第四百十九話
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そして、お待たせしてしまい申し訳ありません!
第四百十九話です。
レインへの治癒魔法の訓練は想定したよりも順調な滑り出しで始めることができた。
魔力回しの加速という荒業により、身体に流れる魔力を半強制的に加速して魔力の高速循環に慣れさせることで魔力操作技術を向上させる。
その上で系統強化を行わせ、暴発を僕に移し替えることで短時間での習得を可能とした習得法を編み出すことができた。
でも勿論この訓練法には欠点もあって、それは魔力回しの加速は精神的な疲労が強いことだ。
実際、最初の一日目の訓練はお昼前くらいには疲労困憊のレインが眠るように気絶してしまったことで、中断せざるをえなくなってしまった。
いつもの肉体的な訓練ならばそのまま続行させるのだけど、さすがに無理と判断し彼を休ませるためにランザスさんのいる宿舎に送り届けた。
『ありがとうございます。この子を助けてくれて……本当に』
出迎えてくださったランザスさんは安堵と穏やかな表情で僕にお礼を言ってくれた。
先日の系統強化がちゃんと作用しているのか、まだ彼の身体には異常は起こっていないようだけど一応彼に系統強化をかけた後に、僕は自分の宿に戻って一日目の訓練は終わりとなった。
そして、顔合わせから二日目の朝。
第一の試練を前日に控えた僕は、前日に引き続き屋内の訓練場でレインの治癒魔法の訓練を行っていた。
「君の治癒魔法は綺麗だね」
今日は最初から魔力回しの加速をやらずに、まずレインの治癒魔法を見せてもらう。
両手を胸の前に掲げた彼が浮かべた治癒魔法は薄くもなく、濃くもない緑色。
僕やウルルさんのような普通の治癒魔法の色に近いものだ。
「綺麗、ですか」
「うん。ランザスさんに治癒魔法を施していたから、君の治癒魔法は人を癒すことに慣れている」
適切な魔力量と癒しの強さ。
それを頭ではなく感覚で理解できているのがこの子の強みなんだろう。
ナックはルクヴィスの環境のせいもあって、自身にしか治癒魔法を施せない———今思えば疑似的な系統劣化の状態になってしまったけれど、この子は治癒魔法使いとしては真っ当なものなんだ。
「君は今の時点でも十分な治癒魔法を扱えている。もっと自分に自信を持って」
「は、はい」
「……まあ、魔法使い歴一年くらいの僕が言っても全然だけどね。ははは」
「そ、そんなことないですっ。扱ってる技術もい、いいい意味不明ですごいですし!!」
事実だけど、事実だけれど心に来たな、うん。
『ぷふっ、まあお前は魔法よりも存在自体が意味不明みたいなもんだけどな!』
そして僕と同化しているフェルムが爆笑している。
今日は珍しく自分で早起きをしたフェルムが同化してついてきているけど、ずっと騒がしいな。
お腹を抱えているのが分かるくらいに笑っているフェルムに引き攣る頬を抑えながら、レインに声をかける。
「ありがとう。それじゃ、もう一度魔力を練ってもらってもいいかな?」
「はいっ」
レインが僕から少し離れて集中して魔力を練り始める。
彼の魔力の放出と、治癒魔法を形成するまでの時間を観察していると、ひとしきり笑い疲れたフェルムがそのまま僕に話しかけてくる。
『その系統強化の暴発、ボクの闇魔法でなんとかなるんじゃね?』
「できるけど。他の人にバレる」
『手袋に見せる程度なら大丈夫じゃないのか?』
「いや……」
実際、僕が肩代わりするリスクはフェルムの同化の魔力を用いるだけで解決することができる。
だが間違いなく、勘のいい人や観察力のある人はフェルムの同化に気づくだろう。
クロードさんあたりは気配とかで察していてもおかしくない。
「あと仮にやったとしても、系統強化の習得が遅くなるかもしれないからね」
『は? なんでだ?』
「何度でも失敗してもいいって意識が出て緊張感が薄れるから」
僕としてもあまりレインに血を見せたくないけれど、失敗によって僕が怪我をする緊張感と、集中力が研ぎ澄まされていく感覚をものにしてほしいからこの訓練で行くことにしている。
だからこその、血を見る覚悟なんだ。
僕はレインに失敗を恐れるなとは言ったが、失敗を軽く見ろとは言ってないからね。
『……』
「ん?」
『……いや、なんか、ついにお前の考えてることが分かってしまったことがひたすらにショックだ……』
「失礼が過ぎない?」
そんなに僕の思考が分かるのが嫌か。
だが、分かる時点で君も僕と同じ位置にいることを忘れるなよ……!!
