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閑話 ナックの診療所修行

お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。

少しばかり体調を崩してしまい更新が遅れてしまいました。


今回はナック視点の閑話となります。

 オルガさんとウルルさんが開いている診療所には様々な人がやってくる。

 単純な怪我や病気を患った人だけではなく、腰痛や関節の痛みのような慢性的な体の痛みを解消したい方もよくやってくる。


「こういう患者さんには治癒魔法だけじゃなく身体をほぐしたり、軽い按摩をしたりするんだ」


 手に濃い緑の魔力を薄く纏わせたオルガさんが、俺にそう教えてくれる。

 彼の前にある寝台には、先ほど診療所を訪ねてきた男性の患者さんがうつぶせに横になっており、彼の背中には薄地の毛布がかけられている。


「先生、この子が手伝いに来た坊主かい?」

「ええ。普段は救命団の方で訓練をしているのですが、今はここで僕が治癒魔法を教えているんですよ」

「なるほど。立派なもんだなあ」


 俺のことは街でも知られているのか、横になった男性は感心したようにそう口にした。

 その間に、袖をまくったオルガさんは魔力を手に纏わせ、男性の背中に手を置く。


「さて、痛みがあるのは腰でしたか?」

「あぁ、先生。ちっと無理しすぎちまってなぁ」

「いい歳なんですから、無茶のしすぎも大概ですよ?」

「へいへい」


 感慨深そうに呟いた男性にオルガさんが治療に取り掛かる。

 俺はそんな彼の施術を見逃さないようにする。

 ただ治癒魔法をかけるわけではなく、背中から腰の筋肉を掌で押しながらゆっくり、しみこませるように魔力を馴染ませていく。

 間近で見て、こういう使い方があるのかと内心で驚く。

 ウサトさんの苛烈? ……苛烈な使い方とは異なる、穏やかな治癒魔法。

 その動きを見逃さないように目を凝らして勉強する。


「……」


 俺は、ウサトさんのような治癒魔法使いにはなれない。

 正確にいうなら俺とウサトさんの魔力の適性そのものが微妙に違っているから、俺はウサトさんのような使い方はできない。

 ウサトさんのように魔力を暴発させるような使い方もできない。

 とんでもない勢いで魔力弾を投げつけることもできない。

 系統劣化どころか系統強化だって習得できるかすら分からない。


「それでも……」


 俺はウサトさんのような治癒魔法使いになる必要はない。

 他ならないウサトさんにそう言われたし、俺は俺なりの治癒魔法使いとして成長していこうって決めたんだ。



「お兄ちゃんのマッサージは結構好評なんだよ? 治癒魔法を使ってさするだけでも十分効果があるからね。非力だけど」

「一言多くない……?」


 診療所の仕事がひと段落ついた後、診療所内の客間で出された紅茶を口にしていると、ウルルさんがそう言ってくる。


「しばらくここで手伝いをして気づいたのですが、怪我人や病人よりも先ほどのような患者が来ることが多いですよね」

「うん、そうだね。どちらかというと、こっちの方が主な収入源だよ。ほら、人って働く生き物だから腰痛と肩こりから逃れられない……みたいな?」

「え、えぇ……」


 事実なんだろうけど、そんな身もふたもないことを……。


「ナック君も体験の一環でお兄ちゃんにやってもらったんでしょ?」

「気づいたら寝てました」

「あはは、大抵そうなっちゃうよねー」


 治療が始まった次の瞬間には終わってて、目が覚めた直後は自分の身体の軽さに滅茶苦茶驚いた。我ながら治癒魔法やべーって思った瞬間だった。

 単純に治すだけの魔法、とルクヴィスにいたときは思っていたけど、ルクヴィスを出てそれが間違いだと気づかされた。

 単純な強弱だけでも色々と違ってくるし、なによりウサトさんの技を見ると治癒魔法の価値観が大きく揺るがされてくる。


「やっぱり治癒魔法って奥が深いですね……」

「うーん、それは間違ってはいないけれど、ウサト君の治癒魔法は色々と除外してもいいと思う」


 腕を組んで頷く俺に、ウルルさんが苦笑する。

 まあ、ウサトさんのは治癒魔法というより、魔力操作で滅茶苦茶するようなものだけど。

 俺も魔力回しをもっと練習しなくちゃな。


「……ん?」

「お客さんかな? ウルル」

「はーい」


 その時、診療所の扉がノックされる。

 いつも夕方前の時間帯に人は来ないので珍しいなと思って、身体を傾けて玄関の方を覗くと———ウルルさんが開いた扉の前には、俺の見知った人が立っていた。


「あ、すみません、ここにナックくんはいますか?」

「ハルファさん!?」


 ウルルさんが応対する前に声を上げた俺に気づいた彼は、いつもの朗らかな笑みのまま軽く手をあげて気軽に挨拶してきたのだった。



 学園の講義の一環でリングル王国に留学してきていたハルファさんだが、ようやく自由な時間ができたようなのでわざわざ俺の手伝っている診療所に来てくれたらしい。

 見知った人が来てくれたことに嬉しく思いながら俺は客間に案内された彼の前に座る。

 オルガさんとウルルさんは気を遣ってくれて、今は別室の方に移動してくれているので、今この部屋にいるのは俺とハルファさんの二人だけだ。


「そういえば、キリハさんは?」

