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第四百二十四話

お待たせしてしまい本当に申し訳ありません!

戦闘描写が色々と引っかかるものがありましたので全体的に書き直していました。


今回はレオナ視点からお送りします。

 勇者集傑祭が行われるカームへリオに向かうその前日。

 私はファルガ様がいらっしゃるミアラーク深部のクレハの泉で、彼からウサトについての話を聞いていた。

 内容はカームへリオで彼が行おうとしていること。

 勇者ヒサゴの記憶を持っているという少女、シア・ガーミオについての情報を集めるべく、彼女の故郷であり勇者がその生涯を終えたカームへリオへ赴こうとしている。


「魔力感知は習得したようだな」

「はっ」


 ウサトが編み出した魔力操作における新たな技術。

 魔力そのものに感覚を持たせ、それを感じ取ることで魔力に触れたあらゆるものを察知する。


「ファルガ様のお力を借りてようやく、といったところですが」

「実戦に通用する段階にまで使えるようになった時点で上出来だ。そもそもあの技術は我にとっても謎が多い」


 魔力感知を習得できたのは、ファルガ様のお力添えがあったことと私自身が系統強化という繊細な魔力操作を必要とする技術を習得しているからに他ならない。


「今のお前ならば悪魔の存在を感じ取り、対応することができるだろう」

「……はい」


 悪魔という存在はウサトによって何度も撃退されているが、それは悪魔に対して耐性がある彼だからできることで、普通の人間ならば心を操られ傀儡とされてもおかしくはない。

 なにより、世界に溶け込む魔術を用いることであらゆる場所に潜り込める時点で脅威だ。

 だが、これからは彼だけが悪魔を相手取るわけではない。

 私も勇者として彼、ウサトの力になることができる。


「今のウサトには我の籠手はない」

「……その件については、ノルン様よりお聞きいたしました」


 先の戦いで彼はシア・ガーミオに勇者の武具である籠手を奪われてしまったという。

 彼の防御の要であり、魔力の暴発から身を護る籠手を失ったことに私も少なからず動揺こそしたが、その一方でファルガ様は少しの動揺も見せずに私を見下ろした。


「だが、そのことで奴が弱体化するということはない」

「それは、なぜでしょうか」

「勇者の武具とは、可能性の先をその身に宿すものだ」


 そのお話は以前お聞きしたことがある。

 勇者の武具は無作為に力を与えるものではなく、使い手の潜在能力を引き出すもの。

 強大な力を振るっているように見えるそれらは結局のところ、自身が至れる可能性を引き出しているに過ぎない。

 だからこそ、ウサトが勇者の武具である籠手を必要としないことは驚愕に値することなのだ。


「成長しつづければいずれ我が武具の力を必要とせずに、その力を振るうことができる」

「それは、私にも?」

「無論だ」


 ……精進しなくてはな。

 勇者の武具という未来の可能性の力に呑まれず、私は成長しつづけなければならない。

 改めてそう決断していると、ファルガ様は続けて言葉を発する。


「ウサトという人間は、ヒサゴと同じく誰が何を言うまでもなく己の可能性の先を自らのものにし、さらに成長し続けている―――やはり、人間はいつだって我の想像を超えていく」


