第四百二十六話
緊急報告です。
アニメ「治癒魔法の間違った使い方」
ウサト、スズネ、アマコ、カズキを担当してくださる声優さんが発表されました。
詳しい内容については、活動報告、またはTwitterをご覧ください!!
そしてお待たせしました。
第四百二十六話です。
クロードさんとその従者によって放たれた頭上からかかる圧力。
上から風を叩きつけられるとかそういうレベルじゃないソレには覚えがあった。
「重力系統!? 本当にあったのか!!」
恐らく、重力に類する系統魔法!
上からかかる圧力をもろに食らった先輩は僕の背中に伏せるが、普段の鍛錬で慣れている僕は降り注ぐ圧力に構わず立ち上がる。
今、先輩は下ろせないな!
腕章を持っている上に、慣れないこの重さじゃ彼女も自由に動けない!
「先輩、無事ですか!?」
さっきから無言で重力に押し付けられるがまま僕の背中に沈んでいる先輩に声をかける。
「ウサト君誤解しないでくれこれは私が意図したことではない彼の魔法により密着してしまっている訳で小説の展開を現実に起こそうとしたわけではないんだ断じて役得だなんて思っていないし君の背中に顔を埋める暴挙に出てしまってこれが衆目に晒されて誤解が広まっている事実も理解しているが私には今のこの状況をどうにもでき———」
「先輩、早口すぎて全然聞き取れませんっ!」
そして耳元で声を出されると戦闘に支障がきたすくらいに気が散ります!!
僕の声に先輩はハッとした素振りを見せながら声を張り上げる。
「今私はめっちゃ冷静さを欠いているから気にしないでぇ!!」
「了ッ解!!」
上からかかる重力は背負っている先輩にも影響があるようで、今は僕が動くしかない。
先輩を包み込むように弾力付与をかけた上で、彼女を背中に吸着させるようにした僕は重力をものともせずに両足を肩幅まで広げ構える。
「師匠! あ、あの人、何事もなくしているんですけどぉ!! あれ!? 人も背負っているから普通の何倍も重いはずですね!?」
「そうだろうと思ったぜ!! ふんっ!」
ぶぅぅん、と掌に灰色の魔力を纏わせたクロードさんが地面にそれを放つと、灰色の力場のようなものが発生し、そこに落下したクロードさんと従者が重力に逆らうようにふわりと浮かんでから着地する。
「さあ、やってやろうじゃねぇか!」
着地と同時に豪快に槍を振り回した彼と従者が迫る。
この重力の影響も時間が経てば消える! なら、それまで凌ぎきればいいだけの話!!
「この程度の重力! 魔王のスクロールに比べれば軽いものよォ!!」
そして、僕の身体能力でも動けるということは———、
「ちょっと重いけど、全然平気」
「今年の祭りにはバカ力しかいねぇのかぁ!?」
当然、リズも動ける。
僕と同じくわりかし平気な顔で乱入してきた彼女と、僕、そしてクロードさんと従者が同時に接近する。
だが、僕は先輩を背負っており自由に使えるのは両足だけだから当然———、
「腕章返してくださぁい!!」
「むんっ!」
一番無防備に見える僕が集中して狙われる。
同時にこちらを見た従者の子とリズに頬を引きつらせる。
意図したわけじゃないだろうが同時に突き出される大刀と槍に対して、右足に弾力付与の魔力を纏わせ対応する。
まずはリズの大刀を横蹴りで逸らし!! 次に数瞬遅れて突き出される槍の穂先を踏みつけるようにして止める!!
「っ、なんなの、この人……!!」
「治癒魔法使い、だ!!」
「ハッ、にしては多彩すぎじゃねぇかぁ?」
従者の少女の槍は防げたが、後から狙いすましたように繰り出されたクロードさんの槍は迂闊に受けられない……!! 踏みつけた槍の穂先から足をどけ後ろに下がりながらクロードさんの槍を避けると、再度リズが飛びかかるように襲い掛かってくる。
「いつまで僕ばっかり襲って来るんだ君は!!」
「時間いっぱいまで?」
僕、そこまで君になにかしたかなぁ!?
