第四百九話
お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
第四百九話です。
街に出る際、僕は団服から普通の服に着替えた。
普通の服といっても団服を脱いだ後とほとんど変わらず、上にベストのようなものを着ただけだ。
まあ、僕は顔を知られていないわけだしわざわざ変装する必要もないので楽なんだけど、先輩とレオナさんはそうもいかない。
「本当に私がついてきてもよかったのだろうか?」
「いいに決まっているじゃないですか」
宿の前で遠慮気味にそう呟くレオナさんにそう答える。
今の彼女は騎士姿ではなく私服姿で、その上で普段結っている髪を下ろしている。
結構不思議なもので髪型を変えるだけでも全然違って見える。
「ウサト君の言う通り、迷惑だなんて思うはずないさ」
「むしろこうやって一緒に行動できて嬉しいくらいです」
伊達眼鏡にベレー帽を被った先輩がそう言ってくれる。
帽子を被る都合上ポニーテールではなく、長い髪を三つ編みにする自称「文学少女スタイル」というやつにしている。
それだけで印象が様変わりしちゃうあたり流石だ。
「そ、そうか。……私もまた君たちと行動を共にできて嬉しく思う」
照れながらそう言葉にするレオナさんに僕も先輩も笑みを浮かべる。
「さて、行くわよー!!」
『こいつはなんでこんなにはりきってんだよ……』
フクロウからいつもの黒髪赤目の少女の姿に変わったネアが滅茶苦茶テンション上げて先に行こうと促してくる。
そんな彼女に僕と同化しているフェルムが引いた様子で呟く。
元々好奇心旺盛なやつだから分からないわけじゃないんだけど……。
「フェルムは大丈夫?」
『問題ない。露店で美味そうなものがあったら教えろ』
「はいはい」
……なんだかんだで僕も息抜きが必要なのかもしれないな。
ハメを外すつもりはないけど、肩の力くらいは抜こうかな。
●
宿のある場所から徒歩で人の賑わう城下町へと向かう。
勇者集傑祭という大きなお祭りの前ということで街は人で賑わい、色々なお店や催しものが開かれている。
「こうして見ると僕と先輩の知っているお祭りみたいですね」
「形式とかは違うけど、確かに雰囲気は大分似ているね」
思い浮かぶのは夏祭りとかで見るような屋台とかその辺かな?
違うのはその規模と売っているものだけれど、見た感じ値段とかはそれほど高くもなく気軽に回れそうな感じだ。
「カームへリオは勇者信仰以外に商業も盛んな国らしい。位置的に大陸の中央にあることから様々な国の文化が交わるとも言われている」
「へぇ、だから見覚えのある食べ物も売られているんですね」
レオナさんの言葉に感心していると、ふと一つの露店に目が止まる。
鉄の棒を通された大きな肉が、魔具により発生した火に炙られている。
露店の店主さんは、綺麗な焼き目のついた表面の肉をナイフで削いで器によそって、それをお客に渡しているようだ。
「あれは炙り削ぎ、という調理法で遠征中の騎士がよく行う調理法だな」
「あ、私知ってる。森で狩った動物を調理する時、細かく解体する時間がないから剣や槍などで刺し、地面に傾けるように立てかけ火で炙るということから、広まったって話よねっ」
「ああ、さすがよく知っているな」
「ふふん」
レオナさんに褒められ得意げになるネア。
二人の解説を聞いて、僕と先輩はまずケバブを連想したけど……なるほど、剣と槍を使った調理法だから広まったって感じなんだな。
『ウサト、あれ食いたい』
「言うと思った。ちょっとあれを買ってきます」
「私も食べるから皆で行こうじゃないか」
「そうねー、私も小腹が空いてきちゃったし」
皆で食べるということなので、4人で露店の前まで移動し、フェルムを含めた5人分の焼き肉を頼む。
「炙り削ぎ肉、5人分お願いします」
「はいよー」
お金を渡すと、店主である女性が慣れた手つきで器に焼いた肉を削いでいく。
あっという間に5皿分の肉の盛られた器をそれぞれもらい、露店の近くに用意されているテーブルに移動する。
「ほら、フェルム」
『待ってたぞー』
ベストの裏に差し込むように持った器を同化しているフェルムに渡す。
傍から見ると僕の身体に器が吸い込まれているように見えるだろうけど、隣にいる先輩が壁になっているので見られることはないだろう。
「あんたら、ここには観光で来たのかい?」
ちょうどお店が空いたのか、僕たちに興味を持った店主さんが人当たりのいい笑顔で話しかけてきた。
「あ、はい。大きなお祭りがあると聞いてリングル王国から」
「リングル王国!? リングル王国といえばかの有名な勇者様がおられる国じゃないか!」
リングル王国ってだけで驚かれるのか。
まあ、カームへリオの人たちからすればリングル王国には魔王軍との戦いで活躍した勇者である先輩とカズキがいるから当然か。
隣に座っている先輩は苦笑いをしているけれども。
「リングル王国の勇者様はどんなお人なんだい?」
「えぇと……」
ちらりと先輩を見るが彼女は小さく笑みを見せ———サムズアップをしてくる。
この人、僕に話させるつもりだな……!?
