第四百二十八話
本日、外伝作品『治癒魔法の間違った使い方~誘いの街・レストバレー~』、第一話~三話がピッコマにて先行配信されました!!
本編とはまた異なるウサト達の活躍をどうかお楽しみに!!
そして、第四百二十八話です。
第一の試練を終えた翌日の朝。
僕はレインの系統強化習得の訓練のために訓練場にいた。
「……いや、ここまで大所帯で来る普通?」
今回先輩、ネア、フェルムの全員がついてきてしまった。
当然フェルムは同化状態、ネアはフクロウの姿のままだが、それでもこの後来る面々を考えても多いと思う。
「フッ、端的に言うならば、暇だからね」
「昨日の今日で目を離せるはずがないじゃない」
『すぅ……すぅ……』
先輩、ネアは分かるけどフェルムは普通に寝てる……。
寝るなら部屋で……いや、部屋に一人にするのは普通にかわいそうなので一緒にいる方がいっか。
「魔力回しは先輩もできるから、貴女からも助言とかお願いします」
「この私にお任せあれ!!」
どうしようものすごく不安だ……。
自信満々に胸に手を置く先輩に不安に思っていると、訓練場の扉が開きレインとクロードさんのお孫さんであるロアがやってくる。
途中で行き会ったのだろうか、どこか所在なさげな様子のロアを連れたレインは僕達の前にやってくる。
「おはようございますっ。ウサトさん」
「うん。おはよう、レイン。それで君が……」
レインに挨拶を返して、後ろのロアに目を向けると緊張した面持ちで深く頭を下げてきた。
「おじいちゃ……勇者クロードの弟子のロアです! ほ、本日はどうかよろしくお願いいたします!!」
「クロードさんから話は聞いてるよ。こちらこそよろしくね」
年は僕よりも少し下くらいか?
黒に近い灰色の髪をポニーテイルのように後ろにまとめた少女。
試練の最中は先輩と手合わせしていたということしか知らないけどすごく礼儀正しい子だ。
「ゆ、ゆゆ勇者イヌカミ様も、よろしくお願いいたしますぅ……」
「先輩、なにしたんですか?」
「おっとウサト君、さりげなくロアと私の間の壁になろうとするのはちょっと早いぞ」
いや、すごい怯えようなんですけど。
昨日、どんな戦いしたらこんなになるんですか。
「結局なにしたんですか?」
「諸事情あってスーパーイヌカミになった私は、有り余るやる気のあまりスタイリッシュに槍奪取しちゃったのさ……!」
「よし、レイン、ロア、訓練を始めるよ」
「くぅーん」
残念そうな子犬の鳴き声を発する先輩をスルーし、早速訓練を始めるべく声をかける。
二人も頷いていざ始めよう、と思ったその時、また訓練場の扉が開かれまた誰かがやってくる。
アウーラさんかな? でも彼女にしては来るのが早いなーと思いながらそちらを見ると、そこには意外な人物がいた。
「エリシャ?」
ネーシャ王国の勇者、リズの妹のエリシャだ。
特殊な光魔法の使い手で、昨日の試練で戦ったので記憶に残っている彼女がどうしてここに……?
もしかして、あの子もここで訓練を?
「訓練中すみません!!」
「まだ始める前だったから大丈夫だよ。どうしたのかな?」
「あ、あの、私も訓練を見学させていただいてもいいでしょうか!?」
君も!? まさかの参加に僕だけではなく他の面々も驚く。
いや、この場に四王国の従者が揃うことになっているけど大丈夫なのだろうか。
「僕は全然構わないけど、リズはどうしたの?」
「お姉ちゃんは朝がよわよわなので起きられませんでした」
そこもブルリンとコーガに似ているのか。
なぜか容易に想像できてしまった。
「レイン、構わないかな?」
「僕も大丈夫です。それに、訓練には支障はないでしょうから……ははっ」
なぜか黄昏た笑みを浮かべるレインに首を傾げる。
まあ、ここに来て新たに一人参加者が増えてしまったけど、レインの訓練に支障はない。
このまま訓練を始めよう。
●
訓練場でウサトさんがミルヴァ王国の治癒魔法使いの従者さんに訓練をしている話は有名だ。
国が違う人達同士で何かを教え合っている。
そんな話が話題にならないはずもなく、勇者たちが泊まっているこの近辺でも話がかなり出回っている。
最初は特に気にしてなかった。
かなり人の好き嫌いがはっきりしている上に、一定の距離まで人を近づけようとしないお姉ちゃんが気にいった珍しい人。
妹心にちょっと嫉妬もしてたけど、昨日の試練の場での戦いを経てその認識を改めざるを得なかった。
ウサトさんは、お姉ちゃんと似てる。
突拍子もなく意味不明なことをするし、その身体能力に至っては魔法を使わないお姉ちゃんを上回るほどだ。
そして、一番注目したところは私の魔法をあっさりと見破ったこと。
普通なら風系統の魔法と思い込むのに、ウサトさんは掴んで見ただけで光魔法と判断してしまった。
