表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
466/576

第四百十二話

二日目、二話目更新です。

前話を見ていない方はまずはそちらをー。

 カームヘリオ王国に来て三日目の夜。

 一日目とは違って二日目は宿で静かに過ごしてしっかりと休養を取った僕たちは、今夜カームヘリオ城で勇者たちの顔合わせへと向かうことになっていた。

 立食パーティ……って感じの気軽なものではないらしく、ある程度お堅い感じのものらしいので従者の立場を改めて意識しておかねば。


「といっても服装に関しては慣れ親しんだものだしね」


 個室から団服を持って出た僕はこれから向かう顔合わせのパーティのために団服の袖に手を通し、軽く着込む。

 バチン、と襟の金具とボタンを留め、前をしっかりと閉めた僕はおかしなところがないかちゃんと確認し頷く。


「よし、フェルム。同化よろしく」

「おぅ」


 近くのソファーで寝っ転がっていたフェルムは欠伸をしながら闇魔法の影に沈み、僕の足元から同化してくる。

 服の内側と僕自身に同化しているので、外からじゃまったく分からないはずだ。


「今日はパーティ中にご飯いれられないからね?」

『お前ボクを食いしん坊だと思ってないか……?』

「……違うの?」

『ち、違うわぁ!!』


 昨日出店の食べ物とか見てアレ食べたいこれ食べたいとか凄かったんだぞ。

 ついでに言うなら宿で出てくる食事も一番食べていたのが君だ。

 ……まあ、たくさん食べることは悪いことじゃないけど、僕たちは注目を集めやすい立場にいるから迂闊な真似はできないので今日は我慢してもらおう。


「準備できたようね」

「ああ」


 同化が完了したところでフクロウの姿のネアが肩に留まってくる。


「その団服姿、代り映えしないわねぇ」

『まあ、ボク達は見慣れているからな』

「ははは」


 ネアとフェルムの呟きに苦笑する。

 まあ、礼服とかドレスコードとか柄じゃないし、言ってもこの団服は救命団員としての僕の立場を証明するものでもあるから、正式な場で着ていてもおかしくないのだ。


「こっちも準備できたよー」


 と、ここで僕と同じく服装を整えた先輩が個室から出てくる。

 金の装飾が施された黒い団服。

 僕とは違い団服の前は開いており、その下には軍服のような服と黒色のスカートが見える。

 そして先輩自身はいつもの長い黒髪を高い位置で括り後ろに流すようにしている。


「フッ、犬上スズネ。幼馴染バージョンだ」

「……え、どこらへんが?」

「この王道ポニーテイルがさ……!!」


 確かにポニーテイルですけど、それで幼馴染は結構な偏見では?


「静かにしていればクール系の軍人みたいですけどね」

「え、本当かい? 今度からこの路線でいくべきかな!?」

「静かにしていれば、ですけど」

「きゃうん」


 残念な発言をしなければ冷たい雰囲気のあるキリっとした印象なので、この後の顔合わせのことを考えると逆にいいのでは?

 下手に嘗められずに済むし……よし。


「ならば僕も怖めの顔で後ろに控えておきますね」

「なんで?」

『いやなんでだ』


 髪をかき上げ4割くらいの怖めの顔を意識してみる。

 そして、先輩の後ろに従者として従うように並び———リビングに取り付けられた大きな鏡の前に立ってみる。

 ……うん、結構様になるんじゃないか?