『ふん、ボクは昨日のこと根に持ってるからな……!!』
「魔力回しのやつ?」
昨日の夜、実験的にネアとフェルムに魔力回しの加速をかけたんだよな。
先輩はすぐに慣れちゃったんだけど、二人は「あばばば」とか言って痺れてたなぁ。
『あれのせいでぐっすり眠って早起きしちまったんだ……!!』
「いいことでは……?」
『寝起きが良すぎて目が冴えて二度寝できなかったんだよ!!』
だからいいことでは?
二度寝をすると生活リズムが崩れるからあまり身体によくないんだぞ。
……さて、フェルムとの話もこれぐらいにして、本格的な指導に入るか。
「レイン、それじゃあまずは魔力回しをしていこう。手を」
「ふぃっ!?……は、はい……」
昨日のこともあって小さく怯えた反応をされてしまったけど、それでも彼は右手を差し出してくれる。
その手を握り、早速彼の魔力回しに干渉しようとして、彼がなにか言いたげに僕を見上げていることに気づく。
「ん、どうしたのかな?」
「あの、ウサトさん……」
「うん?」
「今日は僕なんかのことより明日の第一の試練の準備をした方がいいのでは……僕としては教えてもらって非常にありがたいのですが、明日は貴方にとっても大事な日なのであまりご迷惑をかけたくないんです」
僕のことを気遣ってくれているんだな。
確かに明日は勇者集傑祭最初の催し、第一の試練が始まる日だ。
既に試練の舞台となる訓練場の一画では準備が進められ、多数の魔具が配備されていっている。
当然、僕達も準備をしなくちゃいけないわけだが……。
「気にかけてくれてありがとう。でも僕達は大丈夫さ」
空いている左手をレインの頭に置いて軽く撫でる。
僕たちにとって重要度がどれほど高くないにしても、国の名を背負って参加しているからには不甲斐ない姿を見せるつもりはない。
「救命団はどのような状況にも対応できるように訓練は欠かさず行っている。今回の試練も同じ、いつもやっていることを本番でやればいいだけの話なんだ」
『おい嘘を吹き込むな。お前、いつもやってること以上のことをやらかすだろ』
フェルムの鋭いツッコミに表情を変えずにスルーする。
いつもやっていることの延長線上のことをしているだけなので間違ってはいない。
僕はその場その場で自分にできることを組み合わせているようなものなのだ。
「わぁぁ……」
『嘘だろ、こいつ信じたぞ』
フッ、僕とて日々成長しているのだ。
副団長として貫禄もついてきたし、怖い顔をしなくても説得力が伴ってきているのさ。
「さあ、訓練を始めよ―――」
「あの~、ウサトさん?」
「って、はい?」
ん? 誰だ?
