第四百二十話
ティザービジュアルのウサトに背負われたブルリンがまるくてかわいい……。
二日目、二話目の更新となります。
第四百二十話です。
今日の訓練は色々と大変だった。
アウーラさんとその従者の二人が訓練を見に来てくれたのはいいけれど、僕とレインの訓練を見て彼女の研究者スイッチ的なものがONになってしまい、ちょっと自分の世界に入ってもう荒れまくってしまった。
その後、一応落ち着きを取り戻して僕とレインの訓練を静かに見学していた彼女だが、正直目が怖かったし、なんならレインもちょっと怯えていたくらいだ。
「多分、自分の研究を満足にできないことにかなりのストレスを溜めていたんだろうね……」
「そう、だろうね。彼女にとって勇者の地位はむしろ邪魔としか見ていないのだろう」
午前中の訓練後、宿に戻った僕達は明日の第一の試練に備えて話し合いを行っていた。
その一環で勇者たちのことを話すことになったわけだけど、さきほど関わったアウーラさんの荒れようを見て僕と先輩は苦笑いを浮かべる。
「正直、いくら戦闘が強くても研究者気質のアウーラを勇者に据えるのは無理があるわよねー」
そんな僕と先輩の会話に人の姿のままくつろいでいるネアが割って入ってくる。
彼女の隣にはフェルムもおり、二人揃ってお菓子を頬張っている。
「可能性があるとすれば、理解不能な技術を使う彼女を疎ましく思った派閥が彼女の邪魔をするために勇者に推したとか、単純に能力だけ見て据えただけのどちらかね」
「そんなことあんのかよ」
「さあ? 他国のことだし……でもまぁ、どこの国もウサトみたいな劇薬を素直に受け入れるわけじゃないし」
誰が劇薬だ。
むしろ良薬寄りだろ……多分。
いかん、そろそろ自分のやらかし具合に自覚を持ち始めたな。
「下手をするとアウーラさん、国を出てリングル王国に突撃してきそうで怖いんだけど」
「別にいいんじゃない? ウェルシーと知り合いって話なんでしょ?」
「そうは言っていたけど」
ルクヴィスで先輩後輩の関係だったとは聞いた。
その話を聞いた時、どことなくアウーラさんがウェルシーさんと似ていたから納得したけど、あそこまでのストレスを抱えていたとは思わなかった。
「深く考える必要ないよウサト君。どっちにしろ勇者集傑祭が終わってからの話しだしね。まさか、お祭りが終わってすぐにリングル王国に直行するなんてことがあるはずないし、うん」
「猛烈な勢いでフラグを立てないでください」
一気に現実味が増したんだけど。
でも……先輩の言う通り今は深く考えなくていいか。
「話を戻しましょうか」
「勇者の話だね。さっき話していた通り、アウーラは魔法に特化した勇者で、その従者も恐らく補助。他の勇者に関してはミルヴァ王国のランザスも同じ……だけれど、彼は本気を出せないと考えてもいいだろう」
先輩の言葉にネアも頷く。
「ええ。彼の身体は常に膨大な魔力に蝕まれている状態にあるわ。魔法を使うだけでも苦痛に苛まれるでしょうし、なによりその膨大な魔力を本気で解放でもしたら、とんでもない規模の魔法が発動されることになるわ」
「そういう意味での本気を出せない、か」
いくら治癒魔法使いのレインがいるとはいえ、彼もあまり力を振るおうとはしないはずだ。
いや、そもそもランザスさんはお祭りに乗り気じゃない可能性すらある。
「レインの訓練の方はどうだい?」
「順調……といっていいかは分かりませんが、魔力回しも滑らかになってきましたね」
「あの訓練は補助こそはしても結局のところ本人の努力次第って感じよねぇ」
ネアの言う通り、レイン本人の努力と閃きにかかっているといってもいい。
だけど、ミアラークの時の僕とは違ってレインは最初からランザスさんのことを想って学ぼうとしているから僕ほどは回り道をしなくても済むかもしれない。
「次はガルガ王国のリヴァルだけど……ウサト君、彼は?」
「分かりません。力自体は年相応のものだったと思いますが」
顔合わせの場で絡まれた時、致し方なく威圧してしまったけど腕力は普通の域を出なかった。
騎士……というほど、戦い慣れたようにも見えなかった。
「でも彼に付き従う従者は多い」
「確かに。あの場にいる面々を考えると、最も多くの人数を従えていたね」
