第四百三十一話
そういえば感想の総数が一万件を超えていてびっくりしました。
今まで楽しい感想を送ってくださり、まことにありがとうございます!
作中の感想などを送ってくださり、とても楽しく読ませていただいております!
これからも「治癒魔法の間違った使い方」をよろしくおねがいします<(_ _)>
そして、お待たせしました。
今回はリズ視点でお送りします。
ウサトに対してちょっとだけ嘘をついた。
私が父親のことを気にしていないってこと。
本当に気にしていないなら母が籠で私と一緒に流した剣なんて捨てているし、こんなところにまで持ってこない。
私にとっては顔も見たことのない父親であり、母だって顔も覚えていない。
それでも気にならないはずがない。
会いたいとかそういうわけじゃなく、単純にどういう性格だったのか気になった。
……今はこんなこと考えている場合じゃないか。
今、気にするべきなのは、私とウサトの前に立ち塞がった正体不明の何者か。
「……変な敵だね」
「ああ」
夜中に都市を抜け出したウサトについていった先で遭遇した銀色の鎧に身を包んだ騎士。
私の拳により、べっこりと凹んだ鎧をものともせずに起き上がったそいつは、右の手に握りしめた剣の切っ先をこちらに向けるように構えた。
……相変わらず、あれからは七つの魔力の匂いがする。
「リズ、武器は?」
「持ってきてない。けど」
魔法を発動させながら傍に生えている手頃な木を引き抜いてみせる。
エリシャなら「いきなりなにしてるの!?」って驚くところだけど、ウサトは感心した反応をしながら「なるほど」と頷く。
「周りにたくさんあるから大丈夫」
「よし、じゃあ、僕があいつの攻撃を凌ぐ。君は攻撃してくれ」
「任された。君も隙を突いて、ね?」
「ああ」
驚くくらいに会話が簡単に進み、私とウサトが同時に銀騎士の方を向く。
やっぱり、私と似てる。
お互いに普通じゃない身体能力を持っているからこそ、なにができるか、できないかを理解してくれている。
「行くぞ」
「じゃあ、投げるよ」
持ち上げた木を銀騎士へ放り投げた後に私とウサトが同時に踏み出し、瞬時に加速する。
隣のウサトが背中から緑の衝撃波を放ちながら加速していき、目晦ましになげた木を赤熱した剣で斬り裂いた銀騎士と激突する。
膝までを覆った氷の武具により膝蹴りを叩きつけるウサトに、銀騎士は赤熱化した剣で防御する。
そこから少し遅れて私が突き出した拳が迫る、が銀騎士は自身の身に纏う鉄の鎧を生き物のように変形させ、私に殺到させてくる。
……鉄を操る魔法?
匂いの一つは血……じゃなくて鉄の匂い?
「甘い」
即座に自身の身体強化の魔法を発動させ、迫る鉄の触手を拳で叩き落とす。
その後、地面を踏み砕く勢いで踏み込み―――銀騎士の左わき腹に肘鉄を食らわせる。
【ちょ……な……の……こ……娘!?】
「……ん?」
今、なにか声が聞こえたような気が? 気のせいかな?
ボロボロと砕ける鉄の鎧。
それでもなお堪えた様子がない銀騎士だが、おかまいなしとばかりにウサトと私は攻勢に出る。
『———』
銀騎士がなにをするにも出鼻を挫いてしまえばなにもできない。
私の拳と、ウサトの氷を纏わせた蹴りが、銀騎士の抵抗を許さずに叩き込まれる。
【え】
【ちょ】
【ウ……ト……ん!?】
【私……声、届……ない!?】
銀騎士を殴りつける度に断続的に声が聞こえてくる。
でもよく分からないし、なにを言っているのか全く分からないので無視する。
鎧をべこべこにへこませた銀騎士に構わず大振りの拳を叩きこもうとした———と同時に、銀騎士の身体からどこから響いたかも分からない強烈な“音”が鳴り響いた。
『———!!』
「っ!?」
「この魔法は!」
音の、魔法!?
近距離で叩きつけられた音に思わず動きを止めてしまった私に銀騎士が私に掌を向け、なにかを放つ。
それを認識した次の瞬間、私のお腹を思い切り殴られたような衝撃が叩きこまれる。
【ごめん!! 避けて!?】
「っぐ!?」
なに、この攻撃!?