 そう呟いたファルガ様の表情はどことなく嬉しそうに見えた。



 ファルガ様との会話を思い出しながら、第一の試練の場である都市内部の家屋の上からウサトと、彼が戦っているネーシャ王国の勇者、リズを見下ろす。

 彼の戦いは以前のそれよりも大きく変わっていた。

 以前の、私の知っているウサトの戦い方は籠手での防御を中心としたものだった。

 しかし、今のウサトの戦い方はあらゆる攻撃に対応できる柔軟性と力強さを感じられる―――戦う相手としては非常に厄介なものへ練り上げられていた。


「そうこなくてはな」


 木剣を引き抜きながら、左手に纏わせた氷の魔力を放射するように放つ。

 氷の結晶が雪のように広範囲に降り注ぎ、私の魔力感知範囲を大きく広げてくれる。


「ふぅ」


 今一度呼吸を整える。

 ミルファとは既に打ち合わせ済み、あとは私の頑張りにかかっているが———それ以上に今の状況に高揚せずにはいられない。

 今、私が手にしているのは試練の開始前から用意していた氷でできた剣と盾。

 剣は、木剣の柄を覆うように刃の部分を氷で形成、盾は取り回しの利くラウンドシールド型に作り、攻撃を受け流しやすいように丸みを帯びさせている。

 これらに関しては少しばかりズルをしているが、ミルファ曰く「貴女はちょっとずるいほうが丁度いいのよ!」とのことなので大丈夫だろう、多分。


「……行こうか」


 舞い上がる氷の結晶と共に屋根から飛び降りる。

 自ら放出した氷の結晶にウサトとリズが気づいたところで、二人の傍に着地する。


「レオナさん!」

「さあ、君の腕章を渡してもらおうか!」


 する気は欠片もないが、不意打ちは同じ感知能力を持つウサトには無意味だ。

 そしてこのリズという獣人の勇者も、どこかなにかしらの感知手段を持っているので同じ。

 ならば、ここは正々堂々と参戦させていただこう。


「邪魔、ミアラークの勇者」


 しかし、相手はウサトだけではない。

 ネーシャ王国の勇者、リズ。橙色の髪の隙間から獣人特有の縦長の瞳孔で睨みつけた彼女は、身の丈を優に超える大刀を軽々と振り回しながら攻撃を仕掛けてくる。


「はぁ!!」


 遠心力を乗せられた大刀の一撃を氷の盾で受け流す。

 膂力も並みじゃない。

 それにこの動きは……!


「カンナギ殿の体術か!」

「まるで実際に会ったような口ぶりだね」

「その通り、だ!」


 剣でリズの繰り出す大刀を流すように打ち合い、彼女が大振りに構えたところで盾を叩きつける。


「っ」


 怯んだリズが僅かに後ろに後退すると同時に、即座にこちらに拳による攻撃を仕掛けてきたウサトの拳を盾で受け止める。

 少なくない衝撃が盾から腕に響くが、彼の一撃を以てしても盾は壊れない。

 攻撃を仕掛けてきたウサトは盾の強度に目を見開いた後に、不敵な笑みを浮かべる。


「レオナさん! 系統強化は禁止じゃなかったんですか!」

「試練中はな! その前に作っておけば問題ないだろう!!」

「確かに!!」


 この剣と盾は、試練開始前に系統強化を用いて作り出したものだ。

 これがあれば君の膂力にも対応できる!


「ミアラークの勇者、厄介だね」

「「!」」

「闘い方が私の苦手なタイプ」


 立て直したリズも参戦してくる。

 ウサトの意識がリズへ向けられた隙を見て、彼の拳を受けた盾をいなし、回転と同時に氷の魔力を纏わせた斬撃を見舞う。

 それに対して、ウサトは魔力を纏わせた掌で斬撃を受け流しながらリズが繰り出した大刀の一撃を避ける。

 リズとウサトが視界内にいることを確認した私は氷の盾に魔力を込め、吹雪のように放射状に放つ。凍てつく風がウサトとリズに叩きつけられるが、二人は微塵も動きを鈍らせることなく動き出した。


「寒いところは慣れっこ」

「根性!!」

「君は相変わらずだなぁ!!」


 リズは寒い場所で育ったという理由があるが、ウサトに関しては常識外れもいいところだ。

 だが、それを疑問に思わないくらいには彼のことは知っているつもりだ。


「そこだ!」


 魔力感知の習得は、私の氷の魔法に少なくない影響を与えた。

 掌で念じて魔法を放つのではなく、背中に複数の魔力弾を生成し———それらをリズとウサトへ向けて放つ。

 ウサトは魔力を受け流そうと掌に魔力を纏わせ、リズは大刀で叩き落とそうとする———が、接触と同時に魔力弾が破裂するように発動し、内包された魔力が彼らの動きを阻害するように凍らせる。


「受け流せない!?」

「なにっ……これ」


 魔力感知は自身から離れた魔力に意思を反映する技術だ。

 これまで漠然と操っていた魔力操作の先、着弾と同時に発動するしかなかった魔力弾も、今では私の意思でどのようなタイミングでも発動させることができる。

 ウサトは右腕を、リズは下半身と大刀を持つ右腕を凍らされたことで動きを制限された———が、リズの腕章ごと氷におおわれてしまったので、狙いは変わらずウサトだ。


「さあ、腕章を渡してもらうぞ」

「取れるものなら……!!」


 今回の試練において、私は勇者の武具を使えないという制限を課されている。

 だがそれもウサトも同じ、彼はフェルムを中心とした同化を行わず、ネアによる補助もない。その上、彼の戦法の一つである魔力の暴発も大きく制限されている。

 しかし、彼の凄まじいところは、それではない。


「ふんっ」


 彼が腕に力をいれると、バキィィン!! と腕を覆う氷が砕け散る。

 さらに両腕に緑の治癒魔法の魔力を纏わせた彼に、背後に複数の魔力弾を生成させながらこちらから攻撃を仕掛ける。


「ノーモーションで魔力弾を! っ!」


 彼に剣を振るうと同時に生成した魔力弾を放つ。

 私が繰り出した剣と弧を描きながら周囲から襲い掛かるように迫る魔力弾による同時攻撃に対して、彼は迷いなく私の剣の峰の部分を拳で弾きながら襲い掛かる魔力弾を目視もせずに避けていく。

