第四百四話
お待たせいたしました。
第十七章開始です。
僕達を運ぶカームへリオ行きの馬車がリングル王国に到着した。
結構な護衛と高級な馬車がやってきたことに驚いたけれど、勇者という国の来賓を迎えるための馬車ということを考えたらこれだけの好待遇も納得させられた。
これですぐにでもカームへリオへ……というわけではなく、馬車側の補給とか護衛の皆さんの休養など諸々の都合で一日待った翌日の早朝に出発するとのことなので、僕達もそれほど急ぐことなくカームへリオ行きの準備をすることができた。
「……よし、ブルリン。ちゃんと皆の言うことを聞くんだぞ?」
「グルファ……」
朝から眠そうに欠伸をするブルリンの頭を撫でつけながら語りかける。
ブルリンのご飯はキーラとナギさんがいるし大丈夫だろう。
問題はこいつが一日中惰眠を貪らないかだけど……まあ、それは僕が帰ってからしごけばいいな。
「じゃ、いってくるよ」
「グルァー」
立ち上がった僕を一瞥して一声鳴いたブルリンはそのまま目を閉じる。
それに満足した僕は厩舎を出て、宿舎の前にいる先輩たちの元に歩いていく。
「あ、ウサト君、おはよう!! 準備はできたかな!」
僕に気づいた先輩がこちらに手を振ってくれる。
そんな彼女の服装は旅に出るときの勇者服ではなく、黒のコート……救命団員の団服を着ている。
丈が長い黒いコートは強面共や僕のものとは違い薄地で動きやすさを重視し、コートの下には金の刺繡があしらわれた白地のYシャツと黒色のスカートが見える。
「あ、ふふーん、どうかな? 私の団服。かっこいいだろう?」
僕の視線に気づいた先輩は満面の笑みを浮かべたまま、くるり、とその場で回って新しい団服を見せてくれる。
「かっこいいし、すごく似合ってます。でも、間に合って本当によかったですね」
「私としては普通のものでもよかったんだけどねー。救命団員としての立場と勇者としての立場を両立させた正式な服装……ということになったらこのようなデザインになってしまったようだね」
まあ、それはしょうがない。
勇者である先輩が地味な黒色のコートだなんてイメージ的には良くないからな。王国としてもそこらへんのことを考えて作ってくれたのだろう。
強面たちは自前の威圧感があるので地味感はないけども。
「でもこの黒コートに刀とかやばいよね」
「確かに」
なんというか、色々と刺さるというかそこまでいくと一周回ってしまうくらいにはやばいと思う。
内心で語彙力を失いかけていると、先輩の後ろから黒の団服に身を包んだフェルムとネアが出てくる。
「こいつ、昨日の夜からお前に見せるってうっさかったんだぞ。なぜかボクの部屋で準備しはじめてたし」
「自分の団服をもらうと嬉しいからね。気持ちはすごくよくわかるよ」
「そういうもんかぁ?」
「私たちは自前で用意しちゃうもんねぇ」
僕もローズに団服をもらった時はわくわくでいっぱいだったな。
フェルムとネアは団服をもらわなくても自分で作れてしまうから関係ないんだな。
「まあ、さすがにウサト君と同じ色ではなかったみたいだね」
「ははは、白服は特殊すぎますからね。でも先輩の黒い服装ってなんだか新鮮な感じがします」
「そ、そうかなぁ。……白と黒で対って感じがするからこっちの方がいいかも」
基本、白を基調とした服だもんな。
王国のイメージとして白色の服を着る機会が多かったのかもしれない。
「さて荷物の確認も終えたし……フェルム、ネア」
「おう」
「はーい」
名前を呼ぶとすぐに自身の魔法に包まれたフェルムが僕と同化し、団服の内側に消える。
これで傍目では同化したフェルムの闇魔法は見えず、団服を脱いでも黒のインナーを着ているようにしか見えないってわけだ。
そして、フクロウに変身したネアが最後に僕の肩に止まったところでこちらの準備は完了した。
「二人とも荷物は?」
「スズネの荷物としてまとめておいたわ」
『ボクも同じ』
先輩の足元を見ると確かに3人分の鞄が置いてある。
……まあ、女性の荷物としてはそれほど違和感がないし……。
「フッ、映画とかでよくある危険な旅に荷物をたくさん持っていく世間知らずの令嬢ヒロインになってしまった気分だね」
「長い長い……」
いや、分かるけれども。
分かるけど、分かりにくいです。
「そしてウサト君」
「はい?」
「私は元の世界ではガチお嬢様だ」
……。
「へぇー……意外です」
「……。ねえ、待ってウサト君。棒読みで意外って思われたことに思いのほかダメージ受けたんだけど!! 私元の世界では本当に結構な家のお嬢様だったんだよ!? サスペンスとかだったら真っ先に死んじゃうタイプの時代遅れの価値観持ってるタイプの家柄だよ!?」
それって結構ダメな家柄なのでは?
