閑話 救命団のスズネ
二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
今回は閑話、スズネ視点です。
まだ私が救命団員になる前、城での暮らしに不満という不満はなかった。
蔵書などで見聞を広め、魔法を鍛え、リングル王国の勇者らしい振る舞いを心がけること。
まさしくファンタジーらしい充実した生活だ。
だけど、魔王との戦いも終わってから……正直、私は自分の道を見失っていた。
魔王を倒してどうするか?
勇者として生きていくか?
勇者をやめて旅にでも出るか?
勿論、リングル王国の勇者としての仕事というのは多少なりともあるのだろう。
だが、それは大きな意味を持つものではない。
私が求める生活は不変のものではなく、常に変化し続ける刺激のある日常だ。
「おはよう!!」
扉を開け、まっすぐ窓にまで進みカーテンを勢いよく開ける。
朝日が部屋の中に差し込み、未だ夢の中にいる少女、フェルムの顔を明るく照らすと、彼女は顔を顰める。
「フェルム!! いい朝だねぇ!!」
「うるさい……このボケェ……」
のそりと起き上がりながら半目で私を睨みつけるフェルム。
「朝から騒がしすぎるだろ……」
「これくらいしなきゃ君は起きないだろう?」
というより、起こせといったのは君だろう?
フェルムは典型的な朝に弱いタイプなので寝起きはちょっと機嫌が悪いが、目をしょぼつかせながら起きる姿は控えめにいってかわいいので問題はない。
むしろ、私はフェルムの許可をもらって起こしにかかっているので合法なのである。
「朝食は準備しているから着替えたら降りておいでー」
「おぅ」
こくり、と頷きながらゆっくりとベッドから降りるフェルムを確認し、大丈夫と判断した私はそのまま彼女の部屋から出る。
すると、偶然廊下でカンナギに鉢合わせする。
「おはよう、カンナギ」
「ふぁ……スズネか。おはよう」
カンナギもフェルムほどではないが朝は弱いようで軽い欠伸をしながら挨拶を返してくれる。
普段は凛々しいのに朝はぼんやり気味というギャップがいいね。
「今日も元気だね……」
「ああ! 私はいついかなる時も元気であることを心がけているからねっ!! あと、起きたばかりで失礼だが尻尾に触ってもいいかな!?」
「んー、駄目かなー」
やんわり断られてしまった。
さすがの私も無防備なカンナギに襲撃をかますわけにはいかないのでここは我慢して見送ることにしよう。
寝起きのブルリンに押しつぶされかけた経験もあることだしね……うん。
顔を洗うために水場へと向かったカンナギと一時別れ、私は階段を下りて食堂へと移動する。
「あら、スズネ。フェルムは起きたかしら?」
食堂の席には既にネアが朝食として用意したサラダを食べていた。
基本、救命団の朝食は当番が用意したものを各々で食べるというものなので、みんなで集まって食べるというものではない。
私も椅子に座りながら、朝食のパンに手をつける。
「一応起きたよ。呼んですぐに来るかどうか分からないけど」
「二度寝しているようだったら、布団をはぎ取った方がいいわよ?」
「その時はくんかくんかするよ」
「その言葉の意味は分からないけど、やめなさい」
まあ、フェルムも伊達にここに住んでるわけじゃないだろうから、すぐに起きてくるだろう。
なによりローズさんに怒られるような真似をわざわざするはずがないし。
「しかし、ネア」
「んー?」
「君は吸血鬼なのに朝が得意そうだね」
基本、ネアは私と近い時間に起きる。
なので、私と一緒にこっちの宿舎の朝食を担当してくれているのだが、彼女の種族を考えるとちょっと疑問に思ってしまう。
吸血鬼とネクロマンサーの混血種。
どっちの魔物もどう考えても夜型の魔物なのにどうしてネアはこんなに早く起きれるのだろうか。
「ここの生活に慣れちゃっただけよ」
「ああ、そういう……」
「吸血鬼は夜を好む魔物だけど、私はそういうの関係ない個体だしね」
どちらの種族の弱点も持ち合わせない……だっけか。
普段のネアを見ているとそうは思えないが、実際かなりすごい魔物だ。
もし彼女が敵として立ちはだかっていたら……と考えると恐ろしいと感じてしまうくらいには。
「あとはウサトの旅に同行し始めてからかしらねぇ」
「え、自慢かな!?」
「反応早すぎ。単に移動が昼間だったからって理由よ。あ、でも最初の頃はウサトの肩に留まって寝てたわね」
「やっぱり自慢じゃないか!」
くっ、フクロウに変身できるが故の特権というやつか。
「べ、別にいいもんね。今度の旅は私も行くからっ」
「私も行くんだけど」
「そうだった……ッ!!」
フクロウのネアは別枠って無意識に考えてしまっていた……!!
