第四百十三話
お待たせしてしまい申し訳ありません。
第四百十三話です。
北の国、ネーシャ王国の勇者、リズとの邂逅は僕達……主に僕にとって非常に不可思議なものになった。
実際に顔を合わせたのはこれで二度目のはずなのに異様な距離感で接してきた彼女に困惑してしまったけど、今はそれ以上に僕の内外から「今度はなにをやらかした?」という無言の圧をかけてくる仲間達が怖い。
『これはあれね……目を離した私たちが悪いわね』
『おい、ネア。なんか変な方向で諦めはじめてないか?』
『このおバカの変人ホイホイを侮りすぎたのよ。もうこれで論文にまとめてウェルシーに提出してみるのもアリかもしれないわ』
僕が変な人と遭遇しやすいことに根拠を求めようとしないで。
それでなにか証明されたら普通に嫌だよ僕。
「あ、あの小娘ぇ~。私をおざなりにして私の従者であるウサト君に近づくとは~!!」
「不思議な人でしたね」
「ぐむむむッ、だがなぜかあの子にイヌカミセンサーが反応しかけているッ……!! なぜだ……!」
イヌカミセンサーとはなんだ。
謎のセンサーを有する先輩を疑問に思っていると、広間の大きな扉が開かれ、新たに二組の勇者が入ってくる。
一組はレオナさんとミルファさん……で、もう一組は真っ赤なローブを纏った男性と子供の二人だ。
「これで七人の勇者が揃ったね」
「そう、ですね」
こちらに気づいたレオナさんに会釈をし、改めて広間にいる先輩とレオナさんを除いた5人の勇者を見回す。
杖を持った年配の老人。
煌びやかな装飾を身に着けた男。
所在なさげに周囲を見回している女性。
最後にやってきた赤いローブを纏った背の高い男。
「……全員一筋縄じゃいかなそうだなぁ」
パッと見で一番手練れそうなのは、杖をついたおじいさんだな。
年齢は50代か60代ほどだけど、身長が高く痩身の立ち姿は抜き身の刃を前にしているかのような冷たさを宿している。
内心で恐々としていると、不意に老人の視線が僕へ向けられる。
「!」
目を見開いた僕に老人はにやりと笑みを浮かべ、すぐに視線を逸らす。
なんだろう、今ルーカス様の笑顔が脳裏によぎったような……いや、それに魔王の「面白いものを見つけた」的な感じが入っているような気がする。
「ウサトくん、どうかしたのかい?」
「いえ、あのおじいさん……」
「……ああ。かなりの実力者だろうね。ご年配ではあるが逆を言えばそれだけの実戦経験を積み、その上で勇者としての地位にいるとも言える」
なんだか今後接触してきそうではある。
あくまで勘ではあるけど。
……あとは5人目、先ほど僕に話しかけてきたネーシャ王国のリズは……。
「ね、ねぇ、ウサト君」
「……僕はなにも見てません」
視界の端で半目で僕を見てくるリズに頬を引きつらせながら視界を逸らす。
気づいた先輩も僕の袖を引っ張り、戸惑いの声をかけてくるがそれでも僕は視線を戻さない。
『おいウサト、あいつこっち見てるぞ』
『完全ロックオンされてるわね。まあ、悪意はないようだしほっといてもいいんじゃない? ……最終的にウサトにぶん投げればいいし』
もしその時になったら全力で君たちを巻き込むことに決めたぞ僕は。
同化しているということは一心同体、一蓮托生、救命団は助け合いが大事だからね。
内心でそう決意していると、広間の明かりが消え少し暗くなる。
『皆、揃ったようだな』
その声と共に天井から魔具の光が差し込み、広間の一画を照らす。
光に照らされた壇上の天幕の奥から、数人の護衛と一人の白の装束を纏った男性が姿を現す。
『私はラムダ・ラーク・カームへリオ。カームへリオの王である』
声を拡張させる魔具か?
