第四百二話
お待たせしてしまい申し訳ありません。
第四百二話です。
カームへリオへ出発する日にちが決まった。
リングル王国側から勇者集傑祭への参加を打診し、カームへリオ側がそれを容認。
諸々の手順を踏んで先輩が勇者としてお祭りに参加することになったけれど、カームへリオとしては予想外のことだったらしく、ちょっとした騒ぎになったとのこと。
そこまでの知らせを城の広間で聞いた後、僕と先輩は広間に設置された泉の魔術を用いてファルガ様と話すことになった。
『勇者集傑祭。その催しにレオナも向かわせる』
「レオナさんも来てくれるんですか?」
『うむ』
泉の水面に作り出された鏡に映し出されたファルガ様。
レオナさんがカームへリオに来てくれるというなら心強い。
「しかし、彼女は悪魔への対抗策はあるのですか?」
隣で一緒に話を聞いている先輩がファルガ様にそう質問した。
『心配は無用だ。我が武具を持ってさえいれば悪魔程度の干渉は跳ねのけられる。元より、レオナの持つ武具は我と繋がりが強いからな』
「なるほど……」
『それに加え、奴には貴様が考案した魔力感知を会得させている』
! 先輩とカズキに続きレオナさんもか。
『奴自身、元より系統強化という緻密な魔力操作技術を持っていたのだ。感覚的な補助さえしてやれば習得は容易なものだ』
「……確かに」
系統強化ができるほどの技量なら魔力感知をすぐに会得していてもおかしくない。
レオナさんの魔法は氷系統だから、どんな風に感知するのか気になるな。
「ぐぬぬ、私のアイデンティティががが……」
「先輩のはオンリーワンですから」
「くぅーん」
前から思ってましたけど、その犬の物真似気に入っているんですか?
すんっ、と言う感じで落ち着きを取り戻した先輩はファルガ様に声を投げかける。
「ファルガ様。私の刀……武具にも悪魔からの干渉を防ぐ術を施すことはできますか?」
『我の前に持ってこれさえすれば可能だが、現状は無理だ。……だが……』
「?」
不思議そうに首を傾げる先輩を数秒ほど無言で見たファルガ様は、こくりと頷く。
『……貴様なら心配いらないだろうな』
「……ファルガ様? なにを思って私が大丈夫だと? なぜ目を逸らすんですかファルガ様?」
『悪魔は貴様のような理解不能な人間を好まない、からな……』
「それは褒められているのでしょうか……?」
悪魔がわざわざ先輩に近づくとは思えないし、もし先輩に異変が起こってもすぐに気づけるから問題ないと判断したのかな?
あと悪魔の性格的に先輩のようなテンション振り切った人間は苦手そうだし。
『……今の時点で悪魔の気配こそは感じ取ってはいないが、貴様が動くことになればあちらもなんらかの妨害をしてくるやもしれん』
「僕も色々と喧嘩売っていますし、目の敵にされてる可能性はいなめませんしね……」
割とそこらへんは自覚している。
それに、何事もなく終わる気がしないんだよなぁ。
こういう嫌な直感だけは外れたことがない。
●
ファルガ様と話をし広間を後にした僕たちは、その後カズキの元を訪ねた。
いつものテラスではなく彼が国の勉強をしている書斎に案内されると、そこにカズキと、最近エルフの集落からこちらに戻ってきたフラナさんがいた。
「まさか先輩が来るとは思ってもいなかったみたいでカームへリオ側も結構な騒ぎになったらしいな」
書斎の真ん中にある大きめのテーブルにそれぞれ座りながら、先ほどのことを話すとふとカズキがそんなことを口にした。
「あとウサトも同行するってことでもうひと波乱だ」
「……僕?」
カズキの言葉に思わず自分を指さす。
「当然だろ。カームへリオからすればウサトも勇者みたいな立ち位置なんだぞ?」
「やってることも勇者とは別方向でえげつないしね。魔法界隈だったらカズキとスズネ以上に興味を持たれてもおかしくないわよ?」
「……」
カズキとフラナさんの指摘に頭を抱える。
分かってはいたけれど、注目されてしまうか。
「くっ、体よく先輩を隠れ蓑にして行動しようと思ったのに……!!」
「ねえ、ウサト君、漏れてる。心の声が」
「はしゃぎまわるであろう先輩をスケープゴートにするはずが……!!」
「あれぇ、わざとかな?」
先輩の評判に隠れて行動しようとは考えてはいた。
でも、過剰に注目されちゃうと僕も動きにくいな……。
「スズネは引き抜きとか無理そうだけど、ウサトあたりはこれを機に色々狙ってくることはありえるかもしれないわねぇ」
「それ、コーガにも言われたよ」
僕は勇者と比べるとそれほど重要じゃない立場にいるので、他から見ると勧誘しやすいとか。
実際、副団長という肩書は団長と比べると一段落ちるからな。
「僕は立場的にお手軽だから勧誘しやすいんだって」
「俺と先輩はリングル王国の勇者だからなぁ」
「私も所属が変わっても肩書自体は残っているようなものだからね。その点、ウサト君は他の国から見れば勧誘しやすい立ち位置にいるのは分かる」
カームへリオは一度も行ったことないし先輩から言伝でしか聞いたことない場所だから、ちょっと不安になってきた。
「場合によっては他国の人に誘惑とかされちゃうかもしれないね」
「ゆ、ゆゆゆ誘惑ゥ!?」
「いやいや……」
過剰なリアクションをする先輩の隣で僕はげんなりとする。
そんなことありえない、と否定したいけれどこの前の会談のことを考えるとな……。
……基本傍にネアがいるから大丈夫だろう。
むしろそんなことが起こったら、あの子笑い転げながら僕を弄んできそうだ。
「うーん、誘惑かぁ。今思えばあれがそうだったのかなぁ」
「え、カズキ……?」
「いや、ニルヴァルナ王国に書状を渡しに行った時に泊まっていた宿に来た人がそうだったのかなーって」
ははは、と軽く言っているがフラナさんの目つきが鋭くなるのを僕は見逃さなかった。
カズキ……!! ここで返答を間違うと、修羅場になるぞ……!!
