、これを一般化させるのはあまりにも不合理だね。これをするにはまずはウサトと同等かそれに近い練度の魔力回しを行える者が必要だろう』

『私も同じ考えです。それに加えて、この訓練には繊細さも要求されるはずです』

『中途半端な者が行えば、かえって魔力の流れを歪めてしまう、だろう?』

『!』


 ガシィ!! と僕達の訓練中にがっしりと握手をするウルアさん達。

 正直、僕としても参考になるので別に構わないけど、エリシャがものすごく疲れた顔で隣にいるのが気になってしまう。

 その後にレインの系統強化の訓練も行ったのだが———、


『え、なにそれ引くんだけど……』


 系統強化の失敗を肩代わりし、手から血を弾けさせた僕を見て普通にドン引きされてしまった。

 実際、とんでもない訓練法なのは自覚しているのでその評価は甘んじて受けておく。


「はぁ!!」

「来い!」


 そのまた後はロアとエリシャとの手合わせだ。

 僕から攻撃せずに、果敢に攻めてくる二人の動きを見ながら対応していく。


「ッはッ!!」


 ロアがクロードさんと同じ踏み込みで棍棒を突き出してくる。

 棍棒の先端を掌で軽く払いながら、ロアの背後から飛んでくる光魔法を避ける。

 宙を見れば不可視の光魔法を周囲に浮かべながら、エリシャが少しだけまごついた様子で弓矢を構えようとしている姿が視界に映りこむ。

 ———ロアからの追撃がない。

 エリシャから視線を移すと、ロアは僕が手で弾いた槍を引き戻し、もう一度構えなおそうとしている。


「ここで距離を詰められたらどうする?」

「え、あ、わわっ」


 一気に踏み込んで槍の間合いの内側まで足を踏み入れると、ロアは見てわかるくらいに慌てふためく。

 こちらに狙いを定めていたエリシャも射線上にロアがいるので、光魔法も矢も放てずに混乱しはじめた。


「いったんここまでにしようか」

「「はい……」」


 構えを解いてそういうと、気落ちした二人の返事が揃って返ってきた。

 今の手合わせのことについて考えを巡らせていると、変わらず落ち込んだ二人が僕の元へやってくる。


「すみません、手合わせまでさせてもらって」

「いやいや、全然大丈夫。気にしなくてもいいよ」

「姉ともどもご迷惑をかけてしまって申し訳ないです……」

「すみません……」


 どんよりと落ち込むエリシャとロア。

 責任感すごすぎて心配になっちゃうなこの子達。


「本当に気にしなくてもいいから」

「……ウサトさんから見て、私たちの動きになにか気になったところはありましたか?」


 ロアの言葉に、ちょっと「うっ」って声が出かけながら思考する。

 あまりこういう指導とかはしたことがないから自信はないけど、とりあえず気になったことを口にしてくか。


「ロアは、目先の攻撃に集中しすぎかな?」

「はぃ……」

「……もしかしてクロードさんにも言われてた?」


 小さい声で返事されたので聞いてみると、こくんと頷かれる。

 クロードさんは攻撃全てが歪みなく次の動作に繋がっていたけど、ロアは攻撃を当てる!! って意識が強すぎて次に繋げられず、一呼吸入ってしまっている。


「さっき僕に踏み込まれて慌てちゃったのも、頭の中で次はこうするって決めすぎているってところもあるかもしれない」

「はぃぃ……」


 後先考えていない、っていうのは言い過ぎだけど、かといって次の次まで攻撃を計画立てて動くのも違う。


「これはもう意識とかでどうにかなる問題じゃないね。反復練習を繰り返して身体で覚えていくしかない」

「頑張りますぅ……!」


 クロードさんの流派には近道とかはないんだろうなって思う。

 実際、自分で地味とか辞める人が多いとか言っていたし。でもその分、彼が教える技術を極めればどんな相手にも対応できる実力を身に付けられるだろうな。


「次はエリシャだけど」

「はい」


 ロアからエリシャへと視線を向ける。


「君は距離を詰められないように空に飛ぶのは分かるけど、移動に意識を取られすぎている」

「そ、そうなんですか?」

「光魔法の足場、光魔法の投擲物、そして矢を放つ。同時にこれだけのことをやるのは今の君にはちょっと厳しいとは思った」


 戦闘して思ってはいたけど、エリシャの動きはちょっと段階を踏みすぎている。

 足場を作って跳躍、矢をつがえる、周囲に不可視の光魔法を展開。

 その手順が同時ではなく、順番に行われている。


「ウサトさんならどうしますか?」

「僕? 僕は治癒魔法使いだからなぁ」

「えっ」

「え?」


 なんだかびっくりされてしまった。

 いや、僕は純然たる治癒魔法使いだからね?


