第四百三十話
諸々ご報告いたします!
TVアニメ『治癒魔法の間違った使い方』
新キャスト&PV第一弾が発表されました!
ローズ役を担当してくださるのは田中敦子様です!!
第一弾PVはYoutubeなどで既に公開されており、ウサト達のキャラクターボイスも解禁されておりますのでそちらもどうぞお楽しみに!!
そして、既に完結した書籍版『治癒魔法の間違った使い方』の続編も企画中!!
シアの故郷に向かうために身分を隠して都市を抜け出したわけだけど、その道中でまさかのリズと出くわすだなんて思いもしなかった。
いくら変装していても、ブルリンと同様に魔力の匂いを嗅ぎ取れる特殊な獣人相手では誤魔化しもきかない事実に頭を抱えたくなる。
そんな僕に彼女は不思議そうに首を傾げる。
「顔合わせの時と同じ匂いが混ざってる。あとミアラークの勇者の匂いも。なんで?」
『え、こいつ怖……』
『私たちの存在も感づいている?』
同化しているフェルムとレオナさんにも気づいている。
安易な嘘をついてもバレるし、僕はネアとフェルムがボロクソにいうくらい嘘が下手だ。
……仕方ない。
「……レオナさん、フェルム」
『いいのか?』
同化状態からレオナさんとフェルムが出てくる。
突然現れた二人にリズの獣人特有の耳が跳ねる。
「ミアラークの勇者に……それに魔族?」
「この子の特殊な魔法で……あー、一緒に行動していたんだ」
フェルムの同化を説明するのってかなり難しいな。
同化っていっても普通じゃ分からないだろうし。
「んー、納得。先生もそんなこと言ってたような気がするし」
『あの説明で納得したのか……?』
ウルアさんが何でフェルムに関して勘づいていたのかは分からないけど、今の説明で納得するのも逆にすごいと思う。
もう一度、フェルムとレオナさんと同化してから僕はリズに話しかける。
「僕は今、お祭りとは別の目的でここにいるんだ」
「ふーん。どんな目的か聞いちゃ駄目?」
「駄目かなぁ」
真面目な雰囲気がまったく続かない。
多分、リズは僕達の目的にそれほど興味がない。
「私もついていっていい?」
「うん? 駄目だよ?」
「誰にも言わないから」
「危ないから」
「うるぅ……」
なにその先輩の別バージョンの唸り声。
捨てられた子熊みたいに目をうるうるとさせるリズ。
どうしよう、クマって共通点しかないのにブルリンの姿が重なって複雑な心境になってしまう。
「だから来ちゃ駄目」
「……。分かった」
「……」
「……」
「……こっそりついてこようと考えているな?」
「そ、そそそそそんなことは考えていない」
すっごい目がきょろきょろしてるんですけど。
嘘を見破りやすいけど、嘘をつくことも下手だなこの子。
……先輩の速さなら追えないだろうけど、この子の身体能力じゃ撒くのは難しそうなんだよなぁ。
「はぁ、分かった」
「!」
ぱぁぁ、と顔を明るくするリズ。
その様子に僕はもう一度ため息をつく。
『おい、いいのかよ?』
「このまま黙ってついてこられるよりは近くにいてくれた方がいいでしょ。それに……」
リズの実力は確かだ。
それは実際に戦った僕が一番よく知っているし、彼女の嗅覚は役に立つかもしれない。
だけど、その前に———、
「ついてくるのは許すけれど、その代わり三つ約束してもらいたいことがある」
「むん」
「このことは誰にも言っちゃ駄目。ウルアさんにも君の妹のエリシャにもね」
「自慢じゃないけど、私は口が堅い。なぜなら喋るのが面倒だから」
その理由はどうかと思うけど次だ。
「勝手な行動は禁止。僕から離れないこと」
「どれくらい? ずっと?」
「……一応言っておくけど今夜だけだよ?」
「……ちぇっ」
なにか恐ろしい予感がしたので一応釘を刺しておく。
……四六時中つき纏われるのはネアだけで十分だな、うん。
「あと危険を感じたら君自身の安全を最優先に考えること。僕が治癒魔法使いだからって無茶ができるって思わないようにね」
「うん。分かった」
「よし、それを守れるなら大丈夫」
なんか物わかりの良さとか反応からして、子供を相手にしているみたいなんですけど。
あれ? 年齢的に同い年くらいだよね?