「その時は酒に酔って部屋を間違えたってことで来たらしいんだけど、もう眠くて部屋に戻れないから俺の部屋に泊めてくれーって大変だったよ」
「ソレデ?」
「なんでカタコト? いや、さすがに酔ってる人を部屋に入れるわけにはいかないからさ。宿の人に許可をもらって客間を借りて介抱したんだよ」
「ソノアトハ?」
「特になにも? 少ししたら人が変わったようにしおらしくなって帰っちゃったんだよ」
カズキの様子からして誤魔化している様子はない。
すると、一緒に聞いていた先輩が声を潜めて僕に話しかけてくる。
「これカズキ君の善意で追い返しちゃった感じかな」
「人間、後ろめたいことをしている時の善意が一番効きますからね……」
美人局をするはずが逆に親切にされて浄化されちゃったんだな……。
今の今まで気づいていなかったこと含めてすごいぜ……。
「ふぅ、よかった。セリアを呼ぶ必要はないみたいね」
フラナさんも安心しているようだ。
無自覚に修羅場を回避したカズキは、今度はこちらを向いて話しかけてくる。
「そういえば、カームへリオへは何で行くんだ? いつも通り馬車での移動か?」
「今回はカームへリオ側が馬車を用意してくれるらしい。もう出発しているらしいから数日中に来るんじゃないかな」
「へぇ、今までになかったな」
確かに今まではリングル王国側の馬車で移動するかミアラークの大型船での移動だったからね。
そういう意味では……なんというかこれまでと違った扱いをされているような気がしてくる。
「最初はリングル王国の馬車から、僕が走っていくって考えもあったけどね」
「いやいや、さすがに走っては無理でしょ。……無理よね?」
最後にちょっと自信なさげにいってくるフラナさんだが、できるかできないかで言えばできるんだよな。
「一番手っ取り早いのが僕とフェルムと先輩で同化して行くことかな。多分、半日くらいで到着するんじゃないかな?」
「フッ、ウサト君の無尽蔵の体力と私の速さ、そしてフェルムの変形による踏破能力を合わせれば、文字通りの電光石火さ」
「えっげつな……」
まあ、フェルムは嫌がるだろうけど。
「さすがに目立ちすぎるのでやらないけど。常識的に考えて来賓の立場でするべきことじゃないし」
「ウサトって意味不明に常識的なところとか、ものすごく厄介だよね」
「なんてこと言うんだ君は」
フラナさんからネアにも劣らない毒が飛んできたんですけど。
意味不明に常識的ってどういうことなんだ。
「あ、ウサト君」
「どうしました?」
「フラナになにか話があったんじゃない?」
「……あー」
ルーネのことか。
前はフラナさんがこっちに来ていなくて話せてなかったんだよな。
フラナさんはエルフだし、エルフの血を引いているルーネのことを話すべきかな。
先輩に頷いた僕は改めて正面に座るフラナさんを見る。
「ん? なにかな?」
「あの、これは僕たちが魔王領に探索に向かった時の話なんだけど……」
魔王領で起こった騒動と、その最中に出会った少女ルーネ。
エルフ、魔族の血を引いた彼女のことを話すと、フラナさんは目を丸くして驚いていた。
「魔族とエルフの混血……そんな子がいたんだ……」
「一緒に行動したけど素直でいい子だったよ」
「きっとかわいい子だと思う」
言動が怪しい先輩はスルー。
てか、一度も会ったことないだろ。
同じエルフなこともあり、興味を引いたのか顎に指先を当てたフラナさんはそのまま思考に耽る。
「エルフ族は争いを嫌うから当時の人間同士の争いに巻き込まれないために人間の干渉できない魔物の領域に隠れた……ってのはありえない話じゃないわね。これは、お父様……ううん、これはお婆様に文を送るべきかしら……その子は今どこに?」
「事情があって今、悪魔のところに」
「……。結構な修羅場にいるってことね。ウサトが悪い子じゃないって言うからには色々と事情があるのは察したわ」
ルーネもシアの身を案じていったようなものだからな。
……あの子は大丈夫だろうか。
酷い目には合わされていないと思うが、それでも心配だ。
「それに身寄りがないなら、私の故郷で受け入れることができるかもしれない」
「それって大丈夫なのか?」
カズキの言葉にフラナさんは一瞬不思議そうに首を傾げた後に困ったように微笑む。
「魔族の血が流れていても関係ないわよ。そういう慣習は何百年も前に廃れてるし、なにより行き場のない子供を無視するなんてできないわ」
「ありがとう、フラナさん」
「ま、その子の選択次第だけどね」
シアとルーネは絶対に助け出さなくちゃな。
そのために悪魔共とシアに憑りついた何者かの計画は阻止していかなければ。
「ウサト君」
「なんですか先輩? ルーネを貴方の妹にする選択肢はありませんよ?」
「……心が通じあってるね」
「くッ……!!」
「ねえウサト君、私と心を通わせることはそんな苦渋の顔をさせるほどなのかな……!?」
本当に考えてたのかよ。
遠隔で姉になろうとしないでくださいマジで。
……なんだか普通に先輩の思考を予測できちゃうようになってきた自分が怖くなってくる。
ギャグ要素抜きで悪魔は先輩のような人間を苦手としていますね。
リングル王国でできることが終わってきたのでようやくカームへリオへ向かえそうです。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