 ———魔力感知による状況把握能力。

 私が魔力感知を習得したことにより得た恩恵は、状況把握能力によってもたらされる魔力操作の延長であるが、ウサトに至っては私以上に単純だ。


「分かれば避けれる、と言えば簡単だが!!」


 視界外から迫る魔力弾すらも彼には最早、意味がない。

 どれだけ取り囲み、同時攻撃しようとも針の穴を縫うような正確さで回避・対応される。

 しかし、それはこちらも同じ!


「フッ!」

「ぬんっ!」


 攻撃の瞬間に同時に魔力弾を襲い掛からせる。

 そして、一つをわざと炸裂———囮にし、あとの二つをウサトに直撃させる!


「むっ!?」


 腕と足を凍らせた!

 あとはまとめて動きを———ッ!

 足を止めながら追加の魔力弾を放とうとした瞬間、腕と足を凍り付かせその場に釘付けにされた彼が、凍ったその場に腕と足(・・・)を置いて移動する。


「なっ!?」


 腕と足を切り離した!? いや、違う!!

 魔力弾は最初から彼自身には直撃していない!! 当たったのは……魔力の残像か!!


「治癒残像拳———二の型、部分身代わり」


 ッ、腕と足を魔力で包み込み囮にしたか!!

 そんな技、さっきまで……さては今初めて使ったな!! 君は本当にそういうことをする!! 初めて会った時からそういうところはまったく変わっていないな!?


「だがそれも、君が積み上げてきたものか!」


 驚愕と動揺を即座に鎮め、一気にこちらに踏み込んできた彼に意識を注視し、こちらに流れを戻すべく生成しかけていた魔力弾を彼目掛けて放つ。


「その魔力弾はもう通用しませんよぉ!!」


 彼は避けずに魔力弾を腕で受け止め———腕を引き抜く動作で、腕を形作った魔力を切り離し魔力弾を防いでしまう。

 一瞬、腕が複数に増えるように錯覚させた彼は、腕を横に広げるように構える。


「迂闊に触れられないなら、触れて防げばいい!!」


 遠くでネアが恐怖の叫び声をあげる幻聴が聞こえた気がした。

 即座に氷結させる魔力弾はもう彼には効かない!

 相変わらずの対応力に舌を巻きながら、自然と私も笑みを強めてしまう。


「ミアラークの時を思い出すな」

「ええ!!」


 思わず呟いた言葉にウサトが答える。

 初めて君に出会った時、まだ戦いに不慣れな少年だった。

 そんな君が数えきれない修羅場を潜り、成長し続けたことを自分のことのように嬉しく思えてしまう。


「ふんっ!!」


 魔力を腕に纏わせたウサトが右拳を放つ。

 それを剣で叩き落したと同時に、別方向の角度からもう一つの右拳(・・)が飛び、一瞬頭が混乱する。

 分身する腕を用いたフェイントか! 直前まで見切れないとは……!!

 魔力を纏った彼の拳が抜け殻のようにその場に残留し、こちらの視界を阻害しながら実体を伴った拳が迫る。


「くっ!」


 受け流せず正面から拳を受け後ずさりしながら、追撃を防ぐ魔力弾を咄嗟に放ち牽制する。

 拳一つまともに受けるだけでこの痺れ……やはりとんでもないな、君は!


「だがあの時と同じ、私も簡単にやられはしないぞ!」


 背後に氷剣の代わりに作り出した非攻撃用の細い氷の柱を四本作り出し、近接戦闘へ切り替える。


「治癒残像波!」


 これも新しい技か!

 目視と魔力感知で確認し、こちらも続けて氷柱を周囲に飛ばし盾を構えながら接近戦へ持ち込む。

 縦横無尽に動き回り、挟み込むように迫る氷柱を回避する彼に剣を振る———、


「———治癒崩し」


 瞬間、先ほどから放たれていた治癒魔法の波動に変化が起きる。

 魔力の感覚でそれを察知した私は、その波動にぶつける形で氷の魔力を放ち相殺させる。


「なっ!」

「技を使えるのは君だけではない!!」


 強く引き絞った左の盾を突き出し同時に氷の魔力を発動し、ウサトの身体を後ろへ吹き飛ばす。

 後ずさりしながら防御する腕を解いた彼は、驚きに目を丸くしながら笑みを浮かべた。


「やっぱり、さすがすぎます」

「君に教えられた技術だからな」


 ウサトが掌に生成させた魔力弾を握りつぶし、私は剣に纏わせた氷の魔力を振りまき———互いに魔力感知範囲を広げる。

 互いの感知範囲内が同等ならば、私とウサトの戦いは魔力感知を用いた情報戦に帰結する。


「「!」」


 そのまま戦闘を続けようとした瞬間、私とウサトが新たに広げた魔力感知範囲内に———氷の拘束を力技で破壊したリズが、こちら目掛けて跳躍しながらその身に白い魔力を纏いながら高く振り上げた大刀を振り下ろそうとするのを察知する。