……すぐに看破されてしまったのは、リングル王国には私と同じ光魔法を持つ勇者がいるからなんだろう。
もしかしたら、光魔法についての話を聞けるかもしれない。
そんな考えもあって、私は先生にウサトさんの訓練を見にいく許可をもらおうとした。
『彼の訓練を見学したい? いいんじゃな……いや、ここは君の先生として推奨しよう。ある意味このお祭りで得られる経験以上に有意義な時間を過ごせるかもしれないからね』
と、ちゃんと許可をいただけたので、お姉ちゃんにも聞いてみた。
『行く』
『お姉ちゃん起きられる?』
『起こしてくれないの?』
『起こしてもお姉ちゃん起きないじゃん』
『うるぅ……』
寒さに強い癖に朝には弱い姉に何度ため息をついたことか。
そして、案の定今日の朝も起きられずに結局私だけで訓練場に来て、訓練の見学を許していただいたけれど……。
「ふぅー」
私の視線の先でリングル王国の勇者イヌカミさんが軽く深呼吸をしながら木剣を両手で構えている。
それを少し離れた場所から見ていると、彼女の身体を激しい電撃が包み込み帯電する。
「ふんっ」
電撃が弾け、黄金色の輝きは一瞬にして白色へと変わる。
それと同時にイヌカミさんの腕が動き———気づいたら彼女の持つ木剣が振り切られていた。
数瞬の後、パァン! という空気が破裂する音が響き、軽い風圧が離れた私達へと届く。
「す、すごい……」
「はわぁ……」
勇者イヌカミ……スズネさんの素振りに私とロアさんが感嘆の声を漏らす。
単純に剣を振っただけ、なんだろうけれどそれだけでも全く目で追えないほどだ。
今の動きを見るだけで、昨日の試練でイヌカミさんがどれだけ制限されていたのか分かってしまう。
「今の先輩が扱っているのは魔力回しの派生の一つ、系統劣化って言うんだ」
すぐ近くでレイン君に訓練を施していたウサトさんがそう解説してくれる。
「系統、れっか? 系統強化ではなく?」
「ああ。魔力の質を落として魔力消費を少なくする技術なんだ」
……え、いや、これ聞いてしまっていいやつ?
世間話するみたいな感じでとんでもないことを聞いてしまったんだけど?
隣のロアさんを見ると、彼女も同じことを思ったのか私と目が合う。
「「……」」
私の記憶上、系統劣化なんて技術聞いたことない。
その常識がロアさんと同じなことを、彼女の表情を見て再認識しながら———改めてウサトさんの目の前で行われている非常識な訓練にも目を向ける。
「あ、あの、ウサトさんはレイン君になにをしているんですか?」
今ウサトさんに手を握られているレイン君は、床に突っ伏しながらぶるぶると震えている。
治癒魔法をかけられただけじゃ絶対にならない様子に恐々としながら訪ねてみると、ウサトさんは明るい様子で返事をしてくる。
「ん、ああ、説明していなかったね。今、レインの魔力回しに干渉してその速度を上げているんだ」
「「……?」」
隣のロアさんと一緒に首を傾げてしまう。
魔力回しに干渉? 加速? 言っていることの意味が分かるけど、理解はできない。
「えぇと、それをする意味は?」
「魔力回しをより速く、より潤滑にすることができる、かな。これは魔力回しを訓練する時間を短縮する訓練法だからね」
聞かされること全てが初めて聞くことばかりだ。
ここに先生がいたら喜び勇んで質問攻めにするんじゃないのかな。
そこまで説明して、ふと何かを考えるそぶりを見せたウサトさんは、ロアさんに視線を向ける。
「ロアはどうする? クロードさんに頼まれているし、やってみる?」
「……え」
ロアさんの視線がレイン君へと向けられる。
ロアさんの視線に気づいたレインは引きつった笑みを浮かべる。
「な、なななな、慣れればぜぜぜ全然平気です!!」
“仲間を増やそう”
視線の奥からほのかにそう感じさせるレイン君の意思にロアさんの表情が彼と同じくらいに引きつる。
「え、遠慮しておきますぅ……」
「まあ、見た目があまりよくないからね。しょうがないか」
自覚があるのか。
見た目があまりよろしくない自覚があるのかこの人。
衝撃の事実に、私だけではなくロアさんもレイン君も顔を上げて目を見開く。
「こうして見ているだけでも暇だろうし、なにか聞きたいことがあったら遠慮なく聞いてもいいよ」
訓練を続けながら唐突にウサトさんがそう言ってきた。
聞きたいこと……あるにはあるけれど、まずは先に参加したロアさんが聞くべきだろう。
視線で促すと、ロアさんは緊張しながらウサトさんに口を開いた。
「ご存じかもしれませんが、私の師匠は祖父なんです」
「ああ、クロードさんが言っていたから知っているよ」
「でも私は先日の試練で不甲斐ない姿を見せてしまって、おじいちゃんの弟子として……ちゃんとできているのか、不安になってしまって」
聞きたいことって訓練に関することじゃないの!?
