第四百二十七話
二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをお願いします。
色々あったけれど第一の試練が終わった。
試練終了直後に発表された得点は———、
1,リングル王国:8点(金1、銀6)
2,ネーシャ王国:4点(金2)
3,ミアラーク :3点(金1:銀1)
4,カーフ王国 :2点(金1)
4,ミルヴァ王国:2点(金1)
4,フレミア王国:2点(金1)
5,ガルガ王国 :0点
という結果に終わった。
結果だけ言えば先輩と僕がトップということで終わったけれど、あくまで腕章を奪えたのは最初の奇襲だけだったので、立ち回りとして僕が戦ったレオナさん達と明確な差があったわけではない。
むしろめっちゃ追い込まれて焦ったし、どの勇者も一筋縄じゃいかない凄い人たちばかりだった。
だけど、気がかりなのはランザスさんのことだ。
試練中に迎撃した系統強化と見間違うほどの風の魔法、あれは予想していた通りランザスさんの魔法だったが、それは彼が敵意をもって出したわけじゃなく彼と戦おうとしたリヴァルを迎撃するために仕方なく出したということだった。
……。
自身の身体を蝕むほどの大量の魔力の上に、限りなく系統強化に近い魔力。
彼の傍にはレインがいるので、魔法で生じた傷を僕が治す必要はなかったけど、それでも彼の現状を改めて知ると———彼に碌なケアもせずにこの祭りに参加させているミルヴァ王国側の意図を知りたくなる。
「君の言う通り、ランザスさんは療養するべき人だ。あまりにも戦いに向いていない」
第一の試練が終わったその夜、僕達は宿のリビングで今日起こったことを話していた。
昼間の試練の高揚が収まっていないのか、外が一般の人々の賑やかな声で溢れているのを耳にしながら、対面の席に座るネアにそう答える。
「彼個人の力は絶大なものでしょうね。その魔法の出力と威力だけで大抵の相手は吹き飛ばせるでしょうけど……今回のお祭りの試練の内容には明らかに合っていないわ」
「魔法使う度に怪我してるし、ボクから見ても相当扱いにくいと思うぞ」
ネアの言葉にフェルムも同意する。
彼の場合は魔力回しを練習するにも負荷がかかりそうだから、僕や先輩の習得した系統劣化を身に付けるのも厳しいかもしれない。
思案顔で腕を組んでいた先輩が苦々しい表情を浮かべる。
「悔しい話だが、彼のことは現状どうにもできないな。こちらからカームへリオ王国側に彼の状態を打診することはできるだろうが、結局はミルヴァ王国側の判断に委ねられてしまう」
「……できるとしても、お祭りが終わってから、ですか」
ランザスさんにはできるだけ戦闘から離れていてほしいが。今回みたいに戦いを挑まれると彼も応戦せざるをえないからなぁ。
「そもそもの問題、第二の試練がどうなるか……」
「まだ明かされていないけれど、また趣の異なる内容にはなりそうだね」
第一の試練の時点で相当だった。
というより観客の人々の反応がすごかったし、第二の試練も気合の入ったものになりそうだ。
「僕の印象、大変なことになってたなぁ」
「あれだけ暴れまわったらそうなるでしょうね」
貴公子とかそういう印象は払拭できたけど、それとは別にびっくり箱みたいな扱いをされるようになってしまった。
戦っているのを見ていて楽しいから子供人気とか凄くなったらしい。
「第二の試練では、今日みたいな連続戦闘は避けたいな……」
「楽しんでた人が何言ってるのかしら」
「楽しんでただろ」
「楽しんでないんですけど!?」
ジト目のネアとフェルムに全力で抗議する。
有意義な時間だったことはそうだけど、そんな人を戦闘狂みたいな目で見られるのは納得いかない。
「フッ、私も表情には出さなかったけど、楽しくはあったかな……!!」
「スズネ、第2巻16章285ページ“君の背中の暖かさ”」
「げはぁ!?」
「先輩!?」
ネアの呟きにむせたまま、椅子から転げ落ちる先輩。
なにがどうした!?
「よかったわねぇ。小説と同じシチュエーションを体験できて」
「へぐぅ……」
「観客もすごい反応だったわよ。これで誤解も一層深まったかもしれないわねぇ」
「せ、責められている!? この犬上鈴音が……!?」
嗜虐的な様子のネアに先輩が苦悶の表情を浮かべている。
すげぇ、試練で華麗な立ち回りを見せたリングル王国代表とは思えねぇ姿だぜ……!
第二巻にページ数ってことは例の小説かな? と思っていると、同じく気になったのか隣に座っていたフェルムがその巻数の本を手に取り、ページを開いていた。
「む!?」
「フェルム、なにが書いてある?」
「……ふぅー」
数秒ほど間を置いてから本をテーブルに置き、すくりと立ち上がったフェルムが未だに床に倒れている先輩の背中に腰を下ろす。
「うむぇっ、な、なにゆえ!?」
「……ウサト、お前は見ない方がいい。死ぬぞ」
「死ぬの!?」
僕が見たら死ぬの!?