なんだろう、分かっていたのにそう意識していたというよく分からないことになってる。
また呻いていると、宿舎の扉が開かれ一人の少女が入ってくる。
容れ物を抱えた少女、キーラは私とネアに気づくと花のような笑顔を浮かべる。
「おはようございます!!」
私たちも挨拶を返すと、彼女は容器を台所に戻し手を洗ってから食堂に戻って席につく。
「ククルへのご飯はあげられたかい?」
「はいっ。美味しそうにたべてくれました」
キーラはいつの間にかククルにご飯を上げる役割を任されていたので、彼女の朝は私たちと同じくらいに早い。
元々魔王領で旅をしていたこともあってか基本的な生活習慣はしっかりしているのだ。
それじゃあなんでフェルムはあんなに……とは思うが、まあ環境と性格の違いってやつなんだろう。
「キーラ、今日もかわいいね」
「はい。ありがとうございます。ネアさん、今日の訓練についてですけど……」
「ねえ、私の扱いに慣れすぎじゃないかな!?」
ウサト君じゃん!! そのそっけなさ!!
なんというか、キーラはナックとは違う方向でウサト君に似てきているような気がする。
もう褒めても「はいはい」みたいな対応されちゃうし……!!
「いえ、だってスズネさんいつも私のことかわいいって言ってきますから慣れちゃいましたよ」
「くっ、言い過ぎたか……もっと赤面する君を見たかったのに」
「キーラ、これがこの国の勇者の成れの果てよ」
そんなものすごい落ちぶれたみたいな言い方しなくてもよくない!?
だが、くっ……私は自分の素直な言葉を口にしていただけなのに、これはバリエーションを変えるべきか……!!
「朝から騒がしいなぁ」
「皆、おはよう」
と、ここでフェルムとカンナギが二人揃ってやってくる。
カンナギは完全に目を覚ましてキリッ、としているがフェルムはまだ眠いのか目つきが悪い。
「また何かやったのかスズネ」
「スズネがキーラにかわいいかわいい言い過ぎて飽きられてるとこ」
「ふーん」
興味なさげに椅子に座るフェルムと、苦笑するカンナギ。
5人揃ったところで全員が用意した朝食を食べ始める。
「私は午前中にローズさんに訓練を見てもらった後は訓練の予定を決めてませんが、皆さんはなにか訓練しますか?」
キーラの質問に隣にいるカンナギが考えるそぶりを見せながら口を開く。
「それじゃあ、午後から一緒に走る?」
「私も魔力の訓練をしようと思っていたけど、フリーだよ」
系統劣化とかその他もろもろの基礎訓練をしようとは思っていたけれど、別に走り込みでも全然いい。
あと、いくらリングル王国が現状キーラを受け入れているとはいえ、一人で街中を走らせるのは危ないからね。
「ネアとフェルムも自由訓練なら一緒に走る?」
「あー、私とフェルムはウサトに呼ばれてそっちの訓練を手伝いにいかなきゃならないのよ」
「ウサト君に呼ばれてっていうと、連携の訓練かなにかかな?」
基本的にネアとフェルムは戦闘面のサポートが主なので、そこらへんの訓練をするのかな?
「いえ。私の魔術とフェルムの同化を使った訓練をやるんだって」
「えーっと、それって具体的になにをするんですか?」
気になったのか、キーラがそう質問する。
魔術と同化を用いた訓練というとあまり想像がつかないので私も気になる。
すると、ちぎったパンを口に放り込んでいたフェルムがやや呆れ気味な様子で口を開いた。
「ボクの同化でウサトの身体を動きにくくした上で、ネアの拘束の呪術で身体を拘束するんだよ。前はそれでも平気で笑いながら動き回っていたし、本当に意味不明だったぞ」
「なるほど、全身に負荷をかけてトレーニングするというわけか。フッ、ウサト君らしい」
「なんで理解できるんだよお前……」
程度は違えど元の世界でも似たような訓練方法はあるからね。
さすがに限度というものがあるけど、ウサト君なら心配はないだろう。
「あの人、魔王から重力の魔術のスクロールをもらってたからそれも使うでしょうね」
「スクロール? 魔王が?」
「普通に魔王に頼み込んで作ってもらってたわよ」
もう友達では?