「ウサト君、あの、この構図だとお嬢と舎弟みたいな感じになっちゃうんだけど……?」

「フッ、これで嘗められずに済みますね」

「……確かに……ッ!」


 我ながら僕には威厳というものが足りてないからそこらへんは迫力でカバーしていこう。

 ネアも闇魔法に同化してなんだかんだで僕も先輩も城へ向かう準備ができたので、宿の外で待っているというカームヘリオ城行きへの馬車へと移動する。


「イヌカミ・スズネ様、ウサト・ケン様。お二人をカームヘリオ城までお送りいたします」


 宿の前で待っていたカームヘリオの騎士に迎えられ、馬車に乗り込む。

 白を基調にした高級感漂う馬車に委縮しつつも、先輩と向かい合う形で席に座る。


「やっぱり緊張してる?」

「さすがに慣れてきましたけど、多少は緊張してますね」


 会談やパーティは何度か経験しているので最初の時と比べれば大丈夫。

 といっても相手はカームヘリオの重要人物と各国の勇者たちなので、気を抜いて応対できる相手じゃない。

 ……少し気を紛らわすために雑談でも振ってみるか。


「先輩、例の小説はどれくらい読んだんですか?」

「フッ、まだ一巻の半分くらいしか読めていないんだ」

「え? 結構ゆっくりですね」


 先輩って結構速読なイメージがあるから一巻分くらいは読み切っていると思ってた。


「私は結構ラノ……読書を嗜んでいるから普段は読むのが速いのだけど……今回は難敵でね」

「……あー」

「一ページに一度スタン技を食らいながら読んでいるようなものなんだ」


 だから読むペースが遅いのか。

 しかし一ページごとにダメージを負うとは……一昨日のケイトさんの話からすると女性向けの恋愛小説ってことなのは察したけれど……。


「そこまでするなら読まなくてもいいのでは?」

「……」

「先輩?」

「……フッ」


 いや、なんですか? その憂いを帯びた笑みは。

 馬車の窓に肘をかけ、魔具の光に照らされたカームヘリオの夜の街並みを眺めだす先輩に首を傾げる。


「フェルムは読んだの?」

『とりあえずウサトが華麗な剣技で魔物倒してるって描写で爆笑した』

「いいだろ僕が華麗な剣技を振舞っても」

『お前、一度たりとも華麗なところを見せたことないだろ』


 事実だけが常に正しいと思うなよ!?

 確かに柄じゃないけど、創作の世界だけは華麗な僕でもいいじゃないか!

 それを僕が見たいかは別だけど!!


『あれの性質悪いのは部分部分でお前っぽくなってるところだと思う』

『あー、分かる。いい感じに風評を取り入れているんでしょうね。訓練バカなところとか機転が利くところとか……一般受けしない要素はガッツリ削られてるあたり書いてるやつは上手いわね』

「え、それじゃああの小説の僕って万人受けしやすいように改造された僕ってこと……?」


 名づけるならパーフェクトウサトってやつか。

 うん、絶対見たくないな。


『ま、完璧すぎると弱点も分かりやすいから、そういう意味では現実の貴方の方が厄介よ。安心しなさい』

『確かにな。お前は変に付け入る隙があるように見えるから性質が悪いと思う。安心しろ』


 君たち褒めているのは分かるけど、滅茶苦茶失礼なことを言っているの分かる?


「事実は小説より奇なり、という諺があるがまさしく君のためにあるようなものだな! うん!!」

「追い打ちをかけないでください……」


 先輩もだんだんネアとフェルムに感化されてませんか。

 笑顔で刺してきた先輩に僕は頬を引き攣らせるのであった。



 カームヘリオ城はリングル王国の城と似た背の高い建造物だ。

 周囲は白色の建物に囲まれ、今はたくさんの魔具に照らされ夜でも昼間のように明るい。

 城門を入った先にはたくさんの馬車が並んでおり、そこには各国の勇者の護衛の兵士や、カームヘリオ所属の騎士などが多く見られ、かなり警備が厳重なことが分かる。

 そこに到着した僕たちはカームヘリオ城の入口に待機している使用人に出迎えられ、会場となる城内の広間に案内されていた。


「いよいよですね」

「ああ、こちらも気を引き締めねばならないな」


 ここに来るまではまだ他の勇者を見かけていないが、もう集まっているのだろうか。

 リングル王国の城内に似た広い通路をまっすぐに歩いていくと、一際目立つ大きな扉が見えてくる。

 扉を守るように並んだ騎士が扉を開くと、その先には大広間が広がっており賑やかな声も聞こえてくる。


「こちらでお待ちください」


 使用人に中に入るように促され足を踏み入れると、中には多種多様な衣服に身を包んだ人々が分かれるように立っており、その視線は今広間に足を踏み入れた僕たちへと向けられていた。