「班によって自由時間が異なるので来れたのは私だけですね。多分、この後来ると思いますよ?」

「なるほど」


 キリハさんもここで頑張っているようだ。

 でもお二人がここに来ていると聞いたときは驚いたなあ。


「ナック君はここで訓練を?」

「はい。まずは治癒魔法について理解を深めようと考えて。あ、勿論訓練もかかさず行っていますよ」


 今は治癒魔法の分野に集中しているけど、勿論肉体面の訓練も欠かしていない。

 ……てか、最近入団したとんでもない小娘のせいで巻き込まれているともいえるけれども。


「ミーナはどうしてます? もしかして俺の襲撃計画とか立てていたりしてますか?」

「襲撃計画は分かりませんが……彼女も頑張っていますよ。最近はものすごく渋い顔をしながら魔力回しの練習をしていましたね」

「あー」


 あいつ絶対ウサトさんのこと苦手だから、無茶苦茶苦渋の表情で魔力回しを練習してそう。

 でも、プライドの高いあいつがウサトさんが編み出した技術を使ってそこまでして強くなろうとしているのはちょっと驚きだ。


「ちょっと……いえ、かなり意外ですね」

「魔力の扱いに長けた者ほど、魔力回しの重要性をよく理解しているのでしょうね。ただ魔力を回すだけ、と思考を停止するようでは大きな成長は望めません」

「ハルファさんの魔眼でもよく分かるんですか?」

「ええ、それはもう。見えている景色が変わった……ってのは言い過ぎですが、それでも学生の用いる魔力の質に変化が起きたことは事実です」


 魔力の流れが見えるハルファさんの視界ではすごいことが起こっているんだろうなぁ。

 いったい魔力回しってどういう風に見えているのか気になる。


「ですがミーナもうかうかしてられませんね」

「え、なぜですか?」

「同い年の同僚ができたんですよね? 前に一緒に訓練していたあの子」


 にこにことそう口にするハルファさんの言葉を聞いた俺は、一瞬思考停止してから手元の紅茶を飲み———彼の間違った認識を否定する。

 なぜハルファさんがキーラを話題に出したのか意図は分からないが、奴と俺の間に甘い話など一欠けらどころか微塵もない。

 奴も俺も、互いに抱いている感情は一つ———対抗心のみ。


「ハルファさん、勘違いしちゃいけません」

「ん?」

「奴は悪魔です」

「……んんん?」


 救命団にはいってきたとんでもない新人、キーラ。

 最初は俺に対抗心を抱いてきた女の子だと思って捨て置いたが今は違う。

 奴は救命団という環境に適応(・・)して平気な顔して俺を訓練に引きずり込む悪魔と成ったのだ。


「俺がウサトさんの善の部分に似たんだとすれば、キーラは悪の部分に強く影響を受けているんです」

「……善とは???」


 ウサトさんが訓練の最中に時折見せるえげつない部分。

 魔王領にいた二か月の間になにがあったかは分からないが、キーラはそこに強い影響を受けてしまっていた。

 ……なによりウサトさんの一番弟子の座を虎視眈々と狙っている不届き者でもある。

 というより……キーラのウサトさんへの懐き具合はどうみても……いや、言うまい。


「奴に比べればミーナなんてかわいいものですよ」

「ミーナよりもですか……」


 あいつは多少なりとも反省しているだろうがキーラにはそれがない。

 俺を訓練に巻き込んで笑顔すら見せる程度にはここの悪い部分に毒されてしまっている。


「あいつ平気で俺を訓練に巻き込み、悪びれもしないどころか満面の笑顔なんですよ……!!」


 もう今日までにキーラにしてやられたことをハルファさんに愚痴る。

 訓練に巻き込まれたり、笑顔で煽られたり……。

 まあ、俺もやられっぱなしってわけじゃなく、スズネさんに気絶したキーラを差し出したりして反撃もしているわけだが。


「とんでもない奴だと思いませんか!?」

「そ、そうですか?」

「ええ……!!」


 俺の語るキーラの所業に引いたのかこちらを見てハルファさんは頬を引きつらせている。

 分かってくれてよかった……!


「それでも、楽しそうですね」

「……否定はしませんよ。訓練自体は俺も必要なことだと思っていますし」


 私怨抜きにして考えてみれば、張り合いのある同僚ができたような感覚だ。

 ウサトさんとミルさん達のような関係とも言うのだろうか。

 恐らく、これからも争う宿命にあるのは確かだろう。


「改めてここに来てよかったと思います。自分の魔法を役立てる環境ってこともありますけれど……なにより自分の居場所ができましたから」

「本当に見違えるほどに成長しましたね」

「まだまだですよ」


 ハルファさんの言葉に首を横に振る。

 学ぶことは多い。

 それこそ数えても数えきれないくらいに。

 だからこそやりがいもあるし、学んでいくのが楽しいと思える自分がいる。

自分を“善より”と言い張るナックでした。

治癒魔法マッサージは現実にほしいですね……。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] つまり、善のナックと悪のキーラが合わさればウサトになる?
[良い点] ナックの日記回で訓練(をさせる)ウサトを善と悪の二面性と言ってたのが伏線になってた所
[一言] ウサトのは苛烈じゃなくて奇天烈だと思うんだな
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