近くからの声にそちらを見ると、そこにはフレミア王国のアウーラさんさんとその従者の二人がうずうずとした様子でそこに立っていた。
「アウーラさん?」
疑問に思い名前を呼んでみる。
すると三人とも、どこかで見たような……いや、ウェルシーさんと同じ知識欲に満ちた目のまま早口気味に口を開いた。
「け、けけけ見学させていただいてもよろしいでしょうか!? 魔力回しの技術とか、せ、せせせ先日行った魔法の妨害とか……あっ、別に邪な気持ちも技術を盗もうとするつもりはなくてですねっ! アッ、ウェ、へへ、どうせ私の国の人に言っても理解されないからアレですから!!」
「あーちゃん、立場的にマズいし断られそうだけど大丈夫!?」
「私たち一応フレミア王国の者だよ!? 一応!?」
あー、なるほど……。
彼女達は勇者云々というよりウェルシーさんと同じ研究者気質の人だから僕の魔力回しの技術に興味津々なんだろうな。
というより、この人も僕がヴァルガ王国の勇者の魔法を妨害したことに気づいているのか。
「レイン、どうする?」
「僕は構いませんけど、ウサトさんは大丈夫ですか? その、貴方の技術とかは……」
「僕は別に構わないよ」
広められるなら広まって欲しいし。
むしろ、研究者である彼女達の意見もいただけるなら好都合では?
「とりあえず、血を見るかもしれませんが大丈夫ですか?」
「わ、私の血をご所望ですか!? や、やはり吸血鬼の使い魔を従えているということは事実!? ワッ、アゥゥ……こんな不摂生が祟ったドロドロの血でよければぁぁ……」
「いえ、違います。見るのは僕の血です」
「……。ど、どういうことですかぁ……?」
きょとん、とした後に目をぐるぐるとさせ困惑するアウーラさんに、どうしたものかと腕を組む。
そんな僕にレインは慌てて服の裾を引っ張ってくる。
「ウ、ウサトさんっ、その言い方も語弊がありますからっ!?」
『お前、自分の血を見せてくるとんでもない変態になってるぞ』
いや、こういうのは昨日と違って最初に言っておかないといけないし。
だけど、この三人が見てくれるとなると今回の訓練、レインの成長以上になにか得られるものがあるかもしれないな。
●
カームへリオに来て久しぶりに勇者としての立場に戻っているわけだが、やはり救命団員としての立場でいる時よりも息苦しく感じてしまう。
特に周りの視線とかがそうだ。
ウサト君は素顔がバレていない分まだ注目されてはいないけれど、一度この国を訪れた私はどこを歩いても注目を集めてしまう。
その注目の内容も私が勇者だからとか、この国で流行している……わ、わわ私とウサト君を登場人物とした小説の内容のせいで好奇の視線を向けられてしまうので、正直辟易としてしまっている。
なので、今日訓練場へ向かうのもウサト君と一緒に向かわずに、あえて時間をずらして行くことになっているわけだ。
「不安だわ」
「私と一緒に行動することが!?」
遅れて訓練場を向かう最中、隣で通路を歩くネアの呟きにびっくりしながら反応する。
日頃から散々言われている私だが、とうとう何もしていないのに不安がられるようになってしまったのか!?