『あれがリングル王国の……?』

『二人しかいないのか?』

『強そうには見えんな』

『後ろの人、すごく怖そう……』


 多分、各国の勇者とその従者たちだろう。

 それ以外の人たちはカームヘリオ王国の関係者……まあ重要人物かなにかだろう。

 こちらを探るような視線をあまり気にしないようにしながら、先輩とアイコンタクトを交わした僕は彼女の後ろを歩くように努めながら空いた空間に移動する。


「やっぱり見られてるね」

「そりゃ、しょうがないですよ」

『後ろで凶暴そうな顔つきの治癒魔法使いがいれば嫌でも見られると思うぞ』

『確かに』


 相変わらず僕の内側がうるさいぜ。

 注目を集めた状態で返事を返すわけにはいかないので、ここはグッと堪えるしかない。


「レオナさんはまだ来てないようですね」

「ああ、来ている勇者は……私たちを合わせて5組ほどかな?」


 誰が勇者だかまだ把握できていないけど、各国の勇者とその従者はそれぞれが特徴的な服装をしているからまだ分かりやすい。

 寒いところで着るような厚手の服や、極端に露出の多い服装とか、文化的にも多種多様な人達がここに集まっているんだと思わされる。


「———スズネさん、ウサトさん」

「ん? ……あ、ナイア様」


 と、ここで既に広間にいたナイアさんが声をかけてくれた。

 さすがにここは人の目があるので様付けで呼びながらナイアさんを見ると、彼女は僕を見て頬を引きつらせた。


「勇者の皆様はまだ揃ってはいないので……えぇと、ウサトさん? まだ肩の力を抜いていても大丈夫ですよ?」

「おっと、失礼しました」


 さすがに王女様相手に威嚇するわけにはいかないので表情を元に戻す。


「ナイア様は挨拶回りかい?」

「砕けて言うとそうですね。色々と自由にやらせてもらっている身ではありますが、身分としては第一王女なので。最初は見知った方々がいいと思い、まずはスズネさんと話そうかと」


 なるほど、だから僕たちに。

 王女様も大変なんだなー、と思っているとナイア様はやや疲れたように頬に手を当てる。


「本当はカイルもここにいる予定でしたが、他国の勇者様相手に粗相をしでかすかもしれな……いえ、もう既にレオナ様に迷惑をかけている前科があるので、その罰で今は勉強部屋に放り込んでいます」

「あ、あはは……」

「もう本当にしょうがない子で……。もしものことがあったら私でも庇ってあげられないのを分かっているのでしょうか……?」


 あー……まあ、カイル王子はご愁傷様って感じだな。

 でもナイア王女も彼のことが嫌いだから厳しくしているわけじゃないようだし、ちゃんと反省してくれればいいな。


「でもナイア様もなんだかんだでカイル王子のことを大事に思っているのは分かるよ。……君にとっては大切な弟なんだからね」

「え? ええ、そうですね」


 ……先輩?

 ちょっとだけ様子がおかしい先輩に訝し気な視線を向けてしまう。

 ナイアさんも先輩の言葉を怪訝に思ってはいたようだけど、すぐに周りを見て僕達へ顔を向ける。


「もう少しお話したいのですが、他の勇者様の方に挨拶をしなければならないので……他国の勇者様については後でお話しますね」

「うん、後でね」


 そのまま別の勇者のいる方へ歩いていくナイアさんを見送っていると、軽くため息をついた先輩が軽く額を抑える。


「ウサト君……すっっっごい今更だけど、ウサト君には言っておこうかな」

「なにをですか?」

「私、元の世界に弟がいたんだよね」


 ……なるほど。

 弟がいた、とだけ聞いてなんとなく事情は察した。


「ここで聞くべきではないですね。後で時間をつくって話を聞かせてもらいます」

「え、私としてはここで話してさっぱりと流してもらいたいんだけど」

「そんな顔してないでしょ」

「……はは、あー、うん……」


 明らかにあっさり流せるような表情をしていない。

 ネアもフェルムも静かになるくらいには空気を読んでくれている。


「あのさ、ウサトく———」

『———見つけた』


 先輩の言葉を遮るように僕たちではない誰かが声をかけてくる。

 驚きながらそちらを見ると、そこには二日前に街中の路地で遭遇したオレンジ色の髪の少女がいた。


「君は……」


 室内にも関わらず厚手のロングコートにマフラーを着た少女は、ジッと気だるげな眼で僕を見ながらつかつかと目の前にまで歩み寄ってくる。

 その青みがかった瞳で僕の顔を覗き込むように見た彼女に、ちょっと気圧されてしまう。


「……」

「えぇと……」

「やっぱり、そうだと思った」

「な、なにが?」

「治癒魔法使い。噂に聞く以上にものすごく強そうだったから」


 あの路地で会った時点で確信を持たれていた……?