とんでもねぇ本が一般に出回っているんだな、と内心恐々とする。
でも見てみたい気持ちはあるんだけど、それを読んで僕の心が耐えられるかどうか……!!
「本のことは置いておくとして……ウサト、また貴方変な技編み出したわね?」
「いや、ネア。今日出したのは派生形だし、なんなら出した技のほとんどが治癒残像拳という括りにしたので、実質新しいのは2、3個ぐらいしか———」
「2,3個でも多いのよ、このおバカ~!! 把握するこっちの身になりなさい!!」
ネアが僕の顔面を両手で掴み力を籠めてくる。
しかし悲しいことにローズのアイアンクローに慣れている僕にはあまり効果がない。
「ネア、よせ。僕が悪かった。正座しよう」
「こいつに効くお仕置きってなんなの本当に……!? 自覚が出てきて潔いのも腹立つわね!?」
いつまでも無自覚に仲間を振り回していいわけないからな。
やらかした自覚はあるので、素直に床に正座になる。
正座で床に座る僕、床に倒れる先輩とその背中に座るフェルム、そして仁王立ちのネア。
驚くほど、普通に椅子に座っている面子がいない。
「はぁ……それで、その治癒残像拳の改良型について説明しなさい」
「部分身代わりと残像を放つ残像波だね」
部分的に魔力の残像を纏う部分身代わりは、攻撃と防御の両方に使える汎用性の高い技。
残像波は、前方に放って盾にしたり相手にぶつけて怯ませたりもできる。
どちらも直接的な攻撃力はないけど、また戦いの幅が広がったら……いいな?
「あとは、治癒妨害もきっちり発動した」
「いきなりリズの魔法が切れたからもしかしたらと思ったけど、やっぱり使ったのね。……隣で見てたウルアもドン引きしてたわよ」
「ウルアさんと一緒に見てたの?」
「ええ」
試練にいないと思ったけど、あの人は観客席にいたのか。
というより、本当の従者はウルアさんで、リズとエリシャはどちらも勇者だったのか。
「ネア、君から見てウルアは怪しいかな?」
と、ここでようやく床から起き上がった先輩が真面目な声色でそう尋ねる。
「最初は怪しんだけれど、彼女は悪魔とは無関係でしょうね。純粋に教え子の成長を見守っていたようだし」
「ボクも同化した中から見てたけど、怪しいところはなかったな」
「ふむ。まあ、リズとエリシャの様子からして彼女に悪意がないのは分かっていたけど……」
ウルアさんは悪魔とは無関係って考えてもいいってことか。
それだけ分かれば十分だろう。
「先輩、次の試練までどれくらいあるかって知らされましたっけ?」
「いいや、まだだね。一週間以内には知らされる見込みだけど、それまでにナイアからシア・ガーミオについての情報が来てくれるとありがたいんだけどね」
「そう、ですね」
お祭りばかりに集中してられないからな。
僕達の本来の目的はシアについて調べること。
悪魔の眼があるから迂闊に動けないし、連絡待ちなのはもどかしいな。
「……その間、レインの訓練だな」
「貴方のことだから心配してないけど、あまりのめり込まないでよ?」
「フッ、心配するな。僕も魔王領での隊員達の指導を経て成長している」
「悪化してるの間違いじゃないかしら……」
さすがに冗談だけど、現状レインの訓練は魔力回しに集中だな。
……あ、そういえば。
「試練の後、クロードさんに頼まれたことがあったんだけどさ」
「む、ウサト君を弟子にしたいって話?」
「いえ、それはちゃんと断りました。……多分諦めてませんけど。ああ、いえ、その話じゃなくて」
試練の後、個人的な用事でクロードさんが僕に会いに来てくれたけど、その際に頼まれごとをされてしまったのだ。
「クロードさんの従者……お孫さんもレインとの訓練に立ち会わせてほしいって」
「え、それって指導とかじゃないってこと?」
「そこまでじゃないけど、魔力の扱いとかを見学したいんじゃないのかなって」
僕としてはレインへの指導の一環で魔力回しのコツとか、なんなら魔力の加速も教えてもいい。正直、現状あらゆる意味で未知の多い技術なので、少しでも使える人が増えてくれれば僕としても安心できるからね。
「従者同士で交流する機会みたいになってるねぇ」
「いえ、普通にアウーラさんとその従者さん二人もいるから……」
「なんかお祭りとは別枠のなにかと化してない貴方の周り……?」
普通に否定できない。
この流れだと訓練中にリズとか襲来してきそうで怖いんだけど。
大丈夫だよね? 試練以外で襲い掛かってこないよね? あの子からブルリンっぽい雰囲気を感じるが、それと同じくらいに戦闘大好きなコーガに近いなにかを感じてしまうから不安になってしまう。
どんどん人で賑わっていくレインとの訓練でした。
今回の更新は以上となります。




