第四百二十九話
明日8月27日、17時30分より『MFブックス創刊10周年記念番組~夏の異世界ファンタジー祭り~』がABEMAにて生放送されます!
『治癒魔法の間違った使い方』は21時40分頃登場予定です!
アニメ最新情報など盛りだくさんなので、どうぞお楽しみに!
そしてお待たせいたしました。
第四百二十九話です。
早朝、レイン達との訓練中にナイアさんから直接の報告があった。
内容は『シア・ガーミオが住んでいた可能性のある集落』が見つかったというものだ。
見つかった場所については、僕が魔王領内の毒が蔓延する地帯で彼女と遭遇した時に聞いた情報と合致するということと、『勇者がその命を終えた場所』という逸話があることからかなり信憑性は高いらしい。
「罠の可能性があるわね」
夕方、空が赤らみ始めた頃、宿舎のいつもの部屋で話し合いをした矢先にネアがそんなことを口にした。
今この場には僕、先輩、フェルム、ネア、そして協力者であるレオナさんにミルファさんもおり、その場にいる全員がネアに視線を向けていた。
「罠って、ナイアさんからの情報だぞ?」
「ナイアのことは疑っていないわよ。でも勇者が死んだ場所なんて明らかに怪しいじゃない。この情報の出所自体悪魔からもたらされたものって可能性もある以上、安易に全員で向かうのは危険よ」
「……確かにその通りだ。これが陽動のための偽の情報ということもある」
ネアの指摘にレオナさんも頷く。
でも、陽動だとしてもなんのための陽動だ?
僕達がいて動きにくいことがあるとか? ……まだなにもここにいる悪魔について分かっていない以上、あらゆることを疑ってかからなくちゃいけないってのは、きついものがあるな。
そこまで思考していると、腕を組んで無言で聞いていた先輩が口を開く。
「それじゃ、向かうメンバーを限定するというわけだね?」
「そうね。仮にこれが陽動のための嘘の情報で、私達がここにいると悪魔が表立って動けない……って想定で行動するなら別行動が最善ね」
ここに誰かしら残るべきってことか。
「まあ、ウサトは確定ね」
「ん? 確定なのか?」
「悪魔の天敵の悪魔は必要よ。それに目的地まで止まらず走っていけるのは貴方くらいでしょ」
もういろいろおかしい構図になってない?
まあ、ネアがそういうなら従うけど。
「それで、悪魔に対抗できる手段のある私がここに残るわ」
「ウサト君についていかなくてもいいの?」
「この人なら大丈夫でしょ。後、なにかあっても私ならこの人の使い魔だからどんなに離れていてもすぐに分かるわ」
僕とネアの使い魔契約は普通のとは違うからなぁ。
今となっては頼もしい限りだ。
「じゃあ誰がウサトについていくかって話だけど、フェルムは確定ね。貴女以上に隠密性に適した魔法はないでしょ」
「ま、当然だな」
フェルムがドヤ顔で腕を組み強く頷く。
ネアの言う通り、隠れて動くならフェルムの同化以上にうってつけの魔法はないな。
「スズネは留守番。レオナがウサトと同化という形で目的地に向かってね」
「なんで!?」
ここでちょっとワクワクした様子の先輩が憤慨する。
僕としても気になるので、ネアの次の言葉を待つ。
「別にいじわるで言っている訳じゃないのよ? 単純にスズネはこのお祭りで注目されているから、ウサトと一緒に短時間でもいなくなると問題が起きるからって理由なのよ。あと、シンプルに貴女の魔法は目立ちすぎる」
「くぅ……!!」
「だから、貴女はここで私と一緒に帰りを待つの」
「私の超かっこいい魔法適性がここで仇になるとは……!!」
悔しがるとこおかしくないですか?
