第四百三十三話
ご報告いたします。
アニメ「治癒魔法の間違った使い方」
第一弾ティザービジュアルと追加キャストが公開されました!
ブルリン:渡辺明乃 様
オルガ :中村源太 様
ウルル :青山吉能 様
トング :伊藤健太郎様
ミル :堀井茶渡 様
アレク :奈良徹 様
ゴムル :堀総士郎 様
グルド :藤井隼 様
以上の皆様がブルリンと救命団のメンバーを担当してくださります!
詳しい内容については活動報告、公式サイト、Twitter(X)にて公開しておりますのでそちらをご覧ください!!
そして、お待たせいたしました。
第四百三十三話です。
襲撃の後にシアの故郷と思われる村を見てきたけれど収穫はなかった。
特に変わったところのない普通の村で、村人が寝静まっていることを差し引いてもおかしなところなんて一つもない。
本当にシアの言う通り調べても意味がなかったのか? と疑問に思いながらも切り上げた僕は、リズと共に都市に戻ることにした。
都市に戻るためには城壁を越えなければならなかったけど、そんなことはリズと僕には関係なく普通に超えてそれぞれの宿へ帰ることができた。
「それで、リズには知られちゃったのね」
「そうなんだよね……」
宿に戻る途中で同化を解いたレオナさんと別れた僕とフェルムは、先輩とネアの待つ部屋へと帰った。
そこで早速二人に今夜起きたことを説明したわけだけど、話を聞いたネアは頭痛を堪えるように額に手を当てた。
「リズのことはしょうがないわ。偶然森の中にいたなんて想像もできないし」
「ぐぬぬ、あの泥棒熊……! 私も無理についていくべきだったか……!」
「貴女がいなかったらさっきのお祭り関係の通達に誰が対応するのよ」
「きゃうん」
お祭りに関しての知らせが来たのかな?
この後に聞いてみようか。
「問題はシア・ガーミオと遭遇したことよ。普通に戦うのは分かるけど、ここに潜んでいる悪魔と戦うために協力関係を結んだってどういうことよ」
「言葉通りの意味だよ。僕としても乗り気じゃなかったけど、出された対価がね」
今日調べたシアの生まれ故郷で知りえない秘密を明かすことと、ランザスさんの身体を蝕む魔力をなんとかすること、だな。
前者は内容によるけれど、後者はランザスさんの問題を解消できる数少ない手段でもある。
「はぁぁ……ランザスには悪いけど、全然貴方の利になってないじゃない。アウルを解放するとか交渉できなかったの?」
「いや、ウサトもそれを言ってたんだけど、相手はこいつとローズへの対抗手段を手離したくないって断られたんだよ。……その条件ならボクと交換だって……」
「……闇魔法持ちのフェルムと交換で釣り合うってことね」
荒れるネアを宥めようとしている僕の代わりにフェルムが説明してくれる。
傍で話を聞いていた先輩は顎に手を当て頷く。
「ふむ、話を聞くだけでも今のアウルは七つの魔法を扱えるとんでもないことになっているようだね。ネア、君から見てアウルの状態は普通ではないのだろう?」
「……ええ、そうね。魔術が使われているのは間違いないとして、ローズの部下六人の亡骸から抜き出した六つの魔法がアウル一人に詰め込まれた。亡骸だからこそ苦痛もなにもないってことだけど、無茶苦茶なことをしてるわねぇ」
「強敵だったよ。打たれ強さと手札の多さは厄介だ」
「……。この技が増殖する脳筋おバカじゃなければ、かなり手古摺る相手だったでしょうね」
「あれ?」
なんでこの流れで罵倒されたの僕?
僕から見ても強敵だったんですけど?