「私を無視して、楽しむな」


 私とウサトが同時に後ろへ飛びのくと同時に大刀が地面へ叩きつけられ、尋常じゃない衝撃と破壊が街中の地面へと叩きつけられた。



 本当はフレミア王国の勇者なんかやりたくなかった。

 魔法の試射のため訓練場で研究成果をお披露目して、いらない注目を浴びてしまったせいで私は勇者に任命され、勇者集傑祭への参加を余儀なくされた。

 私はただ研究したかった。

 系統魔法による魔法の属性とはなにか?

 肉体から発せられる魔法の属性とはどのようなプロセスを得て具現化されているのか?

 例えるのなら、私の持つ炎の魔法を例に挙げるとしよう。

 炎の系統とは、身体から直接炎が魔法として出ているのだろうか? それは違う。物事には順序というものがあり、火が炎として燃え上がるに多くの要因が必要だ。

 だが、事実として魔法として炎が生成される。

 その謎を研究し、私は———魔法には形となるひとつ前の段階に分割できるのではないかという仮説を立てた。

 結果として仮説は正しかった。

 私は魔法を発動する過程で、炎の魔法を“火”と“風”に区分し、二つの系統を持っているように見せかけることに成功した。

 だが、その研究も今はフレミア王国の身勝手な重鎮共のせいで止まってしまっている。

 意味不明な技術を研究する私を邪魔に思ったのだろうし、単純に私の技術が破壊力という上辺だけしか評価されなかったのだろう。


 なので、私はフレミア王国の思い通りに動かないことにしようと思った。

 誰が勇者なんかとして行動するか。

 私は研究者だ。断じて戦う者じゃないし、誰かを傷つけたり壊すために研究してるわけじゃない。


「ふぉぉぉぉ!! すごいですよこれぇぇ!! なんなんですかこれぇぇ!!」

「あーちゃん静かにっ!! 気づかれちゃう!!」

「でも気持ちはすっごい分かる!! 現在進行形魔術革新洪水だよコレ!?」


 第一の試練、私たちは早々に戦闘放棄した。

 従者の腕章をとられちゃったけど正直私の腕章もいらないし、それより重要なのはこの第一の試練の中心人物とも言える勇者イヌカミとウサトさんだ。

 彼らの動きをこの目で見て、観察したい。

 そんな研究欲に塗れたまま、コソコソと移動し———そして見つけた。


「分身!? いや、あれは魔力そのものに弾力を持たせている?」

「なんて緻密な魔力操作」

「ううん、あれは外で魔力を操っているんじゃなくて、体内で魔力操作を完結させているんじゃない?」


 三人で考察をそれぞれ口にしながら、がりがりと手帳に書きなぐり周囲の警戒そっちのけで、ウサトさん、勇者レオナ、勇者リズとの戦闘を屋上から見る。

 ちょっと出遅れて途中からになってしまったけど、それでもものすごい情報量が視覚から脳に叩き込まれていく。


「ふえへへへ、もうフレミア王国の勇者の使命とかどうでもいいですよ……」

「そうだねぇあーちゃん」

「研究楽しい、楽しい」


 勇者としての使命を優先させたせいか、抑圧されていた研究者としての探究心がとめどもなく溢れ続けている。

 ……そういえば、さっきガルガ王国のリヴァルが一人の従者と一緒に血眼で誰かを探していたのが屋上から見えましたが、誰を探していたのでしょうか?

書き直した理由の一つが、今回と明日の更新分だけでウサトが五つくらい新技作り出していたからでした()


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もう魔力でロケットパンチ出来るんじゃない? [一言] 読んで分かる文章の複雑さ 相当な難産だっただろうお察しします。 お疲れ様でした。
[一言] 「研究結果を実践で試す」を自分で行うには、勇者の立場は好都合だと思うんですけどね。 そして、現場の苦労を知ってこそ、研究も捗ると思いますし。 勇者にされて嘆くのは当然でしょうけど、プラスの部…
[良い点] レオナさんの理解力に爆笑してしまった、しかし背中で何かを作るのなんてウサトに見せたらもう次が怖いんじゃが?
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