警戒すらしていなかった不意の一撃にかろうじて意識は飛ばずに済んだけど、まるで私とウサトと同等の力で殴られたみたいな衝撃に地面に膝をついてしまう。
【あばばば!? まずいまずい止まれ私ぃぃぃ!?】
『———』
幻聴が強くなって動けなくなった私に、銀騎士が持ち直した剣を振ろうとしてくる。
しまった、と思ったその時、横合いから伸びたウサトの手が刃を掴み取り、もう片方の手で銀騎士の胴体に拳を叩きこんだ。
【ナイスっすウサトく―――】
「治癒瞬撃拳!!」
【げぼぁ!?】
バァン、という破裂音と共に銀騎士の身体が浮き上がる。
空中で身動きの取れない銀騎士に、ウサトはさらに拳に纏わせた魔力弾を放った。
「治癒爆裂飛拳!!」
放たれた魔法は無防備な銀騎士に直撃した―――かに思われたが、彼の魔力弾に対して銀騎士は掌で受け止め、まるで吸収するようにウサトの魔力弾によって生じた衝撃波を消し去った。
「……なっ!?」
なに今の!? 4つ目の魔法!?
驚く私に対してウサトは無言で目を細めるだけだが、地面に着地した銀騎士が紫と赤、青の魔力と剣に纏わせているのを見た瞬間、私の前に飛び出してくる。
「レオナさん!!」
同化しているというミアラークの勇者の名前を呼ぶと同時に、彼の両足の武具からすごい冷気が放出されて、氷の壁を作り出した。
『———』
透明な氷の壁を挟んで見える銀騎士が両手で強く握りしめた剣を振り下ろし、三色に混ざった魔力を解放する。
放たれたのは熱気を放つ水の奔流。
信じられない勢いで繰り出された熱湯はウサトが作り出した氷の壁により阻まれたが、溢れ出した熱湯は周囲の木々を呑み込み、空気にすらも熱を持たせる。
「リズ、大丈夫!?」
「ん、平気。夜ご飯もどしかけたけど」
治癒魔法をかけてくれるウサトにお礼を言いつつ、もう一度銀騎士を見る。
今の魔法、明らかにさっき使っていた熱や鉄を操る魔法とは違っていた。
銀騎士の纏う鎧の隙間から魔法により放出された白煙が現れ、奴の身体とその周囲を覆う。
またなにかしようとしている銀騎士から視線を逸らさずに、私はウサトに銀騎士の情報を話すことにした。
「ウサト、今の気を付けて。あいつ多分、衝撃波の魔法以外も……ううん、文字通りに七つの魔法を使え―――」
「……」
「ウサト?」
無言の彼に目を向けて息が止まる。
銀騎士を見る彼の眼が剣呑としていたからだ。
私が怒られていないことは分かっているのに、眼前で目の当たりにする彼の静かな怒りにびっくりしてしまう。
「リズ、さっき匂いが七つあるって言っていたよね?」
「う、うん」
「……そういうことか。あぁ、なるほど、おかしくはないのか」
額を押さえ、目元を押さえたウサト。
指の隙間から見える彼の瞳が信じられないほどに血走り、人間とは思えない眼光を宿らせている。
「嘗めやがって、あの小娘」
「ごめんなさい」
思わず謝ってしまった。
だって怖かったんだもん。
「あっ、君に怒ったんじゃないんだ。怖がらせてごめん」
少し彼らしくないその様子に心配してしまうけど、すぐに髪をかきあげるように手を離した彼は、いつもの表情で私に話しかけてくれる。
「リズ、あの人は今七つの魔法を持っていると思ってくれ」
「? とりあえず分かった」
「気を付ける魔法は、衝撃魔法、音と煙の特性を持つ風魔法、熱を放出する魔法、水魔法、金属を操る土魔法の六つ。七つ目の魔法については、そこまで気にしなくてもいい」
「なんで知ってるの?」
「……あの人は、僕の先達なんだ」
……なんとなく事情は察した。
つまり、あそこにいるのはウサトの知っている人ってことなんだ。
まともじゃない状態なのは分かるし、あえて言わなかったけれどあの銀騎士からは生きている匂いがまったくしない。
「もしかして、聞こえてくる声も……」
なにか関係ある?