しかし、嗅覚の鋭い彼女にはもう治癒崩しの効き目も薄い。
「すぅぅ!!」
治癒崩しだけでは彼女の動きを乱すことが無理と判断した僕は大きく息を吸い———喉の部分に魔力を集める。
口から魔法を出すのは汚いと思うけど、声と一緒なら———、
「わッ!!」
「ひん!?」
大声に乗せて強めの魔力の波動を放つ。
まさかの戦法にリズが小さな悲鳴を上げて震え、大刀を手離す。
フッ、この場限りの技だけど、治癒声崩しとでも名付けるかな!! そして!! さりげなく接近している上に、槍の薙ぎ払いを放つクロードさんの攻撃を弾力付与を纏わせた足で受ける!!
ッ、普通に……痛いけど、我慢!!
「とんでもねぇ声だな!!」
「こっちもギリギリですよ!!」
「まだまだ余裕そうだけどなぁ!!」
各国の最高戦力の勇者を連続、んでもって同時に相手するのは大変だ!!
なんとか弾力付与を纏わせた足で槍を捌き、突きの一撃を避ける形で後ろへ下がると———ようやく僕達へ影響を与えていた重力が消え、身体が軽くなる。
「先輩、解除されたようです!!」
「えっ、お、おお、そうか! うん、よくぞやってくれたね! 褒美をとらす!!」
言動滅茶苦茶ですけど本当に大丈夫ですか?
ちょっと躊躇する素振りをみせながら背中から降りた先輩は、視線を切り替えリズを見る。
「ウサト君、彼女の相手は私に任せてもらおう」
「え、獣人だからですか?」
「いや、それ以外の理由だ。フッ、心配するな。今の私は魔王すら凌駕するほどに力に満ち溢れている」
「そ、そうですか……?」
でも本当だ。すごいやる気に満ち溢れている。
これなら無手でも任せてもいいかもしれない。
「イヌカミ、どうやらお前と決着をつけないといけないみたい」
「ふっ、それはこちらの台詞だ。パワー系クマミミ勇者よ」
「……なんて?」
足を半歩踏み出すように開き、軽く開いた両手を前に突き出した先輩に、リズはナギさんと同じ戌走りの構えを取る。
そして、同じく距離をとっていたクロードさんも槍を構えながら従者に話しかけている。
「ロア、お前は勇者イヌカミと勇者リズだ」
「私が勇者をですか!?」
「肩書きに騙されんな。制限なしで野放しになってるやべぇやつを俺が相手する」
「は、はい!」
一瞬、僕に視線を向けてから先輩に槍を向けるロアと呼ばれた少女。
「我が名は勇者クロードの弟子ロア! 勇者イヌカミ様!! 勇者リズ様!! 手合わせ、お願いします!」
「フッ、重力使いで槍使いか。その意気や良し! かわいい!!」
「むぅ、エリシャに似てる……やりにくい……」
かっこよく口上を言おうとして、欲望が勝って情緒不安定な人になっちゃってる!!
「さあ、連戦で悪ぃがやろうぜ!!」
「よろしくお願いします!」
これは殺し合いではなく、試合だ!
卑怯も何もない! むしろクロードさんのような歴戦の実力者の胸を借りれる貴重な機会だ!! これを受けて立たずにいられるか!!