なんというか、エリシャが苦労しているのが分かってしまうな。
「ん?」
「ん」
突然、頭を目の前に差し出してくるリズ。
その様子に困惑する一方で、彼女のクマを思わせる獣人特有の耳が上機嫌に揺れている。
「……なぜ、頭を差し出してくる?」
「私は言うこと聞けて偉いので撫でることを許す」
「……」
……。
……どういうこと?
魔王領でご主人様懇願土下座された時と同じ感じの思考停止になる。
『おい、ウサト! こいつ場合によってはスズネよりやべーぞ!!』
『が、我が強い……!? 行動が何一つ読めない……!?』
こ、これはいったい僕はどのような対応をすることが適切なんだ!?
●
色々とやり取りはあったが、僕達はリズを加えて目的地の村の近くに向かうことになった。
移動手段は変わらず走っていくというものだが、リズは普通に僕の足についてきている。
こちらも本気で走っているわけじゃないし、リズ自身その身体能力は普通の獣人を凌駕しているのでそこまで驚くほどでもない。
「すごい。人間がこんなに走れるなんて、ついていくのでやっと」
「それは僕の台詞だよ」
『こいつら見てるとボク達の常識が間違っていると錯覚させられる』
『……確かに』
フェルムとレオナさんの呟きがどこか遠く感じる。
リズと併走しながら暗い森を進んでいるが、治癒感知で障害物を認識している僕はともかくリズも嗅覚で周囲を把握しているのかその足取りに迷いはない。
「……お祭りに参加した目的ってこのため?」
不意にリズが僕にそう話しかけてきた。
このためっていうのは、今僕達がしている行動のことを差しているんだろうな。
「どうしてそう思ったの?」
「君が名誉とかそういうのに興味がないのは、すぐに分かったから」
確かにその通りだけど、そこまで分かってしまうものなのかな……。
ここまで行動してしまったんだから、ある程度は明かしていいかな。
「そうだね。僕達にとってはお祭りはカームへリオに来るための口実みたいなものだったんだ」
「納得した。でも目的は聞かない。さすがにそこまで図々しいつもりはない。むん」
『もう十分図々しいと思うんだが』
フェルムの呟きに苦笑するが、正直聞いてこなくて助かる。
さすがにリズを悪魔関連の騒ぎにまで巻き込むのは憚れるからな。
……ずっと暗い道を無言で走るのもアレだし、話題を変えてみるか。
「君達はどうしてお祭りに参加してきたの?」
「ん」
走りながらリズが僕を指さしてくる。
「え、なに?」
「君達に会いにきたのが目的」
「……なんで?」
「先生の会ってみたいって好奇心と、私自身君に会ってみたかった」
ますます意味が分からない。
ウルアさんが魔王と戦った僕達に会ってみたいと言うのは分かるけど、僕自身はリズにここまで興味を持たれることをしていない。
僕の困惑を察したのか、走りながらリズは自身の鼻に指を向ける。
「私は魔力の匂いが分かる。それは試練の間に話したよね?」
「ん? ああ、そうだね」
魔力の匂いを察知する魔獣であるブルリンに近い嗅覚。
それでリズは魔力感知とは別の、嗅覚で周囲を把握していた。
「でも魔力にも色々あって大抵、変な感じがする。炎系統だったら煙みたいな匂いがしたり、雷系統だったら鼻の頭がぴりぴりする」
『魔法系統そのものも判別できるのか……!? 凄まじい能力だな……!!』
直接的な攻撃力はないけど、レオナさんの言う通り凄い力だ。
だって相対する敵の系統がすぐに分かるし、なによりその攻撃も匂いの濃さで分かるだろうから。
「苦労したんだね」
「分かる、の?」
「僕も経験があるからね」
「……え、なんで経験があるの?」
ブルリンと同化した時、あいつの嗅覚をその身で体験したことがある。
魔力を匂いで判別するのは、認識が頭の中でぐちゃぐちゃになる感覚がするので大変なのだ。
ブルリンの嗅覚は魔力を甘い匂いで分かるというものだが、それでも僕には慣れるまできつかった。
「……この鼻で色々苦労してきたけど、やっぱり治癒魔法持ち、それも熟達した人のは全然違う」
「へぇ、具体的には?」
「清涼感がすごい。落ち着く、眠くなる」
なんか僕の魔力の匂いには癒し効果があるようだ。
喜んでいいのか、微妙な気持ちになっていいか分からないけど。
「だから君の傍は落ち着く」
「そういう理由だったのか」
「あと、君はいい人。顔を合わせてそれがすぐに分かったのも理由」
そんな第一印象で良い人とか悪い人とか分かるの……?