ただの幻聴だと思っていたけど、一応さっき聞いた声もウサトに言っておこう。
「ウサトはあいつから声、聞こえない?」
「声?」
「あれ、さっきウサトのこと呼んでる。攻撃を通してなにか送ってきてる」
「……ディンさんの魔法か」
どうやらこれも知っているみたいだ。
幻聴じゃなくてよかった。
「多分、七つ目の魔法、精神感応系の魔法だね。そういう魔法だって聞いてる」
「せいしんかんのう?」
「テレパシー……じゃ分からないか。相手の頭に自分の考えを伝えたり、混乱させたりすることができる魔法らしい。ものすごく珍しいから使い手も滅多にいないって話」
「むん。なんでウサトには聞こえないの?」
「……あー、そういう体質なんだ」
よく分からないけど、しっかりと精神を保っていれば問題ないってことだね。
と、ここまで情報を共有していると白煙に包まれていた銀騎士の姿が露になる。
再び姿を現した奴の姿は、鎧を纏った痩身の姿とは打って変わって鉄の鎧を何重にも重ねた重装備へと変わっていた。
「僕とリズの攻撃を避けるんじゃなく、鉄の鎧で防御した上で魔法で吸収しようって魂胆か?」
「でも実際厄介」
下手に鎧を破ろうものなら衝撃を吸収されてしまう。
かといって、このまま無視することもできなくなっちゃったから、あれを無力化しなくちゃならない。
……このまま時間をかけるのも相手の思うつぼだ。
ここは、私も本気でやらなきゃ駄目みたい。
「私があの鎧を破壊する。ウサト、あれの気を引いて衝撃を吸収できないようにできる?」
「大丈夫か?」
「信じて」
「分かった」
迷いなく頷くウサトに逆に私の方がびっくりしてしまう。
無条件の信頼。
頼られているという事実にやる気が漲ってくる。
「隙は僕が作る、後は君に……っ」
重厚な鎧を纏った銀騎士が、こちらに剣を持たない左手を向ける。。
銀騎士の鎧に包まれた手が一瞬だけ紫の魔力に包まれ、そこから礫のようななにかが高速で打ち出される。
すぐに察知したウサトが私の前に出て、飛んできた銀色のなにかを掴み取る。
「鎧の一部を衝撃魔法で弾丸のように打ち出した、か。猪口才な」
銀騎士の左手が剣と同じように赤く熱せられていく。
熱せられた鉄をさっきと同じように撃ち出そうとしてる?
「ウサト、どうす———」
って、もう前に出てる!?
ゆらりと前に倒れるように進んだウサトが背中から発した魔力の衝撃波により急加速する。
それに合わせて、銀騎士が赤い発光と共に左手から切り離した鉄の礫を放つ。
「治癒残像拳」
直撃したかに思われた礫はウサトが放った魔力の残滓を捉えただけであった。
私のそれを超えるウサトの反射神経により発動された魔力の残滓は、その実体を捉えることすら許さずに一息で銀騎士へと肉薄する。
『———!』
銀騎士の幾重にも重ねられた鎧全体が赤く色づいていく。
中にいる者の負担などお構いなしにとんでもない熱量を放っていく銀騎士。
それと間近で相対してもなお、ウサトが進む脚は止まらない。
「意識はちゃんとあるようなので、謝っておきます!!」
彼の両足の氷の武具が凍てつく冷気を放つ。
『———』
「今から滅茶苦茶あなたを攻撃します!! アウルさん!!」
銀騎士が突き出した剣を、氷の武具で蹴り弾く。
しかし、連撃はそれで終わらない。
「はぁぁ!!」
回転するような動きで放たれた三連蹴り。
その全てが銀騎士の鎧をけたたましく打ち鳴らし、赤く色づいた鉄を冷やしていく。
でもあくまで熱せられた鎧が冷やされていくだけで、中へ攻撃が通っていない。
その証拠にウサトの攻撃に構わず、銀騎士は無造作に赤く染まった籠手をウサトへ突き出した。
触れれば火傷じゃすまない熱量を放つ掌底に対し、ウサトはあろうことか黒い魔力に包まれた平手で受け止めた。
「———治癒流し」
私との戦いの時に見せた技……!? あの一撃も受け流せるの!?