さすがにレオナさんに任せるわけにもいかないし、ネアは論外だし……仕方ない、僕が話すしかないな。
「明るく頼りがいのあるお方です」
「うんうん」
「僕にとって、いえ、リングル王国にとってかけがえのない人物でもあります」
「かけがえのない……!?」
「光の勇者様は」
「そっち!?」
小さくリアクションをする先輩をスルーし、店主さんを見ると満足したように頷いている。
「光の勇者様は噂に違わない高潔なお方なんだねぇ。あ、そうだ知ってるかい? 今日は雷の勇者様と治癒魔法使いウサトが到着したらしいね」
「そ、そうなんですかぁ」
「勇者様だけじゃなく、治癒魔法使いウサトまでやってくるとはびっくりだね!!」
ねえ、待ってください。
怖くて聞きたくはないのだけど、どうしてカームヘリオで僕の名前が勇者と並ぶ知名度を誇っているの?
た、多分、魔王との戦いとか魔力回しの功績が評価されたんだろうそうに違いない……!!
「そういえば、えらい別嬪さんばかりだねぇ。もしかしてあんたの恋人かなにかかい?」
話題を変えてくれたのはちょっとホッとしたけど、もっと答えにくい話が飛んできた。
先輩とレオナさんは驚きに目を丸くするけど、僕もちょっと焦る。
「「!?」」
「え、ああ、違います違います」
「なんだい、違うのかい? うーん、そうだと思ったんだけどねぇ」
なぜ残念そうに……?
身分を隠すための方便として使えそうだけど、さすがにそう演じる勇気もないので否定しておく。
するとなにを思ったのか、にやり、とあくどい笑みを浮かべたネアが僕の腕に手を回してくる。
「ふふっ、私は妻で」
『ふんっ』
「ごほぉ!?」
いつかの冗談を口にしようとしたネアだが、それよりも速く僕の胴体から飛び出したフェルムの手刀を食らい悶絶する。
ちゃんと否定したのになぜやろうとしたんだ……まったく、変に誤解される前に僕から先にでっちあげておこう。
僕は悶絶してるネアを手で指し示す。
「こっちは妹です」
「い、いもっ!?」
「確かに同じ髪色だねぇ。それじゃあそっちの子は?」
「ええ、姉です」
「ごふっ!?」
なんで今先輩が噴き出す!?
散々姉と呼ばれることを望んでいたのに!?
むせる先輩の背中をさすりながら、さりげなく話題を変えようと試みる。
「こ、ここには家族で来たんです」
「リングル王国からはるばるここまで旅行で……家族仲がいいんだねぇ。それじゃあそっちの金髪の子は奥さんかい?」
急に矛先が向いたレオナさんは顔を真っ赤にさせてしどろもどろになる。
「え!? お、おおお奥さん!? や、あの、その……!?」
「冗談だよ、冗談! あっはっはっは!!」
『あ、すみませーん!!』
「あっ……はいよー! じゃ、お祭り楽しんでねー!!」
露店へ戻っていく店主さんを見送り苦笑した僕は改めて先輩たちを見る。
ジト目で僕を睨むネアに、まだなんらかのダメージから抜け出せない先輩と顔を紅潮させたレオナさん。
……うん、悪魔の攻撃を食らったわけでもないのに半壊状態になっちゃってるな。
「ねえっ、なんで私が妹なのよっ!! 納得いかないんだけど!?」
「え、じゃあ、なにが良かったの?」
「……」
特に決めていなかったのか腕を組んだネアが思い悩む。
僕としてはその場しのぎで適当に言っただけだからそこまで悩まなくていいんだけど。
「よく考えたら別に妹でもいいわね。お兄ちゃん♪」
「……いや、なんか鳥肌立ったからやめてくれ」
「なんか失礼じゃない!?」
真面目に怖くなったから普通にやめてほしい。
というより、ネアに新たなバリエーションを増やしてしまったことに軽く後悔してしまった。
ネアに揺さぶられていると、僕と同化しているフェルムが満足そうな声を発する。
『美味かった。まだ食いたい』
「……。僕の分も食べていいよ」
『いいのか? ありがとなっ』
まったく手をつけていないのでフェルムの器と交換するように入れ替える。
……魔王領の環境を考えると、こうやっておいしいものを食べる機会も少なかっただろうし、なるべく要望をかなえていきたいな。
でも……まさかこんな形でフェルムに心を癒やされるとは思わなかった。
お腹いっぱいになれて満足なフェルムでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