野生の勘という奴なのだろうか。
僕としては悪い人判定をもらわなかったことを喜べばいいのか……。
「えぇと……」
「人と関わるのは苦手だしむしろ嫌いだけど、それを見極めるのは得意。君は私を獣人だからって気にしないし、こんな面倒くさい私に普通に接してくれている」
『面倒くさいって自覚あるのかよ……』
面倒というか、変わっているなぁとは思う。
こう考えてしまうのはリズ以上に面倒な奴……コーガと関わった経験があるからなんだろうけど。
あいつ戦争中マジで凄かったぞ。
こっちの都合お構いなしに殺し合いふっかけて、断ったら人質とってまで戦おうとしてきたんだからな。
「そういうところは、エリシャと似てる」
「そういえば今日の朝の訓練にあの子が来ていたね」
「……」
「なんで不機嫌になるの?」
なんか雰囲気からして不貞腐れてるのが分かる。
走りながら器用だな、おい。
「今日の朝、私も行くつもりだったのに起こしてくれなかった」
「……エリシャは君を起こしたって言っていたけど」
「私が起きていなかったので、起こしたとは言えないと思う」
すごいことを言い出したぞ。
だけど、根に持っているって感じではないので、姉妹仲が悪くなったわけではないんだな。
「そういえば、君とエリシャは実の姉妹では、ないんだよね?」
「うん。私とエリシャは捨て子」
「っ……無神経なことを聞いてしまった。ごめん」
「謝らなくていい。全く気にしてないから」
前を向いて走る彼女は少しも気にしていないような声色でそう返した。
本当に気にしていないようだけど、こちらとしては無神経すぎたから反省しなくては。
「小さい頃、私は母親に捨てられた。食い扶持がなくなったのか、単純に疎ましかったのかは知らないけど、籠にいれられて川に流された」
「……」
「籠にいれられていたのは、罪滅ぼしのつもりなのか分からないけど名前が彫られた短剣だけだった。それ以外はなにもなかった」
覚えているってことは少なくとも物心ついた頃に捨てられたってことなんだろうな。
何も言えず同化しているフェルムとレオナさんも黙ってしまう。
僕は、彼女が母親に捨てられた後、どうなったのか気になってしまった。
「それからは?」
「川に流され、人間の領域に流れ着いた私は一人で生きてきた。狩りで食べ物を確保して、服とかいろんなものを調達しながら各地を渡り歩いて、最終的にネーシャ王国に流れ着いた」
『いや、たくましいなこいつ』
『子供の頃と考えると凄まじい行動力だな……』
経緯は違うけど、境遇はアマコとちょっと似ているな。
違うのは行きついた国がネーシャ王国だということだけど。
「それから街で凍えていたエリシャを妹にした」
「妹にした?」
「うん。家族になった」
……なんかものすごい端的すぎるけど、多分言葉だけじゃない深い経緯みたいなものがあるんだろうな。
少なくともエリシャからすれば、大事なことのような気がする。
「家族になった私たちは先生に引き取られた。訓練を受けて、なんやかんやで今に至る」
『一気に端折ったな』
そのなんやかんやってところが気になるところなんだけどなぁ。
「両親のことは覚えていないの? その、父親のこととか」
「んー、全然」
当然か。
本人も気にした様子もないし、いくら僕が獣人族の長であるハヤテさんと知り合いでも、どうにかなる話でもない。
そんなことを考えながら走っていると、不意にリズが何かを思いついたような声を発した。
「あ、でも持っていた護身用の武器に父親らしき名前が彫られてたかな。たしか……じ……じん……なんだっけ?」
……ッ。
「一応、持ち歩いているけど確認してみ———」
「……ジンヤ?」
「あ、そうそう。そんな名前。……ん? なんで知ってるの?」
腰を探り、短剣を取り出そうとしたリズが不思議そうにこちらを見る。
まだ確定したわけじゃない。
だけど最初クマの獣人と聞いてブルリンの次に思い浮かんだのはヒノモトで遭遇した一人の獣人であった。
ヒノモト先代族長のジンヤさん。
アマコの母親であるカノコさんを目覚めない眠りにつかせ、彼女の予知魔法を悪用し人間との戦争を起こそうとした獣人。
まさか、あの人の娘が……リズ? それが、そんな偶然が本当にあるのか?