クロードさんの突き出す槍を避け、さらに大きく踏み込んだ僕が掌底を放つ。
「いい判断だ」
「っ」
「だが、掌底たぁ、嘗めすぎだぜ?」
しかし、後ろ手で隠すように指先に魔力弾を作り出していたクロードさんが、至近距離で僕の胴体にそれを放った。
痛みはない。
だが次の瞬間、まるで僕の立っている位置だけが重力の向きが変わったかのように、僕の身体が真後ろへ吹き飛んだ。
「……!」
そのまま家屋を貫通し、隣の街道にまで吹き飛ばされてしまう。
防御のために纏った治癒残像拳を破り捨て、地面に着地しながら服に着いた木片を落とす。
「攻撃力はないけど、はじめて経験するタイプの魔法だな」
重力で圧殺、という感じではなくシンプルに向きを変えて混乱させる使い方をしてくると見た。
掌で魔力弾を握りつぶし、治癒感知の範囲を広げながら僕が突き破った家屋の穴からやってきたクロードさんと相対する。
「先輩の方と戦った方がいいんじゃないですか?」
「ハッ、点数が多いお前さんを狙う方が合理的だろう? それに、だ。魔法を制限されたイヌカミ以上にお前さんの方が厄介だ」
「いや、割と厄介さでは先輩の方が上かと」
真っ当になんでもできるからな、先輩は。
僕の言うことも理解できるのか、からからと笑いながらクロードさんが槍を構える。
「どっちも同じようなもんだ。……あとは可愛い孫娘に勇者との戦闘を経験させたかったからな」
「むしろそっちが本命でしょう」
「仕方ねぇだろ。初孫なんだから、よ!」
そう言葉にすると同時に穂先をこちらに向けるようにクロードさんが構え、攻撃を仕掛けてくる。
十字槍、単純に攻撃の範囲すらも幅広い突きを前にし、冷静に見極めていく。
穂先を拳で弾き、一気に槍の射程の内側に潜り込む。
「っ」
しかし、潜り込んだ瞬間、穂先を弾いた手が地面に引っ張られ体勢を崩しかける。
「この重さ、まさか……!」
「その通り!」
無理やり腕を持ち上げた僕にクロードさんの槍が迫る。
僕はギリギリで槍を避けるが、突き出された槍はすぐに引き戻され、十字槍の特徴である十字の刃が僕の肩をひっかけるようにして迫る。
「チッ」
治癒感知でそれを察知した僕は、あえて腕の重さを利用し前のめりに倒れて槍を避ける。
ッ、重さが解けた! 魔法の影響は十秒くらいか!?
だが、槍が引き戻されたということは———すぐに次の攻撃が迫ることを意味している!
「見切れてはいるんだけど……!!」
「それだけじゃねぇのが、技術ってやつさ!」
再度、突き出される槍。
目を凝らせば彼の灰色の魔力が纏われているのが見え、迂闊に触れるのもまずそうだ———が、ならば、と思い重さ覚悟であえて穂先を掴み、引き寄せる形でクロードさんへ掌底を繰り出す。
「甘ぇなぁ!!」
「なにをっ……ッ!?」
穂先を掴んだ手が後ろへ引っ張られる。
重力と聞いて真下に引っ張られることを意識していた僕はそのおかしな挙動に虚を突かれた。
「しかし、ぬぅん!!」
「おおう!?」
硬直する前に無理やり腕を引き戻し、片手で掴んだ槍の穂先を振り回し、クロードさんから無理やり距離を取る。
「俺の魔法は重力系統の魔法ってのは分かったな?」
危なげなく着地したクロードさんは説明するような口調で口を開いた。
自由に力を向ける方向を変えられる、と考えれば彼の空中を飛んでいた妙な加速もうなづける。
「さて、こっちの魔法のことを理解してきたな?」
「なんだかんだで親切ですね」
「殺し合いでもねぇし、奇襲かけてまでこの状況に持ち込んだんだ。なんなら、この状況を楽しまなきゃ損じゃねぇか?」
クロードさんの言葉に応えるように僕は両腕に魔力を纏わせる。
彼も笑みを浮かべて、ぐるり、と槍を回し穂先を斜めに構える。
数瞬の静寂の後に、大きく後ろへ下がった僕が複数の魔力弾をまとめて投げつける。
「そうくるか」
投げつけられた魔力弾に対してクロードさんは穂先に灰色の魔力を纏わせた槍を薙ぐように振るうと、彼の正面に重力の力場のようなものが発生し、魔力弾が全て地面へ叩き落される。
「魔力弾は効果なし、か。……!」
さらに深く構えた彼が空を突くように槍を放つと、突きに合わせて灰色の魔力弾が弾丸のように飛んでくる。
しかも一つだけじゃない。
連続の突きにより放たれた魔力弾を前にし僕は部分身代わりを駆使して重力へ対応しながら、接近してきたクロードさんを見据える。
ダァン!! という踏み込みを響かせた彼は射貫くように槍を突き出す。
「かァッ!」
魔力もない、ただの突き―――なんて甘っちょろいものじゃない。
こちらの回避を全て潰さんばかりの気迫と共に放たれたソレに僕は全力の防御を行う。
「はぁッ!!」
最初の突きを腕に一度当てる形で受け流し、懐に入り込もうとするも突きは即座に薙ぎ払いに派生。
薙ぎ払いを避けると、次は槍を引き抜く動作で穂先の十字の刃が鎌のように僕の肩へ。
これを槍の柄を手で跳ね上げ回避、しかし流れるように跳ね上げた勢いを利用した下方からの石突きの振り上げが迫り、それも避ける。
この人の一連の動きは全て繋がっている。
こちらの防御・回避・攻撃に対しての全てを想定した動きを的確に繰り出し、優位をとらせてくれない!