あんな死闘を繰り広げたのにもう魔王と仲良くなっている気しかしないのだが。
「ウサト君って結構交友関係広いよね」
「いやいや、まともな人間の方が少ないと思うわよ。私たちを含めて」
……確かに。
よく考えてみればウサト君は魔王軍の元軍団長とも普通に知り合っているらしいし。
彼の場合、普通の立場の人との交遊というのが少ないのかもしれない。
……訓練の予定の話しから脱線してしまったな。
話題を戻そうと考えたところで、また宿舎の扉が開かれ誰かが入ってくる。
「あ、おはようございます!!」
「おう」
入ってきた人物、ローズさんにキーラが挨拶すると、彼女は着ていた団服を脱ぎ壁にかける。
ウサト君の師匠であり、救命団団長ローズ。
彼女と一緒の宿舎に暮らすようになってから、少しだけローズさんのことが分かった気がする。
「キーラ」
「はい?」
「今日は回避訓練をする」
「え”ぅ」
「吐かねぇように準備運動をしっかりやっとけよ」
「ぁい」
えづくオットセイみたいなうめき声を発したキーラは、顔を青ざめさせながら頷く。
彼女の訓練は壮絶ではあるが、キーラの成長を阻害しない程度を見極めたものであり、その効果も目に見えて分かるほどだ。
まあ、目に見えて分かるのは訓練の成果だけではなく性格面の変化もだけど。
そのまま上の階へ向かおうとするローズさんに、私は以前から少し気になっていたことを聞いてみようと考えた。
「そういえばローズさんはいつも朝、どこに行っているんですか?」
ローズさんは早朝、いつもどこかに出掛けている。
いつも一時間ほどで戻ってくるのだが、その時間なにをしているのか素直に気になっていたのだ。
「城の方に用があってな」
「あ、そうなんですか」
私がここに来てから毎日と考えると、それ以前からずっと続いていると考えられる。
だけど、私が王城にいたときは早朝からローズさんが来ていたことはあまり多くない。
だとすれば彼女が毎朝通っていたのは、王城の近くにある彼女の部下たちが眠っている……いや、さすがに邪推が過ぎるか。
「ちょっと気になっただけなので、呼び止めてしまってすみません」
「ったく、お前のことだから察しはついていると思うが、あまり言いふらすんじゃねえぞ?」
いや、なんで察しがついていることがバレているんだろうか。
心を読まれているような気分に陥りながら階段を上っていく彼女を見送る。
「……さて、早く食べて訓練に行こうかな!!」
ま、それはともかくとして今日も救命団員スズネとして訓練をしていこう!
手早く朝食を済ませ、諸々の準備を済ませてから準備体操をしながら宿舎を出る。
「あっ、おーい!」
ちょうど厩舎のある方向からウサト君がブルリンと一緒にやってくるのが見えたので、手を振って威勢よく挨拶する。
「おはようございます。先輩」
「おはよう、ウサト君。ブルリンもね」
「ぐぁ~」
相変わらず眠そうにしているなぁ。
その可愛い青い毛並みを撫でたい衝動を我慢しながら、自然と彼の隣を並ぶように歩く。
「これからブルリンと一緒に訓練かい?」
「ええ。最近、こいつだらけきっているので動かそうと思いまして」
「グァー!」
がっ、とウサト君の足を殴りつけるブルリン。
微塵も揺るがない彼に苦笑する。
「……楽しいなぁ」
王城での生活に不満があったわけじゃない。
異世界に来てファンタジーに焦がれた。
勇者としての使命を受け入れ、命がけの戦いに身を投じた。
そして、勇者として魔王との戦いを終えて、私は少しだけ目的を失っていたと思う。
自由に生きることはできるけど、目的がない。
私にはウサト君のような覚悟もなければ、元の世界に未練などない薄情な女だ。
そんな私が、これからなにができるのだろうか。
勇者ではなく、イヌカミスズネとして異世界で生きるのならなにをしていけばいいのか。
その答えは未だに朧気だけれど、今ではそれでいいと思っている。
確かに言えるのは、今の私は勇者としての使命ではなく、自分の目的のために“ここにいる”ってこと。
ウサト君の隣で、それが強く実感できているから……それがとても楽しくて、幸せだ。
救命団生活を満喫していた先輩でした。
今章の閑話は以上となります。
登場人物紹介を挟んだ後に次章へ移ります。
今回の更新は以上となります。
登場人物紹介の方は早めに更新いたします。