拳を強く握り震える先輩にネアは苦笑してから視線をレオナさんへと向ける。
「その点レオナも同じ勇者だけれど、その心配もないから適任なのよ。それに、留守の間の対応もミルファに任せられるしね」
「ええ、その辺はこちらでうまくやるので任せてください。……レオナも頑張ってきなさいね!」
「あ、ああ、任せておけ」
ミルファさんに後押しされ、レオナさんが曖昧に頷く。
しかし、これで方針が決まったかな。
「それでネア、出発はいつにするんだ?」
「夜が望ましいわね。でもこの都市は夜でも明るいから、人目には気を付けた方がいいわ」
外を見ればもうすぐ暗くなる時間帯だ。
完全に暗くなり次第、出発だな。
●
そして、太陽が完全に沈み夜になった。
しかしカームへリオの都市の街並みは魔具により昼間のような明るさを保っており、このままの姿で外に出るのはあまりにもバレる危険性が高い。
「昨日のせいで僕の顔は覚えられちゃったからなぁ」
「あれだけ暴れたんだからしょうがないだろ」
「そうだけどね……」
フェルムの指摘に肩を落としながら僕達は宿舎の屋上へと足を運ぶ。
いつも着ている団服は部屋に置いてきた。
これから僕がするのは身分を隠して行動するようなもので、戦場で自分の存在をアピールする救命団の白服はむしろ目立ちすぎるからだ。
「屋上だな」
階段を上った先にかがんで入れるほどの扉があり、鍵をフェルムの魔力で開ける。
扉から出ると屋上……というより、広い屋根の上に出る。
「清掃用の扉かしら?」
「そうだろうね。こういうところちょっとワクワクするね、ウサト君っ」
「……確かにッ」
学校では屋上とかは基本入れないので、こういうところに憧れる気持ちはすごく分かるな。
一応、周囲を目視と治癒感知で確認した後に、フェルムへ振り返る。
「それじゃ、フェルム。同化を頼む」
「おう、任せろ」
フェルムが自身の影に沈み込み、僕と同化する。
そこまではいつも通りだが、いつもの団服を着ていないので、闇魔法の魔力はさらに形を変える。
黒いフードにジャケットにズボン、黒い手袋に、足先まで覆う真っ黒な靴。
ところどころにベルトをあしらったデザインはいつも着ている団服と同じだが、目立つことを避けた服装に変わった闇魔法の魔力に目を丸くする。
『隠れて行動するならこっちの方がいいだろ』
「黒服か、ちょっと新鮮だな」
フェルムの着ているものではなく強面達に近いデザインだな。
でも、ぴっちりはしているけど動きやすくはあるな。
「こっちもこっちで似合ってるね」
「むしろ、これでトング達と並んでも違和感ないわね」
僕は強面達ほど怖い顔じゃないからまだ大丈夫。
僕が同化が完了していると、レオナさんの隣に並んだミルファさんが興味深そうな視線を向けてくる。
「こうしてみるのは初めてだけど、不思議ねぇ。闇魔法って」
「私も慣れていないくらいさ。……ウサト、フェルム」
「ええ、レオナさん。僕の肩に」
レオナさんに背を向け、彼女に肩に手を置いてもらう。
彼女の身体が闇魔法で形作られた服に吸い込まれるように消え同化する。
瞬間、僕の身体から光の球体が飛び出し両足に吸い付くと同時に両足を覆う氷の防具へと変化する。
『ファルガ様の武具も変わらず君にも使えるようだな』
「本当に頭が上がりませんよ。貴女にも、ファルガ様にも」
あらゆる場所を走破する氷の武具。
これを用いれば、どんな場所だって進むことができる。
「よし、これで準備オッケーですね」
「一緒に行けないのは非常に心苦しいが。君が無事に帰ってくるのを待っているよ。レオナ、フェルム、ウサト君のことを頼んだよ」
『ああ、任せておけ』
『ウサトなら大丈夫だとは思うが……?』
いや、本当にレオナさんの言う通り、全然大丈夫だと思うのですが。