「ここだ!」
重力の魔力を織り交ぜた槍の連撃にギリギリで対応し、その全てを捌ききりながらようやく拳が届く距離に迫り、治癒パンチを振るう。
治癒パンチはクロードさんの胴体を捉え———たように思えたが、あまりにも手ごたえが軽い。
「っ、……!! 効くなぁ!!」
魔力に内包された重力で防がれた!? なんて応用力のある魔法なんだ……!!
だが、ここで休む暇は与えない。
こちらも追随するように踏み込むと、彼も応戦する。
「ふん!」
「ハッ!」
穂先に纏わせた魔力が攻撃と同時に設置され、まるで罠のように僕の動きを阻害してくる。
僕は手に灰色の魔力が触れた瞬間、腕に纏わせていた魔力を脱ぎ捨てるように分離させる。
治癒残像拳の応用———部分身代わり。
レオナさんの魔力弾を対策すべく編み出したこの技は、こんなところでも役に立つ!
「いや、ひっくるめてこれも残像拳か!!」
いい加減、分身を囮にすることだけを残像拳と呼ぶのではなく、部分身代わりを含めたものを残像拳と呼ぶようにしよう。
右腕に部分的に纏わせた残像拳を放った後、即座に腕を引き———より大きな勢いをつけて右腕を振るう。
「ふんっ!!」
「む!?」
クロードさんからしてみれば、きっと僕の右腕が二つに見えるように錯覚させた一撃。
しかしそこは歴戦の猛者、ギリギリながらも攻撃を見極めこちらの本命の攻撃を捌きながら後ろへ下がり、魔力弾を放つ。
「まだまだァ!!」
防御に構えた腕を形どった魔力が重力によりへしゃげたことを確認しながら、槍の間合いを取るクロードさんに、掌を広げた掌底を飛ばす。
突然、腕が伸びたように錯覚する攻撃に虚を突かれたクロードさんはすぐに我に返ると、柄で魔力を弾きながら引きつった笑みを浮かべる。
「残像拳はこういう風にも使えます!」
「治癒魔法ってそういうもんだったかぁ!?」
強く踏み込み距離を詰めにかかるが、あちらも年齢を感じさせない正確な槍捌きでこちらの動きを牽制し、魔法で制限しにかかってくる。
「「———ッ」」
弾力付与の治癒魔法を纏わせた拳と、重力を纏わせた槍がぶつかり、僕達は距離を取るように後ろへ弾かれる。
あれほど濃密な攻防戦を繰り広げはしたが、お互いに有効な攻撃を与えられていない。
「……やっぱり弟子にならない? 駄目?」
「いや、またこの問答ですか?」
仕切り直すようにそう言葉にしたクロードさんに、僕も少し肩の力を抜きながら返答する。
「とんでもねぇぜ。いくら魔法が制限されていようが、今の純粋な攻防は小手先なんてものじゃ誤魔化せねぇ。常軌を逸した鍛錬と格上を相手に磨き上げて身体にしみつく動きだ」
彼に褒められ、少し誇らしい気持ちになる。
だけれど、僕の気持ちは変わらない。
「魅力的な提案ですが、前に答えた通りお断りします」
「じゃあ、弟子じゃなくていいから俺の技を継いでくれ」
「今どこらへんを妥協しました?」
それはむしろ弟子になる以上に大変なことなのでは?