予想外の内容にウサトさんが一瞬だけ困ったような表情を浮かべる。
「私はおじいちゃんの孫だから。厳しいのかそうじゃないのか分からなくて……」
「……。クロードさんを慕うお弟子さん達ってたくさんいるの?」
唐突な質問にロアさんが驚きながら答える。
「ええ、たくさんいます。王国勤めの騎士も門下生だったりしますから」
「君より強い門下生もいたりする?」
「そりゃあ、兄弟子はたくさんいますし……私は、正式に認められて少ししか経っていないし」
「……その中で君をこのお祭りの従者としてここに同行させたのは、クロードさんにとってなにか意図があったんじゃないかな?」
続けてウサトさんは言葉を発する。
「まだ少ししか交流していない僕でも、君が孫だからとか思い出云々とかで君を従者としてここに連れてくるような人じゃないことは分かるよ。君も勿論、それは分かっているよね?」
「……。もしかして、おじいちゃんは私に戦いの経験を積ませたかった……?」
「というより、僕との戦いの間にそう言っていたからね。クロードさんは」
その時のことを思い出したのか彼は苦笑しながらロアさんを見る。
「ロア、君が持つべきなのは自信だ。昨日、君が相手にしたのは二つの王国を代表する勇者なんだ。僕だって追い込まれるような相手に君は逃げずに戦った。それは君にとって得難い経験になっているはずだ」
「……うん」
「じゃあ、あとは成長するだけだ」
「うん!」
なんだろう、なんだか相談に乗るのに慣れているような感じがする。
治癒魔法使いさんだから、精神的な治療もやっているのかな……?
「やっぱり私、お願いしてもいいですか!」
「え、なにを?」
「訓練です!!」
「……。よし、君がその気なら僕も手を貸そう」
「よろしくお願いしまばばばば!?」
勢いよく差し出した手にウサトさんが応じた瞬間、一瞬にしてロアさんの身体がレイン君と同じように崩れ落ちる。
あばばば!? とくぐもった悲鳴を上げる二人にドン引きする。
「ロアは初回だから遅めで加速させて、慣れたレインは速めだな」
「……え、速さとか調節できるものなんですか?」
「やってみたらできてしまった」
そう言うと、ウサトさんの肩にいるフクロウさんがぺしーん! と頬を叩く。
でも翼も柔らかそうなので、全然痛そうじゃない。
さっきから気になっていたけど、このフクロウはウサトさんの使い魔さんなのかな?
「それで、君はなにか聞きたいことはあるんだろう? もうこの際、関係ない相談でも全然大丈夫だよ」
「あ、いえ、私はちゃんと訓練とかそういうのなので大丈夫、です。多分」
……そりゃあ、いきなり訓練に参加したいって言ったらなにか目的があるのが分かるか。
軽く深呼吸をしてから、ここに来た目的を話してみる。
「光魔法について、お聞きしたいことがあるんです」
「光魔法? カズキ……リングル王国のもう一人の勇者についてかな?」
「はい」
魔王を打倒した勇者の一人、リュウセン・カズキ。
彼の持つ魔法はあらゆるものを消滅させる強力な光を操るものだ———私と違って。
「光魔法のことなら先輩もいた方がいいかな。せんぱーい!」
「———なにかなウサト君!? 光魔法のことかな!?」
ものすんごい速さで素振りからこちらへ近づいてきたスズネさんにのけぞる。
それに慣れた様子のウサトさんは、変わらず両手でレイン君とロアさんをあばばばさせながら、話を続ける。
「続けていいよ」
「え、あの……光魔法の使い手って少ないから、どういう訓練方法とかしているのか分からなくて」
「カズキは魔力操作を重点的に訓練していたけど……」
「うん。彼は基本的に魔力操作を徹底的に鍛え上げていたね。……エリシャ、君はなにか伸び悩んでいるところがあるのかな?」
「……はい」
私の光魔法は普通のものとは違って消滅の力がない。
光で構成された不可視の物質を作る光系統、というべきか。
なので光魔法のキモである消滅が機能していない。
もう私の魔法はバレているので、そこまで全部話しちゃうとウサトさんは「うーん」と思案に耽る。
「こう言ってはなんだけど、君の光魔法の特性はカズキが羨ましがりそうだね」
「え」