「つまり私はお嬢様属性があるということだ……!!」
「突然すぎる属性追加……」
「そして君を私の執事にしてやる……!!」
「嫌です……」
謎の宣言にいつもの先輩だなぁ、と苦笑する。
だけど、こうして自分の家のことをネタとして出してくれるくらいには信頼されていることを察して、内心で嬉しくなる。
「皆さーん!」
「ウサト、スズネ」
と、ここで第二宿舎の方からキーラとナギさんが見送りにきてくれた。
本当は出発する門の方まで来たかったらしいけれど、カームへリオの人たちは亜人に対して忌避感のようなものがあるらしいので、宿舎の前で我慢してくれた。
「キーラ、ブルリンのことよろしくね」
「はいっ!」
「ナックにもお願いしているから、いざという時は彼のことも頼るんだぞ?」
「はいっ! いつもおとり……頼っているのでそこらへんは大丈夫です!!」
『今、囮って言ったか?』
「着々とウサト化してきているわね……」
「うーん、たくましいなぁ」
ナックも昨日、来てくれた時にお願いしておいたし安心だ。
「ナギさん、キーラと二人だけになってしまいますがよろしくお願いします」
「ああ、心配せずに安心して向かうといい。……なにかヒサゴに関することが分かれば教えてほしい」
「了解です」
むしろヒサゴさん関連が本命みたいなものだからな。
……あ、そういえば。
「もしかしたらウルルさんがそっちに泊まりに行くかもしれませんから、その時は仲良くしてあげてください」
「あの子か……うん、分かった」
「キーラを妹にさせないようにと、耳と尻尾を触られないように気を付けてください」
「あ、あれぇ? おかしいな……スズネは君と一緒に向かうはずなのに、まだいる……?」
ごく限られた状況下で先輩と同じ行動をする人が複数人いるんですよ……。
ウルルさんとか、ハンナさんとか……。
●
キーラとナギさんとの別れを済ませ、救命団宿舎を出発した僕たちはカームヘリオの馬車が待つ城門付近に向かいがてら、その途中にあるアマコの居候している家へ向かった。
「気を付けてね、ウサト」
「ああ」
今日出発と知っていたのか、既に家の前に待っていたアマコ。
頷く僕に少しだけ苦笑した彼女は、僕の肩にいるネアに目を向ける。
「ネアもフェルムもしっかり見張っててね。ウサトがあまり変なことしないように」
「それが無理ってことは分かってるでしょ」
『見張ってても変なことしだすのがこいつだぞ』
一度この子たちが僕のことをどういう認識をしているのか話し合うべきだろうか。
変なことをしでかしている自覚はあるけど、そんな四六時中やってるつもりはないのだけど……。
「本当は私もついていきたいけど……」
「ごめん。カームヘリオは……」
「ん、分かってる。ついていくにしてもずっと同化しなくちゃいけないとかなんだよね」
「そう、だね」
極力リスクを減らすために獣人のアマコを連れていくべきではない。
この子がいてくれたら精神的にも心強いけれど、この子を危険に晒したくはない。
「私はそれでも構わないんだけど、ウサトが大変だから我慢する」
「構わないんだ……」
「同化中は結構快適だから」
いったい同化している間の空間ってどうなっているんだ……?