彼の掌を滑るように掌底が受け流され、態勢を無理やり崩されたところで再度ウサトの強烈な回し蹴りが炸裂する。
「……すごい」
第一の試練の時のウサトは間違いなく本気だったのだろう。
だけどそれは制限された状況の中での本気というだけで、彼の本領を発揮したわけじゃない。
彼は、誰かと力を合わせることで戦闘力を大きく引き上げるんだ。
「そろそろ冷えてきたか!!」
ガィン!! と前蹴りを食らわせた直後に、足で地面を強く踏む。
彼の足の武具が青白い輝きを発し、銀騎士の下半身を氷で覆いつくす。
『———』
「その両手も封じる!」
自由に両手から魔力を放出し拘束から逃れようとしたところで、逆にウサトが両手を掴み———あろうことかスライムのような魔力で両手を包み込んでしまった。
「治癒コーティングにはこういう使い方もある!!」
魔力を放つ手を封じた……!
今、銀騎士の意識は完全にウサトへ向けられている。私は瞳を閉じて魔力を練り上げる。
「———系統強化」
私の魔力は身体能力を強化する単純な魔法。
だけど、クマの獣人としての頑強な肉体により普通とは大きく異なる力を持ったことで、その力は既存の使い手とは一線を画す暴威へと変わる。
「———今だ、リズ!!」
ウサトの声を耳にし、目を見開き弾けるようにその場を飛びだす。
目視できるほどにまで放出させた右腕の魔力。
力強く握りしめた拳を引き絞り、高揚のままにとっておきの一撃を叩きこみにかかる。
「ガァァ!!」
身体強化の魔法をさらに練り上げられた一撃が、銀騎士の胴体へと直撃する。
拳が叩きつけられ、けたたましい激突音が鳴り響き、銀騎士の纏う多重に折り重ねられた金属の鎧を一撃で吹き飛ばす。
「ここだ!」
吹き飛ばされる銀騎士をウサトが氷に閉じ込めるのを目にしながら、私は青く変色した右腕を押さえて地面に膝を突く。
「……っ」
強すぎる一撃に拳と腕が耐えられず、骨が砕けて紫に変色する。
私の系統強化は未完成。
うまく加減ができないせいで威力も十全に発揮できず、不必要に身体を傷つける。
右腕を押さえている私の腕に深い緑色の光を宿したウサトの手が触れる。
「その手のことは色々と言いたいことがあるけど……リズ、ありがとう」
「私を連れてきてよかったでしょ?」
痛みを堪え、カラ元気の笑みを向けるとウサトも面を食らった後に笑みを浮かべる。
「ああ。後は任せろ」
「ん」
腕の激痛が完全に引いた後、彼がさらに治癒の魔力を変質させスライムのように私の腕を包み込む。
彼の手を離れてもなお、指先から肘までを包み込んだスライムのような魔力が癒しの力を発し続けていることに「え、なにそれ……?」と呟いていると、ウサトはそのまま迷いのない足で氷を熱で溶かしながら脱出した銀騎士へ向かっていく。
『———』
重ね合わせた鎧が私によって破壊され、最初と変わらない姿になった銀騎士。
奴はウサトの接近に合わせてしょうこりもなく赤熱させた剣で斬りかかるが、ウサトは刃ではなく柄を握る手の部分を手首で軽く受け止める。
威力が乗る前に攻撃を止めた……!!