「そうだねぇ。彼、ずっと自分の魔法に悩んでいたから。どんなものでも消し去ってしまう危ない魔法だから普通に使えないって……そういう意味で、君の魔法はカズキ君よりも扱いやすいよ」
そんなこと初めて言われた。
私が光魔法だと知っている一部の人は、私の魔法が光魔法らしくないとか悪態をついていたけれど。
「そもそも彼が魔力操作を重点的に鍛えたのは、不用意に人を傷つけないようにするためなんだよ。自分の魔法の危険さを誰よりも理解しているからこそ、彼は努力を重ねた」
「……」
私は消滅の力がない、という欠点ばかりを考えていた。
それでバカにされたことも強く気にする原因にもなったけれど、確かにあらゆるものを消滅する力なんて普通に使う分でも危なすぎる。
……もしかして、先生もそれを分かっていたからあまり触れてこなかったのかなぁ。
そうだったらちょっと嬉しいかも。
「あの、ありがとうござ———」
「しかし訓練法か。君の魔法の特性を考えると、やっぱりカズキみたいに光魔法に乗って移動するようにするのがいいんじゃないかな?」
「フッ、私も同じことを考えていたよ。エリシャの魔法ならカズキ君よりも簡単に作れそうだね。むむ、いや待て。光魔法で不可視の剣とか、彼女の場合、矢とか作り出せたら色々すごいのでは!?」
「軽い身のこなしと、あらゆる場所を踏破できるこの子の光魔法の利便性を考えると、見えない武器という利点を生かしていっそのことクナイとか忍的な方向性もアリでは?」
「シノビ、そういうのもありだね……!!」
「いやいやいや、ちょ、ちょっと待ってください!!?」
数秒で私以上に私の魔法を理解しだした二人がとんでもない新技を作りだしてしどろもどろになる。
わ、私は光魔法の訓練法を教えてもらいたかっただけで、そこまでしてくれたら逆に申し訳ないしなにより———、
「あの、仮にも敵なんですからそこまでしなくても……」
「ん? 敵? なんのことだい?」
「いや、私は勇者集傑祭で競い合う……」
私の言葉に二人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「競争相手ではあるけど敵じゃないよ。君はネーシャ王国の勇者、君が強くなることはネーシャ王国に住む人々のためになることだからね」
「ウサト君の言う通り、同じ勇者同士。助け合わなくちゃね」
はっきり、そう言葉にする二人に言葉を失う。
これが“勇者”、自分から名乗らなくてもそう思わされてしまう説得力に、ここに来る前に先生に言われた言葉が思い起こされる。
『ある意味このお祭りで得られる経験以上に有意義な時間を過ごせるかもしれないからね』
確かに、私にとって有意義な時間なんだなって思う。
そして私もお姉ちゃんもこの人たちみたいに誰かを助けることに理由を求めない称号だけじゃない“勇者”になりたいと思った。
……一瞬、視界に映ったぶるぶる震えるレイン君とロアさんからは視線を逸らしながらそう思った。
「さて、それじゃあ続けて君の魔法を———」
「ウサト君」
「はい?」
スズネさんが訓練場の入口の方を見ながら、声色を変えてウサトさんの名前を呼ぶ。
彼と合わせてそちらを見ると、訓練場の入り口には———赤みがかった髪色の女性……え、カームへリオ王国の第一王女のナイア様がいる!?
なぜ、こんな早朝に王女様がここに!?
「……先輩」
「見つけたのかな? ……私が聞いてこよう。エリシャ、すまないが私はここを離れるよ」
「は、はい」
私に断りをいれたスズネさんはそのままナイア様の元へ行く。
その姿を見送ったウサトさんは、肩の力を抜く。
「あの、なにかあったんですか?」
「ん? あー、えーっと、気にしなくても大丈夫。問題とか起こったわけじゃないから」
あ、これは踏み込んじゃいけない内容だ。
多分機密とか色々関係しているものと察した私は、これ以上の追及をすることはやめた。
「……よし、訓練に戻ろうか。レイン、ロア! あと30分、頑張ろう!!」
「「~~~~!?」」
「……うわぁ」
でもこの訓練だけは絶対に受けたくないなぁ。
魔力回しを加速され、床で大変なことになっている二人を見て他人事のようにそんなことを思う。
さらっと魔力回しの速度を両手で使い分けるおかしな挙動をし始めたウサトでした。
今回の更新は以上となります。