「この際交渉に関しては置いておくとして問題はコレよ、コレ」
ネアがテーブルの上に置かれている鞘に納められた刀を指さす。
元々は僕の籠手であった武具が変質した刀。
形状も邪龍の心臓に突き刺さっていた時の小刀の時と同じになっている。
「ウサト、これは本当に貴方が使っていた籠手なのよね?」
「それは確かだよ。先輩もこれがファルガ様の武具って分かりますよね?」
「うん」
なんとなくではあるけど、長く使ってきた籠手の感じがするのでこれがファルガ様の武具であることは間違いはない。
先輩がテーブルに置かれた鞘に納められた小刀を手に取り、少しだけ刃を抜く。
「刀自体特別な方法で作られているものだからね。この刀も私の刀と同じ、この世ならざる方法で作り出されたものに間違いないと思うよ」
ヒノモトでも似た剣は作られているけど、刀そのものはなかったからなぁ。
この世界に存在する刀は現状、先輩の持つ刀とナギさんの黒刀、そして目の前にあるシアの小刀だけだ。
「わざわざ奪ったものを交渉のために渡してくるってことは、ここに潜伏している悪魔はシア・ガーミオ側からしても相当面倒な存在みたいね」
「これを渡してきたから、シアが本気だってことを察したからね。……彼女にとっても因縁があるのかもしれない」
シアは魔力操作の補助をさせるために、僕から奪った籠手を刀にした。
それを渡してまで僕と交渉をしようとしたということは、それだけの理由があったってことになる。
エンヴァー、と呼ばれた悪魔。
まだ尻尾すら掴めていない状況だけど、この悪魔のせいでカームへリオの人たちが危険に晒されるかもしれないならこっちを優先しなきゃならない。
「連絡役はルーネが来てくれるとは言っていたけど……」
「へぇ、あの子が?」
「例の魔族とエルフのハーフの可愛い子かなッ」
来るかどうかはまだ分からないけどね。
予想通り先輩がめっちゃ食いついてきたけど。
「とりあえず先輩には気を付けるように警告しておきます」
「ウサト君。私が小さくてかわいい子が好きな人だと思ったら大間違いだよ?」
「闇魔法で子ライオン状態になりますよ」
「……。……大間違いでも……スゥ―……ないかもしれないね」
「間が生々しすぎませんか?」
すっごい苦渋の決断みたいな感じで答えられたんですけど。
ルーネと会って先輩は正気を保てるだろうか……ちょっと不安ではあるな。
唸る先輩に苦笑していると、今度はネアが話しかけてくる。
「ルーネはどう? 元気そうだった?」
「ずっと闇魔法の姿だったけど、酷い目にはあってないとは思う」
「……シアの世話係でもやらされているのかもしれないわね。今のシアがどうなっているのか分からないけど、ずっと彼女の人格を押し込めているわけじゃなさそうだし」
「ルーネがシアの傍を離れていないってことは、まだ彼女はいるってことだ」
ルーネにとってシアは初めてできた友達であり家族なんだ。
そんな彼女をルーネが放っておけるはずがない。
できれば連絡役として来てくれた時に話ができるといいのだけど……。
「それで、僕とフェルムがいない間の話なんですけど……」
「ん? ああ、そうだね。君達が出発して少しした後に王国の使いからの知らせが来たんだ」
お祭り関係らしいから第二の試練についてかな?
「明日の夜、王城で第二の試練の内容を発表するらしい」
「先輩だけの参加ですか?」
「いや、最初と同じく勇者と従者どっちも参加が義務付けられているようだね」
だとすれば広間で集まることになるのか。
うーむ、リズがどんな反応するか怖くはあるな。
彼女のことは信頼しているけど、ちょっとポンコツな感じあるからなぁ。
「なんとなくだけど、次の試練は従者も結構重要なものなんかじゃないかなーって私的には睨んでるよ」
「理由は?」
「従者ポジのウサト君に注目が集まってるから、お祭り側もその流れに便乗してもおかしくない」
どうしようすっごいありえそう。
「これ以上はさすがに目立ちたくないんだけど……」
「手遅れだろ」
「今更ね。むしろ第一の試練で別の人気を勝ち取っているようなものよ、貴方」
目立ちすぎた自覚はあるけど……小説のイメージを払拭できたのはプラス……であってほしいな、うん。
「……とりあえず、今日はもう休みましょう。明日も早くからレインの訓練があるんでしょう?」
「そうだね」
悪魔に関してはまだまだ様子見か。
いるのは分かっているけど、なにをしているのかまったく尻尾を見せないのが厄介だ。
●
話し合いの後、風呂に入って僕は部屋に戻っていた。
この後は寝るだけなんだけど、なんとなくシアから預けられた刀を手に取って眺める。
「見る影もなくなったなぁ」
元は籠手だった武具は今は小刀へと変わり果ててしまった。
正直、思うところがないわけではないけど、今の僕は籠手を必要としていないことは本当だ。
「……」
シアはこれを使って自身の力の補助をさせようとしているのか?
その補助で扱えるようにした光魔法でなにを行おうとしているのか?