「あまり偉そうには言えないけど、とりあえずさっき上げた三つの動作の一つを省くかな」

「どれか選ぶってことですか?」

「いや、なんていうんだろう……足場のために生成した光魔法を攻撃用に使いまわすかな? 弓は当てるためじゃなくて牽制用と割り切って、放つ光魔法を本命としてそっちに意識を集中させたりする」


 魔力不足でぶっ倒れた経験が何度もあるから、足場にした光魔法をそのまま消しちゃうのはちょっともったいないとは思った。


「……な、なるほど。動きの最適化ということですね!?」

「え、そうなるのかな?」

「頑張ります!! ロアちゃん、早速訓練に移ろうよ!!」

「う、うん!」


 自主訓練に向かっていく二人を見送りながら一息つく。

 訓練を施すのは慣れているけど、指導とか教えるのは分からないからなぁ。


「エリシャのことありがとね」


 そんな僕に手合わせを見守っていたウルアさんが声をかけてくる。


「余計なことではありませんでしたか?」

「そんなことはないさ。……私は研究者であって戦士ではないからね。戦闘についてあまり教えてあげられなかったから、今回の指導はありがたいんだ」

「そう言ってもらえて安心しました」


 変な指導したら余計な癖がついた! とか言われたらどうしようって思っていたくらいだ。


「今日、城の方から呼び出しがありましたけれど……」

「第二の試練についてだろうねぇ」


 ウルアさんもやっぱり第二の試練絡みだと考えているのか。


「今回に限っては私もどんな内容か予想できないけれど、そこまで心配しなくていいと思うよ?」

「そうなんですか?」

「結局は祭りに集まった人々を楽しませる催しではあるからね。各国から集められた勇者に無理難題を課すようなところではないさ」


 言われてみればそうだな。

 第一の試練のインパクトが強すぎてちょっと身構えていたのかもしれないな。

 軽く肩の力を抜いた僕は、軽く腕を回しながら訓練の準備をする。


「さて、と」

「おや、なにをするのかな?」

「ちょっと技の練習をしてみようかなと」

「アウーラ、ウサトがまたなにかするから来てー」


 なんかもう最初と比べて遠慮がなくなりましたよね。

 訓練場の端で三人で話し合っていたアウーラさん達が目を輝かせながらこちらへ駆け寄ってくる。

 集まってくる彼女たちを見ながら僕は、訓練内に設置されている的へと移動する。


「なにをするんですか?」


 うきうきした様子のアウーラさんに苦笑しながら答える。


「以前治癒遠隔弾という技を作ったことがあるんですが、その技の改良版を思いつきまして」

「……え、いつ思いついたの?」

「今ですけど?」

「「ふぇぇ」」


 なぜか鳥肌が立った人みたいな悲鳴がウルアさん達の口から零れたんですけど。

 治癒遠隔弾は魔力弾の操作が苦手な僕が編み出した一度だけ魔力弾の向きを変えられる技である。

 ……まあ、使う機会が全然なかった技ではあるけどね。


「治癒残像拳を拳に纏い、打ち出す勢いで放つ」


 原理としては治癒魔法弾と同じ。でも拳を突き出した勢いで飛んだ拳の射程は短く、3~5メートルほどしかない。

 試しに放った一撃も5メートルを過ぎると威力が減衰してしまった。


「ここに、遠隔弾を組み込む!! ふんッ!!」


 的とは少しずれた方向に残像拳を放つ。

 見当違いの方向に向かった拳を形どった魔力の残滓に意識を集中し腕をフックのように振るう。

 瞬間、僕が腕を振るった方向に残像拳が向きを変え、まるで横殴りにするように的へ急加速し——そのままバチィ!! という音と共に的へ残像拳が炸裂する。


「……距離感を掴むのが難しいな」

「「……」」


 中距離に対応する変則的治癒飛拳。

 名付けるなら、治癒フック……治癒直角飛拳……いや、治癒変則拳とでも名付けるかな。

 魔力弾の操作ができる人なら僕みたいにわざわざ拳を振るう必要はないのだろうけど、これも自分の個性だと前向きに考えよう。

治癒変則拳:直角に急加速するロケットパンチ。

因みに治癒遠隔弾の初出は百八十話でした。


今回の更新は以上となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒色のオーラみたいなことまでやりはじめた…
[一言] 最終的に全身の残像が変な角度から相手に襲いかかるようになるな、これ
[一言] ふぇえ……。
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