『———!?』
「魔法任せの単純な攻撃が通じるわけないだろ。それに―――」
剣を持つ手首を掴み、自身に引き寄せ奴の態勢を前のめりによろめかせる。
さらに左足のつま先を銀騎士の右足に叩き込み、完全に体勢を崩して無防備になった銀騎士の背中に肘を振り下ろし、地面に叩きつける。
「貴女に鈍重な鎧を纏わせて力を発揮できるはずがない」
『———』
地面に触れた銀騎士の手から鈍色の魔力が地面に注がれている。
鉄臭い匂いに奴がなにをしようかすぐに理解して警告しようとしたけど、それよりも早く地面からいくつもの鉄の槍が突き出される。
「ウサト!!」
ウサトの胴体を槍が貫いた、が貫いたのは彼がその場に残した魔力の残像。
本体は地面から突き出された槍を全て回避し、立ち上がろうとする銀騎士に横蹴りを食らわせていた。
「やることが単純すぎる」
横蹴りを食らいよろめきながらも、銀騎士が音の魔法を放つ。
私すらも無理やりひるまされた音。
しかし、それに対してもウサトは冷静に手を打ち鳴らす。
「治癒猫騙し」
瞬間、ウサトの打ち鳴らした手から衝撃波を伴った金属音が鳴り響き、音を相殺する。
その直後にさらに地面から伸びる鉄の槍を事前に察知していたかのように避け、合わせて放たれた水と熱の魔法を合わせた熱湯を両足の武具から放った冷気で凍らせ割り砕く。
一瞬の攻防を上回ったウサトが拳を銀騎士の胴体に叩き込むが、その一撃は私の時と同じように紫色の魔力で威力を吸収され———いや、あれは攻撃じゃない!!
『———!?』
「治癒残像拳」
魔力の残滓を本物の拳と錯覚させて防御させた!?
ここで初めて動揺を見せた銀騎士に、両手に魔力を纏わせたウサトが連続で拳を叩きこんだ。
『———!』
僅かに後ろによろめく銀騎士。
しかし、奴の身体には八つの魔力弾がくっついており、そのうちの一つが一瞬のうちに膨れあがり破裂する。
衝撃波に吹き飛ばされながら立ち上がった銀騎士、そこに間髪入れずウサトが右手に濃い緑の魔力を纏わせ殴りかかる。
『———!!』
「必生奥義」
即座に右腕でウサトの拳を防ぐ銀騎士だが、彼の右の手に輝いていた治癒魔法の光は、既に左の拳へ移動していた。
「治癒」
銀騎士の防御に回した右腕を固定するように掴み取ったウサトは、系統強化を纏わせた左拳を———銀騎士の右半身に吸着した四つの魔力弾に叩き込んだ。
「系統連鎖爆破拳」
瞬間、ババババァッ!! という短く強烈な破裂音が鳴り響き、衝撃波が吹き荒れる。
この十秒にも満たないやり取りを見ていた私は、彼———ウサト・ケンの本領を目にして自然と笑みを浮かべていた。
「……え、待って自爆した? う、ウサト!?」
笑みを浮かべている場合じゃなかった。
あの人、近距離であんな衝撃波を引き起こして大丈夫なの!? 我に返ってウサトの身を心配していると、緑の粒子を引き連れながら頭に被ったフードを仮面のように変形させたウサトがこちらに戻ってくる。
「……ふぅ、なんとか無力化できたな」
仮面を外すようにフードを外したウサトが左手を軽く振りながら、私の方を振り向く。
「銀騎士は?」
「鎧を引きはがして、氷と闇魔法の魔力で拘束した」
砂煙が晴れると、先ほどまで銀騎士がいた場所に真っ黒な魔力に拘束された銀騎士が凍り付かされており、大部分を破壊された鎧の下には紫色の髪の女性が虚ろな目でこちらを見ていた。
「アウルさん……」
あの様子じゃしばらくは動けない……はず。
だけど、あの血の気のない肌の色からして、どうして動いていたのか疑問でしかない。
ウサトに聞いたら教えてくれるのかな。
そう思って彼を見ると、彼がまだ戦闘態勢を解いていないことに気づく。
「いるのは分かっている!! 様子を伺っていないで出てこい!!」
「ウサト……?」
誰に向かっていっているのか分からない声に困惑していると、私達から少し離れた場所の景色が突然歪みのようなものを見せた。
さっきまでいなかったところに誰かいる?
匂いは、二人?
「えーっと、君って本当に人間? 本当になに?」
『ウサト……』
歪みの中から一人女の子が現れる。
腰にスズネと同じ剣をさした毛先の赤い黒髪の女の子。
そして、その女の子の肩には青黒い炎に包まれた猫みたいな魔物が乗っていた。
フェルムとの同化で制圧力がすごいことになったウサト。
そして包帯にも妨害にも使える治癒コーティングの可能性がすごい。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