きっとクロードさんの弟子になって彼の技を学ぶのはとても有意義なことなんだろう。
だけど、僕はまだ師匠であるローズに教えてもらっていないことがたくさんあるし、何より僕はまだローズという最強にして最大の壁を乗り越えていないのだから。
「さて、続きを———」
僕とクロードさんが再び動き出そうとした瞬間、僕が穴を開けた家屋の壁が弾け、二つの人影がこちらに飛んできた。
「とんでもないパワーだが、今の私はスーパーだ!! 力押しだけでは負けないぞ!!」
「うるさい。びりびりする」
大刀を携えたリズと、見覚えのある槍を手にした先輩が同時に僕とクロードさんのいる路地へ現れる。
こちらを一瞥して、リズから距離をとった先輩が僕の隣へ移動してくる。
「フッ、見たところ健闘しているようだね!!」
「えぇまあ……先輩、一応聞いておきますが、その槍はどうしたんですか?」
「借りてきた!」
借りてきたって、それってさっきの子の……。
『おじいちゃぁーん! 槍とられちゃったぁぁ!!』
「ロア、お前……」
なんかさっきも見た光景があそこでも……。
いや、先輩武器ないしなんなら奪った方がいいんだろうけど、なんだろうこっちの悪役感がすごい。
さっきまで楽しそうに戦っていたクロードさんも泣きじゃくる従者……いや、お孫さんを見て額を手で押さえている。
「また乱戦ですかね……」
「こっちは二人だけど、まあ、状況は変わらないよね」
結果的に一番ポイントを持っているのは僕たちなので基本集中攻撃されて当然なんだ。
というより、リズは一貫して僕と戦おうとしているし、クロードさんもここで退くような勿体ないことはしないはずだ。
「どうします? そちらは一旦退きますか?」
「あん? 冗談じゃねぇ。こんなところで芋引くほど俺ァ、落ちぶれちゃいねぇぞ」
「私も、まだまだ暴れたりない」
クロードさんは分かるとして、君はもうストレス発散にきてない?
まだまだ乱戦が続くことを悟り、僕達が再び戦闘態勢に移ろうとした瞬間———何らかの破壊音が聞こえる。
「「「「!」」」」
その場にいた全員が同じ方向を見る。
この音は……!!
「先輩!!」
「ああ、こちらに来るね!!」
治癒爆裂弾を音のする方へ投げつけ、起爆と同時に魔力感知を発動させる。
発動と同時に感じ取ったのは、こちらに真っすぐに迫る嵐のような何か。
なんだこれ!? ネロさんの系統強化!? いや、魔法なのか!? しかもこの勢い、下手をすれば観客席にまで向かうぞ!!
先輩の肩に手を置き治癒感知の情報を共有させながら、治癒爆裂弾を作り出す。
「ウサト君!」
「ええ、止めます!!」
僕が治癒爆裂弾を構え、先輩が大きく翻した槍の穂先に電撃を迸らせる。
「クロードさん、リズ!!」
さすがに試練どころではないと二人も察したのか、僕の声に頷きながら並ぶ。
「試練での催し、ってわけじゃないですよね!」
「少なくとも長年参加した俺も知らねぇな!」
僕の脳裏に浮かんだのは尋常じゃない魔力を持つ勇者の一人。
だが、温和な彼がここまでの破壊をもたらす魔法をおいそれと放つだろうか?