「もしかして、知ってる人?」
「……一応、ね。その人本人かどうかは分からないけど、聞く?」
「別にいいかな? どうでもいいし」
本当にどうでもよさそうに即答するリズにちょっと驚く。
「今更、私を捨てた親のことなんてどうでもいい。私の家族はエリシャと先生だけ」
「強いな、君は」
「あと一人増やす予定」
「へぇ、そうなの?」
「うん、そうなの」
この子にとっての家族が増えることは信頼する人が増えるということだからいいことなんだろうな。
『レオナ、こいつ危険だぞ……!!』
『ウ、ウサト! そろそろ近くじゃないか!?』
「え? ああ、はい」
同化内で地図を見ているレオナさんに頷き、一旦速度を緩める。
さて、夜も更けてはいるけど、まだ普通に人が起きている時間帯だ。
まずは街の人に話を伺いたいところ———ッ。
「リズ、止まって」
「……なにかいるね。……七人?」
「いいや、一人だ」
リズの嗅覚が七人と感知した? だけど僕の治癒感知では反応したのは一人だけだ。
足を止め、警戒を露にする僕達の前に静かに出てきたのは、銀色の鎧を纏った騎士。
全体的な鋭利な印象を持たせる銀鎧は月明かりを鈍く反射させながら、カシャン、カシャン、という鉄がすり合う音を発しながら、こちらに近づき足を止める。
『ウサト、こいつは……』
「このタイミングで僕達の前に出てくるんだ。友好的な相手ではなさそうだね」
こちらを見ているか定かではない様子の銀騎士が手を翻す。
瞬間、銀騎士の纏う鎧の一部が変形・分離、生き物のように手元へ移動しながら剣のような形状へと変化する。
『ウサト、来るぞ!』
「ええ! ……リズ!」
「うん。応戦する」
銀騎士が剣を握り、こちらに刃を向けるように構える。
武器を構えてくるということはこちらに敵意を持っていると判断してもいいのだろうけど、その肝心の銀騎士からは敵意どころかなんの意思も感じられない。
『———』
くぐもった声がその兜の内側から発せられる。
瞬間、地面が爆ぜるほどの勢いで飛び出した銀騎士が、剣を赤熱させながら斬りかかってきた。
それに対し僕は冷気を発した右足を振るい、真正面からそれを受け止めた。
「……!」
『———!』
赤熱する剣と白い冷気を放つ右足の武具が激突———蒸気を衝撃波のようにまき散らしながら、僕は足を覆う闇魔法を操作し、剣を絡みとり地面へ叩きつける。
『凍らせる!!』
レオナさんのその声で、さらにその上から冷気が開放され銀騎士の腕を巻き込むように凍り付かせる!
「リズ!!」
「任された」
動きを封じたところに魔力を纏ったリズが軽く握りしめた拳を銀騎士の胴体に叩き込み、全身鎧に包まれたその身体を大きく吹き飛ばした。
彼女の拳により地面と平行に飛んで行った銀騎士は、木に激突———へし折ってようやく停止し、動かなくなる。
「急いで治療しよう!」
「え、なんで?」
「あいつが誰の差し金で僕達を襲ってきたか聞くべきだ!」
今の一撃で沈んでくれた場合の話だけど。
でも腑に落ちないのは、今のあいつが行った魔法。
鎧を操る技に、剣が赤熱するほどに熱する技。
魔術か? だけど、それにしては魔術特有の文様が出ていなかったけど……ッ。
『———』
「まだまだ平気そう」
「そのようだ……」
人形のように立ち上がる銀騎士。
リズに拳を叩きつけられ拳大に凹んだ腹部が逆再生するように修復され、手放したはずの剣もひとりでに奴の手に戻る。
「不死身の戦士? それも複数の能力持ち? 厄介だな」
『……なあ、レオナ』
『フェルム、気持ちは分かるが戦闘中だ。……気持ちはよく分かる』
銀騎士は変わらず敵意を見せないままに、剣の切っ先をこちらへ向ける。
敵意も殺気も感じられないのに、こちらを害する気配はしっかりと感じる。
まるで人形を相手にしている感覚に苛まれながら、僕はリズと並んで構える。
「とりあえず、その兜をはぎ取ってその中を拝んでやろう」
「いいね。その方が分かりやすい」
『———』
悪魔が仕向けた敵。
ある意味で予測していた状況に置かれながら、僕達は銀騎士と相対する。
フェルムに先輩よりやばい奴と言わせたリズでした。
今回の更新は以上となります。
※※※
前書き部分の詳しい内容については活動報告の方を書かせていただきましたのでそちらをご覧ください。