今日を含めて二度、あの彼女と言葉を交わしたが、なにを目的としているのか全く分かっていない。
「悪魔に敵対している……のか? だとしたらシアに憑りついている奴は何なんだ?」
シアの口ぶりは悪魔を見下しているようなものだった。
悪魔の仲間意識の低さを考えれば不思議でもないが……なんというか、彼女からは悪魔に対しての嫌悪感や殺意が感じられた。
「本当に敵なのか?」
考えてみればシアを乗っ取った存在が行ったことで一般の人に被害が出るようなことは起こっていない。
アウルさん達の亡骸を盗んだのはレアリがやったことだから彼女じゃない。
あとは……彼女の身体を乗っ取り、危険な目に合わせていることと、魔王の力の断片を求めていることか。
そして今度はカームへリオで悪事を企てる悪魔を止めてほしいときた。
「……あー、分からない」
いい加減独り言をやめて寝よう。
小刀がきっちり鞘に納められていることを確認し、壁にかけられた団服の傍のテーブルに置いた僕は、魔具の明かりを消そうと———したところで、扉がノックされる。
『ウサト、起きてるか?』
「フェルム? 起きてるよ」
答えると、扉を開けてフェルムが顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「少し話したいことがあって」
椅子に座るように促しながら、僕もベッドから降りる。
思いつめた様子でもないし、本当にどうしたのだろう?
「ごめん。明日早いのに」
「平気だよ。それより、なにかあったの?」
「今日のこと、なんだけど」
今日のこと?
思い当たることがなく首を傾げる。
「交換条件の時だ。すぐに否定してくれてありがとな」
「……あの時の話かぁ」
多分、シア的には例え話だったからそこまで気にしなくてもいいのに。
僕としては至極当然のことを言ったつもりだったけど。
「あれが冗談だったのはボクも分かってる。でも、すぐに断ってくれて正直……嬉しかったんだ」
「僕としては、君とアウルさんを力としか見ていないシアの物言いが気にいらなかったところもあったんだけどね」
単純な戦力・道具として扱っているシアにムカッときていたことは確かだ。
僕はフェルムの魔法を力として扱っているわけじゃない。
フェルムが力を貸してくれているから使えているんだ。
その違いはものすごく大きいと思う。
「救命団にいれられてボクは変われたと思う」
「……そうだね」
「変われたと同時に弱くもなった。傷つけられた分だけ、その傷を返すことができた魔王軍にいた時のボクは無敵だった」
闇魔法“反転”。
ヒサゴさんの系統強化を除いて、僕がこの世界に来て見てきた魔法の中で、変わらずにフェルムの魔法はぶっちぎりで強い。
練度もなにも関係なく、フェルムの闇魔法はその身に受けたあらゆる傷を相手に返す。
自身に攻撃は絶対に通らず、文字通りの無敵だった“黒騎士”が彼女だった。
「でも弱くなったからこそボクは人と関わることを知れた。前は一人でもいいって自分に言い聞かせていたけれど、今はお前と救命団での毎日が楽しい」
「うん」
「……訓練はきつくて嫌だけど」
ちょっと本音が出ちゃったな。
「だから……これからも、よろしくな」
「うん、頼りにしてる」
不器用さを感じさせてそう言ってくれたフェルムに僕も頷く。
言いたいことを全部言い終えたのか、暫しの沈黙の後なぜか髪を両手でくしゃくしゃにし悶えながらフェルムは立ち上がる。
「そ、そろそろ寝る!!」
「お、おう?」
「あと言い忘れてたけどお前、もっと自分を大切にしろ!!」
「え、結構大事にしてるつもりだけど」
救命団は身体が資本なので結構気を遣っているつもりだ。
しかし間違っているのか、扉を開きながらこちらを振り向いたフェルムが叫ぶ。
「あっさり治癒魔法を差し出すやつがいっても説得力ないだろ!! おやすみ!!」
そう言い放って、勢いよく出て行ったフェルム。
数秒ほどして我に返った僕は遅れて納得してため息をつく。
「確かに、その通りだな」
ちょっと初心を忘れていたのかもしれないな。
助けるべき人も大事だけど、自分自身をないがしろにしない。
そう、ローズから教わったことをフェルムの言葉で思い出した僕は、今一度その教えを胸に刻み付けるのであった。
闇魔法の“同化”も大概デタラメな性能してますが“反転”はもっと凶悪でしたね。
今回の更新は以上となります。