「強めに打たなきゃならんか。おい、ネーシャ王国の! 孫娘を頼む!!」
「分かった。私はエリシャと貴方の従者を守る」
「頼んだぜ!」
クロードさんの両手に灰色の魔力が集まり、バレーボール大の魔力弾が作られる。
僕達は同時に攻撃を放った———瞬間、視線の先の家屋を破壊しながら竜巻のような現象が現れ、それに魔力弾が激突する。
衝撃波と電撃と重力。
三つの異なる攻撃により竜巻は吹き飛び、巻き上げられた瓦礫が周囲へまき散らされそうになったが、それよりも早くいくつもの青い魔力弾がぶつけり、そのほとんどを凍り付かせてしまった。
「レオナさんも手を貸してくれたか……」
しかし、今の攻撃は……。
街中に刻み付けられた竜巻の傷跡。
まるで系統強化を思わせるその威力に顔を顰めていると、僕達の近くの家の瓦礫から声が聞こえてくる。
『わ、私死ぬんだ!! アッ、ワッ……死ぬんだァ……!』
『た、助けてぇぇ!!』
『うわぁぁん! 死ぬならレポートまとめてからっ!!』
「今助けます!!」
「私も手伝う」
リズと一緒に瓦礫をどかすと、隙間に三人で互いに抱き合いながらさめざめと泣いているフレミア王国のアウーラさんとその従者二人がいた。
……危ないところだったけど、なにやっているんだこの人たちは……。
「あ、ありがとうございますぅぅ! ウサトさぁぁん!!」
「あーちゃん、私死んだかと思ったぁぁぁ!!」
「うわぁぁん、安全圏から皆さん観察してたバチが当たったのよきっとぉ!!」
この人たち戦闘放棄してずっと僕達を見ていたのか。
なんとなくそこで見ているなぁーと捨て置いたけど、普通にかわいそうに思えてきてしまうな。
「しかし、さっきの攻撃はいったい……」
「あの魔法、多分ミルヴァ王国の勇者の」
「……ランザスさんの、か」
リズの言葉に僕は考え込んでしまう。
あの人は率先してこの試練には参加しないと思っていたけど、どうしてこんな威力の魔法を……。
……まさか、弱めて放ってもこれなのか?
いや、でも彼の魔力量を考えたらおかしな話じゃない。
「でも、もう戦う雰囲気じゃないよなぁ」
「そうだね。必要だったとはいえ協力しちゃったしね」
先輩も槍を肩に担ぎながら、こちらに近づいてくる。
クロードさんも今の状況が主催者側が意図したものではないと分かっているのか、こちらに戦意を向けずに泣きじゃくる従者……お孫さんに話しかけている。
「私はやる気満々」
「君も落ち着いた方がいいと思う」
もうそれ僕と戦うことだけが目的と化してるじゃん君……。
リズの様子にげんなりとしていると頭上からひらひらと何かが落ちてきた。
金色の布。
煤汚れた腕章は、風に舞いながら、ひらひらと落下地点にいたリズの手の中に落ちていった。
「んー……むん、どこのか分からないけど2点獲得」
「それでいいの……?」
「その強かさ、見習うものがあるな」
「先輩はこれ以上強かにならないでください。あと、その槍を返してあげなさい」
……そもそも、この金色の腕章は誰のだ?
レオナさんでもクロードさんでもないし、未だに泣きじゃくるアウーラさんも腕章をつけているから……これはリヴァルかランザスさんのもののどちらかかな?
『勇者の皆々様! 一部、予期しない状況が起こってしまいましたが、第一の試練を終了とさせていただきます!』
『うむ!! 第一の試練は各国の勇者が己が技術で鎬を削るものだったが、まさか最後の最後に異なる国の代表たる勇者が協力する姿を見せてくれるとは思いもしなかった! フッフッフ、本当に良い試練であった!! 次の第二の試練が今から待ち遠しいぞぉ!!』
『まもなく点数の集計を発表いたしますので、勇者・従者の皆々様方はお戻りくださーい!』
明らかにテンションがおかしくなっている王様のお言葉の後に観客席の喝采の声が響いてくる。
最後の最後に色々とアクシデントが起こってしまったけど、とりあえずは第一の試練が終わった……てことでいいんだよね?
「でも……はぁ」
……戻ったらネアがブチギレてそうだなぁ、うん。
結果的に荒らしに荒しまくったウサトとスズネでした。
乱戦形式の戦闘描写は大変でしたが、書いていてとても楽しかったです。
今回の更新は以上となります。
※※※
ウサト、スズネ、カズキ、アマコの声優発表に際して活動報告を書かせていただきました。
こちら、興味のある方はご覧になってみてください。