 いやいや、それだったらこの子がここにいる時点で勇者関係ってことになる。


『言い訳を聞いてやるわ、この人たらし』

『おいバカ、今度はどんな変人を引き寄せた?』


 そして僕の内側の仲間たちはものすごい低いトーンで僕に圧をかけてきてやがる。

 くっ、我ながら変人を引き寄せてしまったという事実を否定できないのが悔しい……!!


「そういう君はネーシャ王国の勇者、かな?」

「……うん、そうだ———」


『お姉ちゃん!!?』


 少女が頷くと同時に、また誰かがやってくる。

 駆け寄ってきたのはアマコと同じ年ごろの青い髪を二つに結った少女と、ローブに身を包んだ女性の二人。


「お姉ちゃん、なにやってるの!?」

「見つけたから早速話しかけてみた」

「いや、見つけたって……誰を?!」

「ん」

「人を指ささない!!」


 こちらを指さしてきた少女の手を下ろさせながら、もう一人の青い髪の子が僕を見る。

 最初は訝しむ様子だった女の子は、肩にかけたカバンから見覚えのあるカバーの本を取り出し、それを僕と見比べる。


「え、本と全然違う……」

「がっ……」


 思わぬ角度から来た声にダメージを受ける。

 え、僕の参考文献創作物!? そんなことある!?


「と、とりあえず君たちは何者だい? 私たちはリングル王国の者だけれど……」

「あ、す、すみません……お、お姉ちゃん、自己紹介!!」


 ようやく我に返った先輩の言葉にハッとした青髪の子が姉に自己紹介するように促す。

 少女は相変わらず何を考えているか分からないふんわりとした様子で僕を見て、口を開いた。


「私はリズ」

「……。え、自己紹介それだけ? あ、え……ね、ネーシャ王国の勇者です!! 私は妹のエリシャです!! どうもすみません!!」


 この自由すぎる姉と、ものすごく苦労している妹の姿でおおまかな関係性が見えてきた。

 しかし、そもそもどうして少女……リズは僕に接触してきたのだろうか? ネーシャ王国の勇者だということは分かったけど、僕に接触してくる理由がまったく分からない。


「……」

「ん? ちょ、ちょっと……なに?」


 何を思ったのかリズは僕に近づき、目を閉じてなにかを嗅ぐような仕草をする。

 ん? 髪で隠れて見えなかったけど、オレンジの髪色と同じ色のカチューシャをしている。……形状的に魔具かなにかかな?


「あなた、不思議」


 目を開けた彼女は不思議そうに首を傾げた。

 その仕草はなぜか、リングル王国にいる相棒を連想させる。


「私と似た匂いがする。なんで?」


 こっちがなんでなんですけど?

 似た匂いとは? ちょっと意味が分からなくて僕も首を傾げてしまうと、ここで焦った様子の先輩が間に入ってくる。


「ちょ、ちょっと君、距離感おかしいよ? この人は私の従者だからもっと離れようね?」

「貴女に興味ない。ピリピリするから離れて」

「な、なにおう!? 誰が距離を取りたいタイプの女だってぇ!? そんなこと一度しか言われたことないぞ!!」


 一度はあるんだ……って、い、いかん! 混乱のあまり先輩の沸点が低くなってしまっている!

 とりあえず止めようとすると、僕よりも早く妹のエリシャがリズの手を掴んで引っ張る。


「もうすみません、ごめんなさい!! すみません!! お姉ちゃん、騒ぎになっちゃうから離れるよ!! し、先生も黙って見てないで手伝ってください!!」

「むむむぅ~」


 勇者なのに妹のエリシャと先生と呼ばれたローブ姿の女性に引っ張られていくリズに僕も先輩も唖然とする。

 い、いったいなんだったんだ……?

 もしかして今から会う勇者全員あんな感じ……だとか?


『これは完全に引き寄せたわね』

『本当になんなのお前? 終いにはキレるぞ?』

「ウサト君、これはさすがに二人の言葉を否定できないよ……」

「……スミマセン」


 多分……多分僕のせいではないけど、なぜか謝ってしまうのであった。

不思議マイペース勇者のリズと、その妹のエリシャでした。


今回の更新は以上となります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] これは!新たな融合相手が来た感じですかね(笑)
[一言] 相棒の匂い、、、密着率が一番高いのは、、、 匂いがついてるのはブルリンだw
[一言] 同じ匂い…オーガの匂いかなぁ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