「いえ、違―――」
「ふぅ、よかった。……この右手を下げることができるよ」
「違わないわね。貴女の存在自体が不安の塊だということを忘れていたわ」
指をわきわきと動かした右手を下ろした私からネアは三歩分ほど距離をとる。
「予感がするのよ」
「予感?」
「ウサトが何かをしている予感」
「……うーん」
それは予感というより予定調和の方が近い気がする。
まずウサト君がレインという治癒魔法使いを鍛えるということ自体が周囲から見れば異様な状況なので、それに興味を持つ者も必ずいるはずだ。
「というより、勇者という特徴的な人物たちが集まる場でウサト君が何もしないわけがないのでは?」
「……!!?」
そう口にしてみるとネアが雷に打たれたような反応を示す。
「た、確かに……!! なんでこんな簡単なことに気づかなかったのかしら!?」
「面白いことになってそうだね」
昨日の時点で噂は出回っているだろうしね。
頭を抱えるネアに苦笑しながらそのまま歩いていると、道の角から金髪美女の勇者、レオナと彼女の従者であるミルファが出てくる。
彼女達も訓練場に向かうつもりだったのだろう。先日の顔合わせの時のドレス姿と違い、動きやすさを重視した訓練服に身を包んでいる。
「おはよう。スズネ、ネア」
「ああ、おはよう。レオナ、ミルファ。君達も訓練かな?」
自然と並ぶ形になりながら尋ねると頷いてくれる。
「ああ、第一の試練は明日だからな」
「私も久しぶりの実戦だからその肩慣らしも含めてね」
レオナとミルファは同期だったとウサト君から聞いているが、明日の試練ではこの二人も強敵と見ていいだろう。
特にレオナは勇者の武具なしでも私以上の実戦経験と応用力を見せてくるので、相対する時は気合をいれなきゃならない。
「ん? そういえば訓練場に向かうのは君達だけか? 訓練というからにはウサトもいると思ったんだが」
「あー、あの人は先に訓練場よ。別の国の治癒魔法使いに魔法を教えてるのよ、あのお人好し」
「……フッ、なるほど、彼らしいな」
「ここでなるほどって言えるのはちょっとおかしいと思うわよ、レオナ……?」
まだウサト君と関わって日が浅いミルファが困惑している。
ウサト君の適応能力は凄まじいが、周りにいる者達すらも彼に“適応”しようとしてくるのが面白い。
「ん、そろそろ着くわね」
「さて、ウサト君の周りはどうなっているかなー」
訓練場へ通じる大きな扉へと到着する。
中には既に訓練をしている者たちがいるのか、喧騒と声が聞こえてくる。
揚々と扉を開くと、視界に映り込んだ訓練場の先に———見慣れた白い団服を纏った後ろ姿が見える。
そして、予想通りに彼は一人ではなく複数人に囲まれており……ん?
「レオナ、私の気のせいじゃなければウサト君の傍にレイン少年が痙攣しながら倒れているように見えるけど」
「奇遇だな。私にも見えている。そして熱中したフレミア王国の勇者たちと話し合っているようにも見える」
『魔力の可能性を感じます! リングル王国ずるい!! 私、勇者やめてそっちの国に行きます!!』
『気持ちは分かるけどあーちゃん落ち着いて!?』
『なぁにがフレミア王国の発展のためですかぁ!! ただ未知への理解を拒否して体のいい厄介払いとして勇者をさせて邪魔してくる国なんかこっちから願い下げですよぉ!!』
『問題発言!! 問題発言しちゃってるから!!』
『それに、あのルクヴィス在学時からの憧れであるウェルシー先輩もいるし、研究設備も充実してるんですよ!? それに分かります!! これ、いくら人手があっても足りません!! この魔力革新の塊をみすみす見逃したら人生そのものをドブに捨てるのと変わりませんよ!!』
「「「「……」」」」」
私、ネア、レオナ、ミルファの四人がフレミア王国の勇者、アウーラの魂からの愚痴に絶句する。
自分の好きな研究を止められ、望まない勇者という役目を押し付けられた彼女の鬱憤が、ウサト君という常に進化し続ける人材に刺激されたことで爆発してしまったようだ。
従者の二人に止められながらじたばたするアウーラ、魔力回しの加速化の副作用で床でぶるぶると痙攣するレイン。
そして、黄昏たように遠い目をしているウサト君がこちらに気付き、レインを横抱きに抱えて近づいてくる。
「えぇと……ごめんなさい」
「夫……カロンは君のことを、面白い男だって言っていたけど……本当に面白い子ね……いろいろな意味で、うん」
言葉を失う私達を代表してミルファがそう言葉にすると、ウサト君は頬を引き攣らせながら肩を落とすのであった。
勇者に任命され研究欲を抑圧され続けたところに、未知の塊みたいな存在が現れた上に「できるだけ広まって欲しい(誤訳:見て盗めるものなら盗んでみろ)」と言われて色々爆裂したアウーラさんでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。
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『治癒魔法の間違った使い方』公式アカウント開設に伴い、活動報告の方を書かせていただきました。
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