広間全体に響くその声にそう考えていると、壇上の上に立つ男性は自身の胸に当て一礼する。
『勇者の皆々、この度は我がカームへリオの歴史ある祭典に参加していただき感謝の念を送ろう』
すごく丁寧な王様だ。
当然といっちゃ当然だけど、ナイアさんと似た雰囲気がする。
「失礼かもだけど、王様らしいお方だね」
「ですね。……今まで僕が会ってきた方々が特徴的すぎただけかもしれませんけど」
ルーカス様とかの印象が強すぎるのもあるかもしれない。
そう先輩と小声で話していると、ふと広間を見回した王様———ラムダ様が感極まるように大きく息を吸った。
『フフフ、毎年のことではあるがこうも勇者の名を冠する者が集まると壮観であるな。私、この時においては自身が王になった理由がこの瞬間に集約されているといっても過言じゃあないな……!!』
「ウサト君。前言撤回していい?」
……よく考えなくても勇者集傑祭というお祭りを率先して行う国の王様が普通なわけがなかった。
なんか、遠目で見ても目を輝かせているのが分かる。
一瞬で印象を様変わりさせたラムダ様は生き生きとした様子で言葉を続ける。
『さてさて、まずは勇者集傑祭に集った誉れ高き勇者を紹介させていただこう……!!』
そういう役割は王様ではないのでは……という疑問は置いといて。
ようやく他国の勇者情報を知ることができる。
ラムダ様を照らす魔具の光がもう一つ現れ、広間内をぐるぐると回りながら———一つの集団に止まり、明るく照らす。
『ガルガ王国“次世代の勇者”リヴァル』
「ふんっ」
照らされたのは高価そうな装飾を身に着けた男。
装飾と同じ金の髪の痩身のリヴァル、と呼ばれた彼は恭しい仕草で一礼する。
『フレミア王国“双魔の勇者”アウーラ』
「ひんっ……あ、わ、私だぁ……」
いきなり光を当てられウサギのようにぴょんと跳ねた三つ編みの女性は、慌てふためく。
『カーフ王国“不退の勇者”クロード』
「ここに立つのも今回で最後になりそうだ」
オールバックに整えられた髪とピシっとした紳士服に似た装いに身を包んだ老人。
ガルガ王国の勇者と同じ痩身に見えるが、彼とは違い洗練された立ち振る舞いからは並々ならない何かを感じさせてくる。
『水上都市ミアラーク“氷槍の勇者”レオナ!』
「ひょ、氷槍……? ちょっと異名が派手すぎではないか……?」
いつもの鎧姿ではなく青を基調としたドレス姿のレオナさんが光に照らされながら困惑の表情を浮かべる。
『ネーシャ王国“風斬の勇者”リズ』
「……」
「お姉ちゃんッ」
「あ、私か」
そして、妹に背中を叩かれポワッとした様子で出てくるリズ。
……あの子、本当に大丈夫だろうか?
『ミルヴァ王国“嵐の勇者”ランザス』
呼ばれたのは赤いローブに身を包んだ男。
どこか顔色も悪く、白髪の入り混じったブロンドの髪の男性は力のない笑みを浮かべながら頬をかくだけだ。
その傍らにはアマコと同じくらいの年頃の少年が立っており、その子は隣の勇者を気遣うような視線を向けている。
「あの子が治癒魔法使いかな?」
『確か、ミルヴァ王国の勇者は身体が弱いんだって?』
先天的に魔力が多い体質のせいで身体が弱く、それを補うべく常に治癒魔法使いを傍に置いている……って感じかな。
他国のことだから関わることは難しいけれど、同じ治癒魔法使いとしては話をしてみたい気持ちもある。
『リングル王国“雷の勇者”イヌカミ・スズネ』
「フッ、ここで私か」
と、先輩が呼ばれたか。
魔王軍との戦いで名が広まっているからか、広間全員の視線が僕達へと集まる。
普通なら気圧されるであろう視線に晒されても、先輩は腰に手を当て堂々としている。
元の世界に居た時も思っていたけど、こういうところは流石だなって思わされるな。
『———と、その従者、ウサト』
「ん?」
……えぇと、聞き間違いか……?
今、他の勇者とは明らかに異なる流れで従者の僕の名前が呼ばれた気がしたんだけど。
先ほどから維持していた強面の表情に力が入るのを自覚しながら、ざわめきが起こる広間の声に耳を傾ける。
『奴の従者だけ名指しだと? 生意気な』
『ふぁ、彼が魔力回しの第一人者……でも顔が怖いぃ……』
『なぜ従者のウサトまで……?』
『強張った面構えだなぁ。まあ、無理はないが』
『むんむんむん』『お姉ちゃん、それはどういう感情の呻き?』
『あれが例の治癒魔法使い……』
勇者が僕を見て口々になにかを口にしている……!!
僕は立場的には勇者でもなんでもない従者なのに、いったいどうしてこんなことに……?
『ウサト、これは……』
「……まさか」
考えすぎかもしれないけれど、僕に注目を集めさせられた?
実際、このせいで動きにくくなってしまったし、下手に顔を覚えられるとここでの活動に支障をきたすかもしれない。
でもシンプルにラムダ様が魔王と戦った一員である僕を評価してくれたことかもしれないのがなんとも……とりあえず強面を強めておくか。
「ウサト君……なんだか雰囲気がいかつくなっているような気が……君だけ作画違くない?」
「とりあえず周りに見られている間はこれでいきます」
腕を組み、寡黙さと厳格さを強調していく。
僕の名前を出したことを気にも留めずに上機嫌のままラムダ様は大仰な仕草で右手を翻す。
『この場に集った七名の勇者により、勇者集傑祭を開催とする!! 此度の祭りは過去最大規模!! 各国の勇者が誇り、意地、矜持を賭けて戦うことになる!!』
やっぱり戦うことになるのか……。
『行われるは三番勝負!! その一つ目はこの都市の一画をフィールドとした乱戦形式で執り行う!!』
都市を戦いの場にするってどういうことだ……?
カームへリオ国民が住んでいる街中で試合するってことなのか?
『最初のルールは単純明快!! 殺傷武器、攻撃目的の魔法の禁止!! 己の技術、戦闘経験を是非見せてほしい!!』
『勇者に制限かける一方で、この化物身体能力の怪物に一切の枷もつけない……?』
『こいつの攻撃、攻撃のようで攻撃目的じゃないぞ……?』
『『正気じゃないな、この王様』』
不敬だぞ君たち……!!
あんまりな云いようのネアとフェルムに固めた強面が引き攣るのを感じてしまうのであった。
七人でも多い勇者顔合わせ回でした。
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