広い不思議空間にいる感じなのかな? 僕では確かめる術はないけど。
「スズネは……」
「ワクワク」
「……。頑張って?」
「言葉が見当たらなくて激励だけで済まされた!?」
一言で終わった言葉にガビーンと擬音がつきそうな驚き方をした先輩にアマコは苦笑する。
「冗談。スズネも気を付けて」
「アマコぉ……私のことお姉ちゃんって呼ぶことを許そう……!!」
「うーん嫌。調子に乗って変なことしないようにね」
「くぅーん」
完全に先輩の扱いを心得ているな……。
「それじゃ、みんな無事に帰ってきてね」
「ああ」
「まあ、ウサトは普通に大丈夫そうだけど」
「君は平等に僕も心配しろ」
いつもの軽口にツッコミつつ、明るい雰囲気のままアマコと別れる。
あとはこのまま城門近くの馬車に向かうだけだ。
……今日までにいろいろな人に見送られてしまったな。
昨日、出発する旨を伝えるために城に向かった時はロイド様やカズキたちに見送りの言葉をもらってしまったし、ナックとオルガさん……あとキリハとハルファさんにも言われてしまった。
「本当に縁が増えたな……」
まあ、この場にいない強面たちは早朝いつものごとく雑に僕を送り出したり、ローズに関しては昨夜のうちに言葉を交わしておいたので見送りには来ない。
この王国だけでもこんなに僕を送り出してくれる人たちができたなんて一年前の僕では想像もつかなかっただろう。
「ウサト君、あの馬車だね」
少し歩くと白一色の馬車が見えてくる。
馬車の近くに控えるカームへリオの護衛達と彼らが乗る馬、その中で一際立場がありそうな壮年の男性の姿を見つける。
黒よりの茶髪の男性は、フードを被って剣を腰に差した女性と何かを話しているようだったが、すぐに僕たちに気づき、姿勢を正した。
「リングル王国、勇者“イヌカミ・スズネ”様と“ウサト・ケン”様、お会いできて光栄です。私はお二方の護衛の任を拝命いたしましたカームへリオ騎士団隊長のイーラムと申します」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
僕は勇者ではないんだけど、なんだか扱いが同じ感じが……。
騎士団、とは言うものの全身鎧ではなく身軽な鎧を纏ったイーラムさんは胸に手を当て礼をする。
それからいくつか護衛をする旨について言葉を交わした後に、馬車に荷物を積み込み僕たちも馬車へ乗り込む。
「かなり広いですね」
「私達のために作らせたものなんだろうね。魔具も内蔵されているだろうし、私たちの世界で言うキャンピングカーみたいなものっぽい」
「へぇ……」
確かに内装を見る限り色々と機能がありそうだ。
ちょっとした電車みたいな内装に物珍しい視線を向けていると、緩やかに馬車が走り出す。
ほとんど振動がないことにまた驚きながら、カーテンを開き移り変わっていく景色を窓から眺める。
「馬車の中ならフェルムが外に出ても大丈夫そうだけど……」
『いや、もしものことがないとは限らないから同化したままでいい』
「え、でも」
『ボクが構わないって言っているんだから大丈夫だ』
……そこまでいうならなにも言わないけど。
ネアはどうする? 的な視線を肩に向けると、彼女も首を横に振る。
「まあ、私は使い魔ってことはあっちに伝わってるから問題ないけど、こっちの方が広くスペース使えて楽だからフクロウのままでいるわ」
「ご飯もたくさん食べれるしね」
「そこまで食い意地張ってないわよ!!」
もしかしたら結構快適な旅路になるかもしれないな。
そんなことを考えていると不意に馬車が停止する。
「ん? なにかあったのかな?」
「魔物の気配は全然しないけど……」
「……」
不自然な馬車の停止に僕は魔力を放射し、治癒感知を行う。
……護衛の方たちは動いていない。
いや、一人馬車の扉に近づこうとしている?
何者かが馬車の扉に手をかける———前にこちらから扉を開き、こちらに接触しようとしていた何者かを出迎える。
「なにか御用ですか?」
「———ッ!?」
そこにいたのはフードを被った女性の騎士。
先に扉を開けた僕に息をのむそぶりを見せた彼女は、無言で馬車の中に足を踏み入れる。
扉が閉められると何事もなかったかのように馬車が再び動き出す。
窓の外を見ればイーラムさんも護衛の騎士たちも皆我関せずといった様子で馬車と一緒に並走している。
「このような形での接触になってしまい申し訳ありません」
女性騎士が頭にかぶっていたフードを外す。
隠れていた赤みがかかった髪が露わになり、ここに来てなぜ彼女が顔を隠していたのかを驚きながら理解する。
「ナイア様……?」
「スズネ様、ウサト様、お久しぶりです」
カームへリオ王国第一王女、ナイア様。
王女であるはずの彼女が護衛の騎士として身分を隠して、僕達に接触してきたのだ。
黒服となった先輩でした。
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