明日も同じか、それ以上の人数の従者で参加すると予想するとリヴァルは指揮官とかそういう感じの勇者なのかもしれない。
他の勇者との戦闘中に割って入られると大変そうだ。
「あとは、残りの三王国の勇者ですけど……僕としてはこの三人が戦いにくいですね」
「レオナ、クロード、リズだね」
「ええ」
レオナさんとクロードさんはタイプは違えど、経験と技術に裏付けられた確かな実力を持っている。
だけれど、二人を一番危険視しているのが、どのような状況でも十全な実力を発揮することができる安定性があることにある。
「レオナさんの魔法は攻撃じゃなくても厄介です。冷気で動きを鈍らされるし、拘束もできてしまう」
「あいつ真っ当に強いし隙もないしな。ボクから見ても厄介な相手だと思う」
僕の言葉にフェルムも同意する。
味方ならこれ以上なく心強いが、明日は試合とはいえ敵同士だ。
多分、レオナさん側も僕たちを警戒しているだろう。
「でも、あの爺さんはともかくどうしてあのオレンジ髪の女も入ってるんだ? あいつ特に強そうなところ見せてないだろ」
「確かに。どういうことよ、ウサト」
フェルムとネアの質問に僕は腕を組みながら、ソファーに背中を預け脱力する。
「これに関しては直感みたいなものだけど、あの子はどことなく僕に近い感じがする」
「脳筋なのか?」
「変なことしてるもんね。大分近いんじゃない?」
そういう意味じゃないんだよなぁ。
反論したい気持ちをグッと堪えて、事実を甘んじて受け入れる。
「ウサト君に近い、か。私はむしろアマコとかに近いかなって思ったんだけれど」
「ちょっとそれは思いました。だけどなんか彼女からは……」
「彼女からは?」
「いや、自分でもうまく言葉にできないんですけど……漠然と、近距離で戦う人って感じがしたんですよね」
なぜだろうか。
風評通りだとすれば彼女は槍の他に弓矢で攻撃してくると思っていたんだけど、全然そんな気がしない。
むしろ感覚からすると、ナギさんみたいな近距離でどんどん攻撃してきそうな感じがするのだ。
「それも明日になれば分かるだろうさ。多分、我が宿敵リズはいの一番私たちを襲い掛かってきそうだからね……!!」
「いつの間に宿敵に……?」
「同族嫌悪だろ。どっちも変わってるから」
宿敵かどうかはさておき、真っ先に狙ってきそうではある。
「先輩、分かっているとは思いますが……」
「フッ、承知しているとも。私の魔法は制限されているということだね。しかし問題はない、例え雷獣モードの使用時間が十秒以内だったとしても、試練を盛り上げるには十分な時間さ」
先輩に大きな制限がかかってしまう分、僕が頑張らなきゃな。
明日の試練での段取りは既に決めているので、今更戦術に関して話し合う必要はないけれども。
「それに私には君がいるからね」
「任せてください。最初にかました後は暴れまくってやりましょう」
「その意気だ……!!」
「明日が素直に心配だわ」
「なにやらかすか聞いただけで、この国の奴らが目を白黒させるのが想像できるもんな」
二人がなにかを心配しているが、僕たちは国の名を背負って参加しているので不甲斐ない姿は見せられないからな。
やるからには真面目にやるつもりだ。
「フェルムはネアと一緒に観戦で大丈夫だよね」
「ん? ああ。さすがにボクの出番はないだろうからな。明日はネアに同化して大人しく観戦してる」
ネアは僕の使い魔なので参加はできるけど、ちょっと彼女の能力は反則気味なところがあるからなぁ。
観戦席に関しては、ナイアさんが関係者席があるといっていたので大丈夫だろう。
……いや、そもそも試練が行われるであろう都市の一画がどのようなことになっているのかすら分からないけれど。
「どうなるかは明日にならないと分からない、か。悪魔のこともあるし油断だけはしないようにしましょう」
「ああ。気を引き締めていこう」
七つの国の勇者とその従者の戦い。
一対一ではなく、乱戦形式の戦いになるのでなにが起こるか予想できないことを含めて、明日は立ち回りが重要な戦いになるだろう。
いきなり試練の日に行くのも急なので今回は箸休め的な回でした。
一応、今回の更新は以上となりますが、
次回の更新は早くて明日を予定しております。