しかしその言葉にネアが苦笑しながら肩を竦める。
「こいつ、結構無茶するからそのあたりを諫めてちょうだい。貴女の言うことなら聞くでしょ」
『……あー』
どうしよう、レオナさんが納得してしまった。
でも無茶をすることに関してはなにも言えないので認めるしかない。
「と、とりあえずいってきます」
「いってらっしゃいウサト君……あっ、今のやり取り幼馴染っぽい!?」
「そもそも幼馴染じゃない、でしょ!!」
ボケる先輩にそう返すと同時に屋根から飛び降りるように跳躍する。
弾力付与の魔力を両足に纏わせ、隣の建物の屋上に着地———そのまま反動でまた跳躍し、音を極力出さずに屋根から屋根へ高速で移動していく。
「レオナさん、方向は?」
『南門の方だ。君から見て右斜め前の方向だな』
「了解、跳びます」
『そうか。……ん? 跳びます?』
『そっちは屋根ないぞ!? おいおいおい!?』
レオナさんの指示を聞いた直後に屋根を跳躍、魔具の光で照らされ人で溢れた大通りの上へ飛びあがる。
このままじゃ落下するだろうけど、フェルムと同化した今なら……!!
『わ、わわわ!?』
『ぎゃあああ!?』
「ふんっ!!」
背中、掌から魔力の暴発で衝撃波を放ち空中で加速。
さらに全身からの衝撃波で加速とバランスをとり、飛距離を稼いだ直後に手から闇魔法で作り出したロープを伸ばし、屋根の縁にひっかけ思い切り引き寄せそのまま飛び移る。
「……よし」
『『……』』
「無言になるのも分かりますが、案内お願いします」
本当はムササビみたいな感じも考えたけど、さすがに無理そうなのでやめておいた。
さあ、この調子でどんどん進んでいこう。
再度、弾力付与の魔力を纏った僕は、また屋根の上を駆けだすのであった。
●
都市を抜け出すこと自体はそう難しくはなかった。
単純に外壁を飛び越えていくだけでいいし、その後は道を進んで森の中へ入りこむだけでよかった。
———けど、ここに来るまでに一つ問題が起こった。
『ウサト、気づいているな?』
「……ああ」
『なにかがボク達を追ってきている。そうだろ?』
移動中に治癒感知は発動させてある。
万が一、僕達に気づいて追ってきたものを把握するためのものだが、その感知範囲内に反応があった。
森に入ったあたりから誰かが僕を追ってきている。
しかも僕と同じ速さで移動している。
「まずは正体を確かめよう」
『戦闘になるのか?』
「それはまだ分からないけど、僕を追ってこれる身体能力がある相手だ」
ブレーキをかけ、後ろを振り向いた僕は両足の武具に意識を集中する。
これまで透明なクリスタルのような光沢を放っていた武具が、冷気を放ちだす。
「……」
『止まった?』
『こちらの動きに気づいている?』
僕を追っていた誰かが足を止める。
そのままゆっくりと探るように近づいてきて、目の前の茂みの一歩手前で止まる。
「誰だ? 近づいているのは分かっている。出てこないのなら———」
「ウサト?」
「……」
……聞き覚えのある声。
しかもすっごい最近、具体的には第一の試練で滅茶苦茶戦った相手の声だ。
頬を引きつらせると、茂みをかきわけて特徴的な橙色の髪の少女が顔を出してくる。
「リズ、なんでここにいるの?」
「街は騒がしいから静かな森で休んでた。そしたらウサトみたいないろんな匂いの混ざった怪しい人がいて、ついてきてみた。そしたらウサトだった」
そもそも、なんでそこでついてきたの?
あまりにも予想外な行動をするリズに、僕は思わず額に手を当ててしまうのであった。
街中を姿勢制御と加速しながらロープ移動する黒服ウサトでした。
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